第360回
Another Story of PS3 #3
ネットワーク端末としての可能性を秘めたPS3



PLAYSTATION 3

 これまで“Another Story of PS3”シリーズではAV機能を中心に紹介してきた。固定機能ではなく柔軟性を備えた汎用機的正確を備えつつ、専用デバイスを搭載したAV機器並の機能や品質をデジタル領域で発揮しているというのが、PS3の大きな特徴だ。本質的にはゲーム機としての性格が強いものの、局所的には素晴らしいAV品質を持つ。

 こうなるとPS3のメディア処理機能を活かして、PS3ベースのユニバーサルなメディアプレーヤーがあれば……と思う方も多いだろう。実際、そうしたリクエストを11月17日にSCE会長の久夛良木健氏に話したところ「自分としても欲しいので、今、ここでプロジェクトの立ち上げを約束します」と応じて驚かせた。

 この話に関しては、最後に少しだけ情報を付け加えておくことにするが、今回の話は全く異なる方向。家庭向けのネットワーク端末としてのPS3の可能性を、SCE自身がどう考えているのかに焦点を絞ってみた。

 “ネットワーク端末”というと、PCの出来損ないのような印象を持つかもしれないが、アプリケーションサービス、動画や音声、ゲームなどのコンテンツなどがネットワークを通じて提供される世界へと移り変わっていくならば、ネットを通じたコミュニケーションのフロントエンド機器として、PS3にも何らかのチャンスがあるかもしれない。

●意外に使いやすいPS3のWebブラウザ

 インタビューに応じていただいたSCE コーポレートエグゼクティブソフトウェア・プラットフォーム開発本部長兼ネットワークシステム開発部長の川西泉氏は、PS3の開発全般を統括する立場にある。中でもソフトウェアに関連した部分の舵取りを行なうのが主な仕事だ。

 ブロードバンドネットワークに接続された環境で、その端末としてPS3がどのような役割を果たせると考えているのだろうか?

 川西氏は「一言で“ブロードバンド”といっても、実にいろいろな側面がある。今回、PS3を出荷する最初の段階で考えていたのは、フルHD、つまり約200万画素という高解像度のディスプレイが接続されていることを考慮し、双方向で密なコミュニケーションが行なえるようにすることを念頭に開発しました」と話す。

PS3のWebブラウザ

 実際、PS3に内蔵されているWebブラウザを動かしてみると、フォントの品質やブラウザのページレイアウト、コントローラを用いた場合の操作性など、よく練られているだけでなくなかなか高速。異なるウィンドウを切り替えながらブラウズする操作も簡単。Adobe Flashはもちろんだが、JavaやJava Scriptにも対応しているのでYouTubeも動作する。試しにGmailやGmapも試してみたが、全く問題なく動作した(ページ上部にはGoogle側からの非対応ブラウザの警告が表示されるが)。

 このブラウザは自社開発したもので、もともとソニーグループ内で開発していたインターネット端末向けのソフトウェア技術を移植してきたもの。ユーザーインターフェイスやレンダリング結果の雰囲気はそっくりだが、PSPのブラウザとは全く関係がないという。

 「User Agentのチェックではじかれるサービスを除けば、かなり互換性は高いと思います。MPEG関係もダウンロードをしていただければ、PS3内の動画再生機能で見ることが可能です。ただしWindows MediaやReal NetworksのCODECなど、特定メーカーに依存したビデオは再生できません。とはいえ、フルHDではたいていのPCの解像度よりも高精細なため、全画面にページを開いた状態だとPCと同等以上の使いやすさや見やすさを実感してもらえるハズです」

 Webへのアクセス機能そのものは、決して珍しいものでも何でもないが、とりあえず“使える”レベルのブラウザが、大きな画面で使えるというのは、なかなか便利。しかし、これを単に便利な機能として使おうとしているのか、それともPLAYSTATION Storeのように、E-コマースへと繋げるフックとして使うのか。

 インターネット端末としてのPS3を、商売道具として捉えているのか、それともPCを中心に発展しているインターネットコンテンツをPS3でも楽しめるようにといった視点で実装しているのか。ズバリ聞いてみた。

●PS3をフックにしたコンテンツ流通について

 「社内的には両方の議論をしています。オンラインで欲しいコンテンツを手軽に購入できる方向もありますし、PCコンテンツにリーチする機能も持たせます。両方の視点で、それぞれに良いものに鍛え上げていきたい」

 しかし現在のところ、PS3専用コンテンツへのポータルはPLAYSTATION Storeに限られている。ゲームだけでなく、音楽や映像といった多様なコンテンツを楽しむためのPLAYSTATIONにしていくには、自社が提供するポータルだけでは難しい面もあろう。この点についても「1つはPLAYSTATION Storeがありますが、しかしほかにも入り口は増やしていきたいと考えています」とした。

 一方、映像や音楽の配信サービスとの接続性に関しては、具体的にコンテンツを提供している側から、PS3向けに販売するための仕組み作りをしたいというリクエストをもらっているという。動画配信に関しては、積極的に仕掛けていくようだ。

 しかしフルHDでの配信となると簡単には進められない。PS3ぐらいの台数から一気にアクセスとなると、インターネットのインフラ側に問題が出てしまう可能性もある。ダウンロード型でストリーム配信は行なわないといった選択肢もあるだろうが、ダウンロード時間そのものが長いと快適に利用できない。

 バックグラウンドでダウンロードを継続できるXbox 360とは異なり、PS3はあるタスクを実行中は他タスクやゲームを実行できない。こういう言い方をしてはなんだが、大昔のDOSとTSR(常駐プログラム)で作った環境のようだ。メインメモリサイズなどの問題も、今後は出てくる可能性があるが、インターネット端末としてPS3を捉えると、現状の仕様は少々汎用性が低い。このため、PS3向けのコンテンツは一部を除き、ストリームあるいは比較的短時間でダウンロードが可能なものに限られるだろう。

 もっとも、SCEはPS3をオンラインコンテンツにリーチするための、“自分たちだけの入り口”とは考えていないようだ。たとえばコンテンツ購入などにも使えるPS Online IDは、他社もこのIDを用いた決済が行なえるよう、オープンなシステムとして定義を進めている。

 「PS3はアーキテクチャとしてセキュアなレイヤーを持っているので、PS Online IDを用いた決済システムを活用したいという事業者は少なくありません。セキュリティ面で安心できる上、スペックが固定されているので、特定サービスの端末として使いやすいと考えられるからです」

●CellコンピューティングとPS3

PS3の心臓部、Cell

 一方、PS3が世の中に投入されたことで気になるのが、リアルタイム性の高いグリッドコンピューティングとも言えるCellコンピューティングに関して、具体的に何かのビジョンを、現時点で持っているかどうか。

 もちろん、今の時点においてPS3は1つの“点”でしかなく、Cellの接続によって大きな別の仮想世界が作られるかどうかといった壮大な話に繋がりにくい。しかし、もしSCEがCellコンピューティングに未来を見ているのであれば、PS3を発売した現在、次のステップも考えておかなければならない。

 「どんなプラットフォームも、最初に立ち上げるところに一番大きなハードルがあります。Cellを使ったネットワークコンピューティングというものもそうです。そうした意味では、まずPS3を成功させることですね」

 では(現時点で考えている)Cellコンピューティング、Cellネットワークとはどんなものなのか?

 「Cellの演算パワーをサーバーに持たせ、サーバーの演算結果を基にエンターテイメントワールドを(仮想的に)作り出したい。ゲーム世界の構築を行なうだけでなく、人と人とが仮想現実の中でコミュニケーションできるようなコミュニティを作れるのではないかと考えています。将来、PS3が普及すれば、サーバーベースのCellワールドを超えて個人が所有しているPS3同士がP2Pネットワークで繋がり、各所に生まれるP2Pネットワークを軸に別の世界を生み出すといったイメージを持っています」

 もっとも、巨大なCellによるサーバーを立ち上げる計画があるのか? と言えば、まだそこまで具体的なイメージができあがっているわけではないだろう。川西氏も「今すぐに具体的な手法や立ち上げ計画を持っているわけではありません。将来のロードマップとして、そうした目標があるという意味です」と断っている。

 そもそも、ネットワークで接続することによって、コンピューティングパワーを増大させていくコンセプトを実行する前に、Cellそのものが本来持っているパフォーマンスを引き出すことの方が先決だろう。

 ゲームに関して言えば、今後、徐々にそのパフォーマンスを引き出すプログラミングが行なわれていくだろうが、ゲーム以外の分野でも用途はありそうだ。以前、久夛良木氏は「Cellを内蔵したストレージサーバーのようなものに、さまざまなデジタルコンテンツを放り込んでおくと、寝ている間にコンテンツの内容を分析し、品質を高めたり、より扱いやすくするためにメタ情報を生成するといったことも、“熟成”というコンセプトでやろうと考えている」と話していた。

 こうした熟成コンセプトは、実際にSCE内部で開発が進められているのだろうか?

 「異なる圧縮コーデックの映像を、特定のコーデックに変換したり、多様な切り口でコンテンツを並べ替えたり、知らないうちにデータを高品質化したり、あるいはメタ情報の認識、識別といったことを行なう研究開発は、PS3というプラットフォームとは別に作業を進めています」

●PS3のハードウェアスペックは固定されるのか? それとも?

PS3分解記事より。PS3は今後スペック向上はあるのか(※別ウィンドウで開きます)

 もう1つ、PS3の将来を占う上で重要なことがある。それは、今後発売されていくPS3は、そのすべてのバージョンでハードウェアの性能を固定化するのか、それとも徐々にスペックを向上させていくのか? という点。

 汎用コンピュータとしての性格を強く求めるのであれば、時代の変化とともにスペックを向上させなければならない場面にも、将来は直面するだろう。しかしゲーム機としての性格を強く出すのであれば、スペックは固定したまま価格を下げていき、幅広いユーザーに購入してもらった上で、ゲームを楽しむプラットフォームとしての幅を広げる方がいい。

 「スペックが固定されるとは限らないと現時点でも考えています。ハードウェアの違いをソフトウェアで吸収できる領域は増えてきています。従来は、ハードウェアを固定化し、最後の一滴までパフォーマンスを絞り出す必要があり、ハードウェアは細かな振る舞いまで変えない前提でした。しかし、PS3は将来、スペックを変えていきたいという思想の元に企画/開発されています」と川西氏。

 しかし、こうした方針はゲームベンダーには受け入れにくいものだ。同じハードウェアが継続的に提供されていくことで、ベンダーは安心してそのプラットフォームに対して力を注ぎ、ノウハウを蓄積していけるからだ。

 この点について川西氏は「パフォーマンスやスペックの違いに対して、柔軟に対応できるプラットフォームにしていかなければならないと思います。たとえばPS3の場合、BDでソフトが供給される以外にHDDにインストールできるタイトルもあります。さらにブロードバンド上にコンテンツがあり、あるコンテンツに関してはHDD上にキャッシュされている場合もある。ネットワークで接続されたPS3同士の通信速度やレイテンシはそれぞれ異なるでしょう。そうした速度差やレイテンシの差の問題を含め、きちんとした互換性をある括りの中で維持していかなければならない。そうした取り組みの中にあっては、スペックが(下がるのではなく)上がっていくことは、あまり大きな問題ではありません」と応じた。

 ではPS3というゲームフォーマットは固定化され、同じ規格のゲームなどのPS3コンテンツが、将来のハードウェアでよりリッチかつ快適に動作するという意味なのだろうか?それともPS3の将来版には、PS3 Second Edition向けフォーマットといった新しい規格が生まれるのだろうか?

 「ハードウェア性能が上がっていけば、それに応じてゲーム規格も上位のバージョンに上がっていくことはあるかもしれません。もちろん既存のPS3との互換性を保った上でですが、その上でスケーラブルに上位マシンではより優れた体験が感じられる。つまり、ハードウェアの性能によって部分的に違うところは出てくるけれども、ゲーム自身は同じものが実行できるという環境になるでしょう」

●より汎用的なエンターテイメントコンピュータを意識した

PS3で他OSを利用できる「Open Platform for PLAYSTATION 3」

 PS3はLinuxなど他OSをインストール可能にしている点も話題だ。光ディスクからプログラムを起動し、専用ソフトが動けばそれでOKというゲーム機とはかなり異なる考え方である。では汎用的に使えるパーソナルコンピュータとして、PS3を意識して開発していたのだろうか?

 「コンピュータという製品の定義は実に曖昧です。PCやメインフレームも含め、“何をするための製品か”の明確な定義はありません。それはPS3も同じで、何か特定の使い方だけに当てはめて開発してはいません。もちろん、基本は家庭内でコンピュータを使ってエンターテイメントを楽しむマシンです。しかし、同時にPS3は一般的なコンピュータの概念に相当するアーキテクチャで設計されています。より多様な用途に使えるコンピュータとすることは、14年前からずっと目指してきたことですが、今回の製品でやっとその目標に近付けたとは言えると思います。ただし、まだまだ道半ばだとは考えており、ゴールに至ったわけではありません」



 さて、冒頭で述べたAVユーザー向けPS3の話題。実際にどんな製品になるのだろうか?

 AVユーザー向けとなれば、ゲーム機よりも桁違いに出荷数が低くなる。加えてゲーム機よりも遙かに大きな販売店マージンも設定しなければならない。ゲーム機とAV機器では、そのコスト構造が全く違う。また、SCE自身から発売することも難しいだろう。となれば、当然、ソニーブランドで通常のAV製品と同じ経路、ビジネスモデルでの流通となる。

 久夛良木氏は「一般的なAVコンポーネントと同等サイズで、きちんと振動対策が施された筐体に強力な電源、より柔軟性を高めるためにメインメモリを2倍にアップさせて……」と、具体的なビジョンを口にした(加えて、筆者自身の希望であるHDMI×2出力でオーディオと映像を分けるといった仕様も“やる”と話している)が、それらをすべて実行してしまうと、(勝手な予想だが)価格は20万円では済まず、30万円ぐらいになってしまうかもしれない。

 と、これぐらいは誰もがすぐ思いつくこと。それでも、久夛良木氏のプロジェクト立ち上げます宣言を受けて、ソニーのオーディオ事業部とSCEの一部は、具体的な動きを始めている。どうやら本気ということで、いちAVファンとしては、どんな仕上がりになるのか楽しみになってきた。

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【2005年6月24日】【海外】SCEI 久夛良木社長インタビュー(5)
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(2006年12月19日)

[Text by 本田雅一]


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