デルの「XPS」シリーズは、ハイエンドユーザーをターゲットにした高級路線のPCで、日本では「XPS 700」というデスクトップPCと、「XPS M1210」、「同M1710」、「同M2010」という3機種のノートPCがラインナップされている。 デルと言えば、これまでどちらかと言えばビジネス向けのコストパフォーマンスの高いPCを販売するメーカーという認識だったと思うが、ここ数年米国ではハイエンドPCに力を入れており、1月に行なわれたInternational CESでQuad SLIを搭載したPCをいち早く公開したことなどは記憶に新しいところだろう。 今回取り上げるXPS 700は、大手メーカーではほとんど採用例がないGeForce 7900 GTXのSLI構成に対応するなど、本誌読者でも満足できる高いスペックが大きな特徴となっている。 ●nForce 590とSLIという“NVIDIAづくし”の構成 XPS 700(以下本製品)の特徴は、なんといってもスペックがハイエンドPCにふさわしいものとなっているものだ。筐体の内部を見ると目につくのは、2枚のビデオカードだろう。採用されているのは、NVIDIAのGeForce 7900 GTX(ビデオメモリ512MB)という現時点では最高峰のビデオカードで、これが2枚、つまりSLI構成で利用することができる。 SLIとは、2つのGPUを利用して1つの3D画面を描画する技術で、1つだけのGPUを利用する場合に比べて性能が2倍とまではいかなくとも、1.x倍程度の3D描画性能向上が得られる。ハイエンドゲーマーがプレイする3Dゲームでは、3D描画性能の優劣がゲーム結果にまで影響を与えることがあるので、そうしたハイエンドゲーマーにとってSLIは大きなメリットがある。 多くの読者がご存じの通り、デルは基本的にダイレクト販売のみとなっており、ユーザーが注文時にスペックを変更することが可能だ。この製品も例外ではなく、今回利用した評価マシンに搭載されていたGeForce 7900 GTXのSLI構成以外に、ATI Radeon X1900 XTX(512MB)ないしはGeForce 7900 GSのSLI構成およびシングルカードを選択することも可能だ。また、AGEIAの物理演算カード「PhysX」を追加することもできる。 ちなみに、X1900のデュアル構成、つまりCrossFireは選択することができない。なぜかと言えば、チップセットがNVIDIAのnForceシリーズであるからだ。ATIのCrossFireはATIのチップセット、ないしはIntel 975X Expressでのみ利用可能となっている。 なお7月19日現在、デルの公式スペックではチップセットはnForce4 SLI x16となっているが、これは古いスペックで、現在はnForce 590 SLIが搭載されている。サウスブリッジにはnForce4 SLI用のCK8-04ではなく、nForce500シリーズ用のサウスブリッジMCP55が採用されている。 マザーボードはデルオリジナルのBTXフォームファクタのマザーボードになっており、赤い色が特徴的となっている。 ●CPUとしてPentium Extreme Edition 965も選択可能 nForce 590 SLIの特徴は、“Conroe”ことCore 2 Duoにも対応していることなのだが、今回の製品ではCPUはPentium Dとなっている(現時点ではCore 2 Duoがリリースされていないのだから当たり前だが)。選択可能なのは、Pentium Extreme Edition(XE) 965(3.73GHz)/Pentium D 950(3.4GHz)/940(3.2GHz)/930(3GHz)/Pentium 4 670(3.8GHz)となっており、今回テストした評価マシンではPentium D 940が搭載されていた。 nForce 590 SLIでは、DDR2-800がサポートされているのだが、本製品ではDDR2-667となっている。この点は特に気にする必要はないだろう。というのも、DDR2-667をデュアルチャネル構成でサポートしている本製品では、メモリの帯域幅は10.4GB/secに達する。ところが、Intelアーキテクチャで採用されているFSBでは800MHz動作時で6.4GB/secの帯域幅しかなく、すでにDDR2-667の帯域幅を下回っているのだ。また、レイテンシと呼ばれるCPUからメモリにアクセスする際にかかる実時間はDDR2-800とDDR2-667でほとんど差はなく、こちらの方でも性能的なアドバンテージはほとんどない。 なお、メモリソケットは4つ用意されており、ユーザーの注文に依存するが、1GB構成では512MB×2という構成になり、将来のアップグレードも可能になっている。もっとも、近い将来にアップグレードする可能性があるのであれば、購入時に2GBなどに増設して注文するといいだろう。 ●6つのSATAポートを利用して光学ドライブもSATA接続 HDDベイは筐体内部に4つ用意されているが、購入時にはRAIDなしでドライブ2台、ないしはRAID構成(RAID 0かRAID 1)でドライブ2台という構成が選択できる。RAID構成時のみもう1台HDDを追加することが可能になっており、RAID構成時には最大で3台までのHDDを選択することができる。 RAID機能は、MCP55の標準機能であるnvRAIDの機能を利用している。MCP55のnvRAIDは、RAID 0/1/10/5構成が可能になっており、本製品でも利用が可能だ。ただし、購入時に選べるのはRAID 0ないしはRAID 1となっており、RAID 10、RAID 5を利用したい場合にはユーザーが自分で設定し、OSを再インストールする必要がある。また、FDDは標準ではオプションになっているので、購入後にRAID 5などに設定したいのであれば、Windowsのインストール時にRAIDドライバをFDからコピーする必要があるので、購入時に選択した方がいいだろう。 MCP55のシリアルATAポートは、標準で6ポート用意されており、本製品ではこのうち4ポートがHDDに、2ポートを光学ドライブに利用するように設定されている。すでに述べたように、本製品では最大で3台までしかHDDを選択することができないのだが、シリアルATAの電源とデータケーブルは4台分用意されており、保証の範囲外となるがユーザーが自分でHDDを購入してくれば増設することができるようになっている。また、光学ドライブベイにも2つ分の電源とシリアルATAデータケーブルが用意されており、ここにシリアルATAの光学ドライブを接続して利用することが可能になっている。 光学ドライブベイにはパラレルATAのケーブルも用意されており、こちらを利用することも可能だ。こうした利用されていないデータケーブルなどが用意されているのは、おそらくBTOで注文を受けてから組み立てる際の利便性を優先した結果なのだと思われるが、ユーザーとしても将来の拡張時にケーブルで悩まなくて良いという意味では評価して良いと思う。 5インチベイは4つ、3.5インチベイは2つ用意されている。3.5インチベイのうち1つはカードリーダ(SDカード/CF/MMC/RS-MMC/メモリースティック(PRO)/メモリースティックデュオ(PROデュオ)/スマートメディア/xD-PictureCard)に利用されており、空いているもう1つにオプションのFDDが装着可能となっている。
●OSにはWindows XP Media Center Edition 2005を選択可能 本製品のOSにはWindows XP Media Center Edition 2005(Rollup2適用済み)が採用されているが、Windows XP Home Edition/Professionalも選択することが可能だ。今回の評価機ではTVチューナカードとしてEmuzedの「Angel」というデュアルTVチューナカードが導入されていた。Emuzed Angelは、デュアルチューナを搭載しているほか、すべての処理をフルデジタルで行なうため、動画の劣化が少ないNECのエンコーダチップ(μPD61153)を採用しており、3D Y/C分離やゴーストリデューサ、ノイズリダクションなどの高画質化機能も備えている。 Windows XP MCEでは、動画再生の品質などはMPEG-2 CODECに依存することになるが、本製品に採用されていたのはSonicのDVDデコーダに付属のものだった。画質として標準的だが、最新のコーデックでは当たり前の機能となりつつあるソフトウェアインタレース解除やGeForce 7900 GTXの画質改善機能であるPureVideoを利用する機能などは実装されていない。インタレース解除やPureVideoなどを利用することで、画質が大きく改善されることになるので、できればそうしたソフトウェアにもこだわってほしかったところだ。 サウンドカードには、Creative Technologyの「Sound Blaster X-Fi Xtreme Music」(以下X-Fi Xtreme Music)が採用されている。X-Fi Xtreme Musicは、Sound Blasterシリーズの最新製品であるX-Fiシリーズの中ではエントリーに属する製品だが、24bit/96kHzオーディオ処理が可能になっているサウンドカードで、一般的なサウンドカードに比べて高音質という評価を得ている。 ●赤く光るLEDを内蔵した超大型フルタワーケースを採用 本製品のもう1つの特徴として、独特のケースを挙げておきたい。 本製品のケースはデルオリジナルのフルタワー型ケースで、前傾しているデザインを採用している。本体前面と背面にはLEDが実装されており、本体の電源をONにすると赤く光るようになっている。LEDは前面の上と中央の2カ所に数個ずつ実装されている。これが、本体の格子に反射して光るのはちょっと不思議な感じで、実にユニークなデザインだ。 ただ、1つだけ難点となるのは、とにかく大きいということだ。外寸は約218×572mm(幅×高さ)、となっており、奥行きに至っては616mmもある。実際大きさはほぼサーバーケースと言って良いほどだ。しかしながら、大きいことは逆にメリットとなりうる。というのも、本体が大きいだけあり、余裕があり、カードの増設やHDDの増設といった作業がやりやすいのだ。
また、これだけ大きなケースを採用したことで、冷却装置も大きなものが利用できるようになっている。実際、本製品は内部に2つの12cm角ファンが用意されており、1つはCPUクーラーを、もう1つは2枚のビデオカードを冷却するようになっている。こうした大型の12cm角のファンを利用することで、ファンの速度/騒音を抑えることができる。実際、本製品は起動時こそものすごい騒音がするものの、Windowsが起動してしまえば、ファンの動作音は思ったより気にならない。
電源は750WというPCとしてはかなりの大容量のものが採用されている。正直に言って、Pentium XE 965+GeForce 7900 GTXデュアルという構成を考えると、750Wはやや大げさと言えるが、おそらくこれはQuad SLIを意識しているためこうした構成になっていると考えるのが妥当だろう。というのも、米国で発売されているXPS 700にはQuad SLIがBTOの選択肢として用意されているからだ。余談になるが、こうした製品では、とにかく最上級であることが求められるだけに、ぜひ日本でもQuad SLIの選択肢を用意してほしいところだ。
●SLIの効果で高い3D描画性能を発揮 それでは実際のベンチマークプログラムを利用して性能を計測していこう。特に本製品は、ビデオカードはGeForce 7900 GTXの2枚構成、つまりSLIになっており、特に3D性能の高さが特徴と言える。そこで、今回は代表的な3Dベンチマークである「3DMark06」(解像度は1,280×1,024ドット)、「Final Fantasy XI Official Benchmark 3 Version 1.0」(High Resolution)の2つを利用して計測してみることにした。 本連載では、こうしたハイエンドマシンを取り上げるのはほとんど初めてで、他に比較するデータが無かったので、今回はPentium D 920(2.8GHz)+Intel 945G+DDR2-667+GeForce 7900 GTX(シングル)という自作PCを用意し、それとの比較をしてみることにした。
【表】ベンチマーク結果
結果は、SLIでのアドバンテージを生かして、どちらの結果も本製品がPentium D 920(2.8GHz)+Intel 945G+GeForce 7900 GTX(シングル)を上回った。 なお、消費電力についても計測してみた。利用したのはいずれもFinal Fantasy XI Official Benchmark 3 Version 1.0テスト中で、結果はXPS 700が351W、Pentium D 920(2.8GHz)+Intel 945G+GeForce 7900 GTX(シングル)は245Wだった。XPSの方がHDDが2台(自作PCは1台)などの要因もあるが、最大の要因はやはり100Wを超える消費電力になるGeForce 7900 GTXを2枚実装していることだろう。もっとも、こうしたハイエンド製品では、そもそも消費電力うんぬんを言うのが意味があるとは思えないのであまり気にする必要はないとは言えるが。 ●高い3D描画性能を大手メーカー製PCでもほしいユーザーなら検討の余地あり 以上のように、本製品の特徴は、CPUにIntelのPentium XE 965、チップセットにはNVIDIAのnForce 590 SLI、ビデオカードにはGeForce 7900 GTXを2枚という、現時点で他の大手PCメーカーには選択肢すら存在していないハイエンドパーツを採用している点にあると言える。欲を言えば、Quad SLIが選択できるとさらに良かったのだが、とりあえずSLIが選択できるだけでも十分その価値はあると言える。 さらに、ハイスペックにふさわしい、サーバーケースのような特大ケースを採用し、ユニークなLEDによるデザインなど、デザインも他の製品とは一線を画すモノとなっている。この点も、日本のPCベンダのどちらかと言えば“省スペース”なPCに不満を感じているユーザーにはうれしい点であると言えるだろう。 しかもこうしたスペックながら、価格はお買い得な設定となっている。たとえば、7月19日時点での“XPS 700 デュアルグラフィックカード搭載パッケージ”(Pentium D 940、1GBメモリ、250GB HDD、GeForce 7900 GTX×2、DVD±RWドライブというスペック)では、279,980円(税込み、配送代別)という価格設定になっており、1枚で7万円近くするGeForce 7900 GTXが2枚入っていることを考えればお買い得な価格設定と言えるだろう。 こうしたことから、本製品は、日本のPCメーカーの“省スペース”なPCよりは大きくても拡張性が高いPCが欲しいユーザーや、高い3D描画性能は欲しいけど、自作はちょっと、というユーザーなどにお勧めできる製品と言うことができるだろう。
□デルのホームページ (2006年7月20日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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