OSの世代をそのGUIやUXが象徴するようになったのは、いつごろからだったろうか。Windows XPならLuna、Mac OSならAquaといった見かけの部分だ。だが、OSは、ファイルシステムを提供し、アプリケーションの動作環境を提供するものであり、その見かけを仕切るデスクトップシェルは、OS純正アプリケーションのひとつにすぎない。 ●Introducing XP 2.0 冒頭の写真は、サンフランシスコで開催されたアップルのワールド・ワイド・デベロッパー・カンファレンスの会場につり下げられたバナーだ。現地でカンファレンスに参加し、本誌でも記事を寄稿されている矢作晃氏にお願いして送ってもらった。 “Hasta la vista, Vista.”というのは、スペイン語で「じゃあ、またね」といったニュアンスなのだそうだ。同じスペイン語でも、「さよなら」を意味する“Adios”よりは、ずいぶん与える印象が違う。ちなみに、少しWebを調べると、この言葉は映画「ターミネーター2」のラストシーンでアーノルド・シュワルツェネッガーがいうセリフでもあり、「あばよ、冥土で会おうぜ」くらいの意味合いもあるようだ。 同様のバナーは他にもある。 “Redmond has a cat, too. A copycat.” レドモンドはMicrosoft本社のある街だが、copycatは英語圏では「真似っ子」を意味するらしい。Jagar、Tigar、Leopardと、猫科の動物名を使うMac OSのコードネームだからこそで、これが日本だと「猿真似」になってしまってジョークが成立しない。 そして、これ。 “Introducing Vista 2.0” 今年はいろんな単語に2.0をつけて新しいトレンドが紹介されたが、Leopardは、Vistaがより進化したものであるということらしい。 なんとも過激なコピーだが、肝心の発表内容はというと、個人的にはちょっと物足りない印象を持った。次期Mac OSとしてのLeopardが、メジャーバージョンアップというには、イノベーションが少なすぎるように思うのだ。出荷も、2007年春とされている。うがった見方をすれば、Windows Vistaの発売後に、仮想環境などにおけるVista対応のつじつま合わせをきちんとすませて出荷するつもりなのかもしれないし、もしかしたら、アッと驚く隠し球を用意していて、それをVistaに真似されないようにしているのかもしれない。もっとも、今、隠し球をオープンにしても、これからVistaがそれを真似して新機能として実装するというのは現実的な話ではないので、ふたをあけたら、何もなかったという筋書きもないわけではない。でも、さすがにこれではTigar 2.0の域を脱していないじゃないかと、つっこみを入れたくなってしまうというものだ。Microsoftにとっては、“Introducing XP 2.0”とされなかっただけでも、よしとするべきか。 もう少しちなんでおくと、今回のタイトル「Vistaへ。先に、行ってるね」というのは、新幹線の品川駅がオープンしたときに、JALの広告で使われた「のぞみへ。先に、行ってるね」をもじってみた。最後にはハートマークもついていた。チョークで書かれた伝言版の写真が使われたこの広告は、新幹線のぞみよりも、飛行機の方が速いということをアピールしたかったのだろう。ぼくの記憶では、伝言を書いた本人の名前として「つばさ」が使われていたような気もするのだが、もしかしたら記憶違いかもしれない。 ●シェルとOS MS-DOSの時代を振り返ると、そのシステムは、io.sysとmsdos.sysという2つのモジュールで提供され、コマンドシェルとして、command.comというプログラムがついてきた。そこで実行できるコマンドには、外部コマンドと内部コマンドがあった。 内部コマンドは、dirやdel、ren、type、cdといったもので、command.comが組み込み命令として、それを解釈して実行し、結果を画面に表示した。 外部コマンドは、いわゆるプログラムで、formatやchkdsk、edlinなど、.exeや.comの拡張子を持ったプログラムファイルとして提供された。これらのファイルは、拡張子を省略し、ベースネーム部分をプロンプトに対して入力することで実行できる。実際には、サードパーティ製のアプリケーションも、外部コマンドの一種ではあるが、標準添付のアプリケーションという意味で外部コマンドという呼び方をしていたのだろう。 command.comを含む、これらの外部コマンドは、Windows XPはもちろん、Vistaのβ2でさえ、c:\windows\system32の中に含まれている。ただし、XPでは互換性のために0バイトのファイルとして残っていたio.sysとmsdos.sysはVistaには見あたらなくなってしまっている。 OSは、プログラムを作る側から見たときには、プログラムから呼び出して実行できるさまざまなパーツを提供するし、プログラムを使う側からすれば、その実行環境となる。Windowsでは、Win32APIが使われてきたが、VistaではWinFXに変わった。さらに、そのWinFXは、先日、.NET Framework 3.0という名称に変更されたというアナウンスがあった。 .NET Framework 3.0は、従来の.NET Framework 2.0にWinFXで新たに提供される各種のテクノロジーが追加されたものとして構成される。だが、MicrosoftはWindows Vistaのリリースと同時にWindows XP向けにも.NET Framework 3.0ランタイムを提供することになっているので、OSとして、XPとVistaはどこが違うんだということになってしまう。結局は、そのOSが提供するユーザーエクスペリエンスが、そのOSの世代を決めるということになってしまうのだろうか。ところが、本来はVista世代のUXを象徴するはずだったWindow Aeroは、Windowsのパッケージによって、使えるものと使えないものがあるし、要求仕様を満たさないハードウェアでは有効にならない。つまり、Vistaは、パッケージの種類や稼働しているハードウェアによって、そのUXが異なるのだ。Aeroが無効のVistaでも、それはVistaであり、.NET Framework 3.0用に書かれたアプリケーションが動くのなら、Vistaネイティブのアプリケーションとは、いったい、どのようなものを指すと考えればいいのだろうか。 OSは、OSそのものだけでは、どんなにエレガントなUXを提供したとしても意味がない。そのユーザーにとって、役に立ち、楽しく便利なアプリケーションの存在は必要不可欠だ。MS-DOSの時代から連綿と、その部分は、OSのベンダーとしてのMicrosoftの他に、ISV各社が、その提供を担ってきた。だが、今回のVistaのリリースにあたり、ISV各社は、Aeroがなければ使えないアプリケーションを開発するだろうか。百歩譲って、ハードウェアの進化が著しく、どんなローエンドのパソコンでも、軽々とAeroが使えるようになったとしても、これだけ永く使われてきたXPが容赦なく切り捨てられるとは考えにくい。Vistaと同等のランタイムが提供されるのなら、そのサポートを含めた方がビジネスチャンスは広がるはずだ。 OSの移行期には、新OSの利点を生かしたネイティブアプリケーションの登場が待ち遠しく、ネイティブだからこそ新OSが生きる要素も多いのだが、Vistaに限っては、楽観視はできない。まったく同じコードのプログラムをVistaで実行すれば、XPよりも明らかにエレガントで進化したUXが提供されるというのならまだしも、さすがにそういうわけにはいかない。1つの世代のOSが、あまりにも永く使われ続けられると、こういう弊害も起こるということだ。 ぼくらはいつだって、イノベーションを求めている。昨日できなかったことが、今日ならできる。OSの世代交代は、そうあってほしい。もちろん、Leopardは、そんなことはしっかり理解していると思うけれど。
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(2006年8月11日)
[Reported by 山田祥平]
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