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Spring Processor Forum 2006レポート 復活したEfficeonはXboxポータブルに搭載か会期:5月15日~17日(現地時間) 会場:米カリフォルニア州サンノゼ
「Technology for Power-Efficient Processing」の最後に登場したのが、おなじみのTransmeta。 「Power Reduction using LongRun2 in Efficeon Processors」と題したプレゼンテーションは、LongRun2の効果を具体的な数字を使って紹介したものだが、なかなかとんでもない話が隠されていた。ということで、まずはプレゼンテーションの方から紹介したい。 ●LongRun2のVtコントロール効果 そもそもタイトルからして、今回のプレゼンテーションはEfficeonがどうこうという話ではなく、LongRun2の効果を周知させるためのものであるのは明白である。TransmetaのメインビジネスがLongRun2のライセンス提供という形になっており、実際日本の主要半導体メーカーがいずれもLongRun2の導入に走った事でもこれは判る。 そのLongRun2、以前Ditzel氏にインタビューしたときには「そもそもスレッショルド電圧の制御方法は非常に一杯(Many Hundreds)あり、一概には言えない」とか煙に巻いてくれたが、今回は素直にBody Biasを使ったと一言でまとめてしまっている(写真02)。で、そのLongRun2を実装したEfficeonが既に存在している事も明らかにした(写真03)。
さて、LongRun2である。従来の省電力機構は(今回SPF2006で発表されたものも含めて)、いずれもCPUからIDを電源回路に送り、これに合わせて電源回路が電圧を調整するという仕組みである(写真04)。ただ、CMOSが微細化してゆくなかで、Vt(スレッショルド電圧)は確率論的に分散することが避けられない(写真05)。これがPMOSとNMOSの両方について関係してくる関係で、実際に利用できる製品というのは写真06のような菱形を取ることになる。
さてこれを念頭において、先の写真04の構図の場合の電圧と消費電力・動作周波数の関係を見ると写真07のようになる。ところが実際には写真06のように、製品にはばらつきがある。そこで、最適な電圧を調整するためには、じっさいにはテーブルが1つでは足りないということになる。実際Transmetaの製品(Efficeonの初代製品のようだ)は、この電圧制御テーブルを6セット持ち、製品に合わせてテーブルセットを切り替えるという処理を行なっていたそうだ(写真07)。 さて、LongRun2はVtを制御することにより、そもそも写真06の菱形を小さくする効果がある。2003年のMPFで初めてEfficeonが発表されたとき、Ditzel氏は「LongRun2の効果は単にリークを減らすだけではなく、トランジスタの特性を揃える効果もある」と語っていたが、具体的にVtを制御することでどう特性を揃えるか、が明確になったわけだ。
さて、これによる省電力効果はいかがなものか、という問題に対して3つの試行が示された。以下のデータは200個のLongRun2搭載Efficeonを使い、次の3つのデータを取ったものだ。 (1) 1.5GHz動作時の消費電力 (1)の結果が写真10であるが、Vdd固定だと3W~9W強と広い範囲に分散していた消費電力が、Vdd制御では2.5W~6.5Wの範囲に治まり、それなりに効果が出ている。Vt制御は更に効果的で、2W~4Wの範囲になり、Vdd制御まで加えることで2W~3.6Wの範囲に押さえ込みが出来る。つまり両者を併用することで、消費電力の絶対値そのものも抑えられるが、それよりも製品のばらつきを押さえ込める、という効果が期待できることが判る。この結果を書き換えたのが写真11で、各CPUごとに条件によってどう消費電力が変化してゆくかをプロットしたものだ。どんどん製品のばらつきが減っていることが判ると思う。
では、同じことを700MHzでやるとどうなるかを示したのが写真12だ。グラフの数が少ないように思えるが、これはグラフがぴったり一致してしまっているからだ。写真13ではこれが判りやすく示される。 つまり、省電力モードで動作している際は、Vddを変えても消費電力に変化がないということである。そもそもCMOS回路の消費電力は、スイッチングとリークの2つの消費電力の合計で決まるのだが、1.5GHz駆動だとスイッチング側もそれなりに大きな消費電力になるので、Vddの変更が効果がある。ところが700MHzでは相対的にスイッチングに要する電力が小さくなるので、Vddを変更してもほとんど違いがなくなるというわけだ。そこで、Vtの制御により、ばらつきを大幅に減らし、かつ省電力が狙えるというわけである。
最後に消費電力4Wでどこまで周波数が上げられるかの比較だが、これはもう非常にわかりやすい(写真14)。分布の中心が1.2GHz→1.5GHz→1.6GHz→1.7GHzとどんどん向上しており、最低周波数も950MHz程度から最終的に1.5GHzまで引き上げが可能になっている。もっとも一概にVt制御を入れれば高速になるとは限らない(写真15)わけで、Vdd制御も最高性能の確保には必要という事だ。 たしかにこうした結果を見せられると、90nmや65nmでYield(歩留まり)の向上に頭を痛めているメーカーが相次いでLongRun2の導入を決定するのもわからなくはない。
●Efficeonの新しいクライアントはMicrosoft
初日のConference後に行なわれたEXPO会場では、Transmetaもブースを出し、実際に700MHz駆動のLongRun2搭載Efficeonが0.7W程度の消費電力で動作している事をアピールしていた(写真16)。 そこで、Ditzel氏を捕まえて「まさかこの検証のためだけにEfficeonの新シリコンを作ったのか」と聞いたところ、そうではなくちゃんとクライアントがついたのだという。そのクライアントとはなんとMicrosoft。何に使うかをたずねたところ「詳しくは来週の「WinHEC 2006」でMicrosoftから発表があるはずだから、そちらで聞いてくれ」という返事が。「UMPCか」と問うても答えてはくれなかった。 ただし、「700MHzで動くEfficeonはXboxと同じ性能だよ」という、実に示唆に富んだ答えが返ってきた。EfficeonはAGPも持っているから、仮にGeForce3相当のグラフィックコアをやはり省電力で実現できれば、ハードウェア完全互換なXboxポータブルが実現できることになる。その際に気になるのはサウスブリッジの存在。デモ機はULi(というか、まだALiと表示されていた)のM1563Mが搭載されていたが、NVIDIAにULiが買収されたことで、製品の供給は止まりつつある。 ところがDitzel氏によれば「まったく問題ない」との事。M1563Mに関しては今後も問題なく供給されるし、「大体HyperTransport LinkなんだからAMDのチップセットは全部使える」。良く考えれば、仮にXboxポータブルが実現するのであれば、NVIDIAがグラフィックとチップセットを供給するのは自然な流れだし、その際にM1563M相当品を出すのは別に難しい話ではない。 なるほど、わざわざ発表をするだけの意味があったのだな、と理解できる内容であった。 □関連記事 (2006年5月19日) [Reported by 大原雄介]
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