富士通から発売されたFMV-TEO(テオ)は、富士通のコンシューマ向けデスクトップPCとしては久々にDESKPOWERブランドではない新シリーズで、最近めざましい勢いで普及が進んでいるHDTVと組み合わせて利用することを前提としたリビング向けPCだ。 HDTVと組み合わせて利用するために、HDMI端子が標準で用意されているほか、デジタル放送チューナを内蔵してハイビジョンレコーダとしても利用でき、かつリモコンでネットにアクセスしてネット上のコンテンツが楽しめるなど、新しい使い方を提案する製品となっている。 今回は、そんなFMV-TEOの店頭向けモデル「FMVTE50UD」を借用したので、それを利用して実際の使い勝手などをレビューしていきたい。 ●HDMIとDVIのどちらもHDCPによるセキュアなディスプレイ出力に対応 今回取り上げるFMV-TEO(FMVTE50UD、以下本製品)のコンセプトは、PC用のディスプレイと接続するのではなく、家庭のリビングにあるような大画面で、ハイビジョンに対応したHDTVに接続して利用するPCというものだ。このため、ディスプレイ接続端子には、PC用のDVI-I(29ピン)と並び、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)端子が用意されている。HDMIは、ハイビジョン出力に対応したAV機器とHDTVを接続するための規格で、HDMIケーブルで2つのデバイスを接続することでハイビジョンの映像や音声をセキュアにTVなどの映像機器に出力することが可能になる。 HDMIは規格的にはDVIの映像信号にオーディオ信号を付加した形になっており、映像と音声の信号を両方送ることができる。つまり、TVとの接続はHDMIケーブル1本ですんでしまうのだ。このため、市販されているHDMI-DVI変換ケーブルを利用すると、HDMI端子からの出力をPC用のHDCP対応DVI-D端子を備えたディスプレイで利用することができる。ただ、なお、本製品にはDVI-I端子も標準で用意されているので、PC用のディスプレイを利用する場合には、そちらを利用するといいだろう。 HDMIにはHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)と呼ばれるコンテンツ出力制御の仕組みも標準で組み込まれており、PCから日本のデジタル放送のようなコンテンツ保護の仕組みが必要な映像を出力する場合でも、問題なく利用できる。なお、DVI-I端子のデジタル出力の方もHDCPに対応しており、DVI、HDMIどちらを利用してもHDCPに対応したディスプレイにデジタル放送などのHDCPを必要とするデジタルコンテンツを出力可能になっている。 ●GPUにはチップセット統合型のAMD Radeon Xpress 1250 for Intelを採用 HDMI端子を採用したPCはこれまでもいくつかあったが、HDMIとDVIの両方の出力でHDCPをサポートしている製品というのはあまり例がない。その背景には、HDCPの実装方式が影響している。 これまでのHDMI、ないしはHDCP対応DVIを実装したPCでは、IntelまたははNVIDIAのGPUを採用し、SiliconImageなどが提供する外付けのTMDSトランスミッタを搭載し、その外付けチップにHDCPによるコンテンツ保護に必要な暗号化鍵を封入するという仕組みを採っている。最近のGPUのディスプレイ出力は2ポート搭載しているものが多いが、外付けのTMDSトランスミッタを利用する場合、2系統出力のうちどちらかだけがHDCP対応となっていた。
しかし、本製品が採用しているチップセット内蔵GPU「AMD Radeon Xpress 1250」(開発コードネームRS600M)なら、それが可能になる。このチップセットに内蔵されているGPUはRadeon X700相当で、なおかつHDCPに必要な暗号化鍵がGPUに内蔵されているのだ。このため、2系統のディスプレイ出力でどちらもHDCPに対応させることが可能だ。 また、AMD Radeon Xpress 1250 for Intelは、ユニークなことにHDオーディオのオーディオコントローラがノースブリッジ側に内蔵されている。このため、ディスプレイも、オーディオもノースブリッジからコントロールすることが容易になっており、HDMIのようにオーディオとビデオの同期をとらなければならない場合でも安定して利用できるという特徴を備えている。 なお、AMD Radeon Xpress 1250 for Intelの内蔵GPUコアは、4パイプのピクセルシェーダエンジン(シェーダモデル2対応)を備えて(バーテックスシェーダはソフトウェアにより実現)いるほか、AMD(旧ATI)の動画高画質化エンジン「Avivo」にも対応しており、従来製品よりも動画を高画質で再生できる。 □関連記事 ●AV系、PC系、どちらの映像フォーマットも利用可能 本製品では、映像フォーマットに関しては以下のようなモードをサポートしている。 AV系フォーマット 1080i、1080p(1,920×1,080ドット、1,776×1,000ドット)*HDMI端子利用時 など、これらに関してはあくまでスペックで動作保証されているという話で、実際にはこれ以外のモードでも利用することができる。例えば、筆者が手持ちのWUXGA(1,920×1,200ドット)の液晶に接続してみたところ、1,920×1,200ドット、1,280×768ドットなどのスペック上には書かれていない解像度でも利用することができた。もちろんメーカー保証はされないのだが、そうした解像度のディスプレイを持っているユーザーでも利用できるのはうれしいところだ。 本製品では、他のHDMI端子搭載PCと同じように、PC向けの解像度だけでなく、HDMIを利用した場合には1080iと1080pも利用することができる。PCの解像度で言えば1,920×1,080ドットになるのだが、この解像度にしている場合にはTV側がオーバースキャン表示(映像の四隅がディスプレイの枠をはみ出して表示すること)に設定されているため、Windowsのスタートボタンなどが枠からはみ出して表示されてしまう。そうした時のために、1,776×1,000ドットというやや小さな解像度も1080i/1080p向けに設定が用意されている。 ただ、1080i/1080pに設定した場合、フルHD(1,920×1,080ドット)ではない液晶パネルやプラズマパネルを利用しているHDTVの場合、本来の解像度(多くは1,360×768ドット)に比べて縮小されて表示されることになるので、チラツキがかなりに気になる。これは製品のせいというよりは、パネル側の制限だが、正直言ってWebブラウザなどで文字を見るのにはあまり適しているとは言い難い(映像は問題ないのだが……)。そうしたユーザーのために、720p(1,280×720ドット)モードも保証の対象外だが用意されている。そうした意味では、本製品を利用したいのであれば、できればフルHDのパネルを採用したHDTVがほしいところだ。なお、縦方向の解像度が720ドットを切ると、デジタル放送受信ソフト「DigitalTVbox」が起動できないので、それ以上の解像度で利用したい。 また、HDMI入力やDVI入力を備えたHDTVには、PCモードと呼ばれるPCの映像フォーマットを入力できる設定が用意されていることが多く、これを利用するとドットバイドット(Dot by Dot)と呼ばれるPC側の出力とパネルのネイティブ解像度を一致して表示させることができる。こうしたモードで利用すると、ドットが一致しないAV系の映像フォーマット(1080i/1080p/720p)を利用する場合に比べて圧倒的に美しく出力できるので、可能ならそうした設定で利用した方がよいだろう。 また、パナソニック製のビエラリンク対応HDTVに接続した場合、本製品のリモコンを利用して本製品の電源だけでなく同時にTVの電源も入れることが可能になる。こうした機能を利用することにより、本製品のリモコンでTVと本製品を1つの製品のように操作することが可能になり、使い勝手がよいことは特筆に値する。ビエラリンク対応TVを持っているユーザーには見逃せない機能だ。
●思い切ってデジタルチューナだけを内蔵 本製品は、こうした製品としてはユニークなことに、デジタル放送のチューナのみを内蔵している。これまでこうした製品は、アナログとデジタルの両方のチューナを内蔵していただけに、思い切った仕様だといえるだろう。 ただ、アナログのチューナは市販品を購入すれば追加できるのに対して、デジタルの方は現状では追加するのは非常に難しい(ソニーのVGF-DT1を購入すれば可能だが……現時点では他社製PCでのWindows Vistaの動作は保証されていない)ことを考えると、これはこれでありだろう。 なお、本製品はOSにVista Home Premiumを採用しているため、Windows Media Centerが標準で搭載されており、Windows Media Centerに対応した市販のUSB外付けチューナを利用することで、アナログTVの受信/録画機能を追加可能だ。 本製品に採用されているデジタルチューナはピクセラの「PIX-DT011」で、地上デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルのいわゆる“デジタル3波”に対応している。 デジタル放送の視聴/録画/再生にはDigitalTVboxを利用する。DigitalTVboxは、富士通のPCにはWindows XP時代から採用されている安定したソフトウェアで、デジタル放送の視聴、録画、再生などを行なうことができる。ただ、1つ気になったのは、DigitalTVboxは映像の表示にオーバーレイを利用するので、DigitalTVboxを起動するとユーザーインターフェイスがWindows AeroからVista ベーシックへと変更されてしまうのだ。もっとも、DigitalTVboxを利用している時には、全画面での利用が前提になるため、あまり気にしなくていいだろう。 録画したコンテンツは、内蔵の光学ドライブを利用してCPRMに対応したDVD-RAMへムーブ(ただしSD形式に変換される)できるほか、ダビング形式と呼ばれる富士通の独自形式で録画した番組はHD形式でHDDに残したまま映像をSD形式に変換し、CPRMに対応したDVD-RAMへムーブ可能になっている。
●コンテンツの再生はMyMediaとリモコン用Webブラウザを利用 本製品のメディア再生は、基本的には富士通オリジナルの10フィートUIである「MyMedia」を利用する。本製品はWindows Media Centerを10フィートUIとして利用できるが、Windows Media CenterにはDLNAガイドラインに準拠したホームネットワークの機能などは搭載されておらず、そのままでは家庭内のネットワーク上に接続された他のPCのコンテンツなどを楽しむことができない。 そこで、本製品ではWindows Media Centerに実装されているローカルコンテンツを楽しむ機能、TV機能、ホームネットワーク機能を1つにして、MyMediaとして実装しているのだ。このため、Windows Media Centerは、ネットワークでのコンテンツサービスを楽しむ、メディアオンライン用として利用することになるだろう。 ただし、デジタルTVを楽しむ機能は、MyMediaにメニューとして用意されているものの、選択すると実際にはDigitalTVboxが起動されるという仕組みになっている。かつ、DigitalTVboxは、MyMediaと操作体系が異なっており、両方のユーザーインターフェイスに慣れないといけないという意味ではやや課題が残る。ただ、これはソフトウェアの問題なので、できれば近い将来に解決を期待したいところだ。 もう1つユニークな機能としては、“リモコンでインターネット”という機能を紹介しておきたい。これは、リモコンの矢印キーをマウスの替わりとして、リモコン操作に対応したLunascape製のWebブラウザを操作できる機能だ。テンキーを利用した文字入力もできるが、基本的にはすべての操作がリモコンで行なえる。本製品はタッチパッド付きのワイヤレスキーボードが用意されており、そちらを利用しても操作可能だが、リモコンだけですべてが済むというのは手軽でよい。 標準の機能としてGyaoとNifty動画が登録されており、リモコンを利用してこれらの動画サービスを楽しむことができる。こうした動画サービスをリビングで楽しむことができるのは、便利で新しいPCの使い方ということができるだろう。
●ノートPC向けのCPUを採用することでコンパクトな筐体を実現 むろんハードウェアの基本スペックに関しても十分なものが確保されている。CPUはIntelのCor e2 Duo T5500(1.66GHz)が採用されている。Core 2 Duo T5500は、開発コードネームMerom(メロム)で知られる、モバイル向けとして設計されたCPUで、35Wと消費電力が低く抑えられていることが特徴だ。T5500はCore2 Duoの中でもメインストリーム向けに位置付けられており、L2キャッシュは2MBと上位SKUの半分となっているが、処理能力は従来のPentium Dなどに比べて高いものを持っている。 CPUにモバイル向けのCore2 Duoを採用したことで、本製品は筐体をコンパクトに抑えることに成功している。サイズとしては340×362.5×65mm(幅×奥行き×高さ)となっており、奥行きは一般的なAVラックの420mmよりも短くなっているし、幅も340mmで高さも65mmと一般的なAV機器と比べても小柄なので、十分余裕でAVラックに収めて利用することが可能だ。 メインメモリは標準で1GBで、2つのメモリスロットに512MB×2枚という構成になっている。メモリは一般的な240ピンのDDR2メモリが利用されており、標準的なPC2-5300(DDR2-667)のメモリを利用して1GB×2という構成に交換すればメモリ容量を増やすことが可能だ。 なお、すでに述べたように、本製品はチップセット内蔵GPUを利用しているので、メインメモリの一部がビデオメモリに割り当てられる(標準では128MB)。 HDDは400GBで、レビューに利用した個体ではSeagateのST3400820ASが採用されていた。本製品ではデジタルチューナのみとなっているので、HDDの容量は気になるところだが、400GBあれば十分だといえるだろう。光学ドライブは±R DL対応DVDスーパーマルチドライブ(パナソニック UJ-85JS)で、DVD±R DLが最大4倍速、DVD±RWが最大8倍速、DVD+RWが最大8倍速、DVD-RWが最大6倍速、DVD-RAMが最大5倍速、CD-Rが最大24倍速、CD-RWが最大10倍速での書き込みが可能になっている。
●Windows Vista Home Premium搭載PCとしては標準的なパフォーマンス 最後に本製品の性能に関して触れておこう。Windows Vistaで利用できるベンチマークということで、FutureMarkの3DMark06(V1.1.0)、PCMark05(V.1.2.0)の2つを実行し、さらにVista標準のベンチマークといえるVistaエクスペリエンスインデックスのスコアについてもチェックしたので、あわせて掲載しておく。また、今回は比較対象として、前回の記事で紹介した日立製作所のPrius One type W(AW37W5T)についても掲載しておく。 本製品でPCMark05を実行したところ、1つの項目がエラーになってしまい、スコアを出すことができなかった。そのため、今回は3DMark06の結果とVistaエクスペリエンスインデックスとなる。3DMark06の結果に関しては、最新のシェーダモデル3.0に対応したようなGPUなどにはもちろん劣るものの、統合型チップセットとしてはそれなりの結果が出ているといえるだろう。3DMark06は、統合型チップセットには負荷の重いテストで、統合型チップセットによっては完走しないことも多いので、それを考えると十分満足できる結果といえるだろう。 Vistaエクスペリエンスインデックスの結果に関しては、総合結果はPrius One type Wと同じ結果になっている。これはどちらも統合型GPUを採用しているためで、ゲーム用グラフィックスの項目が最低スコアになっていることがわかるだろう。CPUなどがややPrius One type Wに比べてクロックが低いため、そのほかの項目もやや低めな結果になっているが、それでもWindows Vista Home Premium搭載PCとしては標準的な性能を備えているといえるだろう。
【表】ベンチマークデータ
●TV放送の録画や再生だけじゃ満足できない欲張りなユーザーにお奨め 以上のように、本製品はノートPC向けCPUを採用したことでAVラックにも入るコンパクトな筐体を実現し、HDMI端子の採用によりHDTVと気軽に接続して利用できるようになったことで、リビングに設置してTVと組み合わせて活用することができるようになっている。 さらに、デジタル放送のチューナを内蔵していることで、地上波デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルのいわゆるデジタル3波放送を視聴、録画でき、内蔵されているDVDスーパーマルチドライブを利用することで、CPRMに対応したDVD-RAMへの録画番組のムーブも可能になっている。また、MyMediaを利用すると、ローカルだけでなくホームネットワーク上のコンテンツも自由に再生が可能になり、さらにリモコンで操作可能なWebブラウザにより、リモコンを利用してGyaoのようなインターネット上の配信サービスを利用することが可能になる。 このように、単に録画や視聴といったTVやHDDレコーダなどでも実現できるようなことには満足できず、ホームネットワークやインターネット上のさまざまなコンテンツを家庭のTVでも手軽に楽しみたいという欲張りなユーザーや、リビングでもPCを使いたいというユーザーなどにお奨めしたい製品だ。 □富士通のホームページ (2007年3月12日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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