第373回
Googleのサービス、その先に期待すること



 インターネットにあふれる情報を、スーパーコンピュータのパワーを用いて整理し、単体のコンピュータでは得られない整理された情報を提供する。最初はWebページの検索の質を、独自の重み付けデータベースを用いることで高めることで注目されたGoogleは、今や写真、ブログ、それに地理データなど、多様なジャンルに渡っての情報を提供するに至っているのは、皆さんもご存知の通り。

 Googleが開催したGEO(地理)関係プロダクトの記者説明会では、人気の高いGoogle Map、Google Earthに関連する新サービスが発表されたが、それももちろん、同社の社是である「世界中の情報を整理して、世界中の人々がアクセスできて、使えるようにすること(原文のママ)」をさらに推し進めたものだ。

 しかし、個人的にはGoogleのサービスには多少の物足りなさもある。それはポータビリティの低さだ。Googleはさまざまな機能の追加により、モバイル環境にも対応しているという。だが、それらはインターネットにオフラインになっている状態で使えるものでは、まだない。


Google GEO Productsのミッション Googleで整理できる情報

●デスクトップ版Transitサービスを開始

 Googleが本日の夕方から開始した「Google Transit」は、昨年(2006年)10月からサービスを開始していた携帯電話向け乗り換え案内サービスのデスクトップ版だ。まだ利用したことがない人は、携帯電話のWebブラウザからhttp://google.jpにアクセスすれば利用できる。

 このサービスがGoogleらしいのは、駅だけではなく住所やランドマークでも検索できる点。背景にはGoogle Mapに登録されたデータベースがあり、Google Mapで検索できる“場所”であれば、いずれも出発点、到着点に指定できる。住所も検索対象にできるので、自宅から特定の住所やランドマークに行く際、どの駅から徒歩で歩くのが良いかまでを考慮してくれる。

 また他府県にわたり同名駅の処理が行なわれ、現実に検索されやすいだろう近くの駅、たとえば、博多と赤坂の間の乗り換え検索ならば、福岡の赤坂を自動的にデフォルトで選ぶなどのインテリジェントな処理が特徴だ。

 デスクトップ版では、さらにMapとの連携を強め、経路上の地図や駅から徒歩で歩く大まかな方向を示すなどの機能が加わっている(残念ながら徒歩ルートまでは引いてはくれない)。

Google Transit Google Transitモバイル版の表示例 Google Transitの検索結果

 単なる都市部の乗り換え案内だけではなく、電車で旅行する際にどんな場所を通るのか、Google Mapの航空写真で確認してみたり、あるいは車窓から見えた特徴的な風景を航空写真から見る、到着地点周辺のローカル情報をGoogle Localであらかじめ検索しておくなど、他のGoogle GEOサービスと連携させた立体的な情報検索も手軽に行なえる構成だ。

 執筆時点では正式なURLが公開されていないが、まずはトップページにアクセスし、どのようなサービスかを確認してみるといいだろう。「まだβ版。これから進化させ、いずれはGoogle Mapとも統合していく」というが、現時点でも使い勝手はすこぶる良い。

●入口は充実しているが、出口が限られているGoogleのサービス

 もっとも、Googleのサービスが使いやすいと感じるのは、PCにしろ携帯電話にしろ、オンラインでネットワークに接続されている時だけだ。これはGEOサービスだけでなく、Googleのサービスすべてに言える。情報の入り口を増やす努力は継続的に行なっているが、出口のバリエーションを増やすことに関しては、あまり積極的ではない。

 たとえばGoogle MapにはAPIが用意されており、他サービスがGoogle Mapのデータをマッシュアップして、別のサービスに仕立てることができる。「食べログ.com」のレストランマップや「ポストマップ」などが、その良い例だろう。他にもGPSデータとGoogle Mapをマッシュアップして、旅行時に移動した経路などをネット上で確認できるサービスや写真系のブログサイトで地図と関連づけるなど多様なサービスがある。

 またGoogle MapやGoogle Earthで利用できる地点情報やGPSデータ付き写真、ルートなどの情報を記録できるXMLフォーマットKMLの仕様をオープンにして利用を促したり、地点ごとの3Dデータを自分で作成するツールを提供したり、あるいはGoogle Localの情報を自分で申告して登録するなどのサービスも提供している。

 ユーザーコミュニティを活性化させ、Googleが収集/提供しているデータベースだけでなく、エンドユーザーからのボトムアップで情報を充実させる手法はGoogleが得意とするところだ。力業だけではどうにもならない部分を、効率的に膨らませていけるのだから、Googleにとってもユーザーにとっても効率的で利便性も高い。

 問題はこうした豊富で質の高い情報データベースを、優秀なサービスで処理/分析/整理してユーザーに閲覧させた、その後の話。オフラインで情報を利用する手段が、あまり考慮されていないことだ。

 たとえば単にポイントしたい地点データや自分で引いたルートを保存しオフラインの状態でPCでそのデータを確認したいだけならば、KMLファイルをを保存しておき、それをGoogle Earthで開けばいいだけだ。しかし、実際にはGoogle Earthはオンラインでしか地図を参照できないので、オフライン時にはどうしようもない。

 携帯電話との連携も、できることはMap上で検索した地点情報をメールで送ることぐらいだ。Googleのサービス全体を見渡しても、Gmailやサイト検索は携帯電話向けサービスが行なわれているが、それ以外のサービスは提供されていないため、今すぐなにか機能を追加するとしても、関連情報を文字や画像に変換してメールで送ったり、あるいはブラウザに表示させるといったことぐらいだろう。

●オールウェイズ・コネクトに向けた環境は整ってきたが……

 ネットワークサービス中心のアプリケーション構築モデルが、これだけ幅広く使われるようになり、さらにイーモバイルに代表されるようにオールウェイズ・コネクト(常にネットに接続された状態での利用形態)一歩手前の環境が整いつつある現状を考えれば、別にオフライン機能にこだわる必要はないじゃないかという声もあるだろう。

 しかし、実際にどんな場所でもネットワークに接続された状態を、ユーザーがさほど意識せずに維持できる環境というのは、まだまだ当面は実現されないのではないか。経済の原則から言えば、そこまでの進んだ環境を、どれほど多くのユーザーが求めるのか? という市場規模の問題もある。

 Gmailは非常に便利だし、スケジュールやアドレス帳なども含め、個人のデータはGoogleに預けてしまい、地図やルート検索などの情報もすべてGoogleでいいじゃないかと思えるだけの機能と使い勝手はあるが、(個人に関わる情報をどこまでGoogleに預けるかといったデータ管理の問題は別にしても)現実にはそこまでGoogleに依存しようとは思わない。

 サービスに直接接続できない状況でも、せめてそれまで検索した結果や預けてある情報の複製への参照が可能ならば、もっと積極的に利用できるのだが。たとえばGmailやGoogle Calendarにアクセスし、情報をキャッシュできるローカルクライアントはどうだろう? データベースの一部をXMLでキャッシュしておき、そのデータベースの仕様を公開するといった手法でもいい。

 話をGEOアプリケーションに戻せば、カーナビと積極的に連携させるような協業は行なえないものだろうか。

 最新のカーナビ動向に詳しい読者ならご存知だろうが、現在のカーナビは時間ごと、季節ごと、日付ごと、曜日ごとに検索できる渋滞データベースを持っており、到着時間や経路中の立ち寄り地点、立ち寄り時間、休憩の予定などを入力すると、ルートを引くのはもちろん、当日の渋滞を予測しながら出発時間のガイドを示してくれる。

 こうした渋滞情報データベースなどの情報を複数組み合わせ、可能な限り必要とする情報を引き出してユーザーに見せるのは、Googleの得意とするところだ。そのまま検索結果をPCを使って追いかけながら(必ずしもGPSナビがなくとも、ガイドが示されるだけでも十分に役立つだろう)旅行したり、可能ならば主要なカーナビメーカーと旅行プラン情報のやりとりを行なうためのXMLデータスキームについて相談してもいい。

 オフライン時のソリューションと、各利用場面ごとに適したデバイスとのサービス連携の道筋を付けてくれれば、もっともっと、Googleのサービスから離れられなくなるのだが、現在はそこまで至っていない。

 ではそうした各種専用デバイスやアプリケーションとネットサービスを結合することに関して、もっともゴールに近い位置にあるのはどうこだろうか? それはおそらくMicrosoftだろう。同社のWindows Liveは、現時点ではGoogleの模倣に見えるが、将来的にはMicrosoftが提供するローカル動作のアプリケーションや、Windows Mobileとの関係を深めていくに違いない。

□関連記事
【2006年10月18日】グーグル、無料の乗換案内サービス「Google トランジット」(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/31427.html

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(2007年4月24日)

[Text by 本田雅一]


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