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2007 International CES
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ゲイツ氏の基調講演を見ようと、非常に多くの聴衆が詰めかけ、会場入り口は大混乱 |
CES前夜恒例となっているMicrosoft会長ビル・ゲイツ氏の基調講演。2008年7月に経営の第一線から退くことを表明している同氏にとって、CESにおける基調講演は今回が最後ともっぱらの噂であった。ゲイツ氏を一目見ようと多くの聴衆が詰め掛け、基調講演の前にはゲイツ氏が行なった10年間の基調講演のハイライトが上映されるなど、別れを惜しむムードが漂う中で講演が始まった。
●「来年も基調講演を続ける、ただし再来年は……」
Microsoft Chairmanのビル・ゲイツ氏 |
講演の冒頭。これまで流れていた「CES最後の基調講演」との噂を払拭しておきたかったのか、ゲイツ氏は「ここ(CESの基調講演)に来ることはとても楽しい。そして、これをまだ続けるのですか? と聞かれれば、答えはイエスです。来年も私は基調講演を続けるでしょう」と述べ、2008年1月のCESにおいても引き続きゲイツ氏が基調講演を行なうことを宣言。
ただし、2009年以降については「私が招待されるとは思えません。なぜなら、そのときの私はソフトウェアじゃなくて伝染病の話をたくさん語ってしまうだろうから」と話しており、やはり経営の第一線から退く2008年7月以降は、表舞台から姿を消し、慈善事業などに注力することになるのだろう。
●基調講演のテーマは「Connected Experiences」
今回のゲイツ氏の基調講演は「Connected Experiences」と名付けられたもの。デジタルカメラの普及や複数台PCの所有などが当たり前になってきている現在、TV以上にPCに割く時間が多い人も増えている。そして、この間、プロセッサは64bitになり、ネットワークはGigabit、HDDはギガバイト(GB)を超えテラバイト(TB)の話をするようになっている。しかし、同氏の講演ではお約束の言葉ともいえる2000年からの10年を一区切りとしたDigital Decadeは着実に発生しているとしながらも、それを実現するために欠かせぬ要素として挙げたのが、表題にもなっている「connection(接続)」であるというわけだ。
つまり、ハードウェアデバイス個々で考えるのではなく、そのデバイスを接続した環境でユーザーが何をできるか、つまり何を経験できるかが重要であるとした。これが表題の「Connected Experiences」というわけである。
そして、その接続された環境(ネットワーク環境)の中心にあり続けるのは、やはりPCであり、今月発売されるWindows Vistaであるとアピール。また、同時にMicrosoft Officeの新バージョンも発売されることになるが、このWindows VistaとMicrosot Officeを中心として、ネットワークサービスからサービスへと接続されると述べた。
ここで、壇上には同社Group Product ManagerのJustin Hutchinson氏が登場。Windows Vistaの機能をデモンストレーションした。このデモではWindows Vistaの検索機能やファイルのリストア機能、MS Officeの新しくなったユーザーインターフェイスによる文書編集機能や、文章内のアドレスからWindows Live Searchへリンクし、目的地を表示するといった、各機能の連携を紹介。また、Media Centerの紹介では、Sports Roungeと呼ばれる新機能についても紹介があった。
さらに、Windows Vista Ultimateのアドオンとして提供されるUltimate Extrasについても触れられ、2枚の写真を利用して写真の編集を行なうGroupShot機能や、デスクトップの壁紙を動画にする機能などが紹介された。
Ultimate Extrasに含まれるGroupShot機能のデモ。この写真は左端の女の子が目を閉じてしまっている | 一方、こちらの写真は中央の男の子が目を閉じてしまっている | そして、この2枚の写真から良い顔の部分だけを選択し、自動的にベストショットを作成してくれる機能となる |
その後、壇上に戻ったビル・ゲイツ氏によって、Windows Vista対応PCを紹介。紹介されたPCは、タッチパネル機能を持つHPの「Touch Smart PC」、Sideshow機能を持つ東芝の「Portege R400」、独特の円柱型ボディのSony「VAIO VGX-TP1」、MedionのUMPCといったところ。
そして、今回の基調講演最大の目玉が、「Windows Home Server」の発表だ。これは、端的にいえばNASのためのソフトウェアで、ハードウェアとセットになって提供されるソリューションとなる。同社はHPと共同で開発を続け、今回の基調講演では、HPの「MediaSmart Server」が紹介された。また、AMDやIntelなどもWindows Home Server用機器のリファレンスデザインを開発しているとのこと。
このWindows Media Serverによって、バックアップの自動化やメディアサーバーとして動作することができる。ZuneやXbox 360からの接続にも対応。さらに、HDDの増設も容易で、ユーザーは複雑な操作を必要とすることなく、数TBのストレージ領域を手に入れられ、今後はこうしたソリューションが重要性を増すだろうとゲイツ氏は述べている。
基調講演で紹介された、Windows Vista対応PCのラインナップ | 家庭内のデータストレージサーバーとして新たに登場するWindows Home Server |
●Xbox 360やZuneをConnectするエンターテインメントの世界
Windows Vistaに絡んだ紹介が一通り終わったあとは、Microsoft PresidentのRobbie Bach氏が壇上に登場。「Connected Entertainment」、つまりネットワーク接続された環境において楽しむことについての講演が行なわれた。ユーザーはコンテンツをあらゆるデバイスのうえで、どこでも楽しめることを望み、さらには仲間と共有して楽しむことも望んでいるとし、この楽しみを提供するためには、優れたハードウェアやソフトウェア、革新的なサービスが単独で存在していても意味はなく、それぞれを組み合わせ業界のコミュニティによって提供していかなければならないと訴えた。
まず紹介されたは音楽について、MTVと共同で実施しているサービスのパートナーが350社を超えた点や、2006年に発売した「Zune」の販売台数が100万台を突破した点をアピール。Zuneを取り巻くサービスの発展に期待を寄せた。
続いて紹介されたのが携帯電話。この分野はMicrosoftにとっても大きく飛躍したと受け止めている分野だそうで、Windows Mobileを搭載した端末によって音楽などを持ち運ぶ楽しさを提供できたとしている。
そして、ゲームである。ご存知のとおり、同社はWindowsプラットフォームだけでなく、「Xbox 360」というプラットフォームも持つ。このXbox 360は世界37カ国で2006年末までの1,040万台を販売。Xbox 360向けゲームコンテンツもすでに160タイトルを数え、2007年は「Halo 3」、「Guitar Hero II」などがリリースされて合計で300タイトルを数えることになる予定。また、Windowsプラットフォーム向けタイトルでもFlight Simulator Xなどが控えており、充実のゲームコンテンツをアピールしている。
また、Xbox 360のゲームコンテンツの紹介に絡んでは、Windows VistaからXbox Liveへの接続環境をデモンストレーション。500万人のメンバーを持つゲームコミュニティへ、さらにWindows Vistaユーザーが参加できることで、より大きなコミュニティとして新たなサービスの展開へも意欲を見せている。
そして次がXbox 360を利用して映像コンテンツを楽しむという点だ。すでに発売されているHD DVDプレーヤーや、Media Center Extender、Xbox Live Videoに加え、IPTVを利用できるようになると表明。サービスは2007年中に開始される予定。Windows VistaをXbox 360のゲームコミュニティへ参加させる一方で、こちらは逆にXbox 360をPCライクに使う方向性といえるかも知れない。
Microsoft PresidentのRobbie Bach氏 | Windows Mobile端末の紹介。「Blackberryより売れている」のアピール | 2007年にXbox 360に発売される「Halo 3」のデモ |
Windows VistaからXbox Liveへ接続し、UNOを楽しむデモ | Microsoftが進めているIPTVのパートナー各社 | Xbox 360上でIPTVを利用するデモ |
Ford Exective Vice PresidentのMark Fields氏 |
ここで再度壇上にゲイツ氏が登場。コンテンツを楽しむ環境として、車だけは特別な存在であると指摘。それは、車はドライバーが安全に運転できることが重要だからである。そして、それを実現するために投資をしてきたと表明し、Ford Executive Vice PresidentのMark Fields氏を招待した。
Fields氏は、基調講演の日の朝にデトロイトでデモを行なったというFord車用の車載システム「Sync」について紹介。ZuneやiPodとの接続、携帯電話との接続を行なえるシステムで、音声認識機能などを持たせているのが特徴。12車種への搭載が決まっているという。
●コンテンツを扱うプラットフォームを提供するMicrosoft
最後にゲイツ氏は、5年先の未来について想像した、3つの機器を紹介。講演中にゲイツ氏は「24時間ユーザーをネットワークに接続させたい」と述べていたが、その野心をより広範囲かつダイナミックに実現しようとしている。
今回のMicrosoftの基調講演は、時期的にはWindows Vistaを控えて行なわれたものであったが、単にWindows Vistaの機能紹介に留まっていないのが重要な意味を持っているだろう。今回のCESの基調講演には、Walt DisneyやCBSといった生粋のコンテンツベンダーが名を連ねているように、デジタルエンターテインメントの分野はデバイスやソフトウェアから、コンテンツが重視される時代へ移っている。
こうした情勢を反映してか、今回のMicrosoftの基調講演は、コンテンツをいかに扱うかに重きが置かれ、そのコンテンツを扱うプラットフォームベンダーとして、一歩引いた基調講演であったようにも思う。しかし、ゲイツ氏は最後に、「我々が発展させるDigital Decadeに対して、どれだけ興奮しているかを口にしてほしい」と述べているように、まだまだ業界を牽引している姿勢は崩していない。5年後の未来というとDigital Decadeの期間を過ぎてしまうが、その究極の形として示されたのが、人々のライフスタイルに切り込んだ最後の3つのデモだったのではないだろうか。
バス停に置かれた大型液晶に対して、ゲイツ氏が持つ携帯端末からアクセス。近隣のショップ情報やバウチャーの取得。また不在時に配送されてきた宅配物などの確認を行なえる |
キッチンテーブルに料理のレシピの情報を表示したり、RFIDを利用して食材の場所を通知するといったことを行なったデモ | 一言でいえばディスプレイ壁紙といった趣のデモで、気分に合わせて壁一面のディスプレイに表示する内容を変えるというもの |
□2007 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/en/us/default.aspx
□Microsoft:2007 CES基調講演のページ(英文)
http://www.microsoft.com/ces/
□関連記事
【2006年1月6日】【CES】ビル・ゲイツ氏基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0106/ces03.htm
【2005年1月7日】【CES】ビル・ゲイツ氏 基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0107/ces02.htm
(2007年1月9日)
[Reported by 多和田新也]