●GPUを統合するNehalem Intelは次世代マイクロアーキテクチャ「Nehalem(ネヘーレン)」で、CPUにGPUコアを統合する。AMDもほぼ同じ世代でCPUにGPUコアを統合する「FUSION(フュージョン)」プロセッサを投入する計画だ。GPUコアの統合ではIntelとAMDが、また足並みを揃えることになる。 Nehalemに統合されるのは、世代的にはDirectX 10フィーチャをサポートするUnified-Shader(ユニファイドシェーダ)型GPUとなると推定される。では、性能レンジはどうなるのだろう。 「メインストリームのノートPCとデスクトップPCで、セントラルリーダーシップポジションを取る性能だ。通常、より高いグラフィックス性能はPCI Expressカードで加えるが、それは完全に異なるセグメントとなる」とIntelのStephen L. Smith(スティーブ・スミス)氏(副社長兼デスクトップ・プラットフォーム・オペレーションズディレクター、 Intel)は説明する。 つまり、Nehalemに入れ込むのはグラフィックス統合チップセットクラスの性能となる。ディスクリートGPUの性能を統合するわけではない。これは、統合化を考えると必然的な選択だ。ハイエンドやミッドレンジのGPUは、ダイ(半導体本体)が大きく、消費電力も大きい。そのため、CPUへの統合化は難しい。 また、メモリの制約も大きい。ビデオカード上では、メモリインターフェイス幅も広く確保することが可能で、広帯域のGDDR3/4メモリを採用することもできる。しかし、PCメインメモリではスタンダードなDDR2/3を採用しなければならず、4層基板の通常のマザーボードで、DIMMソケットを使うことになる。メモリインターフェイス幅は、ハイエンドデスクトップやサーバーでは3メモリチャネル以上も可能だが、メインストリームデスクトップPCではデュアルメモリチャネルが経済上の限界となる。 メモリ帯域がPCメインメモリに制約されるため、GPUコアを統合した場合も、パフォーマンスには制約が課される。メインストリームのグラフィックス統合チップセットクラスの性能は可能だが、ディスクリートGPU並の性能を統合することはできない。GPUのプロセッシング性能に見合ったメモリ帯域が確保されなければ、性能を発揮できないからだ。 ●方向性が明確ではないIntelのGPU統合 Intelは、Nehalem世代のクライアント向けCPUを、全てGPU統合型に移行させるわけではない。 「Nehalemでは複数の製品を提供するだろうと、我々は予想している。あるものはグラフィックスを統合し、あるものはしないだろう。我々は、どの市場にどの製品を選択するかを決めるOEMと密接に作業している。それぞれの、コスト、消費電力、フォームファクタのトレードオフがある。(グラフィックスを統合すれば)余計なスペース、電力、コストがかかるからだ」とSmith氏は語る。 つまり、GPUを統合するバージョンと統合していないバージョンが併存する状況を想定している。こうしたIntelの方向性は、GPUコアの統合についての、Intelの姿勢を示唆している。
AMDもCPUにGPUコアを統合するFUSIONプロセッサについては、まずモバイルCPUから投入する。一気に全てのクライアントCPUを、FUSIONタイプに置き換えるわけではない。しかし、AMDはGPUコアを密接に統合することを考えており、最終的には命令セットの統合も視野に入れている。将来的にはGPUコアをスタンダードなフィーチャにしようという意図が感じられる。また、GPUコアをより汎用的なプロセッシングに利用することを、FUSIONの重要な目的としている。つまり、FUSION化はモバイルから始めるが、将来的にはクライアントCPUの普遍的なフィーチャにしようという意図が感じられる。 それに対して、Intelからはそうした方向性はまだ聞こえてこない。GPU統合にしても、どれだけ密接に結合させるかは、明確になっていない。また、GPUコアの利用のビジョンは示したことがない。目標がはっきりしないまま、GPUコアの統合だけが語られている。このあたりからは、IntelのGPU統合が、明確なビジョンのもとで積極的に進められているというより、AMDのFUSIONプロセッサに対抗する色彩が強いことが推測できる。 ●GPUは別ダイかオンダイでの統合なのか NehalemでのGPUコア統合のポイントの1つは、GPUコアをオンダイ(半導体上で統合)にするのか、それとも別ダイで提供するのか。Intelは、これについて明言しない。 「我々のテクノロジポートフォリオには、どちらの能力もある。ダイコンフィギュレーションとマルチチップモジュールのうち、理にかなう方となるだろう。詳細については、示すことはできない」(Smith氏) 現状ではNehalemのGPUコアがワンチップに統合されているのかどうかはわからない。しかし、ある業界関係者は「Intelが最初に提供するGPU統合CPUは、2ダイの『なんちゃって』統合となる。ダイに統合するのはその先だ」と言う。 CSI世代になると、マルチダイの統合が容易になる。パッケージ内でCSIを使ったポイントツーポイント接続が可能になるからだ。Nehalemの複数のCSIリンクのうち、1リンクをチップセットとの接続に使い、1リンクをパッケージ内でのGPU接続に使えば、GPU統合型が可能になる。パラレルFSBよりCSIの方が配線は容易だ。 また、CSIを使う場合、CPUのパッケージとソケット自体は、非GPU統合型CPUとGPU統合型CPUで共通化することができる。どちらも、CPUパッケージから外へ出るバスはCSIになるため、互換を取りやすい。そのため、ソケットのバリエーションを増やさなくて済むという利点がある。 従来型パラレルFSBの場合、GPUコアを統合した場合にソケット互換性を保つことができない。CPUパッケージから外に出すバスは、従来型ディスクリートCPUがパラレルバス、GPU統合型CPUがチップセット間インターフェイスとなるからだ。そのため、ソケット種類を増やすことになり、Intelにとってプラットフォームの調整がより難しくなる。 ●CSIベースGPUと符合するNehalemのGPUコア もし、IntelがGPUコアを別ダイで製造し、CSIで接続するとしたら、ここ2年ほどPC業界関係者の間で噂されているIntelのディスクリートグラフィックスの正体も見えてくる。統合用のCSIベースのGPUダイをCPUパッケージの外に出せば、それがそのままディスクリートGPUチップになるからだ。もっと正確に言えば、CSIベースになるとディスクリートGPUとGPU統合チップセットの違いは明確ではなくなる。 CSIベースのGPUチップセットに、メモリコントローラも搭載すれば、ローカルのビデオバッファをGPU側に接続することも可能になる。これはAMDプラットフォームと同じだ。PCI Expressを実装しておけば、PCI Expressで接続することも可能になる。CSIのPHY自体はPCI Expressとかなり近いと言われるため、互換性を持たせることも可能かもしれない。
実際のストーリーとしては、GPU統合CPUは、CSIベースのGPU(チップセット)の後から生まれたアイデアかもしれない。もし、NehalemのGPUコアが別ダイだとすれば、それは、CSIベースGPUとして開発していたチップを、CPUパッケージ内に納めるプランだと考えた方が合理的だ。 その場合、Nehalem自体は45nmプロセスだが、CSIベースGPUは1世代ずれた65nmプロセスで製造される可能性が高い。90nmで製造されているIntelのグラフィックス統合チップセットのGPUコアよりは、規模が大きく性能は高くなるだろう。 ただし、2チップソリューションは、コストと消費電力と性能では不利となる。チップ間接続のCSIの消費電力が増える上に、GPUコアはCSI経由でのメモリアクセスとなるためメモリレイテンシは増える。GPUはレイテンシトレラントな設計であるため、性能に対する影響は小さいが、完全な統合化には一歩劣る。 クアッドコアCPUやオクタコアCPUの場合、比較的高価格な製品となるため、2ダイソリューションにしてもコストはそれほど問題にならない。しかし、GPU統合CPUは、ターゲットとするのがメインストリームから下の製品ラインとなる。そのため、2ダイソリューションのコストは影響が大きい。 そのため、IntelはNehalemではGPUコアをダイに統合する方向に進むと推定される。もし、最初は別ダイだったとしてても、近い将来にはダイ上の統合を目指すと考えられる。Nehalemの次の「Gesher(ゲッシャ)」世代は、GPUコアを最初から計画していると推測される。 Intelにとって有利なのは、これまでもIntelはチップセットに統合していたGPUコアを自社Fabで製造していたことだ。そのため、ファウンドリに製造委託していた旧ATIのGPUコアを統合するAMDより統合は有利となる。 □関連記事 (2007年4月4日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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