多和田新也のニューアイテム診断室

GeForce 8800シリーズのバリエーション製品を試す
~オーバークロック版とビデオメモリ削減版




 2006年11月に発表されたNVIDIAのGeForce 8800シリーズ。唯一の統合シェーダ採用GPUであるというだけでなく、パフォーマンス面でも現状で頭一つ抜き出ている点に異論はないと思う。発表当初の製品ラインナップはGeForce 8800 GTX/GTSの2種類のみであったが、現在では、このGeForce 8800シリーズにいくつかのバリエーションモデルが追加されている。1つが上位モデルといえるGeForce 8800 GTXのオーバークロック版で、もう1つが最廉価モデルとなるGeForce 8800 GTSの320MB版だ。ここでは、それらのパフォーマンスを見てみたい。

●基本アーキテクチャは変わらない2製品

 ここで試用する2つのビデオカードは、いずれもXFX製のものだ。まず、GeForce 8800 GTXのオーバークロック(OC)版となるのが、「XFX GEFORCE 8800 GTX 768MB XXX」である(写真1)。この製品はすでに2006年末に発売されており、すでに入手されている人もいるだろう。

 GeForce 8800シリーズのレビューの写真と比べても分かる通り、クーラーにメーカーロゴが入った化粧パネルを使っている以外、外観は変わっていない。また、基本仕様にも違いはなく、コアクロックとメモリクロックが変更されているだけである。

 各クロックはコアクロックが定格575MHzに対して630MHz。メモリクロックが定格1.8GHz(900MHz DDR)に対して、2GHz(1,000MHz DDR)となっており、どちらも1割近いクロックアップがなされていることになる(画面1、2)

【写真1】GeForce 8800 GTXのオーバークロック製品となる「XFX GEFORCE 8800 GTX 768MB XXX」。製品の外観や、クロック以外の仕様はノーマル版と変わりない 【画面1】XFX GEFORCE 8800 GTX 768MB XXXの動作クロック。コア630MHz、メモリ2GHz(1000MHz DDR)となっている 【画面2】こちらはGeForce 8800 GTXのリファレンスボードの動作クロック。ほぼ定格通りの、コア576MHz、メモリ1.8GHz(900MHz DDR)

 もう1製品は、今月(2月)の発売が予定されている「XFX GEFORCE 8800 GTS 320MB XXX」である(写真2)。GeForce 8800 GTSのビデオメモリは通常640MBとなるが、本製品は、それを320MBに削減したものとなる。

 そのメモリであるが、GeForce 8800 GTSは64bit×5本で計320bit幅のメモリインターフェイスとなる。そのため、通常版では512Mbitの容量を持つ、32bitインターフェイスのメモリチップ10枚を利用して640MBとなっていた。320MB版も、このメモリインターフェイスの仕様自体は変わらないため、やはり10枚のメモリチップが利用されており、256Mbit×10枚で320MBが実現されている(写真3)。

【写真2】GeForce 8800 GTSのビデオメモリ320MB版となる「XFX GEFORCE 8800 GTS 320MB XXX」 【写真3】写真上部右側の2パターンが空いており、メモリチップは10枚が使われていることを確認できる

 なお、この製品はオーバークロック版の製品となっている(画面3)。ベンチマークテストでは、オーバークロック状態に加え、nTuneを利用して動作クロックを定格に設定した状態のテスト結果も合わせて紹介することにしたい(画面4、5)。

【画面3】XFX GEFORCE 8800 GTS 320MB XXXの動作クロックは、コア580MHz、メモリ1.8GHz(900MHz DDR) 【画面4】テストではコア500MHz、メモリ1.6GHz(800MHz)の定格動作も検証する 【画面5】こちらは640MB版の「XFX GEFORCE 8800 GTS 640MB」の動作クロック。定格動作からわずかにずれており、コア513MHz、メモリ約1.58GHz(792MHz)となっている

●仕様の違いによるパフォーマンスの違いをチェック

 それでは、ベンチマークテストの結果を紹介したい。テストに利用した環境は表の通り。ドライバは全製品でForceWare 92.72を利用している。グラフの凡例には各製品の動作クロックも記したが、先述の通りGeForce 8800 GTSの320MB版はオーバークロックと定格の2パターンをテストしている。

【表】テスト環境
VGA Driver ForceWare 97.92
マザーボード Intel D975XBX2(Intel 975X)
CPU Core 2 Extreme X6800
メモリ PC2-6400 DDR2 SDRAM 512MB×2(5-5-5-18)
HDD HGST Deskstar T7K250(HDT722525DLA380)
OS Windows XP Professional(ServicePack 2/DirectX 9.0c)

 まずはFutureMarkの3DMarkシリーズの結果から見ていこう。「3DMark06」をグラフ1~4、「3DMark05」をグラフ5、「3DMark03」をグラフ6に示している。

 GeForce 8800 GTXのOC版の効果は、大きいところで5%前後、小さいところで2%前後といったところ。負荷の大きい高解像度条件で差が大きくなる傾向にあるのは納得できるが、クロックがコア/メモリともに約1割アップしているのに対して、そのスコア上昇率は低い印象を受ける。

 GeForce 8800 GTSの320MBであるが、こちらは負荷が小さいと640MB版とほとんど差がないが、負荷が高まるとビデオメモリの少なさがスコアにも影響を及ぼす結果だ。特に3DMark06のHDR/SM3.0テストでは、負荷が高まったときに320MB版をオーバークロックした状態でも、640MB版のノーマルクロックと同等程度のスコアにまで落ち込んでおり、クオリティにこだわるユーザーには厳しい製品といえるかも知れない。

 なお、3DMark06のFeature Testsの結果でGeForce 8800 GTSの320MBで、ノーマルクロックよりもオーバークロックのほうがスコア低い箇所が散見される。この結果だけ見ると、ひょっとしてStreaming Processor(SP)のクロックがGPUのコアクロックと同期していないのではないか、という可能性も浮かぶのだが、Feature Tests以外のテストにおけるGeForce 8800 GTS 320MB版の2つの結果を見れば、その可能性はかなり低いと思われる。ビデオメモリ容量やCPU処理の負荷、メインメモリの帯域幅などが影響していると考えるほうが妥当だ。GeForce 8800 GTXのOC版のスコアが伸び悩んでいるのも、CPU処理でボトルネックが発生して、ビデオカード側の能力が十分に引き出されていないのだろう。

【グラフ1】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ2】3DMark06 Build 1.1.0( SM2.0)
【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0( HDR/SM3.0)
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0( Feature Tests)
【グラフ5】3DMark05 Build 1.3.0
【グラフ6】3DMark03 Build 3.6.0

 続いては、実際のゲームを利用したベンチマークの結果を紹介したい。テストは「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ7、8)、「Call of Duty 2」(グラフ9)、「F.E.A.R.」(グラフ10、11)となる。

 GeForce 8800 GTXのOC版については、こちらの結果の傾向も3DMarkシリーズと大きな違いはない。F.E.A.R.のSoftShadows有効時に7%近い上昇を見せる場面があるものの、全体でみれば1~5%程度のパフォーマンス向上に留まっている。

 GeForce 8800 GTSの320MB版は、アプリケーションによって傾向が異なる。Splinter Cell Chaos Theoryでは、全テスト条件において極端な違いは発生しないものの、描画負荷が高まるにつれ、640MBと比べて若干ながらパフォーマンスの低下が大きいという傾向になっている。

 最も極端な結果が出たのがCall Of Duty 2で、このテストではメモリ容量の差がデメリットとして明確に表れた。負荷が高いところで3分の1以下というフレームレートに留まるほどであるのももちろん、低負荷でも640MBより明らかに劣っているのが特徴的な結果だ。

 F.E.A.R.も高負荷条件では640MBに劣る部分がはっきり表れている。しかしながら、負荷がそれほど大きくなければ、そうした傾向は見せず、ほぼ同等のスコアに収まる。3DMarkシリーズの結果などで見えた傾向が、より顕著に出たものと思うと、この結果がGeForce 8800 GTS 320MB版の特性を示す良い材料となりそうだ。

【グラフ7】Splinter Cell Chaos Theory Patch 1.05(HDR無効)
【グラフ8】Splinter Cell Chaos Theory Patch 1.05(HDR有効)
【グラフ9】Call of Duty 2 Patch v1.3
【グラフ10】F.E.A.R. Patch 1.08(SoftShadows無効)
【グラフ11】F.E.A.R. Patch 1.08(SoftShadows有効)

 最後に消費電力のテストである(グラフ12)。GeForce 8800 GTXのOC版は、ノーマル版と比較して、アイドル時とピーク時ともに約9%の消費電力増となった。パフォーマンスの増加量に比べると消費電力はクロックアップ率に近い増加を示しているわけで、あまり良い印象を持てる結果とはいえない。

 一方のGeForce 8800 GTSについてだが、まず、GeForce 8800 GTS 320MB版を定格動作させたときのアイドル時の消費電力の高さはファンの影響と思われる。この条件はnTuneを利用して手動でクロックを下げた状態のものであることは先述したが、この影響でForceWareのファンコントロールの挙動が変わってしまい、回転数がしっかり下がっていないようなのだ(設定は自動ファン制御を有効にしている)。よって、アイドル状態でファンにかかる消費電力が増し、トータルの消費電力にも影響が発生しているのである。

 オーバークロック状態では、GPUやメモリにかかる消費電力も通常より増すことになるので、比較検討の参考になるのはGeForce 8800 GTS 640MBと、ノーマルクロックの320MB版の両ピーク時のみということになる。

【グラフ12】各ビデオカード使用時の消費電力

 これにしても、先の画面で示した通り動作クロックにはわずかな差があるため、正確な比較とはいえないのだが、その差は3W。誤差と言っても差し支えない程度である。そもそもメモリチップの枚数も変わっていないわけで、両製品に消費電力の差はないと考えてよさそうである。

●パンチは弱いがバリエーション増加は歓迎

 まず、GeForce 8800 GTXのOC版についてだが、クロックと消費電力の上がり具合に対して、パフォーマンスの増加がそれほど大きくないのは事実だ。だが、そのほかの仕様変更を行なわずに、単純にクロックアップしただけなので、安定したパフォーマンス増加が見込める。ノーマル版との価格差も4,000~5,000円前後。ノーマル版が8万円前後の価格帯であることを考えれば、極端な価格アップとはいえないだろう。このクラスのビデオカードを求めるユーザーならば、オーバークロック版の方が魅力は大きいと思う。

 一方のGeForce 8800 GTSの320MB版であるが、こちらの価格は4万円台が見込まれている。640MB版は6万円を超えており、1万円以上の価格ダウンが期待できる。

 Call of Duty 2のように、解像度に関係なくパフォーマンスダウンを見せるアプリケーションもあるので油断はできないが、今回のテスト結果から判断すると、1,600×1,200ドット以上の解像度で、なおかつフィルタをかけた状態でなければ、顕著なパフォーマンスダウンを見せないアプリケーションの方が多いのは間違いないだろう。

 こうした高い負荷がかかる条件を当たり前に利用しているのは、CrossFireやSLIといったマルチGPU技術を利用している人か、GeForce 8800シリーズの既存ユーザーだけだと思わる。それ以外のビデオカードからの乗り換え先として、640MB版よりも1万円以上も安価に入手できる本製品は非常に魅力的だ。

 GeForce 8シリーズのメインストリーム以下の製品がなかなか登場せず、もどかしさがあるのも事実だが、今回の320MB版というバリエーションが用意されたことは歓迎したい。

□関連記事
【2006年12月15日】XFX、初のOC版GeForce 8800 GTX/GTSビデオカード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1215/xfx.htm
【2006年11月9日】【多和田】DirectX 10世代GPU「NVIDIA GeForce 8800」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1109/tawada89.htm

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(2007年2月13日)

[Text by 多和田新也]


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