第377回
VAIO type Tファーストインプレッション



ソニー「VAIO type T(TZ)」

 ソニーが発表した新しいVAIO type T(TZ)は、これまでのソニー製モバイルPCの集大成と言えるような製品だ。さまざまな構成を選択可能な柔軟性に加え、デザイン性と扱いやすさのバランスを上手に取っている。

 コンセプトが明快であるが故に、これまでの製品では、インプレッションを書くときに「こうした部分に目を瞑れば」といったエクスキューズを必ず入れていたが、今回はそれが非常に少ない。今後さらに、以下に挙げる条件をクリアするならば、TZは理想のモバイルPCとなるだろう。


●ブラッシュアップされた各部

 TZは非常に良く練り込まれた製品だ。バイオシリーズは、時折、斬新な製品がラインナップされるが、それと同時に完成度が低い製品が時折見かけられることもある。しかし、本機に関しては実に手慣れている。そのあたりの長所については後ほど述べるとして、今回はやや不満を感じた部分から紹介することにしたい。

 もし、筆者が気付いたいくつかの点が気にならないという読者で、近くモバイルPCを新調しようと考えている人がいるならば、TZは購入リストのトップ近くに位置する製品になるだろう。

 まず、当然ながら11.1型ワイドWXGA(1,366×768ドット)という解像度とサイズが気に入るかどうかが、1つの判断材料だ。文字サイズは10.1型XGA(1,024×768ドット)と同程度であり、少々見にくさを訴える人もいるはずだ。

 本機はワンセグチューナを内蔵できるが、そのアンテナは液晶右に内蔵されている。加えて液晶上部にカメラが新たに追加された。この関係でベゼルは太めのデザインとなっており、新規で液晶パネルを起こしたならば、もう少しサイズの大きいパネルを使うこともできたのではないだろうか? これは実際に企画/開発をした担当者にも尋ねてみたい点だ。

液晶は11.1型ワイドWXGA 液晶上部にWebカメラ

 次にキーボードのデザイン。タッチそのものはしっかりとしており、ストロークが短い中にもきちんとクリック感が演出されている。横ピッチ17mm、縦ピッチ16.5mmと“ほぼ”正方形のディメンション、前モデルにあったようなキートップのスカートがないこともあり、見た目から感じるよりは打ちやすく、ミスタイプも少なかった。とはいえ、スタイリッシュな中にも、古くはトミーの“ぴゅう太”、あるいは三菱電機の「Pedion」を思い起こさせる、古くて新しいキートップのデザインは、その形に抵抗感を抱く人もいるだろう。

 やや狭いパームレストとタッチパッド。パームレストの狭さは致し方ないところだが、キーボードからパッド、クリックボタンまでの距離が極端に短いレイアウトは、慣れが必要だった。最初はやや違和感を感じるだろう。加えて、今モデルから左右クリックボタンの間に指紋センサーが配置されたことで、若干ボタンが押しづらく感じることがあった。

 右ヒンジ部側面に配置された電源ボタンは、先が飛び出るデザインになっている。デザイン性は悪くないのだが、不意に押してしまうこともある。とはいえ、こうしたデザインの機種をソニーは過去にも発売しており、デメリットを承知の上で故意に採用しているのだろう。

キーボードは横ピッチ17mm、縦ピッチ16.5mmと“ほぼ”正方形 指紋センサーはタッチパッドの下に配置 電源スイッチは本体右ヒンジ横

 またシステムプラットフォームは最新のSanta Rosaではなく、Napaを基礎にした設計だ。内蔵グラフィックスのパフォーマンスが弱いことと、省電力機能がやや劣ること(必ずしもシステムトータルでの消費電力が大きいというわけではないが)がネックとなる。これはシステム基板を縮小する上で、あえて前世代のものを使うことにしたのだろう。

 そして一番の問題はメイン基板上にメモリを実装しておらず、1つのSO-DIMMスロットしか利用できないこと。つまりメモリ搭載に関する柔軟性はほとんどない。また1GBまではともかく、2GBともなるとメモリモジュール自身がかなり高価という問題もある。メインメモリの上限も、現時点で検証できる2GBまでしかサポートされていない。

 と、こうして書いていても不満点はメモリスロットの件以外は些細なものしか思い浮かばない。2週間試用して感じたことだが、従来のtype T(TX)の特徴をそのまま引き継ぎながら、きちんと改良すべき点に正面から取り組んだことで、新たな弱点を生み出さずに済んだのではないだろうか。

●柔軟な構成で不満を解消

 筆者の手元に届いた試用機は、光学ドライブ非搭載モデルとしては、もっとも高いスペックを持つモデルである(オーナーメイドモデルとなるため、カタログ上の型名はない)。

 超低電圧版Core 2 Duo U7600(1.20GHz)、2GBメモリ、32GBフラッシュドライブ+160GB HDDという構成で、ワンセグチューナ、IEEE 802.11a/b/g無線LAN、Bluetooth、FeliCaポート、指紋認証センサー、TPMチップ内蔵、HDD待避用加速度センサー内蔵と仕様書に書き連ねるべき項目は多い。

 このサイズに、これだけの内容を詰め込めることは、TXでも証明していたが、TZになって改善されたのは、従来不満が残っていた仕様に柔軟性を持たせ、ユーザーが自分の使い方に合わせてベストな製品を選べるようになったことだ。

TZは本体左側にUSB 2.0×2(写真左)を備える。光学ドライブ非搭載とすることで、もう1ポート(写真右)を追加できる

 たとえば従来機は光学ドライブを必ず搭載しており、その分、HDDは1.8インチドライブしか利用できなかった。しかし本機は光学ドライブの代わりに2.5インチHDDを1基(+USBポートが1つ提供される)搭載可能で、1.8インチドライブの代わりに32GBのフラッシュディスクを選ぶこともできる。

 従来機と同様の使い方が望ましいならば、1.8インチHDD+光学ドライブを、シングルスピンドル機と同様の使い方をしたいならば、2.5インチHDDのみを、モバイル専用機として(やや価格は高くなるが)使うなら1.8インチドライブにフラッシュドライブを用いればいい。

 同様の選択肢はバッテリにも用意されている。本機はデザイン処理で1列分のバッテリセルを下面に潜り込ませる、バイオノートSRでも採用していたデザインを採用しているため、後ろの出っ張りなしに18650セル6本のバッテリを搭載できる(これがLバッテリとなる)。このほか、下面が完全にフラットになる3セル構成(Sバッテリ)、後ろに1列分が出っ張る大容量の9セル構成(LLバッテリ)が選択可能だ。なお、試用機はSバッテリが搭載されていた。

 こうした多様な構成を選べるようになった結果、重さも3セルバッテリ時で約1,085gと、シングルスピンドルの軽量機並にまで軽くすることもできる。もっとも一般的に使われるだろう6セル構成でも1,220gだ。

 またACアダプタが小型化されており、非常にコンパクトなことに加え、重さが170g(電源コードなし)に抑えられている。ウォールマウントプラグを組み合わせれば、電源アダプタも邪魔になりにくい。筆者自身はあまりACアダプタを持ち歩かない(ACアダプタを使うぐらいなら、もう1本のバッテリを使う)のだが、実際にはACアダプタを持ち歩くユーザーの方が多いというから、この点に喜ぶ人も少なくないはずだ。

●フラッシュドライブ+HDDの使い勝手

 多様な構成を選べる本機の中にあって、筆者がモバイルユーザーにもっとも勧めたいのが、フラッシュドライブ+HDDの構成である。この構成ならば、通常のオペレーションに関わるファイルはすべてフラッシュドライブに入れておき、デジタルカメラ写真や動画など、大きいサイズのデータ保管だけをHDDに入れておくことで、普段はフラッシュドライブだけで運用が可能になる。

 では、フラッシュドライブでシステムのほとんどの運用することで、高速な動作が期待できるとよく言われるが、本当に使い勝手は良くなるのだろうか?

 NANDフラッシュを大量に使い、ATAディスクをエミュレーションしているフラッシュドライブは、シーケンシャルアクセスの場合2.5インチHDDと比較して読み込みは同等かやや遅い程度だが、書き込みは遅い。

 しかしランダムアクセスになると、ヘッド移動やセクタサーチが不要になるため、フラッシュドライブは圧倒的に高速になる。たとえばアプリケーションの起動やディスク内のサーチ処理、メールなどのデータベースへのアクセスはほとんどがランダムアクセス。日常的なPCの操作に関してランダムアクセスが主流と考えれば、フラッシュドライブの価値は高い。

 別途、本誌でも詳細なレビュー記事が掲載されるので、細かな数字が明らかになるだろうが、各種アプリケーションの起動、特に多くのDLLを読み込むような大規模なアプリケーションほど高速起動を実感できる。場合によっては2倍以上、起動時間に差を感じることもある。type Tの場合、前モデルまでは1.8インチドライブしか搭載できなかったのだからなおさらだ。

 大量の写真データ読み込みなどは遅いが、それはHDD側に取り込むよう設定しておけば問題はない。フラッシュドライブは決して万能ではないが、システムやアプリケーションをインストールするドライブとしては適しており、それ以外は扱うデータの性質に応じて使い分ければ、ベストな結果が得られるだろう。

 また、バッテリ駆動時のデフォルトのドライブ回転停止時間を変更し、1分で回転を停止する設定も試してみた。本物のHDDの場合は、あまり頻繁に停止させるとスピンアップ時に待ち時間ができるだけでなく、消費電力の面でも不利(モーターは起動時にもっとも電流を消費するため)だが、使い方次第ではうまく運用できそうだ。

 たとえば筆者の場合、出先ではメール、Webブラウザ、テキストエディタ、各種Officeツール程度しか使わない。HDD側はあくまでも保管場所と捉えると、まず出先でHDDがスピンアップすることはなく、レスポンスを犠牲にせずに消費電力を抑えることができる。

 大容量のデータを保管するストレージが別にあると、フラッシュドライブの32GBは決して不満とは感じないものだ。価格の高さという問題はまだあるが、システムドライブをフラッシュ化できるメリットを考えれば、オプションで選択できる点は心強い。予算が許すならば、ぜひとも選びたい選択肢である。

●バッテリ持続時間はバックライト輝度に“大きく”依存

 さて、では実際のバッテリ持続時間はいかほどのものなのだろうか? 確かにHDD駆動分の消費電力は、トータルでは減ることだろう。しかし、プロセッサはCore SoloからCore 2 Duoに変わっており、処理量あたりの消費電力は下がっているが、待機時電力は上がっていると考えられる。

 筆者はバックライトを下から3番目に設定して使ってみたが、この原稿を書きながら(もちろんWebやメールをチェックしながら)の使用では、およそ3.5時間程度。3セルバッテリなので、1セルあたり1時間ちょっとというところだ。

 ずっと休まず使い続けての話なので、間に考え事をしたりWebやメールで送られてきた文書の内容を読んでいたりといった時には、もちろんグッと消費電力が下がる。最大で4時間ちょっとぐらいは使えそうな雰囲気だ。

 スペック値では5.5時間使えることになっている(JEITA測定法にて)が、バックライトを下から3番目にしていたのでは、とてもではないが、5時間以上は使えそうにない。ただ、LEDバックライトは輝度を低下させたときの消費電力が蛍光管よりも特に低い(逆に明るい場合は、蛍光管とほとんど変わらないという)ので、輝度を最低レベルにまで落とすと、バッテリ持続時間は延びてくる。暗いカンファレンス会場での利用が多い人なら、蛍光管バックライトの機種に比べて非常に有利になる。

 やや話がそれたが、JEITA測定法ではもっとも長くバッテリが使えるケースとして、最低輝度でスリープさせずに放置する時の時間も考慮されているため、スペックでは5.5時間という値が出たのだろう。メモリが2GB搭載されていることも無関係では無さそうだ。

 いずれにしてもバックライトの明るさを積極的に変えることで、最低でも1セルあたり1時間、うまくいけば1.3時間は行けると踏んで良さそうだ。

●遊びからお仕事までをカバーする個人向けモバイル機

 もし、個人的に本機を使うなら、その使い方はほぼ完全に仕事用のモバイルツールとしてのPCということになろう。フラッシュドライブ+HDDなら、その使い方にピッタリマッチする。バッテリ駆動時間も十分で、Lバッテリがあれば日常的な道具としては十分。Bluetoothは主に携帯電話を用いての通信時に使うだろう。SDメモリーカードとメモリースティック(デュオもアダプタなしで利用可能)のスロットが内蔵されているのも、取材に欠かせないデジタルカメラのことを考えれば重宝するはずだ。

 個人で使う遊びのための道具としても、光学ドライブモデルを選べたり、広色再現域を持った液晶ディスプレイが便利。Bluetoothを用いてワイヤレスのヘッドフォンを利用できる。凝った、しかしシンプルなデザインテイストも、個人で所有するモバイルPCとしての洗練された雰囲気がある。実にスマートにワンセグチューナとアンテナを本体に統合しているのもうれしい。

縦に2つ並んだメモリカードスロット。上がメモリースティック、下がSDメモリーカード用 AV系ボタンは本体手前右に集中して配置
本体左側面にIEEE 1394、Gigabit Ethernet、モデムを配置 保護カバーを開けたところ

 単純に仕事だけに使うモバイルPCであれば、他にもいくつかの理想型がある。1つは堅牢性やキーボードの質、独自のソフトウェアツールなどを核にするレノボの「ThinkPad」シリーズ、もう1つは軽量さと堅牢さ、バッテリ持続時間に優れる「Let'snote」シリーズ。いずれもモデルチェンジされても、きちんと各シリーズの魅力が、その時点における最新の技術を用いて継承され続けている定番アイテムだ。

 それらとは別のベクトルで、仕事での実用性とAV機能を融合した新しい定番アイテムとして、このシリーズが定着しそうな予感を感じさせる製品に仕上がっている。TXを見て「ここが、ああなっていれば」と思っていた読者は、今一度、自分の利用スタイルに合う構成が作れないかを再検討してみるといいだろう。

□ソニーのホームページ
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□関連記事
【5月17日】ソニー、VAIO 10周年記念モデル「type T」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/sony1.htm

バックナンバー

(2007年5月17日)

[Text by 本田雅一]


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