●今年のベストハードとベストソフト
間もなく2006年も終わろうとしている。今年の幕開けは、Intelによるブランドの変更と、Intelプロセッサを搭載した初めてのMacの登場で幕を開けた。このことに敬意を表するわけではないが、今年のベストPC(筆者個人にとっての)はMacBookだったと思っている。もちろんこれは価格込みの評価であり、登場時のMacBookと同等のスペックを持つWindows PCには、はるかに高い値札がつけられていた。そのコストパフォーマンスの高さという点と、10万円そこそこという値頃感も合わせて、あえて(同社の上位機種をもさておいて)MacBookをベストプロダクトのPC部門に選びたい、というのが筆者の気分だ。ちなみにベストガジェットは、LogicoolのMX Revolutionというところだろうか。 MacBookに限らず、Intelプロセッサを搭載したMacが注目された理由の1つは、間違いなくWindowsが動く可能性であった。同じプロセッサを採用したことで、PCのOSであったWindowsがMacの上でも動く、ということが、その実用性以上に注目を集めたのだと思う(もちろん、これはMac上でWindowsを動かすことに実用性がない、と言っているのではない)。
このIntel Mac上でWindowsを動かすという試みは、2つのアプローチでなされた。1つはMac上でWindowsをネイティブ動作させようというもの、もう1つはMac上の仮想環境内でWindowsを動かそうというものだ。まず我々の前に登場したのは、ネイティブ動作のアプローチであった。インターネット上の有志が取り組んだプロジェクトは、デバイスドライバの不足など、厳しい条件をくぐり抜けて、Mac上でWindows XPを起動することに成功した。そして、このアプローチは本家Appleによる、次期OSであるLeopardの一部機能の先行ベータリリースという形をとった「BootCamp」の提供で、一通りの決着を見た。 BootCampは、Mac上でWindows XPのインストールを行なう一通りのツールと、Windows XP上でMacのハードウェアを利用するためのデバイスドライバのセット。これを使うことで、誰もが簡単にWindows XP(SP2以降に限られる)をインストールできる。まだベータということで、一部デバイスのサポートが欠けているが、Intel Macのラインナップが追加されるたびにBootCampも更新されていることから考えて、正式リリース時にはほぼ問題ないWindows環境になるのではないかと期待されている。 一方、仮想環境のアプローチで群を抜いた存在となったのが、Parallelsの仮想環境ソフトである「Parallels Desktop for Mac」だ。従来もPowerPCベースのMac上でWindowsを動かすソフトウェアは存在したが、Parallelsの製品は、Windowsの実行速度、使いやすさ、互換性の高さで突出している。プロセッサアーキテクチャが同じになったから、ということは言えるにせよ、MicrosoftがVirtual PCのIntel Mac対応を見送ったことなどを考えれば、その功績は大きい。ベストプロダクトのソフトウェア部門は、このParallels Desktop for Macで決まりじゃないかと思っているほどだ。 市場での評価とともにAppleでの評価も高いようで、Apple Storeでの販売も行なわれている。米国ではAppleのTV CMにも登場するというから相当なもの。Parallelsが素晴らしいのは、こうした高い評価にあぐらをかかず、プログラムの拡張や改良に今も余念がないことだ。夏にリリースされた最初のリリースについても、2度ほどアップデートがあり、USBの互換性改善や、ゲストOSとしてWindows Vista(当時はまだベータ)のインストールがサポートされるといったブラッシュアップが行なわれた。そして今、次のアップデートリリースに向けてベータテストが行なわれている。
●3千番台にジャンプアップした最新ベータ版
現在、ParallelsのWebサイトで公開されているのは、Parallels Desktop for Mac Update Beta 2(Build 3094)と呼ばれるもの。最終的な提供形態、有償のメジャーバージョンアップか、無償のアップデートになるのかはよく分からないのだが、ビルド番号が1000番台(現行最新はBuild 1970)から3000番台にジャンプしたことから考えて、初のメジャーバージョンアップとなるのかもしれない。機能的にも、メジャーバージョンアップをうかがわせるほど、新しい機能が加えられており、とてもここでは紹介しきれないほどだ。 この新バージョンで最も顕著な進歩は、BootCampとの整合性が向上したことだろう。Parallels Desktop for Mac(以下、Parallelsと略記)は、現行バージョンであっても非常に優秀な仮想化ソフトウェアだが、仮想化という技術を用いる以上、ネイティブ環境と完全に100%の互換性を持つわけではない。したがって普段、Mac OS X上からWindowsアプリを利用する場合のほとんどがParallels上のWindowsで済んでも、BootCampによるネイティブ環境が必要になることがある。たとえば3Dゲームなどはその顕著な例だ。 これまでも1台のMacでBootCampのネイティブ環境とParallelsによる仮想環境を使い分けることはできたが、両者は独立しており、たとえばBootCamp環境のIEのお気に入りに追加したURLは、Parallels内のWindowsでもう1度登録する必要があった。 今回の新バージョンでは、両者は事実上1つになる。新バージョンは、BootCampパーティションにインストールされたWindows(Windows 2000/XP、現時点でAppleはBootCampでVistaを正式にサポートしていない)のイメージから仮想環境を立ち上げることが可能だ。したがって、どちらかで加えられた変更は、残りの環境にもすべて引き継がれる。インストールしたアプリケーション、作成したファイル、加えられた変更など、すべて2つの環境で同じになる。たとえば、インストールに時間のかかる大型アプリケーションのインストール作業をネイティブで行なって、Parallelsで利用するということももちろん可能だ。 ただ、これを利用するには、BootCampパーティションから立ち上げた仮想環境内のWindows XPを、Mac OS上でサスペンドさせたまま、BootCampからネイティブで立ち上げないように気をつける必要がある。そんなことをしたら、2つの環境でコヒーレンシが保てなくなってしまう。このような使い方をする場合は、BootCampパーティションからWindowsを立ち上げるのではなく、独立したインストールイメージを用いる(従来と同じやり方)必要がある。 今回の新バージョンで解消された制約は、Mac OSのデスクトップ上におけるWindowsの表示サイズだ。新バージョンでは、Windowsの表示サイズを、普通のMac OSアプリケーションのように、ウィンドウの端をつかんで、自由に拡大・縮小することができる。
これを応用して、新しいParallelsでは、Coherenceモードと呼ばれる表示モードが追加された。仮想環境内で起動しているWindowsアプリケーションを、Windows Desktopと同じサイズで表示することで、あたかもMac OS上で直接Windowsアプリケーションを起動しているように表示するモードだ。Mac OSのデスクトップ上にWindowsアプリケーションがポツンと表示されるのは、何とも不思議な気分である。しかも、起動したWindowsアプリケーションは、そのままMac OSのDockに保存しておくこともできる。 唯一、通常の利用環境と異なるのは、WindowsのタスクバーがDockの上に表示されていることで、これでこのアプリケーションがParallelsで動いていることが分かる。ちなみにタスクバーの表示位置は、Windows上での表示位置に依存しており、仮想環境のWindowsで上部にタスクバーを表示していれば、Coherenceモードに入った時にタスクバーはAppleメニューのすぐ下に表示される。 これだけWindowsとMac OSがシームレスに利用できるようになると、データの受け渡しもシームレスに行ないたいもの。この点でもParallelsはぬかりない。ちょっとしたデータの受け渡しであれば、クリップボード経由でデータをやりとりすることができる。Windows上のテキストエディタで、範囲選択してコピー、それをMac OS上のエディタにペーストということが、ごく当たり前にできる。ちょっと試してみたところ、日本語のテキストもちゃんと受け渡しできた。 もう少しまとまったデータだと、ファイル単位でやりとりしたくなる。もちろん、これも可能で、Windowsのエクスプローラーでファイルをつかんで、Mac OSのFinder上の適当なフォルダ上で離してやれば、ファイルがコピーされる。要するにドラッグ&ドロップでファイルのやりとりができるわけだ。感心するのは、この動作も日本語でも特に問題ないことで、エクスプローラー上の日本語ファイル名のファイルを、Mac OS上にドラッグ&ドロップしても文字化けしない。バイナリデータに含まれる日本語など、すべて大丈夫とはいかないだろうが、このくらいサポートしてくれていれば、十分合格点があげられるのではないかと思う。 Windows Vistaへの対応がすでにできていることは前述した通りだが、一応、この新バージョンでも動作を確認した。Parallels上でゲストOSとして利用できるWindows Vistaは、Business、Ultimate、Enterpriseの3エディションだが、これはParallels側の制約というよりMicrosoftの施策である。インストール作業は、Parallels Toolkit for Windows(Parallelsの仮想環境内の仮想的なデバイスに対するデバイスドライバやクリップボード共有ユーティリティなどのツール類)のインストール時に、セキュリティアラートが出るくらいで、スムーズに進む。 実際に動かしてみると、1つ問題が見つかった。それは、Intelのプロセッサが搭載する仮想化技術(VT-x)を有効にしておくと、Windows Vistaの起動時に止まってしまう、というものだ。Windows XPではこの問題が生じないことから考えて、Windows Vistaは自分が仮想環境の中で起動されようとしているのか、ネイティブ環境で起動されようとしているのかチェックしており、それと干渉しているのかもしれない。とりあえず、VT-xを無効にすることで回避できるが、すでにParallelsでもこの問題を把握しており、解消に努めているところだ。
ハードウェア面では、CD/DVDドライブのサポートが向上したこと、USB 2.0がサポートされたことが大きなトピックだ。現行のParallelsは基本的にCD-ROMドライブとしてのサポートのみだったが、新しいバージョンではCD-Rの書き込みやDVD-Videoの再生も可能になる。今回試してみたところ、DVDメディアを認識するのは間違いない。残念ながらWindows Vista付属のMedia Player 11やMedia CenterではエラーになりDVD-Videoの再生はできなかったが、プレーヤーソフトを選べば再生できることを確認できた。 USBについては、これまでUSB 1.1のサポートだったが、新バージョンではUSB 2.0のサポートが加わる。現時点ではWebカメラ等に使われるIsochronousモードがサポートされていないが、正式リリースまでには対応するものと思われる(USB 1.1のIsochronousモードはサポートされている)。USBデバイスの認識が速くなったのも、改善点の1つだ。 ●大容量メモリを要求するParalells
Parallels Desktop for Macは、最初のリリース時でかなり高い完成度を持っていたが、現在開発中のこの新バージョンは、さらに高い完成度と使い勝手の向上を図っている。バージョンが上がるごとに、ソフトウェアがどんどん良くなっていく様を見るのは、何か久しぶりな気がする。この分野(クライアント向けの仮想化ソフトウェア)がまだ若く、改良の余地が多く残っていることも、その理由の1つには違いないが、Parallelsの真摯な努力も間違いなく貢献しているハズだ。 1つだけ注意事項を挙げるとしたら、仮想化ソフトウェアは、メモリを大量に消費する、ということだ。Parallelsを利用する上で必須のメモリは756MBで、1GBが推奨されている。以前、512MBのMacBookでWindows XPがインストールできなかったことがあるくらいで、この数字はハッタリではないのだが、MacBook、Mac mini、iMacなど、モデルによっては512MBのメモリしか搭載していないものも存在する。 基本的にParallelsを利用するのであれば、メモリは多ければ多いほど良い。が、MacProを除くIntel Macは、デスクトップタイプであっても基本的にモバイルアーキテクチャをベースにしているため、最大メモリ搭載量は2GB~3GBに制限される。かつてなら、何の不安もなかった最大メモリ搭載量だが、今後仮想環境の利用が普及すると、心許なくなってくるかもしれない。恐ろしい時代になったものである。 □Parallelsのホームページ (2006年12月27日) [Reported by 元麻布春男]
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