“MoDT”なる言葉をご存じだろうか? MoDTとは、Mobile On DeskTopの略称で、要するにモバイルPC用のコンポーネントを利用したデスクトップPCという意味だ。 実は、この言葉、別に筆者が作ったわけではなく、IntelがOEMベンダなどに対してモバイルPC用コンポーネントを採用したミニPCなどを説明する時に利用されるマーケティング用語なのだ。Intelも、こうした用語をわざわざ用意してこうした新しい市場の立ち上げに取り組んでいる。 日本市場でMoDTの選択肢と言えば、AMDのTurion 64かIntelのCore Duoあたりということになるのだと思うが、今回は、筆者が気になっていた、開発コードネーム“Sossaman”(ソッサマン)ことXeon LVもあわせて試してみることにした。 ●筆者宅の深刻な悩み、それは……電気料金 なぜ、今MoDTなのかと言えば、筆者宅では深刻な問題が発生していたからだ。それは電気料金問題だ。
筆者宅では、4台のPCが常に動作している。具体的には以下の4台だ。 ・ノートPC(ThinkPad T42、Pentium M 745/1.8GHz) これらのPCが常時動いている(サスペンドなどはさせていない)。その結果というわけではないが、筆者宅では家族2人なのに、なぜか電気代が月に3万円を余裕で超えてしまっていた。筆者宅では、特に暖房なども使っていない(ちなみに冬も暖房が必要ではないぐらい暖かい、部屋に熱源=PCがいっぱいあるからだ)ので、おそらく原因はPCを常につけっぱなしにしていることにあると家族からはクレームがついていた。 確かに、Pentium Dを搭載したPCの消費電力を計ってみると、何もさせていない状態(アイドル状態)で150W、エンコードをさせると200Wを超える瞬間消費電力を記録していた。確かにこれでは、電気代が高くなってしまうのも頷ける話だ。とりあえずこの問題をなんとかしたい。もちろん、根本的な解決策としては、それらすべての電源を切ればよいだろう、という意見もあるのだろうが、まぁ“PCオタク”としてはそれはできない相談だということにして、とりあえず自作PCをMoDTに置き換えてみようと、話はそこからはじまった。 ●MoDT環境としてCore DuoとXeon LV 2GHzを選択 やや前置きが長くなったが、そんなわけで今回ターゲットにしたのは、Pentium D 820を搭載した2台の自作PCマシンだ。VAIOはメーカー製PCで、ソフトウェアとマザーボードが不可分になっている(VAIOの一部ソフトウェアはVAIOのマザーボードでないと動作しないようになっている)ので、これに関しては置き換えをあきらめることにした。 現在MoDTとして利用できるプラットフォームとしては次のようなものが考えられる。 Intelベース AMDベース このうち、Athlon 64 X2 Energy EfficientとTurion 64は、最初に落とした。理由は、この記事の準備を始めたのが4月の終わりで、その時点ではSocket AM2はまだリリースされていなかったからだ。また、目的がエンコードだったので、やはりデュアルコアはほしいなぁということで、Turion 64も落とした。 というわけで、今回はCore DuoとXeon LVを選択した。すでに説明しているように、筆者宅のリビングPCは、Viivマシンとなっており、置き換えるのであればViivが利用できることが最低要件となってしまっていた。そこで、Viiv対応マザーボードが用意されているCore Duoをこれと置き換えることにした。今回はCore Duo T2400(1.83GHz、デュアルコア)を選択した。 そしてもう1台のエンコードマシンの方は、Xeon LVに置き換えることにした。理由は、エンコード用であるので、省電力は気にしつつも、プロセッサパワーが必要だからだ。 ●Xeon LVマザーボードの問題点はPCI Express x8までのサポート Xeon LVは開発コードネームで“Sossaman”と呼ばれてきた製品で、2MBの共有L2キャッシュを備えたデュアルコアCPUとなっている。Sossamanというコードネームこそついているが、実態はYonahそのもので、Core Duoをデュアルソケット対応にさせたプロセッサといった方がわかりやすいだろう。このため、熱設計消費電力(TDP)も31WとCore Duoと共通になっている。Core Duoが上は2.13GHzから1.66GHzまでとなっているのに対して、Xeon LVは2GHzと1.66GHzの3つのSKUのみが用意されている。 ただ、IntelはこのXeon LVをサーバー用と位置付けており、マザーボードもサーバー用のみが用意されているという点が一般ユーザーにはやや敷居が高いものとなってしまっている。現在Xeon LV用マザーボードとして利用可能なのは、SupermicroとTyan Computerの2社からリリースされている以下の製品となっている。 ・Supermicro「X6DLP」 いずれもXeon LV用のチップセットであるE7520(ノースブリッジ)+6300ESB(サウスブリッジ)を採用しており、メインメモリはRegisteredのPC2-3200(DDR2-400)を利用できる。今回はSupermicroのX6DLP-EG2を選択した。というのも、マザーボードを購入する時点ではTiger i7520SDはまだ秋葉原などで販売されていなかったからだ。ちなみに、拡張スロットが多数利用できるという意味では、Tiger i7520SDの方がデスクトップPCとして利用するには適しているので、今後購入を検討するのであれば、Tiger i7520SDも悪くない選択肢だと思う。
これらのマザーボードが一般のユーザーにとって敷居が高い理由は2つある。1つは価格が高いことだ。X6DLP-EG2は秋葉原での販売価格が5万円半ば~6万円となっている。サーバー用のマザーボードとしては決して高い部類ではないが、デスクトップPC用のマザーボードなら3枚は買える計算になる。 ちなみに、Xeon LVの価格自体は1.66GHzの方は現状でも同クロックのCore Duoとほぼ同じ価格というリーズナブルな価格設定になっているのだが、2GHzの方は同クロックのCore Duoに比べてやや高めに設定されている。コストパフォーマンス重視のユーザーであれば、1.66GHzを選択することになるだろう。 もう1つの高い敷居として、ビデオカードとの非互換問題があげられる。いずれのボードもサーバーを前提に設計されているため、PCI Expressはx8までで、一般的にデスクトップPCで利用されているx16スロットは用意されていない。デスクトップPCとして利用する上ではこれが最大の障害で、そのままではオンボードに搭載されているATIのRage XLなどを利用することになる。いくらなんでも、PCI接続のRage XLでは、デスクトップPCとしてビデオ再生などをさせるには不十分だ。 そこで、最近一部で流行している、ビデオカードを物理的に削ってPCI Express x8に強制的に対応させるという手段にでてみることにした。PCI Expressでは、その仕様上バス幅はフレキシブルに変えることができる。x16に対応したPCI Expressの物理層はx1でも動作するし、x4でもx8でも動作するように設計されている。このため、カード側を削って物理的にx8に入るように改造したとしても、理論上は動くはずだ。そこで、カードとスロットを比較しながら、入らない部分を削ってみた。 実際、これで何の問題もなく動作している。もっとも、こうした改造をした場合、もちろんメーカー保証は受けることはできないし、何か問題が発生しても筆者を含めて誰も保証しないので、実行する場合には自己責任ということを認識した上で行なっていただきたい。 ●Pentium D 820とCore Duo T2400では月々の電気代が約3倍も違う! それでは、実際に、どの程度Pentium D 820から性能や電気代が改善されるのかを、実際にベンチマークを利用してチェックしていこう。 今回テスト環境として用意したのは、Pentium D 820(2.8GHz、デュアルコア)、Core Duo T2400(1.83GHz、デュアルコア)、Xeon LV 2GHz DP(2GHz、トータル4コア)で、最後に参考として新しいプラットフォームになるCore 2 Duo E6700(2.66GHz)を追加した。
【表】テスト環境
テストとして利用したのは、ペガシスの「TMPGEnc 4 XPress」で、30分のMPEG-2ファイル(8Mbps、54,076フレーム)をWMV 3Mbps(1pass、CBR)にトランスコードする時間を計測した。なお、WMVのエンコードはそのままでは2スレッドのみの処理となるので、TMPGEnc 4 XPressのバッチエンコードを利用して、同じ2つのファイルを同時に処理して4スレッドの処理ができるように工夫した(こうしないと4コアのXeon LVの性能が正しく計測できないからだ)。消費電力に関しては、ワットチェッカーを利用して、アイドル時、エンコード時の消費電力を計測した。
エンコードの結果はグラフ1の通りだ。このグラフは時間を表しており、2つのファイルのエンコードにどれだけ時間がかかったのかを示している。このグラフでは、左に行けば行くほど処理時間が短く済んでいる、つまり処理能力が高いことを示している。 そうしてかかった時間でフレーム数を割り、フレームレート(1秒間に処理できたフレーム数)を示したものがグラフ2だ。こちらのグラフでは右に行けば行くほど高い処理能力を示していることがわかる。こちらでわかることは、Core Duo T2400とPentium D 820がほぼ同じ性能であるということと、計4コアのXeon LVとデュアルコアのCore 2 Duoがほぼ同じ性能であるということだろう。
グラフ3は、Windowsが起動しているだけで何も処理をしていない状態、いわゆるアイドル時の消費電力と、エンコード処理をさせている時の消費電力を示したものだ。ここでは、Core Duo T2400の優秀さが際だっている。アイドル時はわずかに50W、エンコード時でも72Wでしかない。この72Wというのは、Pentium D 820のアイドル状態の113Wの63%でしかない。つまり、Pentium D 820がただ起動しているだけで消費するわずか63%の消費電力でCore Duo T2400はエンコードできることになる。この点はCore 2 Duo E6700のエンコード時も同様で、エンコード時でも114Wと、Pentium D 820のアイドルの113Wとほぼ変わらない消費電力となっている。
まず、1カ月にエンコードさせっぱなしでどのぐらいの消費電力を消費(つまり電力量=kWh、1W=1Whとして計算している)するのかを計算してみた。まず1カ月の電力量(kWh)を電力(W)×24時間×日数(30日)で計算した。例えば、Core Duo T2400ならエンコード時の消費電力が72Wなので 72W×24時間×30日=51840Wh=51.84kWh という計算になる。この51.84kWhが、Core Duo T2400マシンが1カ月に消費する電力量ということになる。 さらに、これに電気料金をかけてみてどのくらいになるのかを計算したのがグラフ5だ。関東地方の電気供給会社である東京電力の場合、3段階の料金設定となっており、 120kWhまで15.29円 となっている。300kWhはすぐに超えてしまう家庭がほとんどだと考えられるので、今回は第3段料金の21.25円(消費税込みで22.3125円)で計算してみた。結果がグラフ5で、電気料金でいうと、Core Duo T2400がもっとも安価で1,156.68円、もっとも最悪の結果だったのがPentium D 820で3,309.39円と、実にCore Duoの3倍にもなってしまった。 さらに、計算上の電気料金でエンコード性能を割り、電気料金千円あたりに得られるエンコード性能を導き出したのがグラフ6だ。ここでは、Core DuoとXeon LVがほぼ同等で、Core 2 Duoが若干良い結果を導き出している。Pentium D 820はもはや触れるに値しない悲しい結果(他の1/3以下)の電気料金コストパフォーマンスしか持っていないことがわかる。 ●1年間使うことを考えると、CPUとマザーボードは十分買えてしまう電気代の差
それでは、Pentium D 820×2から、Xeon LVとCore Duoに変えてどのぐらい電気代が変わったのだろうか。この写真は筆者宅の電気代だが、見ての通りPentium Dを使っていた5月分が30,577円であったのに対して、変えた6月分からは21,586円と大幅に下がっていることがわかる。 ただし、検針日の違いから5月分が34日分の電気料金であるのに対して、6月分は28日分の電気料金になっているため、どちらも30日分に計算し直すと、 5月分 26,960円 となり、その差は3,830円となる。筆者の計算上Pentium D 820マシンの2台の1カ月の電気料金は3,309.39円×2=6,618.78円で、Xeon LV 2GHzマシン+Core Duo T2400マシンの1カ月の電気料金は1,927.8円+1,156.68円=3,084.48円となり、その差は3,534.3円となるから、計算上も大体合っていることになる。 1カ月で3,500円の電気代の差をどう見るかは人それぞれだと思うが、12カ月で計算すれば42,000円の差になる。十分、Core Duoとマザーボードが買える値段になってしまう。もし、いまPentium DやPentium 4マシンを使っていて、“大蔵省”から許可がでないという“お父さんPCユーザー”の方であれば、この記事を見せてCore DuoやCore 2 Duoなどへ買い換え法案を提案してみてはいかがだろうか。 もっともそんなに電力を消費しているならPC使うなと言われるおそれもあるので、くれぐれもご注意願いたいところだが……。
□関連記事 (2006年8月2日) [Reported by 笠原一輝]
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