山田祥平のRe:config.sys

Windows VistaというOSの領分




 遠い遠い昔、PCがMS-DOSというオペレーティングシステムで使われていたころ。このOSは3つのバイナリファイルと1つのテキストファイルで機能した。io.sys、msdos.sys、command.comがバイナリ、そして、config.sysがテキストファイルだ。command.comはいわゆるシェルであり、ぼくらは、コマンドと呼ばれる呪文を入力して、MS-DOSに仕事を頼んでいた。

●始まったVista移行へのサポート

 ついにWindows Vistaが発売された。発売日の1月30日は、午前零時の秋葉原にもでかけてみたが、個人的にはWindows XPのときより盛り上がっていたように感じた。

 時差の関係で、発売は日本が世界に先駆けることになったが、日本との時差14時間のニューヨークでは、発売前日にMicrosoftによる出荷記念イベントが開催された。

 冒頭の写真はイベントに連動したデコレーションが施されたタイムズスクエアの様子だ。The Windows Vista Theatreというのが設営され、イベントは1月29日16時に開演したそうだ。つまり、日本では午前零時の発売の騒ぎが落ち着き、電気街がすっかり静まった午前2時ごろにニューヨークでお祭り騒ぎが始まったということになる。イベントに参加し、その様子と写真を送っていただいた山本奈緒美さんに感謝したい。

 過去に発売されたWindows Vista Capable PC用に、対応BIOSやユーティリティ類の配布も、少しずつ始まっている。パナソニックは5世代目のLet'snote用のアップデータをすでに公開したし、レノボ・ジャパンやHPなどは、間に合っていないユーティリティもあるものの、怒濤のようにアップデート情報を公開している。こういう機会で、各社のめんどうみの良さがわかるというものだ。

 なお、日本HPのWebサイトではVista用のドライバがまだ公開されていないように見えるがhp.comの英語のページを開けばちゃんと日本語版のドライバ類が公開されている。レノボ・ジャパンのサポートページは実に立派だ。これは各社見習ってほしい。カンタンにアップグレードができるDVDなどを販売することも重要だが、こうしたサポートもおろそかにしてはいけないと思う。

 ちなみに、2月1日時点でコンシューマーの支持が高いNECも富士通も東芝も、まだ、ドライバなどのモジュールの公開が行なわれていないのは、ちょっと残念だ。

●OS標準のユーティリティで幕の内弁当状態

 冒頭に書いたように、MS-DOSの時代にはたった3つのバイナリファイルでOSが成立していた。シェルに対して入力する呪文はコマンドと呼ばれていたが、他にファイルがいらないものは内部コマンドと呼ばれ、それとは別に外部コマンドと呼ばれるユーティリティが付属していた。たとえば、フロッピーディスクのフォーマットは、内部コマンドではできず、formatユーティリティが外部コマンドとして必要だった。

 つまり、OSとしてのMS-DOSは3つのバイナリと、複数の外部コマンドで構成されていた。外部コマンドの中には、テキストエディタのedlinなど、アプリケーションといってもいいものも含まれている。そのバグで大騒ぎになったのも今は昔の話だ。

 Edlinを常用するようなユーザーは、いるはずもなく、ほぼ例外なく、サードパーティ製のテキストエディタを使っていた。いくらMS-DOSの時代でも、さすがにラインエディタでは機能不足で、オマケ程度にしか考えられていなかったわけだ。驚いたことに、このテキストエディタは、Windows Vistaにも付属し、今もちゃんと起動する。

 Plug and Playという用語が使われるようになったのは、Windows 95の頃からだが、PlayではなくPrayだと揶揄されていたころもあった。つまり、うまくいきますようにと、お祈りしなければならない有様だったわけだ。そのうち、Windowsは、いわゆるインボックスドライバと呼ばれるデータを大量に含むようになり、標準的なデバイスの多くは、本当にPlugするだけで使えるようになった。つまり、OSがデバイスドライバまで、その領分を広げたことになる。

 WindowsというOSが、どこまでをその領分としているのかは判断が難しいが、いわゆるカーネルとデスクトップメタファを実現するシェル、そして、エクスプローラあたりまでがそうなのだろうか。場合によってはInternet ExplorerとWindowsメールくらいは含んでもいいかもしれないし、もっと範囲を広げれば、コントロールパネルに含まれる各種のアプレットはOSであるという定義もできそうだ。

 一方で、スタートメニューのアクセサリ、ゲーム、メンテナンスといった各フォルダには、さまざまなユーティリティ類が入っているし、その他のソフトウェアとして、Windows Defender、Windows DVDメーカー、Windows FAXとスキャン、Windows Media Center、Windows Media Player、Windowsアドレス帳、Windowsカレンダー、Windowsフォトギャラリー、Windowsミーティングスペース、Windowsムービーメーカーなどがある。もちろん、気に入らなければ、これらの多くはサードパーティ製のものに置き換えることができる。

 それでも、OSに最初から入っているということで、機能的に多少物足りなかったとしても、一般的なユーザーは別の製品に新たな出費をしようとは思わないかもしれないし、まして、メーカー製PCであれば、それが優れているかどうかは別として、これらを置き換える別のアプリケーションがプリインストールされているだろう。

●幕の内弁当に、単品のおかずを添える

 OSが多くのソフトウェアをあらかじめ持つようになり、さらに、それが単なるオマケのようだったMS-DOSにおけるedlinとは比較にならないくらい高機能なものになっている。これではソフトウェアベンダーが文句を言いたくもなるというものだ。あまりに高機能なオマケをつけた結果、同領域の製品へのニーズが乏しくなってしまったわけだ。OSの幕の内弁当化の弊害ともいえる結果だ。それでも文書作成がワードパッドやメモ帳で十分かというと、さすがにそういうわけにはいかず、Microsoft Wordは別に調達するし、そもそもスプレッドシートはオマケの中には存在しない。

 個人的には、Vistaに標準添付されるオマケソフトの中では、Windowsフォトギャラリーがもっともレベルが高いと思う。足りない機能は多々あれど、オマケがここまで底上げされれば、サードパーティは、さらに優れた製品を作らざるをえなくなるだろう。それは、ぼくら消費者にとっては歓迎すべきことである。

 ついでにいえば、Microsoftは、MacにOfficeを提供しているのと同様に、Linux用にもOfficeを提供すればいいんじゃないだろうか。放っておいてもWindowsを使い続ける層と、Windowsを避け、他のオープンソースのOSを求める層は明らかに違うが、組織の方針で慣れていないOSと、そこで動くアプリケーションの使用を強要される従業員はたまらない。その教育に要するコストも馬鹿にならないはずで、研修のために従業員1人を1日束縛したら、そのコストでWindows PCが1台買えてしまうかもしれない。

 必要なアプリケーションがちゃんと動けば、OSなんて何でもかまわない。それはある意味で真理だとは思うが、実際にはファイル操作などでシェルを使うし、その背後ではOSが働いている。OSごとにオペレーションの作法がある以上、アプリケーションは、その作法に従わざるをえないし、そうなっていなければかえって使いにくくなる。

 でも、作法の多くはシェルに依存する。OSとシェルが別製品として提供され、自在にサードパーティ製品にすげ替えられるような文化が育っていたなら、世の中はもう少し違っていたかもしれない。実際、Windows Vistaの各エディションの違いは、オマケアプリの違いだけではなく、Media Centerの有無やAeroの有無など、搭載シェルの種類や付加価値でも差別化されている。Microsoftでさえ、すべての人が同じシェルを使う必要はないと認めているということだ。

 Vistaの出荷開始とともに、PCの次の10年が今始まる。整ったのはお膳立てだけだ。そこに料理を並べるのは誰なのだろうか。

□Windows Vista対応情報リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/link/vista.htm
□Impress Watch Windows Vista特集サイト
http://www.watch.impress.co.jp/headline/vista/

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(2007年2月2日)

[Reported by 山田祥平]


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