第340回
Windows VistaはLonghornの志を守れたか



 23日から始まったMicrosoftのハードウエア開発者向け会議「WinHEC 2006」。15回目を迎える今回はβ2まで開発が進んだWindows Vistaが話題の中心だが、その初日午前中にまとめられた3つの基調講演セッションは、いずれもWindows Vistaに関連深い内容となった。

 このレポートでは、その中からWindows Vista開発の責任者であるMicrosoft上席副社長のWill Pool氏が担当したWindowsクライアント、つまりエンドユーザーが直接触れるWindows Vistaについてレポートする。

 もっとも、会場となっているシアトル市のワシントンステートコンベンションセンターで、これらの話を聞くのも3年目。さらに遡ると、Windows Vista、すなわちLonghornについてWinHECで話題になったのは2002年が最初だったように思う。その当時からGPUを用いたグラフィックス機能についても言及があり、APIの変革も含め多くの期待をしていたものだ。

 それが2006年になり、果たしてどこまで実装が進んだのか、あるいはどこまで“変質”したのか。個人的には、かつての開発目標としていた仕様が大きく変化してきたという印象を強く持っている。一貫してWindowsの開発に携わってきた根っからのエンジニアであるWill Pool氏の講演は、非常に実直なものだった。そこから、実際にリリースされるWindows Vistaの姿を読み取ってみたい。

●3つの分野についてVistaの長所を紹介

 Pool氏はまず、Windows Vistaは3つの分野に“より良い価値”と話した。1つはビジネス、もう1つはモバイルユーザー、最後にコンシューマだ。それぞれについて、技術者らしく課題と可能性を挙げ、それぞれにVistaが提供する4つの解決策を提示するというパターンで、新OSの良さをアピールした。

講演するWill Pool氏 ビジネス分野における要求 ビジネス分野におけるVistaの利点

コニカミノルタのXPS対応複合機でXPSのデモが行なわれた。スキャナで文書を読み取ると自動的にSharePointサーバーにアップロード。その文書を編集して保存し、最後に印刷される

 ビジネスの分野では、セキュリティ、コスト削減圧力、可用性の向上、安定性、さまざまな脅威からの防御、市場動向への素早い追従といったニーズがある。これらに対してVistaが提供するのは、セキュリティ向上、情報検索や使い勝手などの向上、デスクトップ管理の簡素化、モバイル機能の改善の4分野がある。

 たとえばセキュリティであれば、XPS文書を用いたアクセス制御がOSレベルで組み込まれ、USBポートの利用制限をグループポリシーベースで管理可能になり、BitLockerというセキュアブートで丸ごとHDDを暗号化するソリューションが提供されている。

 使い勝手やコラボレーションの活性化は、ゲイツ氏の基調講演でも紹介されたWindows Meeting SpaceやNetwork Projectionといったコラボレーション機能、XPSベースのワークフロー機能などがある。

 デスクトップ管理の簡素化はバックアップ機能の強化、IPv6対応強化などがあり、モバイル対応ではフラッシュメモリを利用してパフォーマンス向上と消費電力削減を実現するWindows Ready Driveや起動プロセスを高速化するReady Boostといった機能がある。

 と、このように、派手なデモで納得させるのではなく「こんな問題には、こんな解決策があり、Windows Vistaにはきちんと解決策が用意されていますよ」と、1つ1つ紐解いていくのがPool氏のやり方だ。

 中でもXPSを用いたドキュメント中心のワークフロー機能は、ビジネスユーザーに対して強くアピールできると考えているようだ。XPSについては昨年もWinHECとPDCでレポートしているため、ここで詳しくは述べないが、同じスキーマ構造のXMLファイルを用いてWindows上での表示、Officeでの編集、オフィス周辺機器での印刷や文書取り込みなどを包括的にサポートできる。

 新しいOfficeでサポートされるOpen Document FormatとXPSは、ほぼ同じものだからだ。Vistaの世界では、ドキュメントだけでなくユーザーインターフェイス構築もXMLで行なわれるようになり、すべてのデータやアプリケーションが、同一のXMLスキーマを基礎に構築されるようになる。

●長足の進歩を遂げたモバイル機能

モバイル分野におけるVistaの利点

 モバイル機能への対応に話を移そう。ここでPool氏が挙げたのはパフォーマンス、バッテリライフ、接続性、動機、セキュリティ、使い勝手、信頼性、高速のON/OFF、それに軽量化といったテーマだ。もちろん、この中にはソフトウェアだけでは対応できないものもあるが、それらの解決をハードウェアベンダーが行なう“種”を提供しようというのである。

 この分野に向けて提供される機能は数多く、とても全てを挙げることはできない。モバイル機能のセッションは別途用意されているため、ここではかいつまんで注目される機能だけを紹介するにとどめておこう。

 電源管理機能の向上では、より詳細な電源設定が、従来よりもわかりやすいユーザーインターフェイスで提供され、それら設定の組み合わせを保存しておくことができる。従来よりも一覧性が高く、明らかに理解しやすい。また、サブディスプレイを用いてPCで管理するデータを素早く参照する機能(Side Show)もある。

 ネットワークを通じたコラボレーション機能は、PCを携帯する価値を高めるだろう。PCを持ち寄れば、その場で必要な情報を共有し、プレゼンテーションスライドを互いのPCに表示させながら、内容を検討するといった機能も標準で提供する。

 Network Centerは、その場でのネットワーク接続状況を分析し、ビジュアル的に表示。さらに新しい接続を作るためのスタート地点にもなるよう設計されている。オフラインフォルダの改善も著しく、ユーザーは複雑な同期関係を意識せず、自動的にファイルを同期された状態にしてくれる。オフライン時でも、オンライン時に近いデータアクセスをユーザー側の複雑な管理なしにこなせるのは、Vistaが改善したモバイル機能の中でももっとも注目すべき点だろう。

●デジタルテレビ対応に期待

コンシューマ分野におけるVistaの利点

 最後にコンシューマに対して提供される価値が示されたが、こちらはかなり微妙だ。

 デジタル写真の管理と編集機能を拡張し、他ユーザーとインターネットを介して簡単に写真を共有できる機能が搭載されるというが、すでにユーザーは同様のサービスを知っている。Windowsに搭載されれば、後からアプリケーションをインストールしなくとも簡単に使えるから有利とも言えるが、たいていの場合、ユーザーは普段から使い慣れた道具をそのまま引き継ぎたがる。

 ハイビジョンカムコーダなどから取り込んだ動画を編集するため、Movie MakerはHD Movie Makerへと進化するというが、現在のWindows XPに搭載されているMovie Makerが効果的なアプリケーションだったとは言い難い。

 PCゲームのサポート強化は、その成果(DirectX 10)だけを見ればすばらしいものの、PCゲームで遊ぶユーザーが少ない日本では、決定打とは言いにくい。これは音楽配信のサポートやPlayforshure対応デバイスのサポートといった点にも共通する。

 では何も材料は無いのかというと、日本ではおそらくデジタルTVのサポートが、1つ大きな市場を生む可能性がある。日本で販売されているデスクトップ機の半分以上(店頭に限ればもっと多い)はテレビチューナを内蔵しているというが、それらが一気にデジタルチューナを搭載し、録画再生や光ディスクへのムーブをサポートするようになれば、話は変わってくるだろう。

 と、コンシューマ市場向けの説明は、やや首を傾げながら聞いていたが、1つ面白そうな機能がデモされていた。「Windows Rally」という機能で、いくつかの自動構成機能を組み合わせたものだ。

 実はそれぞれは新しい技術ではなく、UPnPを拡張したものだったり、あるいは以前から紹介されていた無線LANの自動構成機能だったりと、技術的な背景としては“なぁんだ”と思うところが多い。しかし、1つのブランド名でまとめ、OS側の振る舞いを統一することで、誰もが簡単に周辺機器の接続を行なえるようにしている。

 たとえばWindows Rally対応無線LANアクセスポイントをLANでVistaマシンに接続すると、自動的にアクセスポイントが発見され、PINの入力画面が現れる。ここに暗証番号を入れるとWEPなどの暗号化設定も含めてアクセスポイントが自動構成され、セットアップしたPCにもそのアクセスポイントへの接続設定が追加される。同様にNASドライブをネットワークに接続すると、マシンがNASの存在を発見し、パスワードを入れると自動的に構成を行なえるようになる。

 変わったところではUSBでカメラを接続して自動構成を完了させると、無線LANでカメラとPCの間の接続設定が追加され、撮影結果が無線LAN経由でPCの中に保存されていくというデモも行なわれた。ご存じのように、同じような機能はドライバインストールを行なえば現在も可能だが、インストール不要でケーブル接続さえすれば、あとはほぼ自動で利用可能な状態にまでもっていける、というところがミソである。

 このほか日本市場への影響はほとんどないだろうが、FlexGoについてもPool氏は言及した。FlexGoはプリペイドカードでPCを利用するシステムで、PCを破格値で提供し、それを利用する際に、少しずつプリペイドカードで使用可能時間を延長するというものだ。

●Windows Vistaの価値はどこにあるか

 Will Pool氏の基調講演を聴いても、やはり“モヤモヤ”は晴れない。Windows VistaがWindows XPよりも改善されていることは間違いない。個人的にはオフラインフォルダが改善され、データを同期して持ち出すという使い方を強力にサポートするようになった点は多いに歓迎したいし、大幅改善されるWindows Color Systemも(基調講演では触れられなかったが)大変期待している部分だ。

 しかし、Windows VistaはかつてLonghornと言われていたものとはコンセプトが異なるのではないかという、ここ1〜2年の間、ずっと思っていた疑問を拭う講演ではなく、むしろそうしたモヤモヤをさらに深くするものだったように思う。

 Windows XPまで続いてきた過去のしがらみを捨てて、PCが進化するための新しい技術基盤になる。それがLonghornに期待されていたことだったハズなのに、これではWindows XPの改良版でしかない。2001年からの5年をかけて、やっと登場したものが改良版では気持ちが萎える。いったいWindows Vistaの価値は、どこにあるというのだろうか。

 会期に合わせて登場したWindows Vista β2は、確かにユーザーが直接触れる部分には、新しい要素がいくつか追加されている。しかし求めていたのは“追加機能”ではなかろう。これが筆者の誤解であればいいのだが。果たしてWinHECの期間中に、このモヤモヤは晴れてくれるのだろうか。

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(2006年5月25日)

[Text by 本田雅一]


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