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2007 International CES
マイケル・デル氏基調講演レポート
~カリスマ経営者が語るDell PCの未来とは

会期:1月8日~11日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention Centerなど



米Dellのマイケル・デル会長

 Dellのマイケル・デル会長といえば、PC業界の伝説とも言えるカリスマ経営者だが、そのデル会長がInternational CESの基調講演に登場した。

 その中でデル会長は「今後は製品だけでなく、サービスや新技術をうまく融合することが重要だ」と述べ、Dellが今年発売する新製品や新しいサービスなどを公開。PCメーカーとしては初めて二酸化炭素の排出に配慮した寄付を、消費者が購入時に選択することができるプログラムなどの導入を発表した。


●伝説のカリスマ経営者は技術の祭典で何を語るのか……

 マイケル・デル氏と言えば、押しも押されぬ米国のカリスマ経営者だ。'84年にDell Computer(現在はDell)を起業し、その後Fortune 500企業のCEOにもっとも若くして仲間入りするなど、今や米国の“Legend”(伝説)となった経営者の1人と言ってよいだろう。

 Dellが現在の世界最大のコンピュータメーカーという地位を不動のモノにしたのは、無駄のない物流システムを構築し、それによりコストを徹底的に切り詰めて顧客にコストパフォーマンスの高い製品を提供する“Dellモデル”とも呼ばれるビジネスモデルを構築してきたからだ。この点で、マイケル・デル氏は非常に優秀な経営者として称えられ、まさに伝説となってきたわけだ。

 しかし、逆に言えば、これまでDellからすごく革新的な製品が登場してきたかと言えば、そうではなかったと思う。確かに、Dellの製品はスタンダードなPCとしては、クオリティが高いのに安価というところに特徴があり、すごく尖った製品というのはあまり見かけたことがないというのが定評であったと思う。つまり、ユーザーは、Dellの製品そのものというよりは、Dellが優れたビジネスモデルにより、クオリティが高いスタンダードなPCを安価に提供してくれるという、そういった部分を評価してDellのPCを購入してきたのだと思う。

 そうした背景があるためか、筆者が記憶する限り、マイケル・デル氏が、次世代の製品はこういうトレンドになるはずだとか、今後10年はこうなるとか、そうしたビジョナリ(ビジョンを提示する人のこと)的な講演などを行なったというのはついぞ聞いたことがない。ところが、2006年の末に公開された、2007 International CESの基調講演者リストを見て、筆者は正直驚きを隠せなかった。業界のビジョナリたちが並ぶリストの中に、マイケル・デル氏の名前が入っていたからだ。

 果たして、デル氏はどのようなビジョンを語り、そしてどのような未来を描いてくれるのか、ぜひそれを聞きたく思い、デル氏の基調講演に参加した。

●通信業界に家庭への光ファイバーの普及を訴える

 デル氏の基調講演は、最初にDellのことをよく表したビデオから始まった。ちなみに、ビデオは米国DellのWebサイトからダウンロード可能であるので、興味がある方はご覧になるといいだろう。マイケル・デルが歴史上のさまざまな困っている人々に製品を届けて、問題を解決していくというアニメで、どこにでも製品を届けるDellのビジネスをパロディにしたものだ。

 そうしたオープニングビデオの後に登場したデル氏はつめかけた観衆に対して「もう新しい製品の開発だけでは駄目だ。サービスやどのように複数の技術を1つにまとめていくのか、そういうところを重要視する必要がある」と問いかけ、Dellが今後展開していく、新しいサービスや技術などについて語った。

 まず、デル氏が指摘したのは、ブロードバンドの重要性が今後さらに高まっていくということだ。「今後インターネットを経由してデジタルコンテンツが次々と家庭にやってくるような時代がくる。そうした時にDSLやCATVの帯域では十分ではない」と述べ、今後光ファイバーの普及が家庭へのデジタルホーム普及の鍵になると指摘した。

 デル氏も指摘したように、すでにアジア、特に日本や韓国、シンガポールなどではかなりの家庭に光ファイバーが入ってきているのに対して、米国ではほとんど進んでおらず、せいぜい大都市の一部でサービスの提供が開始された程度だ。デル氏は「今後ブロードバンドサービスを提供するネットワーク業界にはもっとがんばっていただかないといけない。特に家庭に光ファイバーのサービスを提供し、より広帯域のネットワークを迅速に提供してほしい」と述べ、ネットワーク業界により迅速なFTTH(Fiber To The Home)の普及を呼びかけた。

講演序盤に上演されたビデオは、歴史上の人々にDellのPCが届けられ、問題を解決していくというパロディものだった
デル氏は光ファイバーこそがリアルブロードバンドであると言い、通信業界に対して米国でも迅速に普及させてほしいと訴えた

●PCメーカーとして初めて地球環境に配慮した販売プログラムを開始

 さらに、デル氏は今後同社が提供するサービスに関しても明らかにした。中でも時間が割かれたのが、新しいデータ移行サービスだ。デモには「オースティンパワーズ」という映画にドクターイーブル役で出演したマイク・スマイヤーズ氏が登場し、デル氏と一緒にデモを行なった。Dellの“Dell Date Safe”というソフトウェアを利用して、スマイヤーズ氏のWindows XPベースのPCにあるデスクトップ環境やデータなどを、新しいWindows VistaベースのPCへ移行する様子などが公開された。

 また、デル氏はDellが“Plant a Tree for Me”と呼ばれる環境プログラムを行なうことも併せて明らかにした。DellはThe Conservation FundとCarbonfund.orgという2つのNPO団体と協力し、地球環境へ配慮したプログラムを開始するという。Dellの顧客はPCを購入時にノートPCは2ドル、デスクトップPCは6ドルの寄付を選択できるようになるという(選択しないことも可能)。これらのプログラムは米国で2月から、それらの地域では4月から開始されるという。「PCメーカーとして初めてこうしたプログラムに取り組むことになる。ぜひ他のメーカーも続いてほしい」と呼びかけた。

映画「オースティンパワーズ」のドクターイーブル役のマイク・スマイヤーズ氏とDell Date Safeのデモを行なった こちらが移行前のWindows XPのデスクトップ このDell Date Safeを利用して、データをオンラインサービスなどに待避させる
移行後のWindows Vistaのデスクトップ。データや壁紙などの環境も移行できている Dellが提案するPlant a Tree for Meという環境プログラム 消費者はDellのPCを購入する際、地球環境に対する寄付を選択できる

●オーバークロックが標準仕様のデスクトップPCや新型27型液晶を公開

 デル氏は2007年にDellがリリースする予定の新製品を公開した。公開されたのはオーバークロックが可能な「XPS 710 H2C Edition Gaming Desktop」、27型液晶ディスプレイの「UltraSharp 2707WFP」、22型液晶ディスプレイの「E228WFP」などで、すでに日本でも発表済みの製品だ(関連記事参照)。

 また、このほかにも、デル氏はDellが2006年に買収したAlienware(エイリアンウェア)の新製品についても言及した。Alienwareは米国のPCベンダで、ハイパフォーマンスのゲーマー向けPCなどに特化した製品を展開していた。DellはこのAlienwareを、ハイエンドゲーマー向けのブランドとして存続させている。このAlienwareの新製品として19型液晶を搭載したSLI対応ノートPCの「Aurora mALX」、さらに詳細は不明ながらリビングに設置するようなメディアセンターPCなどを公開した。

 最後にデル氏は米国Time誌が、2006年のPerson of the yearに“You”(あなた)が選ばれたことにふれ、「我々のビジネスにとっても、まさにYou(あなた方)、すなわちユーザーの皆さんの協力が重要だ。今後もユーザーが必要とするような製品を作っていきたい」と述べ、講演を締めくくった。

Dellが発表したXPS 710 H2C Edition Gaming Desktopと27型液晶のUltraSharp 2707WFP Alienwareが公開したSLI搭載ノートPCとメディアセンターPC

●“普通のPCメーカー”に変わりゆくDell

 正直に言って、デル氏の基調講演は、もっと高速なブロードバンドの普及が必要だという意見やPCメーカーとして今後地球環境に配慮すべきだと述べたこと以外は、特にメッセージ性の強い講演ではなかったとも言える。そうした意味では、もっとリーディングPCベンダとして、PCの未来の姿やそういうビジョンを聞きたかったと思うし、やや物足りない感があったのは事実だ。

 しかし、以前のひたすらにコストパフォーマンスが高いPCを提供するベンダというDellのイメージからすると、かなり印象が変わってきたと感じたのも事実で、Dellがイメージチェンジをはかろうとしているのだと感じた。

 Dellを取り巻く環境は、ここ1、2年で大きく変わりつつある。四半期の決算で市場の期待値を下回るなど、高成長を続ける会社という“Dell神話”に陰りが見られたと言われているし、かつては開発も含め、非常に密接なパートナーとして行動を共にしてきたIntelとの関係を見直し、サーバーやクライアントにAMDのプロセッサを採用したことで、Intelから見たDellは特別なパートナーではなく、1つのPCメーカーとしての位置に変更された。つまり、Dellは“普通のPCメーカー”へと変革を遂げつつある課程にあるのだ。

 今回のデル氏による基調講演は、そうした“変わりゆくDell”を印象づけたものだったと言っていいのではないだろうか。

□2007 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□Dellのホームページ(英文)
http://www.dell.com/
□Plant a Tree for Meプログラムのページ
http://www1.jp.dell.com/content/topics/
segtopic.aspx/pressoffice/2007/070110c?c=jp&l=ja&s=corp

□関連記事
【1月10日】デル、水冷/空冷を採用したハイエンドPC「XPS 710 H2C Edition」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0110/dell1.htm
【1月10日】デル、色再現性を高めた27型WUXGA液晶ディスプレイ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0110/dell2.htm
【2006年1月7日】【CES】4.26GHz CPU/4 GPU搭載ゲーミングPC、WQXGA対応30型ワイド液晶など
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0107/ces05.htm

(2007年1月11日)

[Reported by 笠原一輝]

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