Tablet PCはとても便利なPCだ。それは十二分にわかっている。でも、常用したくなるほど魅力的な端末がなかなか見あたらない。Tablet PCがあればいいのはわかっていても、使用頻度を考えるとn台目のPCとしての導入はためらってしまう。だが、その便利さを手に入れる手っ取り早い方法がある。通常のPCとペンタブレットを併用すればいいのだ。 ●ペンタブレットの追加でPCが使いやすくなる Windows Vistaには、Home Basicをのぞき、Tablet PCの機能が標準搭載される。XPでは、Tablet PC Editionが必要で、しかも、メーカーやSIer製Tablet PCへのプリインストールしか入手の方法がなかったことを思うと、Vistaパソコンさえ導入すれば、グラフィックス以外の用途が大きく広がる点で、ペンタブレットは、かなり魅力的なデバイスとして再認識されそうだ。 ワコムは、現在、ペンタブレットのベンダーとして、日本国内で96.5%(2005年)、世界市場では86%(同社推定)のシェアを誇る企業だ。もっとも、現状でのペンタブレットのユセージモデルは、グラフィックス系がほとんどだ。デジタル画像を前に、描画やレタッチ、マスキングなどの作業をマウスで行なうのは至難の業だが、ペンタブレットがあれば、かなり効率的になる。ワコムによれば、登録ユーザーの半分が女性で、その8割は、10~20代の学生だという。彼女たちのほとんどは、自分のWebサイトを持っていて、ちょっとしたイラストを描いたりして、そこに掲載したりしているのだそうだ。 同社では、Vistaの標準機能として、ペンタブレットがサポートされることになったのを受け、まずは、一般のコンシューマーユーザーに対して、その便利さ、さらには、インパクトを積極的に訴求していきたいという。現在のXP環境でペンタブレットを生かすには、デジタルインクが使えるアプリケーションをインストールしなければならないが、Vista環境であれば、ペンタブレットを追加するだけで、マウス同様に、通常の操作ができるようになり、PCが一気に使いやすいものになる。 これだけのシェアを持つベンダーである。Microsoftとのコミュニケーションもずいぶん盛んにかわされているらしい。守秘義務拘束があるため、詳細は公表できないそうだが、同社からのアプローチで搭載された機能も少なくないそうだ。 ●Microsoftの戦略がペンを疎遠にした 個人的に、TabletPCには発表当初から興味を持っていた。画面を縦にして使える点や、画面上のオブジェクトを、ダイレクトに操作できる点は、Webのブラウズや、ファイル操作、編集効率などの点で、これからのパーソナルコンピューティングに、大きな影響を与えると思ったものだ。ところが、Microsoftは、この新しいデバイスを、バーチカル市場に向けたマーケティングで推す戦略を採ったため、一般のコンシューマーユーザーに、ビジネスやホビー用途に使われるようにはならなかったし、そのための魅力的なPCも製品化されることはなかった。 ペンといえば、すぐに思いつくのが手書き入力だが、ぼく自身は、そこにはあまり魅力を感じてはいない。というのも、やはり、文字入力は手書きよりも、キーボードを使った方が高速だからだ。Tablet PCのデジタルインクは、手書きをリアルタイムで変換することも想定されているが、実際の使い方としては、グラフィックスとしての手書き文字にメタデータとしての認識済みテキスト情報を持たせるという点で、きわめてリーズナブルだ。誤認識などをその場で気にすることなく書き進めることができ、多少の誤認識があったとしても、あとの検索等では、あまり不自由することはない。ちょうど、ページスキャナのOCR変換に100%の認識率を求めず、PDFファイルに透明テキストとして貼り付いていれば、それなりに役にたつのと同じ感覚だ。 ペンタブレットは、離れたところにある画面を見ながら、タブレット上でペンを動かさなければならない。これは、垂直に立つディスプレイを見ながら、水平に動かすマウスよりも、さらに不自然なポインティングデバイスだ。それを解決したのがTablet PCであり、液晶画面に直接働きかけることができる点で直感的な操作が可能になる。 電磁式ペンの長所は、ペン操作の際に、タブレット上にペタッと手を載せることができ、まさに、紙の上に文字や絵を書くのと同じように扱える点にある。そのために、専用のペンを使わなければならないという短所とは裏返しでもある。現在では、液晶の背面に電磁センサー、手前に感圧式のセンサーを備えたタブレットも開発され、ペン先が一定距離以内に近づいたり、書く姿勢のために手の小指側がペタッと画面上に置かれるなど、一定面積が押されたときに、感圧と電磁を自動的に切り替える技術もあるそうだ。これなら、通常は、画面を指先などでタッチして操作し、細かい操作や手書き操作はペンを使うといったことができる。 ●慣れ親しめば世界が変わる 以前、マウスの発明者として知られるダグラス・エンゲルバート氏と会ったときに、最初から自然なものなど存在しない、それは慣れ親しんでしまっただけのことだという言葉に感銘を受けたことを思い出す。便利なものであれば、自転車や自動車同様に、多少のトレーニングをすることで、自分の手足の延長のように扱えるようになるし、その向上心が新たな生産性を生む。ペンタブレットも、そういう面を持っているのではないだろうか。 PCだって似たようなものだ。旧来のメタファにとらわれるあまり、イノベーションを起こしにくくはなっていないだろうか。VistaがXPに対して、あまり変わり映えしないように見えるのは、ドラスティックに操作体系を変えることができないほどにWindowsが普及しすぎたという背景もある。そこに、ちょっとした波紋を広げるのがペンタブレットなんじゃないかと思う。もっとも、ペンタブレットがなぞるメタファを手書きに固執してしまうと、マウスよりも、より旧来の感覚に近いといえば近いので、そこにとらわれすぎてしまうのも危険だ。フリックと呼ばれるペンジェスチャなどによる特定機能の実行などの積極的な活用が世界を変えるにちがいない。 個人的には、Media Center Editionなどを操作するための10フィートUIのポインティングデバイスとして、リモコンよりもずっと自由度の高い存在としてもアリなんじゃないかと思っている。すでにBluetooth対応のワイヤレスペンタブレットも商品化され、ケーブルに束縛されることなく使うこともできるので、その可能性は高そうだ。プレゼンテーションなどのビジネス用途で使う場合にもワイヤレスは嬉しい。 今までは、限られたユセージモデルしかなかったペンタブレットだが、Vistaの標準サポートによって、より身近なものになる。もしかしたら、マウスにとって代わることはないにしても、マウスと併用される新たなデバイスとして、ブレイクするかもしれない。 □関連記事
(2006年10月6日)
[Reported by 山田祥平]
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