大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソニー VAIO事業本部 石田佳久本部長インタビュー
~2007年はノンPC戦略を加速、低価格ノートPCも国内投入へ




石田佳久本部長

 国内PCメーカー各社のPC事業が低迷を続けるなか、ソニーのVAIO事業が好調だ。「2006年度は、VAIO事業始まって以来の好業績を達成できる」と、ソニーのコーポレイトエグゼクティブ シニアバイスプレジデント VAIO事業本部 石田佳久本部長は、その好調ぶりを示す。

 11月1日には、VAIO事業部門から、VAIO事業本部へと昇格。さらに、VAIOビジネスモデルの投入によって、法人向け市場にも打って出るなど、積極果敢に攻める。2007年には、VAIOブランドのノンPC製品も相次ぎ投入する考えだという。

 2006年から2007年にかけてのVAIO事業の取り組みを、石田本部長に聞いた。



--2006年のVAIO事業をどう自己評価しますか。

石田 順調な1年だったといえますよ。2005年度は、売上高では過去2番目、利益では過去最高を記録した。2006年度は、決して大きく上回っているわけではないが、それでも、売上高、利益ともに過去最高の業績が視野に入ってきています。

--2006年度上期決算を見ても、PCメーカー各社の業績はかなり厳しいものになっていましたね。ソニーのVAIO事業が好調な要因はなんですか。

石田 日本の市場だけを見ていると、高い成長を遂げているようには見えないでしょう(笑)。国内は前年並みといったところですから。実は、欧州、南米、アジアパシフィックといったエリアでの成長が高いんです。欧州市場は、B5サイズのノートPC市場が育ってきた。さらに、2005年にはロシアへの参入を果たしたのに続き、2006年はウクライナやトルコにも展開するなど、新規国展開が功を奏している。また、南米の市場では、これまでデスクトップが中心だった市場構造が変化し、ノートPCの比重が高まってきている。こうした海外市場での好調ぶりが下支えしている。

--11月1日に、従来のVAIO事業部門から、VAIO事業本部へと昇格しましたね。何が大きく変わるのですか。

石田 いや、なにも変わりませんよ(笑)。井原さん(=井原勝美代表執行役副社長)と、「なぜVAIO事業だけ、事業部門なんでしょうか。変じゃないですか」という話になった。「それならば、事業本部にしようか」ということで話が決まっただけですから(笑)。

--外から見ていると、大きな昇格のように見えますよ(笑)。計画予算も大幅にハードルがあがったような(笑)。井原副社長からはどんなことを言われましたか。

石田 ソニーのエレクトロニクス事業の柱の1つになってくれ、といわれました。これまでにも、エレクトロニクス事業における存在感はあったものの、利益や売り上げという点では、どうしても不安定な部分があった。また、ここ数年の業績は比較的フラットで来ていましたから、もっと成長戦略を描く事業にしてほしいと。柱というからには、やはり成長事業でないといけない。

--この1年を振り返ると、石田本部長は、「所有感へのこだわり」ということを徹底していたように感じましたが。

石田 PCは、プラットフォームが定義され、製造に関しても水平分業の世界で作られる。差別化が大変難しい製品です。だからといって、どのPCメーカーが作っても同じ、と言うんじゃ面白くない。ソニーは、VAIOの事業を開始した当初から、持つ喜びや使う喜び、人に見せびらかしたくなるといった点にこだわってきた。これを違う言葉で示したのが、「所有感」、あるいは「Pride of Ownership」ということになる。つまり、ソニーのVAIO事業の原点に戻ろう、ということを言ってきたのです。

VAIO type U

 ただ、ここで大切なのは、モノを作る人だけがこだわりを感じていては駄目だということ。例えば、「VAIO type U」を、ユーザーが手にとった時に、機能や操作性、持ち心地といった作り手のこだわりが伝わらなくては、単なるメーカーの押しつけにしかならない。使う人に伝わるということが大切なんです。

 VAIOは、“ルームリンク”という機能を提供してきましたが、これを量販店店頭に置いてもまったく伝わらなかったという過去の反省がある。ちゃんと説明できるような仕掛けになっていなかったから、お客に説明できないんです。いくら作り手がこだわっても、ユーザーに伝わらなくては意味がない。ですから、今年(2006年)は所有感という言葉とともに、相手に伝えるということの大切さを徹底しました。

--ソニーはエレクトロニクス事業において、「HD World」という方針を打ち出しました。その中で、ハイビジョン映像を編集する役割として、VAIOが組み込まれた。しかし、これは、一部のユーザーに対するメッセージに留まっており、薄型TVやハイビジョンハンディカムなどにおける「HD World」の訴求に比べると弱い感じがします。ユーザーには、このメッセージが明確に伝わりきっていない感じがしますが。

石田 デジタル画像の信号処理という意味では、PCは大変優れた威力を発揮する。HD Worldのなかで、VAIOの役割は極めて重要であり、これがないとソニーが打ち出すHD Worldは成り立たない。Blu-rayドライブを搭載したリビングルームPCの「VAIO type X Living」や、ノートPCながらもBlu-rayドライブを搭載した「VAIO type A」といったラインアップに加え、ボードPCというコンセプトを打ち出した「VAIO type L」にも、直販のVAIO・OWNER・MADEモデルではBlu-rayを選択できるようにした。「VAIO type R master」のように、HDMI端子を持たずに、プロフェッショナルユーザーがハイビジョン画像を取り扱うことだけに特化したようなモデルも用意しており、HD Worldに対して、さまざまな領域の製品を用意できたと考えている。これからも、ラインアップの強化は加速していくことになるでしょう。

リビングルームPC「VAIO type X Living」 BDドライブを搭載した「VAIO type A」 ボードPCという新ジャンルを打ち出したVAIO type L

 また、具体的な利用提案については、銀座のソニービルで、HD Worldに関連したVAIOの展示を行ない、実際にエンドユーザーが撮影した映像を編集するといったこともやっている。しかし、こうしたシーンを見せることができるのは、確かに、いまはここだけであり、利用提案の場を増やしていく必要があるかもしれない。量販店店頭などで、こうした提案ができればいいとは考えています。ただ、これも、販売店の協力を得ないといけないですからね。BRAVIAやハンディカムとの共同での売り場づくりも必要だと思います。

ビジネス向けモバイルノート「VAIO type G」

--2006年は、VAIOビジネスモデルとして、「VAIO type G」を新たに発売し、法人向け市場に本格的に乗り出しましたね。

石田 実は、2005年度下期から、BtoB事業を担当する専任者を置き、市場参入の準備を進めてきました。先にも触れたように、ここ数年、VAIO事業の売上高がフラットに推移していましたから、国内市場において、一段階飛躍する仕掛けが欲しい。それが、BtoB事業だと判断したのです。

--この1年間の準備はスムーズにいきましたか。

石田 いや、いろいろな困難がありましたよ。中でも、最大のポイントは、4:3の画面でないと市場で戦えないという報告があがってきた時でした。正直、迷いました。海外では完全にワイドスクリーンに移行しているし、ソニーはワイドスクリーンをリードしてきた自負もある。また、私自身が、仕事で個人的に使ってみても、ワイドスクリーンの方が使いやすい。国内の法人市場向けに限定したまったく別の仕様のPCを用意するのは、かなりの決断を要しました。しかし、この報告は、1,300社にのぼる日本の企業に、実際にヒアリングして得た結果です。それならば、間違いないだろうと判断して、2006年の前半には、4:3のスクリーンで行くと決意しました。

--なぜ、モバイルノートPCでの市場参入としたのですか。

石田 ソニーのVAIO事業の強みが生かせる分野だと思ったからです。もともとVAIOの特徴は、「軽・薄・スタミナ」。つまり、薄くて、軽くて、バッテリ駆動時間が長いというものです。そして、マグネシウム合金をいち早く採用するなど堅牢性にも力を注いできた。ビジネスモバイルPC分野で、すぐに戦える要件が揃っていたのです。

 だが、それだけではなく、法人向けPCを製品化するにあたって、もっとその点をアピールできるようにしたいと思った。とにかく、徹底して、薄さ、軽さ、電池寿命、堅牢性を追求しようと。マルチカーボン構造としたのも、軽さと堅牢性を、徹底して追求した結果です。開発チームには、目標の数値をクリアするための試験ではなく、どこまでやったら壊れるのか、という試験をやってくれと要望した。壊れる限界というものを知って、その上で、スペックを決めていく。結果としては、満足のいくスペックになったと考えています。自信があるからこそ、VAIOのホームページで、落下試験や衝撃試験、加圧試験などの動画をお見せしているのです。

--製品発表会見では、2009年には、国内向け出荷のうち、約30%を法人向けとし、その間、年率50%増の成長を遂げるという意欲的な目標を掲げましたが。

石田 ビジネスモバイルという市場は、ニッチともいえる特殊な市場ですし、ソニー自身が法人向けルートを開拓していくのはこれからです。社員数1,000人以上の規模の会社や、官公庁といったところには、当分入っていくことは難しいであろうことはわかっています。また、グローバル展開をしているような大規模な企業では、全世界同じ価格で、同じ納期、同じサービス内容が求められるが、ソニーでは、こうした法人が要求するレベルの体制は残念ながら整っていない。まずは、SMBと呼ばれる中堅/中小企業の領域から攻めていくことになりますね。焦らずに、身の丈にあわせて事業を拡大していくつもりですよ。

--type Gは、海外展開も視野に入れているのですか。

石田 これは、日本の企業の要求を聞いて製品化したものですから、基本は日本市場での展開となります。むしろ、「米国市場には売るな」という指示を出していますよ。日本での販売チャネルの拡大を最優先として取り組んでいきます。

--出荷シェア30%の目標に向けては、当然、1機種だけでは戦えませんよね。

石田 すでに「VAIO type BX」といったビジネスシーンを意識したノートPCを投入していますし、あとは、モバイル系のものを強化していくということも考えたい。ただし、デスクトップPCではビジネス分野に参入する考えはありませんよ。この分野は、ソニーの特徴を生かせないし、なにしろ儲からない(笑)。基本的には、BtoB市場は、ノートPCの領域で展開していくつもりです。

--type Gは、12月2日から出荷を開始しましたね。初期の手応えはどうですか。

石田 ほぼ予想通りの出足ですね。ディストリビュータの販路を利用して、二百数十店舗の量販店店頭にも展示していますが、こちらも出足は順調です。まぁ、法人向けは時間がかかりますから、そんなにあわてて数字を追ったりはしませんよ。とはいえ、早い段階で、国内出荷台数の10%程度をBtoB向けの製品で占めるようにはしたいと思っています。

--ところで、2007年は、ソニーのVAIO事業にとって、どんな1年になりますか。

石田 とにかく成長を目指す。そのために、2007年は製品カテゴリを増やしていく考えです。2006年は、パーソナルコミュニケータの「mylo」の投入など、新たな挑戦をいくつか行ないましたが、2007年もこうした領域の製品を強化するとともに、オーディオ分野の製品などにも力を注ぎたいですね。いずれにしろ、デジタルホームの世界をきちっとやっていくことは2007年の課題の1つです。PC領域でのデジタルホーム機能の強化のほか、「Xビデオステーション」のような、VAIOブランドのノンPCといわれる領域の製品を増やしていきたい。USB系のオーディオ製品というカテゴリにも、VAIO事業本部として取り組んでいく考えです。トータルとして、ノンPCと呼ばれる製品が増えることになるでしょうね。

 もう1つは、価格訴求ができるノートPCの投入。すでに北米では、市場想定価格899ドル(編集部注:実売価格は599ドル前後)という製品を投入していますが、日本でも同様の製品を投入していく。まだ最終的な仕様や価格は決定していませんが、国内市場において、これまでVAIOが取り組んできたものとはまったく別の戦略になります。とにかく、成長戦略に向けて、さまざまなことに取り組む1年になりますよ。楽しみにしていてください。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□VAIOのホームページ
http://www.vaio.sony.co.jp/
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(2006年12月13日)

[Text by 大河原克行]


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