●NORからNANDにシフトするフラッシュメモリ 今回のWinHECで目立つのは、デバイスとしてのNANDフラッシュメモリの躍進だ。WinHECのスポンサーだけをとっても、NANDフラッシュがらみの企業として、Intel、Micron(以上Platinumスポンサー)、Samsung(Silver)、SanDisk(Bronze)と並ぶ。Intelを「NANDがらみ」とくくってしまうのはいささか乱暴かもしれないが、Micronと提携してNANDフラッシュメモリ事業に進出していること、先日発表されたSanta Rosaプラットフォームに対するNANDフラッシュの採用(Intel Turbo Memory)など、NANDフラッシュメモリ関連の話題を提供していることは間違いない。 IntelやAMD(WinHECではGoldスポンサー)といったプロセッサベンダが従来力を入れていたのは、NOR型のフラッシュメモリであった。信頼性の高さと読み出しの高速性で、BIOSやファームウェアといったプログラム格納用途に使われるNORフラッシュは、製造プロセスがSRAMに近く、大量のSRAMをキャッシュとしてプロセッサに搭載するプロセッサベンダが事業展開するのに適していた。しかしファームウェアの収納を主用途とするNORフラッシュは、システムに1個か2個あれば十分で、市場成長は搭載機器の数にしか比例しない。 それに対してDRAMに近いセル構造と製造プロセスのNANDフラッシュは、信頼性の面でNORに劣るものの、比較的書き込み速度が高速で、バイト単価の低さを武器にメモリカードやMP3プレーヤーなどデータストレージ用途に採用されてきた。こちらは機器の出荷数につれて市場が拡大するのはもちろん、機器あたりの容量増大によっても飛躍的に市場が拡大する。世代が更新されてもそれほど容量が増えるわけではないプログラムコードと異なり、音楽データや写真データに求められる容量は、世代毎に倍々のペースで増大していくからだ。こうした違いによりIntelは成長率の高いNANDフラッシュへの進出を決め、AMDは成長率の低いNORフラッシュ事業をSpansionとして分離してしまった、と考えられる。
●NANDフラッシュの成長を後押しするテクノロジ このように急成長が続くNANDフラッシュメモリではあるが、これまでPCのプラットフォームにとって、それほど重要なパーツではなかった。USBメモリとして、あるいはデジタルカメラの記憶媒体として利用することはあっても、その用途は補助的といって良かった。それを大きく変えたのは、市場拡大によるバイト単価の低減だろう。大きなコストの増大なしに、高速にアクセスできる数GBのストレージが得られるようになったことで、PCのプラットフォームにとってNANDフラッシュメモリが無視できないものになったのだろう。
PCプラットフォームに対するNANDフラッシュメモリの統合で口火を切ったのは、MicrosoftのReadyBoost/ReadyDriveといった技術であり、IntelのRobson Technology(Intel Turbo Memory)だ。これらはNANDフラッシュが持つ、さまざまなメリットを、PCの高速化と省電力化にいかしたものと考えられる。言うまでもなく有用な技術であり、今後の普及が期待されるところではあるが、今回のWinHECでの主役ではなかった。展示会やテクニカルセッションで最も目立っていたのは、Solid State Drive(SSD)、NANDフラッシュメモリを用いたシリコンディスクだ。 半導体メモリを用いたシリコンディスクにはさまざまなタイプや用途があるが、現在話題になっているNANDフラッシュメモリを用いたSSDは、磁気ディスクを置き換え可能なプライマリストレージとしての利用ができるものを指す。シリコンディスクというと、HDDのような磁気ディスクに対して、性能面でのアドバンテージを期待されることが少なくない。確かに、回転待ちやヘッドのシーク待ちのないSSDは、データへのアクセスが高速で、このメリットを生かして、ディスクキャッシュに使うアイデアが生まれた。 しかし、データ転送帯域自体は、HDDのように内周と外周の差がなく安定しているものの、HDDに対し大きく上回っているわけではない。むしろ、消費電力が低いこと、原理上、振動や衝撃に強いこと、騒音がないこと、といったトータルでのメリットが高いとされている。 省スペース性も将来的には期待される分野だが、当面の間、主力になると思われるのは現在HDDで一般的なフォームファクタ(2.5インチあるいは1.8インチディスクサイズ)であり、専有面積や体積は変わらない。SSD専用に設計すれば省スペース性を追求することは可能だが、この場合、SSDの入手性に障害が発生すると、ノートPCの出荷がすべて止まってしまうというリスクを負う。将来的には省スペースという点での貢献も期待できるが、短期的には軽量化への貢献(HDDより軽い)のみにとどまりそうだ。 逆にSSDのデメリットは、まずコストが高いこと。HDDに比べるとかなり割高になる。また、容量も現在は32GBが主流であり、ビジネス向けには十分なものの、コンシューマ向けにはちょっと辛い。HDDと組み合わせると、容量の問題は克服できるが、上で述べたメリットの多くを失ってしまう。
もう1つの大きな問題は、NANDフラッシュの書き換え可能回数の問題だ。NANDフラッシュには1つのセルで1bitの記録を行なうSLC NANDフラッシュ(SLCはSingle Level Cellの略)と、1つのセルに2bitの記録が可能なMLC NANDフラッシュ(MLCはMulti Level Cellの略)の2種類がある。当然、MLCの方がバイト単価を抑えることができるが、信頼性や性能でSLCに劣る。特に書き換え可能回数は、10万回程度が可能なSLCに対し、MLCは1万回程度とされる。 また、この数字は製造プロセスの微細化により減少する傾向にある(書き換え可能回数が減る)とも言われており、PCのプライマリストレージとして利用する場合は注意が必要になる。HDDと同じ感覚でデフラグなどのプログラムを定期的に実行すると、あっという間に書き換え可能回数の上限に達してしまう可能性がある。 そこでMicrosoftでは、接続されているストレージデバイスがHDDかSSDであるかをIDで識別可能にし、SSDの場合はHDD用のデフラグプログラムを利用しないようにすることを考えている。ハードウェア的にも、1台のSSDにSLCとMLCを組み合わせ、ファイル管理領域のように頻繁に書き換えられる部分をSLCに割り当てる、DRAMキャッシュを併用することで書き込みを最適化する(ただし不揮発性など一部メリットを失う)など、さまざまな対策が検討されている。 こうした準備が整い、バイト単価に優れたMLCを安心して使えるようになれば、SSDの容量は増大し、価格は引き下げられる。普及にも弾みがつくものと期待される。2007年はまだSSDはプレミアムデバイスにとどまるだろうが、2008年には本格的な普及期に入るかもしれない。いずれにしてもそう遠くない将来、SSDは1.8インチHDDの市場を確実に奪うだろう。そう思うだけの勢いがNANDフラッシュ/SSDに感じられる。
□Microsoftのホームページ(英文) (2007年5月21日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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