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コンフィギュレーションが可能なPLAYSTATION 3
〜SCEI 久夛良木健氏インタビュー(1)




久夛良木健氏

 PLAYSTATION 3(PS3)発売へと、いよいよ加速し始めたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)。しかし、従来のゲーム機とは一線を画すエンターテイメントコンピュータPS3の戦略は、まだ浸透しているとは言い難い。

 同社を指揮する代表取締役社長兼グループCEOの久夛良木健氏に、PS3の戦略とビジョンを伺った。



●コンピュータだから進化するPLAYSTATION 3

PLAYSTATION 3

【Q】 以前から、SCEIはPLAYSTATION 3(PS3)はゲーム機ではなく、コンピュータだと言っていた。その意味では、PS3がHDDを標準で載せるかどうかが、コンピュータになるかどうかの重要なポイントだと考えていた。しかし、HDDの標準搭載は、なかなか明確にしなかった。2005年から、紆余曲折してようやく標準搭載へ落ち着いた感がある。

【久夛良木氏】 HDDは標準で入れたい、と心の中では決まっていた。でも、経済的理由とか、あと2.5インチドライブ自体がそれほど確保できないかもしれないとか、いろいろな懸案があった。ひょっとしたら、HDDがないバージョンを出すことになったかも知れない。そうすると完璧にゲーム機になってしまうが、僕らはコンピュータをやりたいんで(それは困る)。

 そうした事情があって、HDDを入れると腹を決めていても、覚悟が必要だった。

【Q】 ゲーム機ならHDDは経済的な圧迫になる。HDDは半導体チップと違ってコストが下がらない。だから、ゲーム機のライフサイクルを通じて40〜50ドルのコストアップになる。ゲーム機の場合は、最終的に100ドル台へと価格を落とすが、HDDを標準搭載するとそれが難しくなる。つまり、PS3はゲーム機のような価格モデルは取らないということか。

E3で明らかにされた、“エンターテイメントコンピュータ”PS3の価格設定

【久夛良木氏】 だって、僕らはゲーム機って言ってないじゃない(笑)。PS3は、今までのPSと違って明快にコンピュータだから。

 確かに、ゲーム機として見た時には、コストを下げるために、ある程度成熟したハードにしてかなきゃならない。方法論としては、半導体を集約したり、電源容量を減らすといったコスト削減を、これまでしてきた。同じことは、PS3でも当たり前にやる。

 だけど、PS3はコンピュータなので、(価格を下げるだけではなく)進化したい。HDDの容量もあっという間に上げたくなるだろうし、今後、PCで新しい規格が増えていけば、それも対応したくなる。BDドライブも書き込みしたくなるかもしれない。まあ、BDは、そうならないかもしれないけど。

●モデルではなくコンフィギュレーションである意味

【Q】 PS3はコンピュータだから、ゲーム機の価格とコストのモデルの制約に縛られない。だから、コンピュータとして必要なHDDも標準で載せるし、ハードも進化させると考えていいのか。

【久夛良木氏】 HDDだけでなく、全て標準規格を採用した点でもコンピュータだ。インターフェイスは、以前はPlayStation専用のメモリカードスロットだった。でも、PS3では、PC標準のスロットしかつけてない。

 標準だから、当然、インターフェイスはオープン。僕らは何も(規格を)握ってない。コンピュータだから自由にしてもらっていい。HDDだって、PCをいじれる人ならサクサクとアップグレードできちゃう。

【Q】 ゲーム機は、ライフサイクルを通じてハードのスペックを固定する。しかし、PS3は構成を柔軟に変えられる点でPCに近いように見える。

【久夛良木氏】 PS3はコンピュータだから、あるのは「モデル」じゃなくて、「コンフィギュレーション」。それを今度はクリアに出そうとしている。何だったらBTO(ビルドツーオーダー)リストを出してもいいくらい(笑)。まあでも、それをやると、流通が混乱するから。でも、PS3なら、やろうと思えばBTOだってできる。

【Q】 以前のインタビューで、PS3というハードはなく、メタフォーマットがあるだけと語った。PS3では、一定のプロファイルのソフトウェアを走らせるスペックを満たしていれば、それ以上はハードのコンフィギュレーションができる?

【久夛良木氏】 その通り。だから、どのコンフィギュレーションも全部PS3。

【Q】 PCのように、年々、スペックを拡張していくことも考えられるのか。

【久夛良木氏】 1年ごとに、コンフィギュレーションを(拡張して)出してもいいと思っている(笑)。冗談ぽく言ってるけど、Dellならやるだろうし、Appleでもやるだろう。PCなら、2年も(スペックを)置いておいたら追いつかれちゃう。コンピュータはどんどん変えていくものでしょ? (HDDも)絶対60GBじゃ足りなくなるし、メモリだって足りなくなるかもしれない。色々な可能性がある。

【Q】 PS3ゲームのメタフォーマットに必要なスペックを超えた、コンピューティングパワー強化版のPS3コンフィギュレーションが出てくる可能性もある?

【久夛良木氏】 ありえる。やりたいことが増えていけば、当然そうなる。もちろん、やりたいことがどこまで増えるのかによるけれど。

●E3でファーストパーティがPS3タイトルの基準点を示した

【Q】 E3ではファーストパーティの開発中タイトルがプレイアブルで並びインパクトがあった。

【久夛良木氏】 事前の予想だとプレイアブルはないとか言われていた(笑)。あんなにたくさんプレイアブルが出るとは、誰も思ってなかっただろうから。少なくとも、あのレベルのプレイアブルまで行っているとは考えてなかったろう。

 普通、ファーストパーティがあんなに出張るのは問題があるけど、責任だと思うから幅広いものを出させていただいた。まず基準を見せる責任があると。

 PlayStation 1の頃は基準になるソフトウェアとして、1番上のアーケードゲームがあった。だから、アーケードゲームを移植できるセガ、ナムコが強かった。アーケードゲームが基準になって、ゲームが作られていった。

 でも、今回のPS3は、あらゆる基準を超えていると思う。そのため、自分たちが確信を持ってこれだと基準を示さないと、皆さんがどこを向いていいかわからないだろうと考えた。ファーストパーティの責任として、プラットフォームだけでなく、ソフトウェアや色々な部分で示さないと。その基準は、発売にいたる何カ月前の基準ですらこうだよと。11月のPS3発売までには、もっともっと進化する。たぶん、1つの基準になったと思う。

【Q】 サードパーティは相対的に目立たなかった。ファーストパーティとサードパーティで、今回はかなり差が開いているように見える。

【久夛良木氏】 良きにつけ悪しきにつけ、E3はファーストパーティづくしだった。やはり、社内でハードのことをよくわかっているし、かつ、SCEIのグローバルスタジオの横のつながりがある。今回は、いろいろな情報共有、エンジン共有、ノウハウ共有をしようということで、デモを造った。

 今まで、当社のスタジオは、リージョン(ごとのSCE組織)にくっついているスタジオの集合体だった。それを半年くらい前に、Harrison(Phil Harrison氏。President, Sony Computer Entertainment Worldwide Studios)や山内(山内一典氏。プレジデント、ポリフォニーデジタル)とかを含めて、各スタジオを一緒にした。しょっちゅうオフサイトやったり、E3に関しては全スタジオが交流してああでもないこうでもないと、やった。そうするとあそこまでいく。

●PS3でトップガンに腕を振るってもらいたい

【Q】 PS3のCellのコンピューティングパワーは、PCを遙かに凌駕している。コンピューティングの種類にもよるが、演算性能は目覚ましい。だが、それだけにプログラミングモデルが複雑で、ハードルが高い。サードパーティでは、Cellは手に負えないという人と、Cellはとてつもなく面白いという人に、デベロッパが二極化しているように見える。

【久夛良木氏】 PlayStation 1の時ですら、2Dグラフィックスばかりやっていた人は、「PlayStationは手に負えない、何やっているんだか全然わからない、でもライブラリあるからまあいいか」みたいな感じだった。

 今、ゲーム機がどんどんコンピュータ化していることは間違いない。そうすると、今までとは(プログラミングが)違ってくる。ゲーム機のプロセッサパフォーマンスが上がったら、(ソフトを)作りにくいというのはおかしいじゃない。PCのクロックやメモリ、HDDが向上して、重厚長大になったからソフト作れないって言っている人いないでしょう。PS3というコンピュータの上で、トップガンの(プログラマの)人が腕をふるってもらいたい。

【Q】 現状では、PS3での開発は、プログラマの才能と努力に頼っている。ライブラリやミドルウェアを充実させて、プログラマの負担を軽くして行くのが間に合っていない。

【久夛良木氏】 ミドルウェアは揃えてゆく。しかし、ミドルウェアって実は帯に短したすきに長し。昔からそうだけど。ミドルウェアに頼ったらいいゲームができるかというと、そうでもない。少なくともPS3では、ミドルウェアはこういうところで使えばいいけど、ここは注意しないとといった加減がわからないと悲惨な目に遭う。

【Q】 Microsoftは、PCで成功したプログラミングフレームワークの枠組みを、ゲーム機でも実現しようとしている。OSの上に、標準化したソケットAPIを揃えて行く。

【久夛良木氏】 MicrosoftはPCから来ているから、PCの世界ではこんなもんだと言う。でも、僕から見たら、それでは進化ないじゃんと思う。

【Q】 前回のゲームコンソール世代では、SCEI、Microsoft、任天堂の3社の方向は、違っていたものの、差はそれほど大きくなかった。ところが、今回は、3社が全く違う方向を向いている。劇的な差がある。

【久夛良木氏】 それで市場が活性化すればいいんじゃない? 同じことを言っていたら殺し合っちゃうからね。

ゲームコンソール層のソフトウェアの変化
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●インタビュー解説

 PS3で明瞭なのは、ゲーム機ではなくエンターテイメントコンピュータを目指すという点。そのため、PS3は、従来の“ゲーム機の常識”では計れない部分が多い。中でも重要なのは、PS3ではコンフィギュレーションが可能である点だ。つまり、ハードウェア構成が異なるコンフィギュレーションの存在が許されている。

 だから、PS3では「60GB HDDモデル」ではなく、「60GB HDDコンフィギュレーション」としている。つまり、他にも無数のコンフィギュレーションが可能で、やろうと思えば、PCのようにBTOで売ることすら可能だと言いたいわけだ。現時点では、まだコンフィギュレーションの多様性は見えていないが、PS3がいったん成功し、ハードウェアもこなれて来れば、コンフィギュレーションの多様化も進む可能性が高い。

 また、メモリを増やしたり、強化版Cellを載せた、進化形コンフィギュレーションが登場する可能性もある。つまり、ゲーム機は、スペックを据え置きのまま、価格を徐々に下げるというモデルも、PS3では通用しなくなる可能性が高い。思惑通りに行けば、PCと同じように、年々、高性能なPS3が出てくるという形になりそうだ。

 ただし、“PS3ゲーム”は一定のプロファイルに従って開発され、最低スペックでも動作が保証されると見られる。旧来的な意味での“PS3”は、この世代では、あるプロファイルのソフトを走らせるハードウェア環境という意味になる。

 こうしたコンフィギュレーションを実現するため、PS3では、ソフトウェア構造も従来とは異なる設計をされている。PS2までは、OSやライブラリ、デバイスドライバに当たるソフトウェアは、ほとんどが光学ディスク側に載せられていた。そのため、ハードウェアスペックを厳密に一定に保たないと、ソフトウェアの互換性を取れなかった。

 それに対して、PS3では、できる限りのソフトウェアモジュールをPS3本体のフラッシュメモリに搭載する。本体側にベースのソフトウェア群を持つため、ハードウェア仕様を変更しても、本体側のソフトウェアを変更することで対応できる。PS3では、ソフトウェア層の構成も、伝統的なゲーム機から大きく変わり、ある程度PC的になっている。もっとも、ソフトウェア層の変化は、Xbox→Xbox 360でも類似のことが起きており、トレンドでもある。

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(2006年6月7日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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