6月15日 発売 価格:47,250円 連絡先:お客様相談センター シャープの電子辞書「PW-A8410」は、100コンテンツを搭載しながら実売1万円台の低価格を実現したエントリーモデルだ。希望小売価格は高めの設定だが、通販サイトでは1万円台の後半から2万円台後半くらいで販売されている。 「脳を鍛える電子辞書」と銘打たれた本製品は、脳力トレーニング系のコンテンツを中心としたライフサポート機能が充実していることが特徴である。 ●家族向けのオールマイティな製品。音声出力機能はなし 本連載第1回で紹介したカラーモデル「PW-N8100」と同時発表されたスタンダードタイプの電子辞書が、今回紹介する「PW-A8410」である。いわゆる生活総合モデルに分類される本製品は、特定のジャンルに特化しない代わりに、業界最多となる100ものコンテンツを搭載し、家族の誰もが使えるオールマイティな製品と位置付けられている。また、実売1万円台の戦略的な価格設定も特徴的だ。 本体はカラーモデルのPW-N8100と比べて一回り大きく、同じ100コンテンツモデルであるカシオの「XD-GT6800」よりは幅がやや短い。ポケットに入れるにはやや大きめの筐体だが、全体的に丸みを帯びて厚みもあったPW-N8100と比べると筐体は薄く、書類などと一緒にカバンに収納しやすい。なお、筐体色はシルバーのほか、パールホワイトもラインナップされている。
キーボード盤面は、青系のカラーが特徴的だった従来モデルの「PW-A8400」に比べると、シルバーを基調にした落ち着いた配色に変更されている。キーのベース色も色分けされており、視覚的にわかりやすい。 キーの形状は角型。サイズはじゅうぶん大きく、キーピッチも約14mmと、タッチタイプにも余裕がある。丸型キーを採用したPW-N8100と比較しても、かなり入力しやすい印象だ。キーそのものはカシオ製品と比べるとやや硬めで反発力があり、どちらかというとキヤノン製品のタッチに近い感がある。 キー数は71個と多め。右上に並ぶ「後退」と「クリア」キーを押し間違いやすい点や、「ズーム」キーと「文字小」、「文字大」キーの意味の違いが一見分かりにくい点など、難点がないわけではないが、慣れれば特に問題ないレベルだろう(ちなみに「ズーム」は特定行だけ拡大する場合に用いるキーである)。
液晶については、このクラスの製品には珍しく、バックライトを装備していない。そのため、薄暗い場所、例えばプロジェクタを使う会議室など照明を落とした場所での使用は困難だ。ただし、画面のコントラストは十分確保されており、通常利用において見づらいと感じることはない。他社製品ではバックライトがないと実用に耐えない製品も見受けられるが、少なくとも本製品においてその心配はない。 画面サイズは5.4型と大きいが、ドット数は320×240ドットと標準的。480×320ドット表示をサポートしたカシオ製品には劣るが、5段階の文字サイズ切り替えでうまくカバーしている印象だ。1つの画面に多くの情報を収めたい場合でも、ストレスを感じることは少ないだろう。
現在の電子辞書の1つのトレンドとなっている音声出力機能は、本製品には搭載されていない。同じ100コンテンツモデルとして競合にあたるカシオのXD-GT6800やXD-ST6300には音声出力機能が装備されているので、購入機種を選定する場合は、この機能の有無と価格差をどう見るかがポイントになるだろう。 音声出力機能がないことから、本体右側面には音量調整のダイヤルの類もなく、すっきりした印象だ。また、キーボード手前にスピーカーがないため、キーボード手前は全体的に余裕が感じられるキーレイアウトになっている。 本体右側面にSDカードスロットを装備しているが、追加コンテンツカード専用の設計となっており、市販のSDカードは読み込めない。そのため、外部のテキストやJPEGデータをSDメモリーカード経由で読み込むことは不可能だ。また、カシオ製品のように、本体内蔵メモリに追加コンテンツをコピーし、複数の追加コンテンツを同時に利用することはできない。 重量は約258gと、このクラスの電子辞書としては標準的で、競合製品とも同水準。電源は単4電池×2本で駆動し、電池寿命はおよそ200時間と、こちらはかなり長めの部類に入る。上位機種にあたるPW-N8100が約20時間しか持たないことを考えると雲泥の差だ。
●100コンテンツを搭載するも「広く浅く」の傾向 本製品は、業界最多の100コンテンツを搭載していることが大きな特徴である。連載第2回のカシオXD-GT6800の際も触れたが、現行機種で100を超えるコンテンツを搭載しているのは、シャープ製品は本製品だけ、あとはカシオ製品の数機種しかない。 ただ、本製品の場合、コンテンツ数は100と多いが、全般的にはあくまでも「広く浅く」の傾向にある。例えば、10万見出し語以上を収録したコンテンツは、本製品ではスーパー大辞林1つしか搭載されていないが、同じ100コンテンツ搭載モデルの、カシオXD-GT6800では、収録されている広辞苑、ブリタニカ国際大百科事典、日本語大シソーラス、ロングマン現代英英辞典の4つのコンテンツが10万以上の見出し語を持っている。 また本製品では、100のコンテンツのうち、見出し語が1,000を下回るミニコンテンツが全体の半数以上を占めているが、XD-GT6800では全体の1/3にとどまっており、ここでもXD-GT6800に軍配が上がる。つまり、コンテンツ数そのものは同じ100個でも、それに含まれる見出し語の数は平均して少なく、全体として「広く浅い」方向性が読み取れる。メーカーごとに見出し語のカウント方法に多少の違いがあったとしても、全体の傾向としては上記の通りで間違いないだろう。
ただ、本製品は上位モデルに当たるPW-N8100と同様、複数コンテンツの検索機能が充実しており、単語の範囲を1文字単位で選択しての検索や、部分一致/完全一致といった切り替えがタブボタン1つで行なえる。これらを利用して、検索結果から他のコンテンツに「横入り」することが容易なため、コンテンツそのものが「広く浅く」であっても、これらを横断して活用しやすい構造になっている。この点は高く評価したい。 ちなみに、メニューの表示は縦型のタブ方式を採用している。コンテンツの並び替え機能もサポートしているので、よく使うコンテンツをメニューの上の方に配置できるほか、お気に入りのコンテンツをMy辞書に登録しておくことも可能だ。100個という豊富なコンテンツを活用できるよう、操作性の面で工夫されている点は好印象だ。 ●脳力トレーニングコンテンツなど「ライフサポート機能」が充実 本製品搭載のコンテンツの中で特徴的なのは、同社が「ライフサポート機能」と呼ぶコンテンツ群だ。具体的には、脳力トレーニング系のコンテンツのほか、年金計算、住宅ローン計算のためのシミュレーターを搭載していることが挙げられる。 特に脳力トレーニング系のコンテンツについては、「脳を鍛える電子辞書」という製品コピーに端的に表現されているように、本製品の目玉機能と位置付けられている。家電量販店で本製品の展示を見ると、電子辞書というよりも、脳力トレーニング用の機器であり、そこに辞書機能が合体しているかのように感じられるほどだ。 これら脳力トレーニング系のコンテンツでは、計算問題が多いことから、自然と数字入力の機会が多くなる。本製品の場合、他社の電子辞書のようにQWERTYキーとの併用ではなく、1~0までの独立した数字キーが上段に用意されているので、数字の入力が非常に行ないやすい。キーのサイズそのものが小さいのは難とはいえ、ハードとソフトがきちんと連動している点は素直に評価できる。電卓として利用する場合も含め、数字の入力においては一日の長がある印象だ。
その一方、これら以外のコンテンツ全般を見渡すと、2つの大きな問題がある。1つは、音声出力機能がないことで、やや力不足に感じかねないコンテンツがそのまま掲載されていることだ。例えば、TOEICのコンテンツは穴埋め問題が延々と出題されるだけで、本格的なTOEIC対策には力不足だし、7カ国語を網羅した旅行会話のコンテンツでは文章がカタカナでの読みとともに表示されるだけで、耳で聞いて覚えることはできない。こうした部分に物足りなさを感じるなら、やはり音声出力機能を搭載した製品をチョイスしたほうがよいと思われる。 もう1つは、いかにオールマイティな方向性を狙った電子辞書とはいえ、収録コンテンツの配置があまりにも無節操なことだ。例えば、ライフサポートのメニュー画面の2ページ目だと「大人のIQテスト」のすぐ下に「日本史年代暗記ターゲット」という学生向けのコンテンツがあったかと思えば、その下には「わかる!年金+年金シミュレーター」といったコンテンツがあるといった具合だ。 確かにメニューの並び替え機能があるとはいえ、せめて学生、社会人、主婦など、ターゲット層ごとのアイコンを表示するくらいの工夫はあってもよかったように思われる。
●入門機、紙辞書からのリプレースにお勧め 方向性としては、音声出力機能やバックライトをバッサリと切り捨て、電子辞書本来のスタンダードな機能で勝負しようとする方向性が見て取れる。恐竜的な進化を遂げる上位機種とはまったく別に、紙辞書からの買い替えを中心とした家族向けの入門機として位置づけられていると思われる。 そのぶん、他社同等製品と星取表を用いて比較をした場合、音声出力機能やバックライトなど、欠けている機能が目立ってしまうのは仕方のないところだ。もっとも、音声出力機能やバックライトは、使わない人はまったく使わず、持ち腐れになっているケースも多いと思われるので、それらの機能を排除することで実売ではリーズナブルな価格を実現した本製品は魅力的だろう。 総括すれば、良く言えばオールマイティ、悪く言えば個性のない製品、といった評価になるだろうか。高校生が受験向けに購入するのであればセンター試験向けのリスニング機能がついた機種のほうが望ましいだろうし、海外旅行用途であればやはり発音機能は保険としても欲しい。特定の目的を持って電子辞書を購入しようと考えているユーザーや、日常的に辞書をヘビーに使い込んでいるユーザーからすると、物足りなさを感じるのは事実だ。 それでも、まずは電子辞書というツールの使い勝手を試してみたい場合、実売価格も考慮して、非常に魅力的な製品であることは事実だ。これだけのコンテンツが揃っていれば評価にはうってつけだし、それらを横断して使える機能が充実しているのもまた心強い。家族個人個人がそれぞれどのようなコンテンツを利用するのか、それを見極める入門機としてチョイスするのであれば、悪くない選択肢だと言えるだろう。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2006年9月6日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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