大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

当たり年のエアコン市場、予想に反したスタート




 関東地方の梅雨明けが8月直前までずれ込むという異例の状況となった今年の夏。それに伴って、家電量販店において基幹製品の1つと位置づけられる、エアコンの需要も大きく変化した。

 エアコンや空調器、業務用冷蔵庫などのメーカーが加入する業界団体の日本冷凍空調工業会の調べによると、2006年に入ってから、6月までのこの半年間のルームエアコンの出荷実績は、毎月、前年割れで推移。業界の目論見を大きく下回った。

 とくに、5月、6月と前年実績を下回ったのは、業界にとっても大きな痛手となった。

 エアコンの需要は、5月、6月、7月の3カ月間で、年間出荷のおよそ半数を占める。それだけに、出荷ピークの出足ともいえる5月からつまずいたことは、年間の需要動向にも大きく影響することになるからだ。

 同工業会の調べによると、5月の実績は前年同月比4.4%減の786,221台、6月も8.0%減の1,350,448台という前年割れの状況が続いている。

●買い換え需要のピークを迎えるエアコン市場

8月4日に開店した、ビックカメラ藤沢店のエアコン売り場

 実は、今年はエアコン需要の当たり年といわれていた。

 一般的にエアコンの寿命はほぼ11年だとされている。そこから逆算すると、'94年から'96年頃に購入されたエアコンが、ちょうど買い換えサイクルに当たることになる。

 振り返れば、'94年から'96年の3年間は、'94年の記録的猛暑の影響と、'97年の消費税率5%への引き上げ前の駆け込み需要があり、大量にエアコンが販売された時期である。

 同工業会の調べでも、'93年は年間508万台の出荷規模だったものが、'94年には732万台、'95年には799万台、'96年には825万台と出荷台数を大幅に拡大。消費税引き上げが実施された年の'97年には627万台へと縮小し、その後、600万台後半から700万台中盤の規模で推移している。

 この買い換え需要のピークとして、期待されたのが2006年だったわけだ。

 だが、実際には、同工業会の数字でも明らかなように、エアコンの需要は今年に入ってから低迷している。

 6月下旬から7月上旬にかけての暑さで、一時的に需要は増加したものの、梅雨入りで一気にトーンダウン。夏本番を前に早くも、「気象庁が発表した暑い8月、残暑の厳しい9月という予報に期待したい」(大手家電メーカー)という「天気頼み」の状況だった。

●熱帯夜がキーワード?

各メーカーは、高い利益率を見込める高付加価値機種を前面に押し出してアピールしている

 だが、「昼間がいくら暑くてもエアコンの売れ行きにはそれほど影響しない」というのがエアコン需要の特徴でもある。

 「昼間は過ごしやすくても、寝苦しい夜が続けば、エアコンが売れる」と、熱帯夜が、エアコン需要を左右することを業界関係者は明かす。つまり、業界としてはこの8月に、熱帯夜が続くことを祈っているわけだ。

 ただ、そうした期待とは別に、まずは5月、6月に、実需につなげたかったというのが本音でもある。

 それには理由がある。

 「暑くなってから売れるのは、比較的低価格の機種。暑さをしのぐために、とにかく安いものでもいいから買っておくという心理が働く。それに対して、夏本番前の購入は、慎重に検討し、機能などにもこだわるユーザーの購入が中心となるため、高価格帯の製品が売れる」(大手メーカー)からだ。

 つまり、5月、6月の販売量が多ければ、年間を通じても単価を引き上げることにつながり、収益性も高めることができるという、公式が成り立つことになるからだ。

 その点でも、今年は、スタートダッシュに失敗した1年だった。

●変化する売れ筋の条件

「空質」機能と、自動メンテナンス機能という、流行をおさえた松下電器のエアコン

 エアコンの売れ筋機種の条件は、過去からいくつかの変遷を経てきた。

 かつては、急速に冷やすことに注目が集まっていた時期もあったが、その後は、省エネ機能に注目が移行。さらに数年前からは、「空質」と呼ばれる分野に注目が集まってきた。

 「空質」とは、その名の通り、空気の温度や湿度だけでなく、ホコリや細菌の除去など、部屋全体の空気をきれいにし、空気の質を高めようというものだ。

 例えば、松下電器では、花粉やダニなどを不活性化することに威力を発揮する「スーパーアレルバスター」機能をエアコンに搭載。さらに、緑茶カテキンやバイオ除去といった空気清浄機なみの機能を搭載して、空質を高めることに成功している。また、同社独自の酸素富化膜を搭載することで、自然と同じ酸素濃度を保つなど、部屋の空気を新鮮にすることに注力している。

 もはやエアコンメーカー各社にとって、「空質」は避けては通れない機能だといえる。

 そして、最近ではエアコンのフィルターを掃除する機能を搭載した製品が人気となっている。

日立は「花粉撃退」をキャッチフレーズにした機種を展開

 本来は2週間に1度にやるべきといわれるフィルターの掃除は、ほとんどの人がやっていないのが実態だ。松下電器がエンドユーザーに実施したアンケートでも、メーカーが推奨するサイクルでフィルター掃除をやっている人はほとんどいなかったという。

 また、老人や妊婦など、フィルター掃除を大きな負担だと考えるユーザー層もあり、このフィルター掃除の自動化は、ここ数年の顧客調査において、常に高い順位で、「搭載して欲しい機能」の1つに挙がっていた。

 かつてのエアコンメーカーに求められていたのは、冷暖房機能そのものの強化や、省エネ、低価格といった要素。しかし、ここ数年は、空質や掃除機能など、エアコンの基本機能には、直接、関係がない機能に対して注目が集まっているのだ。

 つまり、従来は、エアコンの機能としては、サブ的な要素だったものが、現在では重要な選択基準の1つと位置づけられるようになったのである。

●「目立たない」から、「目立つ」へ

「目立つ」カラーリングが施されたモデルが店頭に並ぶ

 そして、もう1つの変化がある。

 それは、これまでは部屋のなかで目立たないことが前提となっていたデザインが大きく変化し、むしろ、存在をアピールした製品に人気が集まっている点だ。

 これまでのエアコン業界の常識では、室内では、エアコンが目立ちすぎると圧迫感が出るため、なるべく、部屋と同じ色調のものが好まれていた。つまり、木目調や白など、部屋に馴染む色が人気だった。

 だが、ここにきて、その構図が崩れている。生活様式が変化したことの現れだろうか、店頭では、カラフルなエアコンが展示されているのを見かける。

 三洋電機が「四季彩館」の名称で展開するEXシリーズは、その典型例だろう。

豊富なカラーバリエーションを備える三洋電機の「四季彩館」シリーズ

 また、先に触れた松下電器のフィルターの自動メンテナンス機能は、掃除していることを示すために、掃除している様子が視認できるよう、LEDがエアコンの前面を移動する。これも、従来の「目立たない」という発想とは逆の考え方だといえる。

 冷暖房以外の機能を強化した製品や、カラフルな商品に人気が集まるなど、エアコン業界で通用したこれまでの数々の常識が通用しなくなっているのが、いまのエアコンなのである。

 こうした商品領域だけに、見方を変えれば、メーカー各社が戦える場面、差別化する要素は、ますます大きく広がっているともいえよう。

 7月上旬の国内エアコン市場は、前年同期比2倍という販売金額に達しているという。実際、一部メーカーの調べによると、7月上旬の販売実績は、前年同期比97%増という高い伸びを見せたという。だが、7月下旬にかけては、涼しい日が続いたことから、やや売れ行きは鈍化。過去最大の買い換え需要の1年を迎えたというには物足りない状況だ。

 8月は果たして、どんな動きを見せるのだろうか。エアコンメーカーの熱い戦いはこれからも続く。

 8月25日にも、日本冷凍空調工業会が7月の出荷データを発表することになる。

 業界筋によると、7月上旬から販売量が増加しており、一部メーカーの調べでも、7月上旬には、前年同期比97%増という高い伸びを見せている。7月には、一応の巻き返しが図れた模様だ。

 また、8月も暑い日が続き、これが9月まで残暑が厳しいという予報通りだとすると、暖房需要を織り込んだ今後の仕掛けも注目される。

 エアコン市場は、過去最大の買い換え需要の1年を迎え、メーカー間の熱い戦いがこれからも続く。

□日本冷凍空調工業会のホームページ
http://www.jraia.or.jp/
□関連記事
【7月6日】【家電】松下電器 新・フィルターお掃除ロボットエアコン「CS-Xシリーズ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0706/kaden003.htm

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(2006年8月21日)

[Text by 大河原克行]


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