山田祥平のRe:config.sys

VistaのWPFドキュメントが示唆する
書くための道具、読むための道具




 Widnows VistaがVistaたるゆえんの1つは、このOSに標準搭載されるWPFと呼ばれるコンポーネントにある。もっとも、.NET Framework 3.0は、Windows XPにも提供されるし、コードネームでEverywhereのEをつけ、WPF/Eと呼ばれるコンポーネントがMacintosh用にも提供されるなど、Vistaの証ではなくなってしまっている。だが、今後のアプリケーションソフトの方向性を示唆するという意味では、その動向を無視するわけにはいかない。

●書く道具

 テレビ朝日系の連続テレビドラマ「エラいところに嫁いでしまった!」の主人公、仲間由紀恵扮する山本君子の職業はフリーランスライターだ。彼女は、取材のときには、ノートに手書きでメモをとっているようだが、原稿の執筆はワープロソフトを縦書きモードで使っている。

 ぼくは、彼女と同じ職業だが、原稿を書くのにワープロソフトを使わない。まして縦書きモードも使わない。納品の形態がプレーンテキストファイルをメールで送ればよいということもあり、ワープロソフトは見栄えのする書式設定や印刷が必要な企画書等の場合にしか使わず、普段はもっぱらテキストエディタとして定番の「秀丸」を愛用している。

 もっとも、過去にはワープロを使っていたこともあった。もう、20年以上前の話である。ぼくは、あるプロダクションを通じて、ベストセラーワープロ「ユーカラ」のベンダーである東海クリエイト(現クレオ)から、NECのパソコンPC-100用に「ユーカラ」を発売するにあたって、そのマニュアルのポーティングを頼まれた。その実機として、我が家にPC-100が届き、そこでMS-DOSというオペレーティングシステムの存在を知ったのだ。

 ぼくは、PC-100で「ユーカラ」のβ版を動かしながら、手書きで原稿を起こしていった。作業の合間には、当時先進的だったPC-100をいろいろさわってみたりもした。このパソコンには、最初から、各種のソフトウェアがバンドルされていて、そのうちの1つが、新鋭のソフトウェアベンダー、ジャストシステムによる、マウスを使うGUIを持つ斬新なワープロソフト「JS-WORD」だった。

 その後、このJS-WORDはPC-9800用にも移植され、単品パッケージとして発売されたので、ぼくもけっこうなヘビーユーザーとして利用したものだ。だが、ジャストシステムは、この方向性をいったんリセットし、マルチプランライクなEsc+アルファベットでコマンドを実行するUIを持つ「jX-WORD太郎」という製品を開発、それが「一太郎」となり現在に至っている。ぼくは、そのままその路線に乗り、'87年に一太郎Ver.3が発売された頃には、普段の原稿書きに、一太郎はなくてはならない存在になっていた。

 当時は、メガソフトのMIFESなど、機敏に動くテキストエディタがあったのだが、ぼくはどうしても馴染めず、一太郎Ver.3を使い続けていた。ワープロなので、ページの概念があるが、設定ファイルにパッチを当てて、1,000行ある仮想的な用紙を作り、それで原稿を書いていた。

 その後、Windowを使うようになっても、MS-DOSウィンドウを開いて一太郎Ver.3を使い続けていた。一太郎はVer.4から、ジャストウィンドウと呼ばれる独自のウィンドウシステムを使うようになり、'93年のVer.5でWindows対応を果たしている。Ver.4を使うのをパスしたぼくは、ようやくVer.3から卒業し、秀丸の16bit版をWidnows上で使うようになっていた。だから、一太郎は、Ver.4以降、そのまま使わなくなってしまったが、毎年発表される一太郎の新バージョンは、実に意欲的で発表が楽しみな製品の1つとなっている。もしかしたら、別の用途で一太郎を再び使うようになるかもしれない。

 いずれにしても、一太郎のVer.3を卒業して以来、原稿書きはすべて秀丸だ。だが、キーアサインはかつての一太郎Ver.3と同じにしてある。Aの左隣のCapsLockキーをCtrlキーと入れ替え、いわゆるダイアモンドカーソルを設定している。また、Ctrl+MでEnter、Ctrl+HでBackspaceだ。そして、Ctrl+Kで行頭、Ctrl+Oで行末移動となる。たまに使うMicrosoft Wordでも、このキーアサインは同じにしてある。こうなっていないと、原稿書きの効率はガタ落ちになってしまう。

 ワープロソフトではなくテキストエディタを使うのは、動作がキビキビしているというのが大きな理由だっただろうが、今の環境、Microsoft Wordと秀丸を比べてみても、秀丸が格段に軽いとは思えない。Wordでも、特にストレスを感じることなく原稿を書くことができると思う。でも、ぼくは秀丸を使う。マクロを駆使しているわけでもなければ、行番号が必要なわけでもない。だから、Wordでも何の不便もないのだが、やはり、これは慣れというか、長年使い続けてきた親近感の問題なのだろう。

●読む道具

 書くことばかりに言及してきたが、読む方はどうだろうか。自分で作成することはあまりないが、受け取る文書は圧倒的にWordで作成されたもの、または、PDFが多い。Word文書では本文にMS明朝が使われていることが多いが、それをそのままWordで開くと、フォントのレンダリングが汚くて読みづらいため、編集する必要がない長いドキュメントは、いったんPDFにして読む。

 だが、文書を読むという作業に関しては、この10年で、ブラウザを使うことが圧倒的に多くなった。Vistaの標準ブラウザはInternet Explorer 7だが、デフォルトフォントがMS Pゴシックなので、これをメイリオに変更して使っている。多少、レイアウトが崩れるページもあるが、何よりも、行間が広く、以前よりも圧倒的に読みやすい。

 ブラウザで読むドキュメントは、本当なら、ブラウザのウィンドウサイズに左右されてほしくないものだ。どのようなウィンドウサイズでも、それなりにリーズナブルなレイアウトで表示されてしかるべきである。ところが、現在のWebで、それを望むのは無理だ。所定のページレイアウトを頑固に守ろうとし、結果的に、横スクロールが必要になるなど、ユーザーに苦労を強いているのが実情だ。文字サイズでさえ自由にならない。そうでなければ、リッチなページは作れないという認識がそこにある。

 WPFは、そんなトレンドに、別の方向性を持たせることになるだろう。その利用形態であるWPFドキュメントは今後の電子文書の方向性を探る上で、とても興味深い要素を持っている。

 電子文書といえば、PDFが事実上の標準になって久しい。どんなデバイスでも、まさに電子の紙として、作成者が決めたレイアウトそのもので文書を再現する。だが、WPFドキュメントは、表示されるデバイスやユーザー設定に応じて、柔軟にレイアウトを変化させることができる。つまり、あらかじめ決められた体裁を強いられて文書を読まされるのではなく、ユーザーが自分で文書を読むことができるのだ。

 先日、イーストが青空文庫ビューワー「Xamler01」を公開した。このビューワーを使うと、青空文庫のコンテンツのようなシンプルなHTMLを、多彩なレイアウトで表示することができる。これがWPFドキュメントだ。

 ウィンドウのサイズが小さいなら1段組、少し幅を広げると2段組になり、もっと広げれば3段組になる。文字のサイズは自在に拡大縮小ができるし、行間だって選べる。ウィンドウ内ではダイナミックにレイアウトが変化し、好みのスタイルで文書を読めるのだ。これは、体験してみないと、その柔軟さはわからないと思う。ぜひ、ダウンロードして試してみてほしい。文字主体のWebページの多くが、こうしたスタイルで提供されるようになったら、未来は少し変わるかもしれない。大げさかもしれないが、ぼくはそう思う。

 驚くべきことに、このプログラムは107KBしかない。WPFでは、XAMLと呼ばれるマークアップ言語が使われているが、Xamler01はHTMLをXAMLに変換し、WPFに投げるだけの仕事をしているわけだ。WPFそのものは、リッチなWebページを表現するためのさまざまな機能を持っているが、青空文庫ビューワーXamler01は、そのうち、フロードキュメントの機能に特化した形で表示を実現していると考えればいいだろう。

 今はまだHTMLにしか対応していないが、ぜひ、Wordのファイルやプレーンテキストファイルにも対応してほしいものだ。今後の進化に期待したい。

●過去のしがらみを捨てた新たな進化に向けて

 文書を書くためにPCを使うが、読むときには、必ずプリントするというユーザーは少なくない。これだけPCがコモディティ化したにもかかわらず、文書を読むために特化したソフトウェアは、なぜ、こんなにも貧しいのだろう。リーダーとしてはアドビリーダーがあるが、PDFがオリジナルのレイアウトを各種のデバイスで再現することを第一義に置いている以上は、リーダーというよりはビューワーだ。ただ、PDFもWPFドキュメント同様に、もっと柔軟な方向に進化していくだろう。

 いずれにしても、今、Webデザイナーの多くは、ページのデザインにあたって、その名の通り、紙のページの発想から抜けきることができていない。仮想的な紙の上で絵が動き、音が出て、インタラクティブになることは、とても重要なことだが、文章で何かを伝えるためのページということについて、もう少し、深い思慮を持って考えてみてほしいと思う。

 PCのディスプレイが紙を目指していては、紙に追いつくことはできても、紙を超えることはできない。紙よりも、ずっと便利なんだと思わせるためには、もっと極端な発想の転換が必要だ。そのためにも書くための道具、読むための道具が、新たな進化に向けて再構築されなければなるまい。

□青空文庫ビューワー「Xamler01」
http://est.jp/09/index.shtml
□関連記事
【2006年11月22日】マイクロソフト、Vistaの数々の新機能を総括
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1122/ms.htm
□Impress Watch Windows Vista特集サイト
http://www.watch.impress.co.jp/headline/vista/

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(2007年2月9日)

[Reported by 山田祥平]


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