ソニーから、BD(Blu-ray Disc)ドライブをいち早く搭載した「VAIO type R」が発表された。搭載されているのは、BD-R/REに書き込みが可能な記録型BDドライブで、内蔵されているデジタル放送チューナーにより受信したデジタル放送の番組を、HD解像度のままBD-REにムーブすることができる。 今回は、BDドライブを搭載したVAIO type Rの新モデルのうち、店頭向け販売モデルの最上位製品となるVGC-RC72DPL9の試作製品を利用して、その魅力に迫っていきたい。なお、評価に利用したのは製品に近い試作品であり、実際の製品とは異なる場合があることをお断りしておく。 ●記録型BDドライブを利用してデータ形式とAV形式での記録が可能に 今回取り上げるVAIO type Rの店頭向け最上位製品(VGC-RC72DPL9、以下本製品)の最大の特徴は、記録型のBDドライブを搭載していることだ。BD(Blu-ray Disc)は、DVDなどで利用されている赤色レーザーよりも記録密度を上げることができる青色レーザーを採用した光学ディスクで、1層のディスクで25GB、2層のディスクで50GBという大容量を実現できることが大きな特徴となっている。 本製品に採用されているドライブは松下電器製の「SW-5582」で、配布メディアとなるBD-ROMだけでなく、BD-R/REへの記録にも対応したドライブとなっている。また、同時にDVD±R/RWとDVD-RAM、CD-R/RWへの記録、読み込みも可能となっている。スペックは下記の通りだ。
【表】ドライブのスペック
BD-R/REへの書き込みは2種類のソフトを利用して行なう。それがRoxioの「DigitalMedia SE」とUleadの「BD Disc Recorder 2.5」だ。 BD-R/REに対してデータ形式で書き込む場合にはDigitalMedia SEを利用して行なう。位置付けとしては、DVD用の「B's Recorder Gold」や「RecordNow!」のようなソフトウェアだと考えればよいだろう。 書き込み速度はスペック上は2倍速(BDの等速は36Mbps)となっているが、本製品ではデータ書き込み時にはベリファイも行なっているようで、実際には等速程度の書き込み時間と考えて良いようだ。実際、50GBギリギリまでデータを書き込んでみると、書き込みには3時間19分かかった。データ形式で書き込みたい時には出かける前や寝る前などのPCを使っていない時間に書き込むようにしたい。
●BD Disc Recorder 2.5を利用してBD-AV形式のディスクを作成可能 もう1つのBD書き込みソフトウェアがBD Disc Recorder 2.5だ。こちらは、BD-AV形式と呼ばれる、DVD-VRのような家電のBDプレーヤーなどで再生できるビデオ形式で書き込むためのソフトウェアだ。なお、読み込める形式は基本的にはWindowsで再生できるビデオ形式となるが、MPEG-2以外のビデオに関してはBD Disc RecorderでMPEG-2にトランスコードされて格納される。 本来、BD-AVではVC1(MicrosoftのWMVが元になったコーデック)やMPEG-4/AVC(H.264)のビデオもそのまま利用できるはずなのだが、これらのビデオもMPEG-2に変換されてしまう。ソニーの関係者によれば、これはソフトウェア側の仕様ということで、とりあえず初期の製品では互換性の問題などさまざまな要因を考慮してMPEG-2のみのサポートということに落ち着いたようだ。VC1やMPEG-4/AVCといったより圧縮率の高いビデオはBDやHD DVDなどのアドバンテージの1つと言えるので、ぜひ将来のバージョンではサポートして欲しいものだ。 なお、格納できるSD解像度のMPEG-2ビデオの形式は標準で次のような設定が用意されている。 SD解像度 BD-AV高画質(VBR 最大9Mbps) ドルビーデジタル MPEG-2以外の形式の場合には、こうした形式に変換されて記録されることになる。ただし、BD Disc Recorder 2.5を利用してトランスコードするととても時間がかかってしまうし、トランスコードの設定の自由度もあまり高くない。従って、type R付属の「TMPGenc 4.0 XPRESS for VAIO」などを利用して、あらかじめMPEG-2形式にトランスコードしておいたほうがいいだろう。 なお、コンテンツがHDの場合には、HDのまま書き込まれることになるが、もっとも現時点ではユーザーが編集できるHDコンテンツは、HDVで撮影したビデオのみということだけになると思うが、これは特に変換されずに書き込まれることになる(つまりビットレートなどは元のビデオのビットレートが反映される)。
●デジタル放送コンテンツのBD-REへのムーブを実現 本製品でのもう1つの強化点は、デジタル放送コンテンツのBDへのムーブのサポートだ。VAIOシリーズに採用されているのはピクセラのデジタル放送チューナカード(PIX-DT011)で、地上波/BS/110度CSデジタル放送を受信、録画、再生することができる。本製品では、その付属ソフトウェアである「Station TV for VAIO」は本製品でバージョン4.0へとバージョンアップされている。このバージョンアップに伴い、BD-REへのムーブがサポートされているのだ。 デジタル放送のムーブという意味では、すでに民生用のHDDレコーダで、BDへムーブ可能なものがソニーやシャープなどから発売されている。ただし、これらの民生用BDレコーダに採用されていたBDは、ファイルフォーマットがBD-FS、コピー制御もBD-CPSという特別な仕様になっているほか、メディアもカートリッジに格納されている。だが、今回本製品でサポートされるファイルフォーマットはUDFで、コピー制御もAACSというBD規格でサポートされる標準のものとなっている。 今後リリースされる民生用BDプレーヤーなどでは、UDF/AACSのサポートとなる可能性が高いので、そうした新しいUDF/AACS規格でのBDへのムーブという意味では本製品が最初の世代となる(BDへのムーブをサポートするPCという意味では、発表ベースでは富士通のFMVTX95SDが最初になるが、発売は6月末となっており、6月17日に発売される本製品が実質的には初の製品となる可能性が高い)。 デジタル放送コンテンツをBDへムーブをしたい場合には、録画したコンテンツを表示し、メニューから“BD作成”というボタンを押すことで可能になる。あとは、指示に従っていけば、手軽にムーブすることができる。気になる時間だが、HD解像度の2時間の映画(地上波の15Mbpsコンテンツ)をムーブしたところ1/4の30分でムーブすることができた(家電的言い方をするのであれば4倍速、というのだろうか……)。ただ、このあたりはコンテンツのビットレートとも関係するので、常に同じような時間で書き込みができるわけではないので注意したい。 ただし、コンテンツに対して一切手をつけることはできない。例えばCMをカットしたりなどの編集も一切行なえない。このあたりは、編集中のテンポラリも存在してはいけないという日本のデジタル放送のルールに従う限りは実現が難しい機能とはいえ、現在のアナログ放送ではできていることができないわけで、ぜひとも近い将来には解決して欲しいものだ。 なお、DVD-RW、DVD-RAMへのSD解像度へトランスコードしてのムーブも可能になっている。ただし、その場合にはCPRMに対応したDVD-RW、DVD-RAMが必要になる。なお、ビットレートは9.4Mbps/4.8Mbps/2.4Mbpsの3つから選択することができるようになっている。
●作成したBD-AVディスクはWin DVD BDを利用して再生 作成したBD-AVのディスクやBDビデオ形式のディスクは、プリインストールされている「WinDVD BD」で再生できる(やや余談になるが、BDなのにWinDVDってのもなんだなぁという気もする)。 以前の記事でも書いたように、AACS(Advanced Access Content System)で保護されているBD-AVやBDビデオ形式のBDを再生する場合には、必ず出力コントロールを行なう必要がある。具体的には、デジタル出力する場合には、HDCPによるコンテンツの保護を入れ、アナログ出力する場合には、ディスクに書き込まれた設定により出力できないようにする仕組みを入れる必要がある。 本製品のビデオカードには、NVIDIAのGeForce 7600 GTを搭載したビデオカード(ビデオメモリ256MB)が採用されており、2つあるDVI出力のうちDVI-D出力がHDCP対応となっている。ここに付属ディスプレイの「SDM-HS95P/RV」(HDCP対応19型/1,280×1,024ドット表示対応)を利用することで、BD-AVやBDビデオディスクの再生が可能になる。本製品にはディスプレイレスのモデル(VGC-RC72DP)も用意されているが、こちらのモデルでは、別途HDCP対応ディスプレイかアナログ出力を利用しないとBD-AVやBDビデオの再生は行なえない。 なお、Station TV for VAIO 4.0では、音声の再生としてAACのデジタルマルチチャネル出力には対応していないため、本製品にS/PDIF経由でAVアンプ接続している場合は、AAC 5.1ch音声の番組をマルチチャネルで楽しむことができない(ただし、アナログスピーカーを5.1チャネル接続している場合には再生できる)。 しかし、番組をBD-REにムーブした場合には、AAC 5.1ch音声もそのままムーブされるので、WinDVD BDで再生すれば、本製品に接続されているアナログスピーカーやS/PDIFで接続されたアンプなどを利用して再生することができる(デジタル出力の場合は、ドルビーデジタルライブを利用してAC-3へ変換して出力される)。 ただし、本製品を含むPCでは今のところAACを直接デジタル出力できないので、本製品のオーディオコントローラであるSoundRealityが持つ“ドルビーデジタルライブ”の機能を利用してAAC 5.1chからAC3 5.1chに変換されて出力されることになる。 ●CPUにはPentium D 940を採用、メモリは最大で3GBまで増設可能 type RではハードウェアのスペックもVAIOのフラッグシップシリーズにふさわしい製品となっている。 CPUはPentium D 940(3.40GHz)で、65nmプロセスルール製品となっている。メモリは標準で1GBだが、2GBのモジュールを2つ利用することで、最大で3GBまで増設することができる。HDDは250GB HDDが2つ搭載されており、標準ではICH7Rの機能を利用したRAID 0構成となっている。なお、これはリカバリ時にユーザー側でRAID 1やRAID 5に設定することも可能だ。HDDは最大で4台まで増設することが可能で、本体の左側面に用意されているHDD用のパネルを開けるだけで簡単に増設できる。 なお、本製品のもう1つの特徴である、HDVの編集環境も強化されている。本製品は、Adobeのビデオ編集ソフト「Premiere」シリーズが付属していることが1つの特徴となっているが、最新の「Premiere Pro 2.0」へとバージョンアップされている。さらに、HDV編集用のソニー独自のプラグイン「VAIO Edit Components 6」も付属しており、ドルビーデジタル5.1chの出力機能など、本製品でなければできないような機能も標準で用意されているのが特徴の1つと言える。 なお、ソニーの直販サイトSony Styleでは、BTO可能なモデルも用意されており、CPUをPentium D 960(3.6GHz)に変更したり、HDDを標準で500GB×4本の2TB構成にしたり、2台目の光学ドライブを選択することも可能だ。よりカスタマイズされたモデルを選択したいのであれば、Sony Styleでの購入を検討してみるのもよいだろう。
●UDF/AACS仕様のBDへのムーブを民生機に先駆けてサポートできた意味 以上のように、本製品の最大の特徴はなんと言ってもBDドライブを採用したことだ。そして、デジタル放送のコンテンツをBD-R/REへコピー出来るようになっている点も、それと並ぶ大きなポイントと言える。 特に、現時点ではUDF/AACS仕様のBDへムーブできる民生機はまだ登場していない。今後、登場するBDプレーヤーで、BD-FS/BD-CPS形式のBDディスクが再生できるかはまだ不透明であることなどを考えると、家電に先駆けてBD-R/REにムーブできるようになったことの意義は非常に大きいと言える。特に、ここ数年、さまざまな要因からデジタル放送のソリューションに関しては民生機が先行し、PCは後追いという状況が続いていただけに、本製品が民生機に先駆けてムーブをサポートしたことは意味があるだろう。 19型液晶を含む本製品の価格は約44万円程度、液晶なしの製品が約38万円と予想されている(価格はいずれもオープンプライス)。決して気軽に購入できる価格ではないのは事実だが、単体で買えば10万円は下らないPremiere Pro 2.0が入ってこの値段と考えれば決して高いというわけではない。そうした意味では、デジタル放送も、HDV編集もと、とにかくHD環境を楽しみたいというユーザーであれば非常にお買い得な製品といえるのではないだろうか。 □ソニーのホームページ (2006年5月31日) [Reported by 笠原一輝]
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