元麻布春男の週刊PCホットライン

Ultra MobileにWindows有無の2つの道




●拍手を呼んだ力作“Menlow”

SilverthorneプロセッサとPoulsboチップセットで構成されるMenlowプラットフォーム。左の1元硬貨との比較で大きさが分かる
 開催地が米国を離れ北京に変更されただけでなく、2日間開催(米国外の開催では通例ではあるが)となった2007年のIDFはアッという間に終了した。前回も記したように、45nmプロセスのプロセッサについて事前に情報が解禁されてしまったため、やや目玉に欠ける印象の否めない今回のIDFで、最もホットだった話題はモバイル関連、ということになりそうだ。

 2日目のキーノートスピーチを行なったのは、モビリティ事業部長を務めるDavid Perlmutter副社長だが、中でもそのハイライトはUltra Mobileプラットフォームに関わる部分だ。Perlmutter副社長に招かれて登壇したウルトラモビリティ事業部長であるAnand Chandrasekher副社長は、2007年のUltra Mobileプラットフォーム(コード名McCaslin)と、2008年のUltra Mobileプラットフォーム(同Menlow)について紹介した。

 2007年のMcCaslinが、既存のノートPC向け製品の派生型という側面がぬぐい去れないのに対し、MenlowはUltra Mobileプラットフォームのために新規に開発された製品である。その中核となるプロセッサのSilverthorneは、45nmプロセスにより量産される6番目のプロセッサ(1〜5番目はすべてPenrynファミリ)。明らかにノートPCとは異なるダイであり、ゼロから開発したといって間違いないだろう。45nmプロセスであるにもかかわらず、命令セット的には65nmプロセスのモバイル向けCore 2 Duo(Merom)互換とされている点も、Silverthorneの独自性を感じさせる。

 McCaslinに使われるプロセッサのA100/A110(Taylor)が90nmプロセスであるのに対し、65nmをスキップし、最新の45nmプロセスで勝負するというのだから、Intelの力の入れようがわかる。しかも本来65nmプロセスには、Ultra Mobileプラットフォーム向けとも思われた省電力ロジックデバイス専用のプロセス(P1265)まであったのに、それを使わないという(プロセス側の問題があったのかもしれないが)。Intelがまだ市場の確立していない製品に、最新の製造プロセスを使うというのは、相当の覚悟がうかがえる。もちろん、45nmプロセスを用いることによって、Menlowプラットフォームの製品は、McCaslinプラットフォームに比べて小型・軽量で、長時間のバッテリ駆動が可能になる。

 こうしたIntelの「気合い」が観衆にも伝わったせいか、Chandrasekher副社長のスピーチが終わるところで、会場から自然発生的に大きな拍手が巻き起こった。2日間のキーノートを通して、これだけの拍手があったのは、この時だけだったのではないかと思う。

UltraMobileプラットフォーム製品を紹介するPerlmutter副社長 Menlowのプロトタイプを手にしたChandrasekher副社長
45nmプロセスで量産されるPenrynとSilverthorne。ダイサイズはかなり小さい Ultra Mobileプラットフォーム用チップの変遷。右端がMenlowプラットフォーム

●ミニPCに用意された2つの選択肢

 このように、かなり魅力的に感じられるUltra Mobileプラットフォームだが、だからといって確実に売れる、と言えないのがこの種のデバイスの難しいところだ。難問の1つがこのUltra Mobileプラットフォームをどう売るのか、という点にあることは間違いない。

 それが現れている1つの例が、Ultra Mobileプラットフォームに基づく製品が2つの分類として捉えられている(いた?)ことだ。少なくともIDFの直前まで、IntelはUltra Mobileプラットフォームを、コンシューマ向けのMobile Internet Device(MID)と企業向けのUltra-Mobile PC(UMPC)の2つに分けてマーケティングしようとしていたと見られる(図)。筆者があえてUMPCという用語をここまで使ってこなかったのも、これが理由だ。

Menlow(左)とMcCaslinの差は予想以上に大きい UMPCのマーケティングプラン。IT向けがWindowsになるのは、ネットワーキングや管理性、セキュリティの要求からだろう
Ultra MobileプラットフォームでサポートされるWindowsはもちろんWindows Vista。Thanks Microsoft!の文字がかえって深読みさせてしまう Ultra Mobileプラットフォーム用に開発されたMIDINUX。2005年からIntelと共同研究を進めてきたという

 MIDとUMPCが最も顕著に異なるのは、OSの部分である。UMPCが最もポピュラーなWindowsベースであるのに対し、MIDはLinuxや各種組み込み用OSとなっている。コンシューマ向けのデバイスでWindowsを避け、Linuxを採用するメリットは、一義的にはライセンスコスト、動作の軽さ、といったあたりにあるものと思われる。

 最終的には500ドル以下で売りたいというUltra Mobileプラットフォーム製品で、OSのライセンス料は決して小さくないファクターだ。2008年にリリースするコンシューマ製品に、もはやWindows XPを選択できるとは思えないから、おのずとWindowsイコールWindows Vista(あるいはそれ以降のOS)ということになるが、プロセッサの性能だけでなく、メモリ搭載量やストレージスペースへの負担が増すことも覚悟しなければならない。

 加えて、開催地である中国の紅旗LinuxがUltra Mobileプラットフォーム用のMIDINUXを開発しているという事情もあっただろう。LinuxをOSに採用することで、アンチウイルス等の対策による負荷も、Windowsよりは小さくすることができる。45nmプロセスの最新プロセッサといえども、同世代のノートPC用のプロセッサに比べれば非力であることは間違いない。また、携帯性を重視すればディスプレイサイズも抑える必要がある。

 Ultra MobileプラットフォームがWindowsという共通のプラットフォームを選んでしまうと、非力で画面の小さな劣化ノートPCと受け取られかねないリスクを負う。わが国のように小型・軽量であることに、プレミアムな価値を見いだしてくれるユーザーばかりではないのだ。

 逆にMIDのOSがWindowsであるべきなのは、アプリケーションやコンテンツの互換性である。言うまでもなくWindowsには豊富なアプリケーションソフトが揃っており、ユーザーは好みのものを利用することができる。インターネットのWebサイトにしても、そのコンテンツを利用しようとした時、x86ベースのプロセッサとWindowsは不可欠だ。もちろん、コンテンツに付与されるDRMも、Windows以外では対応できないことが少なくない。

 話がややこしくなるのは、ここにUltra Mobileプラットフォームのディスプレイサイズ(対角線サイズ)と解像度の問題がからんでくることだ。WindowsのアプリケーションやPCで閲覧することを前提にしたサイトの多くは、x86プロセッサとWindowsに加え、XGAクラス(1,024×768ドット)のディスプレイ利用を暗黙のうちに要求している。PC用のアプリケーションやコンテンツがどんなに豊富でも、解像度が低かったり、画面の対角線サイズが小さなディスプレイでどれだけ有効なのか、というのはいつも議論になる部分だ。

 こうした、さまざまな事情に配慮し、どうやらIntelではコンシューマ向けのMIDについても、Linuxを前面に押し出す、ということはしないもようだ。Linuxを用いてより家電製品に近いアプローチをとるのか、Windowsを用いてPCライクなデバイスとして売るのかはOEMに委ねられるらしい。そうなると、UMPCとMIDの差は何かなどという疑問も生じるが、いつの時代も分からない時は市場に委ねる、というのが正解だろう。

□IDF 2007のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□関連記事
【4月18日】【IDF】「Intel Ultra Mobile Platform 2007」正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0418/idf05.htm

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(2007年4月20日)

[Reported by 元麻布春男]


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