第356回
PS3をメディアプレーヤーとして使う人のためのTips



PLAYSTATION 3

 先週末(11日)、さまざまな話題を呼んだPLAYSTATION 3が発売された。筆者はゲームをほとんど遊ばなくなって久しいが、PS3にはゲーム機以外の点で興味深く見ていた。ゲーム以外のコンテンツ、音楽や写真、そして映像を楽しむためのコンピュータとして、どこまでの実力があるのか。

 実はPS3の開発には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の技術者だけではなく、ソニー本社のメンバーも数多く加わっている。BSLモーターを用いた薄型BDドライブはソニー製レコーダ、プレーヤー向けのドライブ開発よりも優先されて開発されたものだし、DVDやBD再生機能に関してもビデオ開発を行なってきたメンバーが深く関わっている。

 たとえばPSXの場合、もともと、SCE内部で開発が進められていたハードウェアを、発売の少し前にソニー本社から合流した技術者らがレコーダとして仕上げていた。このため、数回のアップデート後は十分に機能的だったPSXも、発売当初は開発が間に合わず、AV的な要素に関しては(発売直後は)やや中途半端だった。

 ところがPS3の場合は、かなり早い段階からソニー本社でAV製品や光ドライブなどの開発に携わってきた技術者が加わり、仕様や機能を煮詰めている。餅は餅屋というが、これならばメディアプレーヤーとしてのPS3には、かなり期待が持てるのでは? と思っていたのだ。

 しかし、この期待は良い意味で裏切られた。ゲーム機を拡張した、安価なメディアプレーヤーどころか、条件さえ整えれば高級AV機器に勝る部分さえある製品に仕上がっていたからだ。

 今回は連載の趣旨とは違うが、PS3をゲーム機としてではなく、映像や音を楽しむための機器として見た時の実力と、その実力を発揮させるためのちょっとしたTipsを紹介したい。

●オーディオプレーヤーとしてのPS3

PS3はSACDの再生にも対応

 PS3にはCD、SACDの再生が可能なほか、CDからAAC、MP3、ATRAC3でHDD内に音楽を取り込んで再生する機能がある。この中で驚くほど良いのがSACD(Super Audio CD)再生だ。

 読者のほとんどは、SACDを所有していないだろう。メジャーなメディアにはなれなかったSACDだが、その中に収められている音の品質はCDとは明確に違う。

 SACDは約2.8MHzという高いサンプリングレートで記録された1bitオーディオ信号(Direct Stream Digital=DSD)で音が収められている。DSDを用いる理由はいくつかあるのだが、分解能もダイナミックレンジも周波数特性も、CDよりも圧倒的に優れている。

 しかし、DSDはそのままではDAコンバータには入れることができないので、いったん、PCM信号に変換される。このとき、サンプリング周波数を落としながら24bitのPCMへと変換するデジタルフィルタ処理を行なうのだが、PS3はこの処理(デシメーション処理)を64bit浮動小数点演算で、実にまじめに処理を端折ることなく、教科書通りに実行するのだという。

 PS3のSACD出力はHDMI端子とアナログ2チャンネルのみ出力可能で、24bit 2fs(基準クロックの2倍。SACDの場合はfs=44.1で88.2kHzとなる)のPCM信号として引き渡される。DSDの品質は24bit/192kHz相当かそれ以上と言われいるので、これでは品質が落ちてしまうハズだ。

 ところが実際に音を聴いてみると、これが素晴らしく良い。HDMI 1.1以降に対応したAVアンプが必要となるが、もし聴ける環境があるならば試しにSACDを聴いてみてほしい。少なくとも我が家にある数十万円のSACDプレーヤーよりも、明らかに良い面が感じられる(良くないところもあるが、それはPS3の問題と言うよりも、HDMIの問題とみられる)。

 実はSACD再生のプログラムを書いた技術者は、オーディオ用デジタルフィルタを書くのは初めてだったとか。しかし、その分、演算誤差が可能な限りなくなるようチューニングにチューニングを重ねた結果、SACD専用に設計されたオーディオチップよりも音が良くなったのだ。ハードウェアよりも自由度の高いソフトウェアで処理を行なったことが、結果的に高音質を生んでいるのである。

 このあたりの高音質化に関しては、実際に開発を行なった技術者に話を伺っているので、別途、取材記事として掲載したい。

 なお、SACD再生時にCellにかかる負荷は思いの外大きく、なんとSPEを5個まるまるSACD処理に使うのだとか。今後はチューニングをさらに重ね、4fs(つまり24bit/176.4kHz)でのマルチチャンネルオーディオ出力をサポートする方向で、ファームウェアアップデートの開発が進められている。年内には公開される見込みという。

 ただし、CD再生に関してはストレートに出力しているようで、デジタルフィルタを通してサンプリング周波数が増加した音をHDMIから出力はできない。これにも理由がいくつかあるが、こちらも開発者の生の声として別途レポートする。ただし、将来的にはFIRフィルタで2倍あるいは4倍にアップサンプリングしたCDオーディオの出力をサポートする方向で、CD再生ソフトウェアの研究開発はしているという。

●PS3で良い音を出すコツ

 まずCD再生に関しては、PS3だから良い音がする、ということはない。光デジタル出力端子の品質も、アナログオーディオ出力もいたって普通だ。アナログオーディオ出力用には、一応、24bit/192kHz対応DACが搭載されているとのことで、ゲーム機としては十分なスペックがあるが、オーディオ用として期待してはいけない。

 オーディオプレーヤーとしてのPS3の能力を引き出すにはHDMI 1.1以降に対応する、それなりに高品質なAVアンプが必要になる。ここで対象ユーザーが大幅に減ってしまうのが残念だ。なお、TVなどでHDMI音声を受け付ける製品もあるが、最低限、24bit/96kHz以上を受け付けるものでなければSACDらしい音は出せない。

 またAVアンプのHDMI入力は、現時点ではまだ機種ごとに品質のバラツキが大きい。PS3から入力したHDMIの音が悪いと感じるならば、それはHDMI端子を選んだ時の音質に問題がある可能性がある。

 このように、HDMI経由という時点でやや条件が厳しくなるが、ここをクリアできればちょっとした工夫で、数十万円クラスのSACDプレーヤーよりも良い音が、PS3を用意するだけで手に入る。

・Tips その1 無線機能を使わない
 まずノイズ対策。PS3の無線機能は、すべてノイズ源となるようで、これらが機能しているだけで明確に音質が落ちてしまう。そこでネットワーク接続には有線LANを指定しておき、さらにBluetooth機器は接続しない。つまりワイヤレスコントローラはワイヤレスのまま使わず、USB端子に直接つないだ方が音がいい。

出力端子の選択画面

・Tips その2 HDMIから映像を出さない
 次に重要なのが、HDMI端子の使い方。HDMI端子は映像と音声を同時に送信できるが、映像が使う帯域が増えるほど音質が落ちる。たとえば映像を1080pで送った時と480pで送信した場合では、同時に送信する音声データのクオリティが1080pの場合、明確に落ちる。これは誰でも体感できるので、HDMI出力解像度を手動で切り替えられる機器(PS3もその1つだが)を持っているなら、自宅で試してみるといいだろう。

 そこで音楽再生時には、映像出力をアナログ(D端子でもいいが、コンポジットビデオの方がいい)に切り替えておく。これだけで音質がグッと良くなる。

 こうしてみると、PS3のHDMI端子が1個になってしまったことが惜しい。

PS3付属のコントローラ。PS3とBluetooth接続で使用できるが、音質を損ねないためにはUSB接続のほうがよい HDMIは当初発表の2ポート搭載から1ポートに変更された

・Tips その3 CD再生時は出力周波数を44.1kHzに切り替えておくこと
 上記はCDおよびSACD再生に共通するTipsだが、CD再生を高音質で楽しむつもりなら、設定メニューのミュージック設定で、CD再生時のサンプリング周波数をデフォルトの48kHzから44.1kHzに切り替えておくことも忘れないようにしたい。

 こうするとCD再生時にHDMIの映像が一瞬、途切れる(音声フォーマット切り替えのために接続し直しになる)のだが、音質は向上する。44.1kHzから48kHzへの周波数変換が行なわれなくなるためだ。

HDMIのリニアPCM出力設定

・Tips その4 筐体のたわみを緩和させること
 オーディオ機器は、実はかなりメカ的な構造に敏感だ。ややマニアックな話になるが、PS3の筐体のたわみが音を窮屈にしたり、あるいは振動を抑えきれないことが音質を低下させる。

 一目見て気になったのは足の小ささ。平置きがもっとも音が良くなるが、その場合でも足が小さすぎ、アクリル製の筐体が変形して基板にストレスがかかるようだ。振動吸収もいかにも悪そうなので、ここは振動吸収効果のあるゴムをインシュレータとして追加するといい。筆者の場合は、手元に余っていたオーディオ用のゴム足を敷いた。

 本格的には足を貼り付けた上で、アンダーシャシーを補強するといいだろうが、そこまでしなくとも、現時点では十分に良い音が出ている。

●映像プレーヤーとしてのPS3

PS3はスロットローディング式のBDドライブを備える

 映像プレーヤーとしてPS3を使う場合は、HDMIから映像を出すことが多いと思われるので、HDMIから映像を出さないという技は使えない。しかし、実際に再生させてみるとわかるが、実はDVDやBDを再生させた時の音も、HDMI出力の場合に限るとかなり良い音がするのだ。

 ただし、そのためには一工夫が必要。

 音声出力先を設定メニューからHDMIに設定する際、出力可能なストリームの種類を選ぶところがある。ここでドルビーデジタルやDTS、AACなどの圧縮ストリームを受け付けることが可能なAVアンプを持っているなら、通常はチェックを入れる(対応の印を付ける)のだが、あえてチェックを外した状態にしておく。するとPS3側でデコード処理を行ない、HDMI端子からサラウンドのリニアPCM音声で出力されるようになる。

 環境を持っているユーザーは、実際にストリームで出力した場合とリニアPCMで出力した場合の音を比べてみるといい。さて、どちらが音質がいいだろうか? これが特にオーディオにこだわらない人でもわかる程度に、PS3でデコードした方が結果が良くなるのだ。実はここでも64bit浮動小数点で誤差が出ないように配慮しながら丁寧に仕様書通りのデコード処理を行っているそうだが、その影響なのか、それとも別の原因なのかは不明だが、PS3のデコード品質の方がいい。

 さて、映像出力の品質だが、現時点のDVD再生品質は決して良くない。特に市販DVDソフトの再生品質が悪い。一番の原因は2種類のノイズリダクションが、いずれも強めにかかっているためで、DVDプレーヤーの設定で各ノイズリダクション設定を「切」にした方が情報量が増える。

 次にBD再生だが、とりあえず市販BDソフトを再生する場合は、民生用のBDプレーヤー(パナソニック製DMP-BD10)と同等の画質が出ているように見える。市販BDソフトは、いずれも1080pで収録されてるため、HDMI出力時に映像に手を加える余地がないためだ。

 全く同じかと言えば違いもあり、暗部に落ちる間際の色の出方や黒になる直前の階調の粘りは民生用BDプレーヤーの方が良いところもある。ただし、その違いは繰り返し同じシーンを見比べなければ気付かないだろう。

 では1080iの放送を録画したBD-RやBD-REの再生はどうか? フィルムソース(放送時に2-3変換が行なわれているもの。一般的な映画放送はすべて2-3変換が行なわれている)に関しては、きちんと2-3逆変換によってプログレッシブにきちんと変換される。ただしビデオソースに関しては、部分的にジャギーが出るところも見られた。

 このあたりを今後、どう処理していくのか。BD再生時の画質に関してさらに改善の余地はあるのか? については、こちらもソフトウェアでのBD再生機能を開発した技術者に話を聞いているので、別途レポートしたい。なお、その第1弾として内部処理をRGB16bit処理からYUV処理に変更した新デコーダを使用した新バージョンが、年内にダウンロード配布される予定になっている。

□関連記事
【11月11日】「PLAYSTATION 3」のAV機能を試す。消費電力170〜190W(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20061111/ps3.htm
【10月18日】PLAYSTATION 3の今わかるAV機能(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20061018/sce_ps3.htm

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(2006年11月17日)

[Text by 本田雅一]


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