このところ、薄型、軽量かつ堅牢性に優れたサブノートが次々に登場し、モバイルユーザーにとって目移りする嬉しい状況が続いている。そういった中で、また新たなマシンが登場した。それが、工人舎の「KOHJINSHA SAシリーズ」だ。軽量かつ堅牢性が高いだけでなく、小ささにもこだわっており、サイズ的にはサブノートというよりミニノートに分類したほうがいいマシンとなっている。 今回、40GB HDD搭載モデル「SA1F00A」をいち早く試用できる機会を得たので、さっそく詳細を見ていくことにしよう。 ●往年のLibrettoやLOOXを彷彿とさせる超小型マシン 現在発売されている、いわゆる“サブノート”というカテゴリーに位置付けられるモバイルノートは、その多くが12.1型液晶を搭載し、重量が1kg前後~1kg前半という製品が中心。CPUにデュアルコアCPUであるCore Duo/Core 2 Duoを搭載する製品も存在し、モバイル性とヘビーなビジネス用途にも耐えられるパフォーマンスを兼ね備えた非常に人気の高いカテゴリーとなっている。 ただ、多くの製品が、スペック的に似通っているのも事実で、いわゆる“尖った”製品はあまり多くないように思う。しかし、工人舎から発表された「KOHJINSHA SA1F00A」(以下SA1F00A)は、そういった一般的なサブノートとは異なる、久々に“尖った”特徴を持つサブノートである。 まず、SA1F00Aの大きな特徴と言えるのが、その非常に小さなボディだ。フットプリントは、約218×163mm(幅×奥行き)と、一般的なサブノートよりも一回り、いや二回りほど小さくなっている。サイズだけを見ると、10年前に登場して一世を風靡したミニノート「Libretto」シリーズや、マルチメディアモバイルというカテゴリーを築き上げた往年の「LOOX」シリーズを彷彿とさせる。そういう意味では、SA1F00Aは“ミニノート”に位置付けられる製品と言っていいかもしれない。 また、単純にフットプリントが小さなだけでなく、本体の厚さも約25.4mm(最薄部)と、十分な薄さを実現。しかも、耐荷重100kgfという十分な堅牢性も兼ね備えている。 本体重量は約960gで、実際に手に取ってみると、サイズが小さいこともあって、かなりずっしりとした感じを受ける。とはいえ、1kgを切る重量であり、十分な軽量性を実現していると言っていいだろう。非常に小さく薄いボディと高い堅牢性も合わせ、モバイル性は非常に高く、常に気楽に持ち歩けるミニノートに仕上がっている。
●カーナビ用の7型ワイド液晶を採用 小さなボディを実現する原動力となっているのが、液晶ディスプレイだ。SA1F00Aに搭載されている液晶ディスプレイは、800×480ドット表示に対応する7型ワイド液晶だ。この解像度とサイズを聞いてピンと来る人もいるかもしれないが、この液晶パネルは、カーナビゲーションシステムの液晶ディスプレイで広く利用されているものだ。このカーナビゲーションシステム向けの液晶パネルをノートPC用として始めて採用することによって、本体サイズの小型化を実現している。 バックライトにはLEDバックライトを採用。また、表面は光沢のあるグレア処理が施されており、明るさや発色は申し分ない。静止画や動画など、マルチメディアコンテンツも十分なクオリティで楽しめる。 ただ、やはり解像度の低さはどうしても気になってしまう。水平方向が800ドットあるのはいいが、垂直方向が480ドットしかないのはやはり厳しい。初期状態では、Windows XPを起動するたびに表示解像度の警告が表示されてしまう。とはいえ、このサイズでより高解像度の液晶パネルを採用すると、文字などの視認性が落ちてしまうし、コストも跳ね上がる。かといって、より大きなサイズの液晶パネルを採用すると、当然本体サイズに跳ね返ってしまう。本体サイズと価格を両立するためには、この液晶パネルの採用がベストだったということだろう。 液晶ディスプレイは180度回転できるようになっており、液晶ディスプレイを外に向けてたたんで利用することも可能。これは、コンバーチブルタイプのタブレットPCとほぼ同じ機構である。タブレット機能は用意されていないものの、液晶ディスプレイ左にはスティックタイプのポインティングデバイス「スティックポインタ」、右にはマウスボタンとスクロールボタンが用意されており、液晶ディスプレイを外向きにたたんだ状態でも満足できる操作性を実現している。 個人的には、スティックポインタの高さがあまりないためやや滑りやすく、マウスボタンが左右ではなく上下に配置されていることもあり、カーソル操作やクリック操作でやや戸惑うこともあったが、両手で操作できることもあって、慣れれば軽快に利用できそうだ。少なくとも、液晶ディスプレイ部表裏にスティックとボタンが配置され、片手で操作する初代Libretto 20のポインティングデバイスよりも遙かに扱いやすい。
●小型ボディながら16.8mmピッチのキーボードを搭載 本体が小さくなると、どうしてもしわ寄せの及ぶデバイスがある。それは、キーボードだ。キーピッチを小さくすれば操作性が大きく損なわれてしまうため、ある程度のキーピッチを確保したいものの、そのためには当然サイズも必要となる。サブノートやミニノートにとって、最も頭の痛い部分ではないだろうか。 もちろんこれは、SA1F00Aでも避けられない部分だろう。しかしSA1F00Aでは、他のサブノートよりも非常に厳しい制約のある中で、約16.8mmという、かなり余裕のあるピッチのキーボードを搭載。そのため、サイズ以上の軽快なキー入力が可能となっている。ストロークは約1.5mmと浅いものの、適度な堅さとクリック感があり、実際にタイピングしてみても、思っていた以上に軽快であった。 ただ、これだけ余裕のあるキーピッチを実現しているため、搭載されているキーの数は77個とかなり少なく、キー配列もかなり特殊となっている。例えば、本来であればBack spaceやEnter、右Shiftキーの横に配置されている\、[、]などの、かなり頻繁に使用するキーが、最上段のファンクションキーの列に配置されていたり、「半角/全角」キーや[F8]~[F12]までのファンクションキーが[Fn]キーとの併用になっていたりする。さらに、Enterキー付近の一部のキーではピッチがやや狭くなっている部分もある。 もちろん、よりピッチの狭いキーボードなら、このような無理のある配列も解消できるだろう。しかしその場合には操作性が犠牲になる。一部キーの配置はかなり無理があるものの、約16.8mmのピッチが確保されていることで、アルファベットキーはかなり軽快に操作できるのも事実。メインマシンとしてバリバリ使うマシンという位置付けではないことを考えても、この程度の配列のいびつさは十分我慢できる範囲内ではないだろうか。 ちなみに、ポインティングデバイスは、液晶ディスプレイ左右のスティックポインタだけでなく、キーボード手前にパッド型のポインティングデバイスも用意されている。こちらもキーボード同様、本体サイズの制約から、かなり面積の狭いものとなっている。特に、パッド右端のスクロール領域は、上下の幅が狭いこともあって、やや使いづらく感じたものの、画面解像度が低いこともあり、全体的な操作性はそれほど悪くない。少なくとも、厳しいサイズの制約がある中、2系統のポインティングデバイス搭載を実現していることは、特筆すべきポイントと言っていいだろう。
●組み込み向けの省電力CPU、Geode LX800搭載 基本スペックも、今時のサブノートと比較すると、やや尖った仕様となっている。CPUには、AMDの組み込み向けCPU、Geode LX800@0.9Wを採用している。組み込み用途や携帯端末をターゲットとするx86アーキテクチャのCPUで、動作クロックは500MHz。TDPは最大2.4W、平均1.6Wと、発熱が非常に少ない点も特徴で、SA1F00Aでは完全ファンレス仕様となっている。 Geode LX800@0.9Wの内部には、PC3200 DDR SDRAM対応のメモリコントローラ、2D描画エンジン、PCIブリッジなどが内蔵されており、単体でCPU+ノースブリッジに相当する機能を実現する。また、サウスブリッジに相当するコンパニオンチップ、CS5536も搭載されており、Ultra ATA/66、PCI、USB 2.0、サウンドなどの各機能が提供される。 描画機能は、Geode LX800@0.9W内蔵の2D描画エンジンが利用されている。3D描画機能を持たず、DirectXもサポートされないため、ゲームなどのアプリケーションはほぼ利用不可能だが、2D描画能力自体は十分なパフォーマンスがあり、Webブラウザやビジネスソフトの利用には何ら問題がない。 メインメモリは、標準で512MBのDDR333 SDRAMを搭載し、最大1GBまで増設可能。ただし、メインメモリはオンボードでは搭載されておらず、SO-DIMMスロットも1基しか用意されていないため、メインメモリを増設しようと考えている場合には、購入時に1GBのメインメモリを指定したほうがいいだろう。 内蔵HDD容量は、標準で40GBだが、BTOにより80GBドライブに交換可能。超小型ボディにもかかわらず、一般的なノートPCで広く利用されている2.5インチドライブを採用しているため、購入後の自力での交換も視野に入れられる。 無線機能は、IEEE 802.11b/g対応の無線LAN機能と、Bluetooth 2.0+EDRが標準搭載となっている。無線LANに加えてBluetoothも内蔵している点は魅力だ。また、無線LANとBluetoothは、ボタンで個別にON/OFF可能となっており、無線の利用できない環境でも安心だ。ちなみに、標準では、無線LANとBluetoothはマシン起動時にOFFとなってしまう。これは、BIOS設定で無線LANとBluetoothが「Always OFF」に設定されているから。マシン起動時に[F2]キーを押してBIOSメニューを起動し、設定内容を「Always ON」に設定すれば、マシン起動時から無線LANやBluetoothがONになった状態で利用できるようになる。もちろん、この状態でもボタンでのON/OFF制御は可能だ。 ほかにも、CFカードスロット(Type1のみ)、SDカード(SDHCおよびSDIO対応)/MMC、メモリースティック対応の3in1メディアカードスロット、Ethernet、ミニD-Sub15ピンなどが用意されている。PCカードスロットがなく、拡張性はやや苦しいものの、3in1メディアカードスロットでSDHCおよびSDIOに対応している点は嬉しい。
●パフォーマンスは弱いが、優れた携帯性と安価な価格が魅力 今回は、採用CPUや描画機能が2D描画のみでDirectX未サポートという点を考え、いつものベンチマークテストは行なわなかった。おそらく、テストを行なおうとしても、どれもきちんと動作しないはずだ。また、動作するテストがあったとしても、かなり厳しい結果になることは目に見えている。ちなみに、手持ちのUSB 2.0接続のDVDドライブを接続してDVDビデオの再生を行なってみたが、再生中にコマ落ちを感じることがかなりあり、やはりパフォーマンスはきついと言わざるを得ないだろう。 【追記】DVDビデオ再生時のコマ落ちに関し、工人舎に問い合わせたところ、同社ではCPU負荷の少ないWindows Media Playerでの再生を推奨する旨の回答が得られた。なお、製品カタログにも同様の記載がなされている。 とはいえ、低消費電力CPUを搭載することによる利点ももちろんある。それは、バッテリ駆動時間だ。搭載されるバッテリは容量2,600mAhと、容量的にはかなり少ない部類に入るが、それでいて約5時間という長時間駆動を実現している。最近では、10時間を超すバッテリ駆動時間を実現したサブノートも登場してきているが、その多くは重い大容量バッテリを利用してのもの。そう考えると、低容量のバッテリで5時間駆動を実現している点は、アドバンテージだ。 SA1F00Aを使う場合には、パフォーマンスや液晶解像度、キーボードの使い勝手など、ある程度の妥協が必要。はっきり言って、メインマシンとしてバリバリ使うという用途には向いていない。おそらく、パフォーマンス重視のモバイルノートを探している人なら、手にするとかなり幻滅してしまうことだろう。 とはいえ、使い方によっては、さまざまな魅力が出てくるマシンでもある。超小型/薄型ボディということで、携帯性は一般的なサブノートを遙かに凌駕し、とにかく気楽に持ち歩ける。また、発色/視認性が高く180度回転するディスプレイや、各種メモリカードが利用できるスロットが用意されていることで、メディアプレーヤーやフォトストレージ、フォトビューアとしても大いに活用できる。もちろん、プレゼン用途などビジネス用途にも十分対応できる。 そして、89,800円からという安価な価格も大きな魅力だ。この価格であれば、一般的なサブノートではなく、5~6万円ほどで販売されているフォトストレージや携帯メディアプレーヤーなどが直接のライバルになると言ってもいいだろう。もちろんSA1F00AはPCなので、それらよりも幅広い活用が可能なのは言うまでもない。使い方次第で、価格以上の魅力が発揮される“遊べる”ミニノートなのである。 工人舎はSA1F00Aを、「2台目、3台目のPC として、外出時でのメール送受信や作成したファイルの確認/修正、インターネット閲覧、訪問先でのプレゼンテーションを主な用途に、外出先で快適にストレスなく使用できる」と位置付けていることからもわかるように、もともとパフォーマンスよりも携帯性に重点を置いて開発されているマシンだ。そのため、パフォーマンスよりも携帯性を重視したミニノートを探している人にお勧めしたい。
□工人舎のホームページ (2006年11月10日) [Reported by 平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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