山田祥平のRe:config.sys【特別編】

Windows Vistaと足下にあったテクノロジ




 WinHEC 2006では、Windows Vista、Windows Server Code Name “Longhorn”、そして、the 2007 Microsoft Office Systemという3つのプロダクトのβ2完成がアナウンスされた。それぞれを収録したディスクも配布されたし、Officeはすでに、Microsoftのサイトで一般ユーザーがダウンロードすることもできる。いよいよ、広範な評価のフェイズに入ろうとしているわけだ。

●ドッグフードは旨いか不味いか

 ドッグフードを食べる用意は整った。Microsoft関係者がそう話してくれた。つまり、彼らはこれからβ2を実際の業務に使い始めなければならないわけだ。日本の広報オフィスでも、すでにそのためのPCを発注済みで、6月からWindows Vistaとthe 2007 Microsoft Officeを使って日常の業務を進めることになっているという。

 β2とはいえ、いつクラッシュしてもおかしくない不安定な環境である。しかも、今回のβ2は、OSとアプリケーションの両方だ。だが、製品を作る側がそのくらいのことをしなければ、顧客はまじめに評価をしてくれるはずがない。出荷される製品の完成度を高めるために、Microsoftがどうしてもくぐり抜けなければならない試練の期間が始まったわけだ。

 WinHEC 2006では、日本のプレス向けのラウンドテーブルも開かれ、レドモンドのMicrosoft本社でWindows Product Managementを担当するHiroshi Sakakibara氏によって、Windows Vistaに関する各種情報のアップデートが行なわれた。Sakakibara氏は、Windows Vistaのマーケティングを本社側で担当する数少ない日本人の一人であり、主にVistaのモビリティとコラボレーション関連の機能を担当している。同氏のプレゼンテーションは、Vistaの電源オプション周りの実装に多くの時間が費やされた。

 VistaをインストールしたノートPCでは、物理的な電源スイッチを押すと、PCはスタンバイ状態に移行する。メーカーごとに個別の設定はできるが、これが推奨されるデフォルト設定となっている。XPでは電源ボタンの押下はシャットダウンだった。

 Vistaのスタンバイは、その時点でのPCの状態がメモリに保持される点ではXPと同様だが、18時間後、または、バッテリの残り容量が残り少なくなるかどちらか早い方のタイミングでHDDにその内容がコピーされる。

 つまり、スタンバイと休止状態がうまく組み合わされ、次に電源を入れたときには、たとえバッテリが空になっていても、確実に、前回の作業状態がレジュームすることが保証される。XPの電源設定では、休止状態への移行は6時間後までの設定だったし、バッテリ低下、バッテリ切れ時のスタンバイ、休止状態、シャットダウンへの移行は別設定になっていた。個人的には、シャットダウンはさせられるものであって、自らするものではないとして、スタンバイとレジュームを繰り返しながらXPを使い続けてきたが、Vistaでは、そういう使い方が標準的になりそうだ。

 各社のPCは、出荷時の状態において、2秒以下でレジュームすることができなければWindows Vistaのロゴを取得することはできない。さらに、カスタマエクスペリエンス向上プログラムに参加することを承諾した機体では、レジュームに2秒以上かかった場合は、インストールされているペリフェラルやドライバなどの情報とともに、そのことをMicrosoftに報告、原因が究明され、後日のアップデート等で改善が行なわれるという。XPを長く使い続けているユーザーなら、レジュームの失敗や、レジューム以前に、ドライバや常駐ソフトなどのせいでスタンバイや休止状態に移行できない現象を経験しているはずだが、Vistaでは、その原因を調査する機能もインプリメントされ、犯人や容疑者を特定できるようにもなるという。

 このほか、ノートPCに最初に外部ディスプレイを接続したときに、プレゼンテーションモードへ移行するかどうかを問い合わせるダイアログボックスが表示され、そうするように指示した場合、以降はデフォルトでこのモードに移行する。プレゼンテーションモードでは、スクリーンセーバーや、タスクバーの通知領域に表示されるノティファイ情報の表示などが抑制され、プレゼンテーション時の利便性が考慮されている。

 さらに、電源アダプタから電源が供給されているときとバッテリ運用時において、画面の明るさを変えたり、ディスプレイを閉じたときのふるまいを個別に設定できるといった機能も標準で実装された。XP世代のPCでも、こうしたことはできていたはずだが、これらのきめこまかいカスタマイズはメーカーのオリジナルユーティリティにゆだねられていた。何を今さらといわれても仕方がないことだが、機能が実装されていることと、ユーザーがそれを発見して実際に役に立てられるという段階には大きな落差がある。

●VistaはXPのOSRにすぎないのか

 Vistaでは、今までできなかったことができるようになる斬新なユーザー体験がそれほど多くはない。そのことから、XPのOSR(OEM Service Release)にすぎないと揶揄されることもあるくらいだ。だが、よほどのパワーユーザーでない限り、環境を細かくカスタマイズすることなく、デフォルト状態でPCを使う。その結果、毎回、長い起動時間を我慢するなどの不便を強いられてきたことを思うと、OSが、自分自身の使われ方を主張し始めたようにも感じられる。

 Vistaへのデジカメ接続時の振る舞いなどにも、こうした傾向を感じる。今、デジカメの現行製品の多くは、USBケーブルでPCに接続したときに、マスストレージとして機能するように設定され、OSからはディスクとして扱うことができた。

 一方、多くのデジカメ製品には、マスストレージモードとは別にPTPモードが用意され、ユーザーは必要に応じてモードを切り替える。PTPは、Picture Transfer Protocolの頭文字をとったもので、PCやプリンタにデジカメを接続し、画像を転送するために用意されたプロトコルだ。

 VistaにPTPモードのデジカメをつなぐと、Vistaはカメラを認識し、マイコンピュータ内にアイコンを表示する。アイコンを開くと、カメラに記録された画像のサムネールを取得する。もし、カメラがPTPモード時も撮影することができるようになっていれば、新たなレリーズをした瞬間にサムネールが更新される。そして、ユーザーは、そのサムネールをみて、見たい写真をダブルクリックすることで、実際のデータが転送される。

 これは、いうまでもなく、XPで実装されていたWIAの機能を拡張したものだ。WIAはイメージスキャナなどのデバイスをコントロールするためのテクノロジだが、PTPモードのカメラを接続することによって、ストレージ内のファイルという概念を意識することなく、写真を転送するという目的を達成できるようになる。また、PTPはUSBに依存したプロトコルではなく、PTP/IPとしても機能するため、たとえば、WiーFi接続されたカメラなどからリアルタイムで画像を取得していくような用途にも利用できる。

 これらもまた、一部のデジカメ製品ではすでに提供されていたユーザー体験だが、カメラは画像を記録したストレージではなく、イメージングデバイスなのだという考え方をOSが強く主張した結果だ。

 Microsoftでは、これらのデバイスを接続するための一連のテクノロジを統合し、Windows Rallyと称している。目新しいテクノロジがあるわけではなく、既存の機能を組み合わせたものにすぎないが、ロイヤリティフリーでライセンスされ、各種のデバイスが連携する際のユーザー体験を向上させるためのソリューションとして提供される。

●知っているつもりで知らなかったPC

 きっとVistaは、PCがすでに持っていた機能なのに、ユーザーが気がつかず、使いたくても使えなかった機能の多くに光を当てることになるだろう。Vistaというネーミングには、「展望」、「光景」といった意味がこめられている。高い見晴台に立てば、展望が開け、遠くまで見通すことができる。それは、PCの未来を見ることにほかならない。そして、未来が遠くにあるのではなく、実は、足下にすでにあったのだということに気がつくはずだ。

 出る出るといわれながら延びに延び、まだ確定さえしていない出荷時期である。長い開発期間の間にそれを構成する個々のテクノロジーは熟成してしまった。今回のWinHEC 2006のテクニカルセッションを聴講していても、昨年、一昨年の再放送かと錯覚するようなものも少なくない。パワーユーザーが新鮮味を感じないのも無理はなかろう。でも、それらのテクノロジーが、どのように料理され、どのような皿に盛られて供されるかはとても大事なことだ。

 PCは、起動とシャットダウンを繰り返して使うよりも、スタンバイとレジュームを繰り返して使う方がはるかに便利だ。それはノートPCに限ったことではない。デスクトップPCでも同じだ。だが、そんな簡単なことにも気がつかないユーザーが大多数を占めていた。だから、いちいちPCを起動してメールを読むよりも、携帯電話の方がずっと便利だといった論調も出てくる。

 Vistaを使うことで、多くのユーザーは、今まで知っているつもりで知らなかったPCを知ることになるだろう。そこで新しい一歩を踏み出すための展望を提供するのがVistaの使命だ。

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【5月24日】マイクロソフト、次期Officeのβ2を提供開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0524/ms.htm

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(2006年5月26日)

[Reported by 山田祥平]


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