●RobsonはVista専用に 極めて魅力的なバイト単価を持つに至ったNANDフラッシュメモリをキャッシュに利用することで、性能向上と消費電力の削減を図ろうというのが、Robsonテクノロジの基本的なアイデアだ。ほぼ同じ時期にMicrosoftも、「ReadyDrive」や「ReadyBoost」といった、NANDフラッシュメモリをキャッシュに使うアイデアを持っていた。 Robsonテクノロジが専用のコントローラとNANDフラッシュメモリを1枚のMiniCardにしてPCI Expressバスに接続するのに対し、ReadyDriveはHDD上にNANDフラッシュメモリを実装し、コントローラはHDDのATAコントローラを利用する。ReadyBoostは、メインメモリがいっぱいになり、仮想記憶(HDD)を利用する際に、もしSDメモリーカードやUSBメモリのようなデバイスがシステムにインストールされていれば、そこをディスクキャッシュに利用しようというアイデアである。 Robsonテクノロジが有利なのは、フラッシュメモリが接続されるバスがシステムで2番目に速いバス(PCI Express、1番はCPUのFSB)であること、SDメモリーカードなどのように動作中に取り外される心配が要らないため、Write-Backキャッシュできること、不揮発メモリをキャッシュに利用するため動作中にバッテリが消耗するなどしてもデータを失う心配がないことなどだ。また、HDDを選ばず、すべてのシリアルATAドライブに対して効果があること(ReadyDrive対応のドライブを買わなくて良いこと)も、メリットの1つかもしれない。 当初は別々のアイデアとして、個別に開発が進められていたハズだが、その類似性は市場に混乱をもたらす可能性が考えられた。特にReadyDriveは、NANDフラッシュをディスクキャッシュに利用するというアイデアがRobsonテクノロジに酷似しており、両社がどのような形で折り合いをつけるのかが注目されていた。今回のIDFでIntelはRobsonテクノロジの位置付けを明確にし、1つのプラットフォームにおけるReadyDrive/ReadyBoostとRobsonの在り方を明らかにしている。 それによるとRobsonテクノロジは、ReadyDrive/ReadyBoostが利用するデバイスおよびデバイスドライバ、という位置付けになる(図1)。つまり、Robsonテクノロジをインストールしたシステムでは、RobsonテクノロジがReadyDrive機能やReadyBoost機能を提供する。たとえばHDDのプロパティを開くとそこにReadyDriveが見えているが、そのキャッシュは実はドライブ上ではなくMiniCard上にある、という具合だ。
ソフトウェアインターフェイスが1つになることで、混乱しにくくなる反面、ReadyDriveやReadyBoostをサポートしていないOS(Windows Vista以外のOS)では、Robsonテクノロジを利用することが難しくなる。技術的には利用することが可能だろうが、現実としてOSサポートやドライバサポートが行なわれるかどうかは未知数だ。 Vista専用という位置付けになることもあってか、Robsonテクノロジは次世代モバイルプラットフォームであるSanta Rosaのオプションであり、必須ではない。必須はあくまでもCPU(Core 2 Duo)、チップセット(Crestline)、無線LANモジュール(Kedron)の3つである。 ●2つの形態で提供されるRobson
IntelはOEMへRobsonテクノロジを2種類の形態で提供する。1つはMiniCardのモジュールとして、もう1つは主要コンポーネントのキットという形である。当初Intelは無線LAN同様モジュールでの提供だけを考えていたようだが、キットとしての提供も行なうことになった。理由はマザーボード上のオンボード実装を可能にすることと、OEMに容量選択の自由を与えることらしい。 キットには、コントローラチップ、Intel製NANDフラッシュメモリチップ、ソフトウェアが含まれる。NANDフラッシュメモリの容量(Intelが供給するモジュールおよびキット)は256MBと1GBの2種類で、256MBを選んだ場合、全量がReadyDrive用に使われる。 言いかえれば、ReadyBoostを利用するには1GB版が必要ということになるが、Santa Rosaプラットフォームのような新しいシステムであれば、性能向上は十分なメインメモリを搭載することが本筋であり、わざわざスワップを高速化するデバイスを取り付けるのはおかしな気もする。1GB版の容量振り分けはドライバで可能だというが、ReadyBoostがどこまで必要とされるのかは疑問だ。本来ReadyBoostは、メインメモリの増設がこれ以上できない古いシステムに対する、一種の救済措置のようなものだから、Santa Rosa/Robsonテクノロジとはうまく整合性がとれないように感じる。 256MBと1GB以外の容量を選びたいOEMは、自分でフラッシュメモリを調達することになるが、その仕様については現段階では明らかにされていない。他社製メモリを完全に排除するのではないようだが、Intelと同じレベルの信頼性と品質は保証できませんよ、ということらしい。が、いずれにせよ512MBや2GBといった容量を選べる可能性が残されるのは、Robsonテクノロジがキットで提供されるメリットの1つだろう。 ただ、RobsonテクノロジがWindows Vistaの機能に依存するようになったことで、難しい面もでてきた。企業向けのノートPCでは、既存の企業システムとの整合性から、必ずしも最新のOSが選ばれるとは限らない。この場合、マザーボード上にRobsonテクノロジがあっても意味を持たないことになる。BTOのオーダーメニューも、OSにVista以外を選んだ場合、Robsonの選択をグレーアウトする、といった工夫が必要かもしれない。 ユーザーにとってRobsonのメリットで、すぐに思いつくのは性能向上と消費電力の削減(図2)だが、HDDの動作を抑えることによるノイズの低減やHDD寿命の延長も若干期待できるかもしれない。
現在、ストレージデバイスとして使われているHDDのデータ転送レートは、軽く数十MB/secを超える。かなり高速なデバイスなのだが、実際にPCを使っていて、その高速性を実感することはあまりない。HDDへのアクセス単位が小さく細切れで、HDDの性能を引き出しやすい、シーケンシャルアクセスをする機会がほとんどないからだ。 現在のOSやアプリケーションはスレッド化されており、たとえシステムの起動時でさえ、1つのプログラムの1つのスレッドだけが実行されていることなど、まずあり得ない。複数のスレッドがHDDにアクセスするたびに、ヘッドはシークし、目的のセクタを読み出せるようになるまで回転待ちをする。バッテリを節約する等の理由によりHDDが停止していれば、HDDがスピンアップし、一定のスピンドル回転速度に達するまでの待ち時間もこれに加わる。 Intelが調べたところでは、典型的なディスクアクセス時間の95%を、回転待ちやシークといった、HDDのメカニカルな部分によるレイテンシが占めているという(図3)。メカニカルな部分を持たない(アクセスレイテンシの小さい)NANDフラッシュをキャッシュに用いることで、システムの性能を向上させられるチャンスがここにある。
●Robsonの正式名称は公開されず
今回のIDFでは、Robsonテクノロジのデモとして、Santa Rosaベースのシステムを休止状態(ディスクへのサスペンド)から復帰させ、いくつかのアプリケーションを実行する、というデモを行なっていた。このデモによると、Robsonテクノロジのないシステムが36.8秒かかるのに対し、Robsonテクノロジを採用したシステムは20秒で完了する。図2のように2倍というわけにはいかなかった(どれくらい高速化するかは、システム構成やアプリケーションなどに依存する)が、明らかに体感できる差があった。 今回のIDFでも分からなかったことは、Robsonテクノロジの価格と正式名称だ。IntelがOEMに要求する価格が分からないのはもちろん、ユーザーがRobsonテクノロジを利用するのにいくら支払う必要があるのかも明らかにされていない。Robosonテクノロジのモジュール自体は非常に小さく、乱暴にいえばminiPCIカードの半分程度しかない。無線LANモジュール用と2つMiniCardスロットを設けても、ノートPCが大きくなることはないだろうが、モジュールの価格とコネクタの価格でどれくらい上乗せさせるのかは不明だ。 正式名称もまだ発表されず、相変わらずコード名のままだが、予定通りであれば今回のIDFはWindows Vistaの正式リリース(2007年1月)前の最後のIDFでもある(次回は2007年3月20日~22日)。Robsonテクノロジの正式名称が公開されても良かったのではないかと思う。
□関連記事 (2006年10月2日) [Reported by 元麻布春男]
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