山口真弘の電子辞書最前線

第8回 シャープ「PW-AT750」
手書きパッドを搭載した2画面モデル




シャープ
「PW-AT750」

11月15日 発売

価格:52,500円

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  シャープの電子辞書「PW-AT750」は、100コンテンツを搭載した生活総合モデルだ。キーボード手前に搭載された「手書きパッド」とスタイラスの組み合わせで、読み方が分からない漢字を簡単に検索できるのが特徴だ。

●100コンテンツ収録で音声にも対応、さらに「手書きパッド」を搭載

製品本体。実売価格2万円後半~3万円前半と、音声出力対応の100コンテンツモデルとしては価格的にもこなれている

 電子辞書としてはいわゆる「生活総合モデル」に分類される本製品は、100コンテンツ収録、音声にも対応した電子辞書だ。従来の同社製品のラインナップには「100コンテンツ」「音声対応」が揃った機種が存在しなかったが、本製品および姉妹機種「PW-A700」の登場で、競合他社に対抗しうるマトリクスが補完されたことになる。

 PW-A700と比べた際の本製品の最大の特徴は、キーボード手前に「手書きパッド」が搭載されていることだ。感圧式のこの小型液晶画面にスタイラスで「手書き」すれば、読み方が分からない漢字などを、簡単に検索することができる。

 こうした手書き検索方式は、これまでキヤノン「wordtank」の一部機種などには装備されていたが、手元に装備された子画面に書き込めるのは新しい。ちなみに漢字だけではなく、ひらがなやカタカナ、アルファベット、数字にも対応しているので、すべての文字をキーボードレスで手書きパッドから入力することも可能である。

●薄型でスタイリッシュ。キーボードレイアウトはやや特徴的

 まずは基本的な仕様から見ていこう。

 筐体色はシルバー。表面はクロスヘアライン加工で、側面のミラー加工とあいまって高級感を感じさせる。本体面積は現行の電子辞書の中ではやや大判で、胸ポケットに収めるのは困難だ。本体後部がややせりあがっていた従来製品と異なり、本製品は後部までフラットな作りになっており、従来の100コンテンツモデルのPW-A8410に比べてスタイリッシュな印象を受ける。

最薄部は11.9mmと非常にフラットで、上蓋のフォルムも従来のシャープ製品とはやや異なる印象 手書きパッドの搭載もあり、表面積はやや広め。スーツの胸ポケットに入れるのは苦しい パスポートとの比較
京ぽん2ことウィルコムWX310Kとの比較。本体の薄さがよく分かる
左側面。イヤフォンは3.5mmプラグを採用しているので、携帯音楽プレーヤーなどと共用可能 右側面。SDカードスロットはコンテンツカードの読み込みに対応。市販のSDカードは利用できない 単4電池2本で駆動

 キーボードはQWERTY配列。詳しくは後述するが、手書きパッドの搭載により、従来機種と比べるとキーボード手前のキー配列が大きく異なる。従来機種から本製品に乗り換える場合は、たとえ同じシャープ製品からの乗り換えであっても、違和感を感じるかもしれない。とはいえ「検索/決定」ボタンがこれまでの中央から右端に移動したのは、むしろPCのキーボードレイアウトに近くなったこともあり、個人的には歓迎したい。

キーボード部。手書きパッドの搭載により、従来機種では中央にレイアウトされていた検索/決定キーが右側に移動している。他のキーもかなりタイトな配置だ 同じく音声出力対応&100コンテンツ搭載のカシオXD-ST6300(右)とキーボード面を比較した図。キーの上下幅が狭いことがよく分かる

 また、キーの幅、つまり横方向のサイズは従来機種並みなのだが、縦方向のサイズは従来機種に比べて極端に短くなっている。従来機種に比べると、指の腹よりも指先でキーをつつくような感覚で操作しなくてはいけない。誤って上下2段にわたってキーを同時に押してしまうことはなさそうだが、タッチタイプにはやや不向きだ。

 手書きパッドと組み合わせて使用するスタイラスは伸縮するタイプで、本体の右側面から取り出す。 押し込むと自動的に短くなって収納され、取り出す際も自動的に伸びるので、わざわざ指でつまんで伸ばす必要がないのは便利だ。大きさは太さ、長さともにやや小柄に感じる。

 音声出力機能は、ネイティブ音声とTTSの2方式を搭載しており、キーボード左手前のスピーカーもしくはイヤフォンで聞くことができる。なお、発音のスピードを3段階で調節する機能も備えている。

手書きパッドはキーボード手前に装備される。さながらノートPCのタッチパッドのようだが、画面をスクロールさせるような機能は無い。パッドの面積は大判の切手サイズ スタイラスは右側面から取り出す方式。電子辞書ケース、とくにセミハードタイプのケースに入れていると取り出しにくいので注意が必要だ スピーカーはキーボード左手前にレイアウトされている。出っ張りがあるためやや違和感がある

 画面はモノクロ320×240ドットで、文字サイズは5段階で可変する。バックライトは非搭載なので、暗い場所での利用には向かない。ちなみに手書きパッド部は128×96ドットである。

 重量は約259g、電源は単4乾電池×2本。電池寿命は140時間と、通常利用にはまったく問題ない。ACアダプタはオプションも含め用意されていない。

文字サイズは5段階で可変する

●充実の100メニュー。音声出力コンテンツの強化も目立つ

 次に、コンテンツおよびメニューについて見ていこう。

 コンテンツ数は100。旺文社の「漢字ターゲット1700」、および前出の百人一首コンテンツが追加になったのが目立つ程度で、従来の100コンテンツモデルと大きな変化はない。脳力トレーニング系のコンテンツも健在だ。

 従来機種とコンテンツは同じでも、音声出力に対応している点が本製品の特徴である。英語にとどまらず古語辞典(和歌)などにも対応しているなど、先に発売された学習向けモデル「PW-V9550」の系譜に連なる機能が装備されている。中でも、百人一首の句を日本語で抑揚をつけて読み上げてくれる機能はユニークで、外部スピーカーに接続すれば百人一首大会にも十分使えるレベルに仕上がっている。

 メニューの形式は従来のシャープ製電子辞書と同じ、横並びのタブ形式。コンテンツの並び順を自在に変更することもできるので、My辞書機能と併せ、利用頻度の高いコンテンツを使いやすいように表示できる。

 My辞書には10のコンテンツを割り当てることができ、優先的に呼び出すことができる。ちなみに上位5つのコンテンツは手書きパッドに表示され、スタイラスでタッチして呼び出すこともできる。また、コンテンツによっては補助入力メニューが表示されるので、複数辞書検索などが容易に行なえることも特徴だ。

メニュー画面。従来のシャープ製品と同様の横型タブ表示 デフォルトの状態では、My辞書に登録したメニュー上位5つが手書きパッドに表示され、ここから各コンテンツを起動することができる。さながらアプリケーションキーのようだ

●漢字検索に極めて有効な手書きパッド

 では本題、手書きパッドについて見ていこう。

 手書きパッドは切手ほどの大きさで、キーボード手前に搭載されている。主な機能は3つで、文字入力機能、Myメニューを表示する「My辞書ミニ機能」、さらに検索を補助する「検索選択画面」だ。いずれも付属のスタイラスを用いて操作する。

 文字入力機能は、読み方が分からない漢字などをこの手書きパッドに書くことにより、候補となる漢字が手書きパッド上部に表示されるというもの。手書きすると候補の漢字がいくつか表示されるので、該当の漢字をタップすれば、メイン画面にその文字が入力されるというわけだ。

 実際に何文字か入力して試してみたが、漢字の検索方法としては非常に実用的だと感じる。わざわざ総画数や部首から調べなくても、直感的に漢字を検索できるのはメリットとして大きい。手書きパッド自体も、漢字一文字を記入するには十分な面積が確保されており、使いづらいことはない。

手書きパッドはスタイラスと組み合わせて利用する。漢字のほか、ひらがな、カタカナ、アルファベット、数字にも対応する 手書きパッドを利用して「漢字ターゲット1700」のテストにチャレンジ。ここでは<ケンイ>の漢字を手書きパッドを用いて入力する スタイラスを利用して漢字を入力しているところ。認識できる漢字はJIS第1水準、第2水準の範囲に限られる
入力した文字に該当する候補が上段に表示された。いちばん左の「権」以外の候補を選択する場合はスタイラスでタップする 手書きパッド右横の「候補拡大」を選べば、候補が中央に拡大表示される 続いて「威」の字も入力し、決定キーを押すと正解であることが表示される

 そもそも、部首から調べたり、総画数から調べる方法は万能とは言えない。部首は知っていなければ検索そのものが不可能だし、総画数にしても間違えることは多々ある。日本人が中国語、簡体字の読みを調べようとしても、調べ方そのものが分からず混乱することを考えれば理解しやすいだろう。検索するにも一定のリテラシーが必要になるわけである。

辞書コンテンツ利用時は、他辞書との連携検索に便利なキーが表示される

 そうした意味で、本製品のようにズバリ手書きで入力して検索するというのは、非常に理にかなった方法だ。紙の辞書と違い、電子辞書には電子辞書に合った検索方法が用意されていてしかるべきであり、本製品の手書きパッドはまさしくそれを具現化したものと言える。

 若干問題があるとすれば、2つの液晶画面の一方がタッチ入力対応、もう一方が非対応というハードウェア面だろう。具体的にどういうことかというと、手書きパッドを使い続けていると、思わずメイン画面もスタイラスでタッチしたくなるのだ。これはユーザビリティ的には如何ともしがたい問題である。購入直後はこうした「勘違い」がたびたび発生する。

 同様に、スタイラスを使っているうちに他の部分、例えばキーまでスタイラスで押したくなるという問題もある。いちいち人差し指でキーを押すのではなく、今握っているスタイラスを使って押してしまいたい心理については、理解できるという方も多いだろう。本製品の場合、手書きパッドが離れた位置にあるのではなく、周囲にキーがぎっしりとレイアウトされているため、ついついこうした状態になりやすい。

 筆者はこうした入力インターフェイス、特に電子辞書インターフェイスのユーザビリティに関して統計的な情報を持つ立場にないが、いずれはメイン画面を含めたタッチスクリーン化、場合によってはQWERTYキーを含めた入力方法の見直しにまでつながってくるのかもしれない。

●生活総合モデルとして秀逸なインターフェイス。今後の進化にも注目

 本製品までにも、タッチスクリーン方式を採用した電子辞書は存在した。しかし、直立した画面に向かって記入するのと、平面に置かれた手元のパッドに入力するのとでは、使いやすさはまったく違う。本製品の手書きパッドは感覚的にも「手書き」そのもので、誰にでも馴染みやすい。家族で使える生活総合モデルとして、相性がよいインターフェイスだと言えそうだ。日本語を学ぶ外国人にとっても便利なインターフェイスかもしれない。

 余談だが、本製品発表からしばらくして、ワンセグ機能搭載の電子辞書「PW-TC900」が発表された。こちらの製品のレビューは追ってお届けするとして、これまでコンテンツによる差別化が主だった電子辞書の中で、コンテンツ以外の部分で方向性の違いが現れはじめたことは非常に興味深い。特に本製品については、電子辞書の入力インターフェイスに今後どのような影響を与えることになるのか、次世代のモデル、他社モデルも含めて注意深く見守っていきたい。

【表】主な仕様
製品名Papyrus
PW-AT750
メーカー希望小売価格52,500円
ディスプレイ5.4型モノクロ
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約140時間
拡張機能コンテンツカード
本体サイズ141.9×108.3×18.7mm
(幅×奥行き×高さ)
重量約259g(電池含む)
収録コンテンツ数100(コンテンツ一覧はこちら)

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/papyrus/lineup/pw-at750/
□関連記事
【11月7日】シャープ、“手書きパッド”搭載の100コンテンツ電子辞書
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1107/sharp.htm
【9月6日】【山口】シャープ「PW-A8410」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0906/jisho005.htm

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(2006年11月28日)

[Reported by 山口真弘]


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