アップルコンピュータが8月8日に発表した、WoodcrestコアのXeonを搭載した「Mac Pro」。ニューアイテムと呼ぶにはいささか時期を逸している気はするが、本製品に触れる機会を得たので、ここではBoot Campを使用してWindows XPをインストールし、本連載で普段から試しているベンチマークでどの程度のスコアが出るかを試してみたい。 ●ケース内を3つの領域に分けて空冷
まずは、今回試用する「Mac Pro」の外観とハードウェアをチェックしておきたい(写真1)。今回筆者の手元に届いたMac Proは、MA356J/Aの型番となる標準構成のモデルだ。Apple Storeのオンライン価格は319,800円となっている。 主な仕様は、 CPU:Xeon 5150(2.66GHz)×2(画面1) といった具合。チップセットにはIntel 5000Xが採用されており、Intelが言うところのGlidewellプラットフォームの製品となる。つまり、ハードウェアスペックは一般的なXeonワークステーションともいえる構成だ。
本製品のケースは非常にそそられる作りになっている。まず、側面のカバーは背面のレバーを引くだけで簡単に開けられる(写真2)。ケース内は3つの領域にはっきり分かれているのが特徴だ。上段は5インチ×2と電源、中段は拡張スロット類など、下段はCPUとメモリなどが収納されている。上段と中段には1個、下段には2個のファンが備えられており、各段それぞれが独立したエアフローによって冷却される仕組みだ。 さすがに4つのファンを搭載しているだけあって、電源を入れると低くうなるような騒音を立てる。静かな部屋では気になるかも知れないが、以前にテストしたXeonワークステーションに比べれば遥かにマシなレベルだし、最近のワークステーションとしては静かな部類といって差し支えないと思う。 このほか、ハードウェアには特徴的な部分が多い。とりわけユニークなのがFB-DIMMの実装方法で、ライザーカード2枚を利用して最大8枚のFB-DIMMを装着できるようになっている(写真3)。マザーボード上の実装面積の節約やメンテナンス性の向上を図ったものだろう。各スロットは2GBのモジュールまで対応しており、最大16GBまで実装できる。
HDDはケーブルを利用せずに装着する仕組みだ(写真4、5)。専用のガイドパーツにHDDを取り付け、スロットに装着するかのような感覚で取り付けができる。ワークステーションではリムーバブルケースを利用して前面部からの脱着を可能にしている製品も珍しくないが、個人ユーザーにとってもメンテナンス性の点で大きなメリットがあるだろう。 最後に拡張スロットだが、PCI Express x16形状のスロットを4本備えている(写真6)。“形状”という表現を用いたのは、実際には全スロットが16レーンを備えているのではないためで、デフォルトでは下からx16/x1/x1/x8の構成になっている。ただし、これはMac OS上のツールからレーン構成をカスタマイズできる(画面6)。PCI Express対応の拡張カードがGigabit EthernetコントローラやシリアルATAコントローラなどが中心となっている現在、Gigabit Ethernet×2を搭載している上に、HDDを4台搭載可能なMac Proにおいて、このツールにはそれほど実用性を感じないのだが、例えば消費電力の低いビデオカードを複数枚挿したときにビデオカードを装着したスロットのレーン数を厚くする、といった使い方ができそうだ。 ●Mac Pro+Windows XP環境のパフォーマンスを検証 それでは、パフォーマンスのチェックを行なってみたい。テストにあたっては、Boot Camp1.1βを利用している。今回、このMac Proに相応しい比較対象を用意できなかったため、過去に本連載で測定したデータから参考になりそうな値を流用して掲載したい。 まず、CPUとメモリ、アプリケーションの各ベンチマークに関しては、Xeon 5160ワークステーションの値を利用する。環境は表1のとおりだ。この環境とは、CPUやメモリ容量、ビデオカード、HDDといった多くのパーツが異なるため、Mac Proで測定できた値がどのぐらいのパフォーマンスなのかという参考程度に捉えていきたい。
【表1】テスト環境
まずは、CPU性能の測定に利用している、「Sandra 2007a」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、そして「PCMark05」の「CPU Test」(グラフ2、3)の結果だ。 当然ながら動作クロックの低いMac Proに分が悪い結果にはなっているが、2.66GHzのXeon 5150は、比較に用いた3GHzのXeon 5160の90%弱のクロックとなる。スコアも、おおよそ90%弱の値で安定しており、CPUの性能はうまく引き出されていることが確認できる。
だが、次のメモリテストはスコアが伸び悩みを見せた。メモリの実効帯域幅を見るためにSandra 2007aの「Cache&Memory Benchmark」でテスト(グラフ4)。メモリレイテンシのテストには、「EVEREST Ultimate Edition 2006」を使用している(グラフ5)。 結果を見ると、全域に渡ってMac Proの数値が低い。キャッシュ容量の範囲内においてはCPUの動作クロックと同期するはずだが、Xeon 5160と比較しておよそ85%弱程度に留まってしまっている。レイテンシも大きめの値になっており、キャッシュ性能が十分に引き出されていないことが分かる。 さらに大きな差となったのが、メインメモリのアクセス速度だ。PCMark05の結果から分かるとおり、とくに書き込みで半分以下の速度になっている。ただ、これは使用しているメモリの枚数による差と見ていい。 Intel 5000Xは4チャネルのメモリインターフェイスを持っているわけだが、今回のMac ProはFB-DIMMを2枚しか挿しておらず、2チャネルのマルチチャネルアクセスとなってしまう。一方のXeon 5160環境は4枚のFB-DIMMを利用しているので、4チャネルをフルに利用したメモリアクセスが行なわれることになる。その結果、およそ半分という分かりやすい速度となったのである。 つまり、Mac Proを購入するなら、パフォーマンスの観点では4枚のFB-DIMMを装着するような構成にした方が良いだろう。なお、キャッシュの性能が引き出されていない点については、この話とは関係ない。それほど大きいものではないが1つのウィークポイントと見ていいだろう。
次は、アプリケーションのベンチマークである。実施したテストは、「SYSmark 2004」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 2003」(グラフ8)、各種エンコードテスト(グラフ9)だ。SYSmark2004のテストでグラフが一部抜けているのは、Xeon 5160のテスト時にSYSmark2004のInternet Content Creationが動作しなかったためである。 これらのテストに関しては、CPUやメモリに加え、ビデオカードやHDDも異なるため、大きな性能差が出ている。性能差は幅があり75~100%前後といった具合だが、全体の平均では85%程度となっている。CPUのクロック差だけでなく、メモリパフォーマンスにも差がある環境としては、わりと健闘しているのではないだろうか。Mac ProでもハイパフォーマンスなWindows XPマシンとして十分に実用的であることを感じさせる結果だ。
さて、最後に3D性能の測定を行ないたいが、上記のXeon 5160環境とはビデオカードの差が大きすぎる上、Xeon 5160環境のQuadro FX 4400で3Dゲームを行なうという人も、そうはいないと考える。そこで、ここではGeForce 7900 GTXを装着し、同ビデオカードを装着してテストを行なったCore 2 Extreme X6800の結果を併記することにしたい。環境は表2のとおりである。 ただ、今回のGeForce 7300 GTを搭載したMac Proの場合、ビデオカードの電源を取ることができないという問題があった。Mac Proでは、マザーボード上に設けられた電源端子(写真7)から、専用のケーブルを利用してビデオカードへ電源を供給するようなのだが、そのケーブルが付属していないのだ。 そこで、やや強引なのであまりお勧めできる方法ではないのだが、光学ドライブ用に設けられているペリフェラル電源コネクタを分岐させ、そこからケースの隙間を通して電源を確保している(写真8)。 また、Boot Camp 1.1βによって作成されるMacintosh Drivers CDに含まれているForceWareではGeForce 7900 GTXを認識しなかったので、NVIDIAからダウンロードしたドライバを利用している。
【表2】テスト環境
では、「3DMark06 CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ15)の各結果である。3DMark06のCPU Testはビデオカードの影響が小さいので、Xeon 5160+Quadro FX 4400環境も併記している。 この結果を見ると、3DMark06のCPU Testのようにマルチスレッド化がしっかり行なわれているアプリケーションであればXeonデュアルの効果は大きいことが分かるが、そうでない場合は、Core 2 Extreme X6800を利用した方が良いパフォーマンスを期待できることが分かる。 それでも、NetBurst時代のデュアルコアPentium勢と比べればスコアは良好で、現在のスコア水準でいっても良い結果が出ている。3D環境を重視している人が選ぶプラットフォームとしても、それほど悪い印象は受けない結果といえるだろう。
●ハイパフォーマンスPCとしても現実的な製品 以上のとおり、正確な比較は難しい環境との併記を交えてざっくりと検証してきたが、Boot Camp利用下においても、デュアルXeonのパフォーマンスはそれなりに発揮されている印象だ。現時点でキャッシュ速度にウィークポイントは見られるものの、それほど大きなものではないし、アプリケーションの速度も快適なレベルで動作してくれる。 そもそも、デュアルXeonという時点で「PC」という表現は適さないのかも知れないが、動作音や見た目のスタイルなど個人ユーザーが利用するうえで、Macユーザーならずとも現実的な選択肢となり得る存在ではないだろうか。 問題はおいそれと買うわけにはいかない価格面だ。これも、デュアルXeon+FB-DIMMの環境に加え、静音性に優れるケースや電源など、このクラスの製品としては高価な印象を受けず、コストパフォーマンスも悪くないと感じている。 □関連記事 (2006年10月18日) [Text by 多和田新也]
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