元麻布春男の週刊PCホットライン

法改正が待たれる802.11nの国内利用




●追加情報が少なめだったIDF

 技術的な興味深さで強い印象を与えたUMPCのせいで、やや霞んでしまった感もなくはないが、まもなく登場するノートPC向けプラットフォームSanta Rosaは、IntelにとってUMPC以上に重要なプラットフォームだ。現時点ではほとんど売り上げに寄与していないUMPCに対し、モバイルプラットフォームは事業部を支える、文字通りの屋台骨であるからだ。

 Santa Rosaについては、これまでもある程度、公式、非公式を問わず、情報が伝えられてきた。すでにわが国でも「未発表プロセッサ」と「新技術」を搭載したノートPCの夏モデルがPCベンダから製品発表されており、正式リリースまでカウントダウンの状態にある。

 その概要については、各所ですでに紹介されており、IDFで追加された情報は残念ながらあまり多くない。これまでRobsonテクノロジと呼ばれてきたNANDフラッシュメモリによるキャッシュ機構の正式名称(Intel Turbo Memory)が公開されたり、といった程度だ。

 その次の2008年のプラットフォームとなるMontevinaにしても、チップセット、ワイヤレスモジュール、LANチップなどのコード名が明らかにされた程度。RobsonテクノロジもVersion2となり、機能強化される見込みだが、これらの中身について詳細な情報が公開されたわけではない。

モバイルプラットフォームのロードマップ

●日本での40MHzオプション利用は5月以降

 ただ筆者は従来からSanta Rosaについて1つだけ気になることがあった。それをIDFで確認することができたので、ここではその話を紹介しようと思う。

 筆者が気になっていたのは、Santa Rosaの無線LANモジュール「Kedron」についてだ。どうも最近モバイルのワイヤレス接続というと、定額制サービスも始まったHSDPAやワイヤレスMAN技術であるWiMAXに話題をさらわれている感が強いが、接続エリアを選ばず、現時点で即利用できるワイヤレスはやっぱり無線LAN(Wi-Fi)なのである。

Santa Rosaに採用される無線LANモジュールの4965AGN

 今回のIDFで、Kedronの製品名が4965AGNと4965AGであることが明らかにされた。末尾のNの有無は、IEEE 802.11nのドラフト仕様をサポートしているかどうかの違いを示しており、4965AGNだけが無線LANの高速化に関する技術標準である11nのドラフト仕様をサポートする(iAMT2.5のサポートは共通)。つまり、Intelのプレゼンテーションなどで見られる従来製品より5倍以上高速(Over 5X Faster)といった記述が当てはまるのは4965AGNだけだ。

 だが、本当に4965AGNは、従来の製品に対して5倍以上高速になるのだろうか。IEEE 802.11nは技術オプションが非常に多いことで知られる。その高速性をフルに享受するには、高速化に有効なオプションをアダプタとアクセスポイントの両方が共通にサポートしていなければならない。

 中でも高速化に顕著な影響を及ぼすのが、IEEE 802.11nで取り入れられる40MHzオプションだ。従来と互換性を持つ20MHzのチャンネルを2つ分利用することで、従来の2倍の通信帯域を提供するこのオプションがなければIEEE 802.11nのフルスピードは得られない。

4965AGNは既存の無線LANより5倍以上高速と謳うが……

 ところが、この40MHzオプションはこれまでわが国では電波法上利用することができなかった。ようやく4月11日に最終答申が出され、この5月にも電波法の改正が行なわれる見込みだが、タイミング的に初期に出荷される4965AGNには間に合わない。もう4965AGNのメーカーへの出荷は開始されているハズであるからだ。つまり40MHzオプションが利用できない初期出荷分の日本仕様の4965AGNと、米国などで出荷される4965AGNでは2倍近い帯域差が生じる可能性があることになる。

 今回、IDFの展示会場で無線LANモジュールの担当者に直接この点についての話を聞くことができた。結論を言えば、4965AGNは5GHz帯の無線LANに限り、日本と韓国を除く国への出荷分では最初から40MHzオプションがサポートされる(周波数帯域の限られた2.4GHz帯での40MHzチャンネルはサポートされない)。つまりプレゼンテーションにある5x Fasterは日本や韓国では2.5x Fasterになる可能性が高い。非常に残念な話だが、法規制の問題はIntelだけでは何ともできない問題である。

 ただ、見方を変えれば、4965AGNのハードウェアについては、すでに40MHzチャンネルに対応している。新しいハードウェアの開発は不要なのだから、40MHzチャンネルを認可する電波法関連の改正が施行され、これに基づく技術適合審査がスタートすれば、比較的早い段階で40MHzチャンネルが利用可能になる可能性がある。

 まだ法改正が正式に施行されていない段階にあるため、日本のインテルは40MHzチャンネルへの対応時期、あるいは既存の出荷分がファームウェアの更新で可能かどうか、といった情報を公開していない。可能な限りのすみやかな対応と、これは非常に難しいかもしれないが既出荷分に対するアップグレード(ただしこれは法律上インテルが実施することはできず、PCベンダが行なわねばならない)への配慮を期待したいところだ。

□IDF 2007のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□関連記事
【1月24日】Intel、ノートPC内蔵用IEEE 802.11nモジュール
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0124/intel.htm
【2006年4月13日】【元麻布】超高速無線LAN規格IEEE 802.11nへの期待
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0403/hot417.htm

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(2007年4月23日)

[Reported by 元麻布春男]


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