第376回
燃え尽き症候群のMicrosoft。Vista改善の方向は示さず



基調講演中のビル・ゲイツ氏
 米カリフォルニア州ロサンゼルスで始まったMicrosoftのPCハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2007」は、Winodwsで実装していく各種機能とハードウェアの方向性を揃え、成果を最大化することを目的にビル・ゲイツ氏の後押しで開催されてきたイベントである。

 Windowsがカバーする製品のエリアはデスクトップPCからモバイルPCやエンタープライズサーバーに広がり、さらにはUMPC、携帯電話などにも進出しようとしている。WinHECはMicrosoftにとって、従来よりもさらに重要なイベントへと変化していかなければならないところだ。

 しかし、まだ始まったばかりのWinHECを見ていると、MicrosoftにはWindows Vista発売後、軽い燃え尽き症候群が残っているように感じられる。ちまたでは今ひとつOSとしての評価が上がってこない(筆者自身もあまりアップグレードは他人に勧めていない)Vistaだが、プリインストールPCで出荷が続いているのだから、普及していくのは時間の問題だ。

 誰もが次のOSとしてVistaを使って行かざるを得ないのであれば、今後の改善に最大限の努力を払ってもらわねば困る。そのために必要なのは、今現状を正確に把握し、改善点を洗い直すことだろう。

●Vistaのローンチは熱狂のうちに成功した?

Vistaローンチ成功を示すビデオ映像を来場者と見るゲイツ氏の影。現状のVistaの 評価を引退前の彼はどう見ているのか
 WinHECの初日基調講演は、いつものようにビル・ゲイツ氏が担当したが、その中でゲイツ氏はWindows Vistaの発売に触れ、Vistaがハードウェアのパフォーマンス向上、ワイヤレス接続、モバイル化、サービス指向のソフトウェアアーキテクチャ、文書やメディアのデジタル化などのメガトレンドを呑み込み、それらを支えるOSとして、世界中で熱狂的に受け入れられたと話した。発売後100日間で、Vistaは400万コピーを販売したと、ローンチの“成功”を強調している。

 確かに数字だけを見れば、それほど悪いものではない。しかしユーザー自身がOSをインストールし、環境を構築する必要があったWindows 3.x時代とは異なり、今やほとんどのコンピュータがWinodwsをプリロード済みで販売している中、Vistaが普及していくのは時間の問題だ。Vistaが普及するか、ヒット商品になるのか、といった質問を、Vista発売直前に一般メディアから質問されたことがあったが、Vistaが普及するかどうか、および、ローンチ直後にどれぐらい売れるかというのは、意味のある視点とは思わない。いずれ時間が経過すれば、VistaユーザーはPCの買い換えと共に自然に増加していく。

 Vistaのローンチに熱狂があったかどうか定かではないが(日本では特別なイベント感が無かったのはご存知の通り)、普及することを前提に、これからどう改善していくのか、VistaというOSを基礎に、どのようにPC業界は進むべきなのか、半年後にMicrosoftでの常勤を外れる予定のゲイツ氏は、自らが推進してきたWinHECだからこそ、自身の考えを示して欲しかった。

 ところが実際に講演で語られたのは、一方的なVista成功の成果を示す言葉、あるいはVistaベースに開発された新しい小型PCあるいは周辺機器を示して、新しい製品を生み出すための新しいソフトウェア基盤としての良さを強調するばかり。

 もちろん、Vistaによって生まれた新しい製品は少なくない。基調講演でデモが行なわれたWindows Rally対応ネットワークアプライアンスや、近く登場予定のWindows Home Serverとの連携、それにWindows Sideshowを活用した周辺機器など、確かに新しい製品は生み出している。

 だがVistaが世の中に出て、批判的な声やユーザー、それにPCベンダーから報告されている不具合や仕様面での不満、実装の不備などについても、現状を認識していることを伝えた上で、さらなる発展を目指した方向を示さなかったことに強い不満……というよりも、“残念な気持ち”を感じざるを得ない。

●“毎年のアップデート”への期待と不安

Vista向けに開発されたUMPCやタブレットPCなどを紹介するゲイツ氏
 一方で(今回のWinHECで約束手形が出されたわけではないが)Vistaについて、ある程度まとまった機能強化や改善を、毎年、あるいは1年半程度の周期で行なっていくという、今後のMicrosoftのOS開発方針には期待を寄せている。

 MicrosoftはVistaの開発に、あまりにも長い時間をかけすぎたことを反省し、今後は短期での堅実な改良を加えていく方針をVistaのリリースに前後して示し始めている。

 わかりやすく言えば、Appleが(リリース初期はポテンシャルこそあったが使いにくさと機能の不足に悩んだ)Mac OS Xを、毎年少しずつ改良したことで完成度を高めていったのと同じ手法をVistaにも採用していくということだ。

 しかし、この手法を成功に導くには、最新リリース直後から製品の強い部分と弱い部分を正しく認識し、改善していく方向性を示していく必要があろう。

 ここ数年、Mac OS Xを使う機会が圧倒的に増えて感じるのは、MicrosoftとAppleの開発チームの規模の違いだ。Mac OS Xの開発チームが小さいとは言わないが、それでもWindowsとは桁違いに開発チームの規模は小さい。あらゆるWindows開発者の意志を統一し、各種機能の実装に関して意志を統一し、最善の実装を導くことは大変に難しいことだ。たとえば何らかの設定を行なう操作性ひとつを取ってみても、ユーザーインターフェイスの組み立て方をすべて統一するのは難しい。

 前述した“残念な気持ち”とは、ゲイツ氏がそうした巨大な開発プロジェクトにありがちな問題を今後も引きずっていかないよう、自分自身が推し進めてきたWinHECというイベントで、今後もMicrosoftとの共同作業を続けていくハードウェアベンダー、そして自社の社員に対してリーダーシップを発揮しようという意志が感じられなかったからだ。

 短期での改善を繰り返していくこと(具体的にはサービスパックの提供ペースを早め、アップデート内容を充実させること)そのものには、いちエンドユーザーとして非常に期待を寄せているが、その方向は全く見えない。

 今回のWinHECで開催されている技術トラックも、昨年来からMicrosoftがハードウェアベンダーにアピールしている機能、アイディアの説明をリピートしたものが多く、その内容も現状のVistaで最善の製品を開発するための手法について解説するに留まっている。

 Vista最初のサービスパックはLonghorn Server改めWindows Server 2008と同時期のリリースが噂されている。Windows Server 2008は今年中にコードフィックス、来年の早い時期での出荷が予想されており、さほど長い時間が残されているわけではない。

 Microsoftは今年秋、ソフトウェア開発者向け会議のPDC(Professional Developers Conference)の開催をアナウンスしている。このPDCのメインテーマは、直後にコードフィックスを控えるWindows Server 2008になるだろうが、同時に基調講演ではVistaの改善に関して確たる方向性を示さねばならない。カリスマであったゲイツ氏に代わり、Microsoft全体の進む方向を示す人物を、Microsoftは見つけることができるのだろうか。


□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□WinHECのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/whdc/winhec/

バックナンバー

(2007年5月17日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.