前回、BootCampの新版を紹介したと思ったら、今度はVMwareのMac対応VMMソフトウェアであるFusion(開発コード名、ただし「VMware Fusion」にはTMの表記が見られる)の新しいβ3がリリースされた。残念ながらBootCampを含むLeopardのリリースは、iPhoneのリリースを優先するという理由から10月まで延期されてしまったが、すでに製品版がリリースされて久しいParallelsのDesktop for Macと合わせ、Intel Mac上でWindowsを動かそうという試みは、現在最もホットなトピックの1つであるようだ。 今回リリースされたFusionβ3(Build 43733、以下Fusion 3)で最も大きく変わったことの1つは、BootCampパーティションにインストールされたWindows XPを仮想ドライブに見立てて、仮想環境を立ち上げることが可能になったことだ。システムをリブートすることなしにWindowsを利用可能な仮想環境は確かに便利だが、100%の互換性が確保されているわけではないし、現時点では性能面でのペナルティが大きい。日常的な用途には仮想環境を利用するものの、ゲームなど性能が必要なアプリケーション、あるいはネイティブWindowsでないとどうしても利用できないアプリケーションや周辺機器を利用する際はBootCampといった使い分けがどうしても必要になる。 この時、BootCamp環境と仮想環境が別々にインストールされていると、たとえばwebブラウザのブックマークやメールといったデータ類をすべて二重に管理しなければならなくなる。もちろん、セキュリティパッチもそれぞれ個別に適用する必要が生じる。BootCampパーティションから仮想環境を立ち上げることができれば、こうした二重管理の問題の大半を回避することが可能だ。
しかし残念ながら、現在のFusion 3でBootCamp環境から仮想環境を立ち上げられるのはXPに限られており、Windows Vistaで同じことを行なうことができない。Fusion 3におけるVistaサポートはまだテスト段階のようで、サウンドなどXPで利用可能なデバイスもまだサポートされておらず、完全ではない。β2から始まった仮想環境におけるDirectXのサポートと、その延長線上にあるであろうWindows Aeroのサポート(現状のFusionはAeroは動作しない)と合わせて、正式リリース版ではVistaへの完全対応が行なわれると期待したいところだ。 Fusion 3で大きく進歩したもう1つのポイントとしては、ついにデバッグオプションを外すことが可能になったことが挙げられる。これまでリリースされてきたβ版では、常にデバッグオプションが有効になっており、これが性能面での足かせの1つになっていた。デバッグオプションが解除可能になったことで、ずいぶん動作が軽くなったようにも思うし、リリースが近づいてきたことを実感する。
また日本人にとって嬉しいのは、インターナショナルサポートの1つとして、Apple日本語キーボードのサポートが開始されたことだ。とりあえず仮想環境のWindows XPで、Apple日本語キーボードの「英数」キーが106キーボードの「無変換」に、Apple日本語キーボードの「カナ」キーが106キーボードの「ひらがな」にそれぞれマップされていることが確認できた。 このマップは前回取り上げたBootCamp 1.2におけるキーマップと一致しており、Mac OS X、BootCamp環境のWindows、仮想環境のWindowsの3つの環境で、シームレスに日本語キーボードを使う環境が整いつつある。現状ではCapsLockキーの扱いがWindowsのマナーに合致していない(本来は英数キー扱いとなるCapsLockキーの単独打鍵でCapsLockキーのLEDが点滅する等)部分もあるが、望ましい方向に向かっているのは間違いないと思う。この辺り、VMwareには日本法人が存在することが効いているのかもしれない。 このほかにも仮想マシンに対するWindowsのインストールが簡単になったり、ネットワーク接続オプションが拡張されたり、ハードウェア設定が分かりやすくなるなど、正式リリースに向かって一歩一歩階段を上っている様子が伺える。まだVMwareがFusionをどのように商品化するのか、特にコンシューマが利用しやすいような形(価格、ライセンス形態等)での商品化が考えられているのかなど、分からない部分も少なくないが、期待度は高い。 Parallels Desktop for Windowsの時もそうだったが、Fusionの場合もβ版が広く公開され、しかもそれがユーザーの望む方向に進んでいるようであることを見ているのは楽しい。特にそれが仮想化という、今、旬なテクノロジに関したものであればなおさらだ。 ●Macに移行する理由 ハッキリ言って筆者はこれまでWindowsをメインにしてきたし、今もこの原稿を書いているのはネイティブWindows上である。にもかかわらず、最近Macに関する話題を取り上げることが多いのは、こうした楽しみ、あるいはワクワク感のようなものが、Windowsには少なくなってしまったからではないかと思っている。 もちろん、Windowsにだって仮想化はあるし、そもそもIntelプラットフォームの本籍地はWindowsである。しかし、VistaのHome BasicやHome Premiumが仮想化のゲストOSから外されたことが象徴するように、今やWindowsではさまざまなテクノロジの適用が企業コンピューティングをベースに進んでいく。そこに効率性の追求や経済性といった観点はあっても、ワクワク感は求められない。それがつまらないのだ。 かつてWindowsがIBMのOS/2と覇を競っていた頃、筆者がWindowsを支持したのは、技術的な優劣というより、Windowsの方がOS/2よりワクワクさせられたからだと思っている。Windowsの成功により、Microsoftは巨大な存在、ひょっとするとOS/2の頃のBig Blueをもしのぐような存在になったかもしれない。が、その代償としてかつてあったハズの楽しさを手放さなければならなかったのだとしたら、とても残念なことに違いない。
□関連記事 (2007年4月13日) [Reported by 元麻布春男]
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