2005年1月。当時まだMicrosoftに在籍していた古川享氏に、Windowsのコンシューマ向け機能の実装は、あまりに北米寄りで日本市場と乖離しすぎていないか? と質問したことがあった。そのとき古川氏は「Microsoftに驕りがあったと思う。特にMedia Centerに関しては反省すべき点が多い。日本で開発チームを作り、日本市場にきちんとマッチした製品を開発するチームを編成したところだ」と話していた。
ではその成果はいつ、我々の手元に届くのだろう。当時からその成果はWindows Vistaのアップデートとして提供されるだろうと言われていたが、実際2007年に日本の放送事情に合わせたTV機能が提供されることになりそうだ。 ●現実に即したデジタル放送規格のサポートへ 現在のWindows XPもMedia Center Edition 2005以降、北米向けの地上デジタル放送規格であるATSC(Advanced Television Systems Committee)と、欧州規格のDVB-Tには対応してきた。DVB-TとはDigital Video Broadcasting for Terrestrialのことで、欧州の標準化団体であるDVBが策定しているものだ。ちなみに日本で使われているシステムはISDB-T(Terrestrial Integrated Services Digital Broadcasting)というもので、日本以外の地域では利用されていない。 これらのワールドワイドでの採用状況は、図1を見れば明らかで、2Gデジタル携帯時代の勢力分布図を見ているようだ。北米と日本以外は、すべてDVB-Tと言っていい状況になっている。デジタルハイビジョン放送の普及は日本が先行し、北米が追いつき(ある面では追い越しているかもしれない)、欧州が追う展開になっているが、技術的に後から決めた分、DVB-Tの方が世界戦略を有利に進めている。 実はこの状況は衛星放送も同じで、世界的には図2のようにDVB-S(Sはサテライト)が主流で日本でもCS放送で利用されているものの、BSデジタル放送はISDB-Sが使われている。 これらの図を見れば、アメリカの企業であるMicrosoftが、日本のISDB-Tを軽視したとしても致し方ないという気はしてくる。だが、主要な2つの規格をWindowsがサポートすれば、それで趨勢が決まるというわけではない。これはIT市場ではないのだ。
しかも北米の放送はケーブルTVが中心で、衛星によるデジタル放送であるATSCに対応していても大多数のCATVユーザーにとってはあまり意味がない、という弱みもあった。欧州においても事情は複雑で、実際の運用面では“放送規格としてのDVB-Tをサポートすれば、すべてが解決”とはならず、さまざまなローカルの事情に合わせた作り込みが必要になる。 WinHECでわざわざMicrosoftがこうした話をするのは、以前はMicrosoft自身が事情を良く把握しておらず、現実に即した仕様になっていなかったことへの反省だろう。近年、同社は以前ほど強権的にデファクトスタンダードの確立を目指す姿勢を見せなくなってきている。過去には「単に放送規格だけを見て対応すればなんとかなると考えていた」とWinHECのセッションで漏らしたこともあった。 しかし、今回はその反省が活かされ、Windows Vistaでは新しいデジタル放送チューナのドライバクラスが定義され、各国の事情に合わせたTVチューナのサポートを、標準のドライバモデルを用いて行なえるようになる。 Windows eHome事業部の主任プログラムマネージャ、バーナード・コッツェンベルグ氏は「特に日本の仕様と事情はきちんと把握できていなかった。その点は反省している」と“Preparing For TV Beyond Windows Vista”というセッションの中で述べた。 ●過去の反省を踏まえて新しいデジタルTVのドライバモデルを Microsoftの大きな反省の1つが、デジタル放送で運用が厳密になってくる著作権管理の仕組みに対する対応だ。米デジタルCATV、日本のARIB ISDB-T/S、Conditional Access(CA)経由で提供されるプレミアムコンテンツ、米ATSCのブロードキャストフラグなど、各種異なる著作権管理スキームに対応していかなければならない。 しかもこれらは個別に決められているため、似たような運用既定でありながら共通のAPIや暗号化アルゴリズムは存在しない。日本ローカルでの対応、あるいは北米だけの対応ならば、個別に対応してできなくはない(実際、メーカー製PCであれば日本のデジタル放送も録画/ムーブが可能な製品が登場してきている)が、標準化することでローコストかつ効率的にハードウェアとソフトウェアを実装するには、何らかの仲立ちをするシステムが必要である。 もちろん、Windows環境においてその役目を果たさなければならないのはMicrosoftということになろう。そこで従来からのデジタルチューナカードをサポートするためのドライバモデル(Broadcast Driver Architecture:BDA)を拡張した、Protected Broadcast Driver Architecture(Protected BDA)がWindows Vistaでは提供される。 Protected BDAはTVチューナからOSまでの経路をカバーするもので、世界中で使われている複数の暗号化技術に対応し、それをWindows Media DRMで扱える形式にする。Windows上のアプリケーションは、各国の放送仕様にかかわらず、Windows Media DRMベースでアプリケーションを設計すれば、Protected BDA側が暗号化仕様の違いを吸収してくれるのだ。
またProtected BDAはIPベースの製品との間でセキュアなデータパスを作ることもできる。たとえば外部接続のチューナカードとWindows VistaマシンをEthernetで接続し、IPベースでデジタル放送を受信/再生させたりといったことも可能だ。 Protected BDAをアプリケーションが利用する際のインターフェイスは統一されているため、対応アプリケーションはその先にあるソースが内蔵チューナなのか、それとも外部のIPベースのレシーバなのかは意識する必要がない。 またコピーワンス、コピーネバー、コピーフリー、ブロードキャスト禁止といった、状態に応じてアクセス制限を行なうルールにもきちんと対応しており、それぞれの運用ルールをWindows Media DRMによって守る仕組みとなっている。 受信した直後からWindows DRMでエンドからエンドまでをカバーすることに異論を持つ読者もいるかもしれないが、現在のWindows Media DRMは十分な暗号強度を持つのはもちろん、運用の柔軟性もかなり高い。PCへの実装(Windowsへの実装)としては理想的な形だろう。 ●日本の事情をよく調査した上で対応
さて、各国への対応に関してだが、日本の放送事情に対応できていなくてごめんなさいと言っただけあって、今回はよく研究しているようだ。従来、日本のデジタル放送をWindowsでサポートしょうとすると、以下のような問題があったという。 ・複雑怪奇な承認プロセス どれも日本人の我々からすれば特に驚くべきことではないが、ワールドワイドでの統一仕様として量産を行ない、それによって低価格化を図ろうという場合には障害になる。 そこでARIBやD-pa、B-pa、それにB-CASや日本の放送局との連携を進め、BMLに関しても日本のパートナーと協業することで、BMLレンダリング機能をサポートできるようになった。加えて日本の家電企業やPCベンダーとのパートナー関係を構築し、さらにMicrosoft・デベロップメント・リミテッドの調布テクノロジセンターにおいて、ISDB技術にフォーカスしてデジタル放送をPC上でハンドリングする機能の開発を徹底して行なった。
これにより2007年からは、特殊なアプリケーションを搭載するなど、メーカーが個別に開発やドライバインストールなどの手間をかけなくとも、簡単にデジタル放送を扱えるようになる。おそらくここまで開発が進めば、市販デジタルTVチューナカードを購入して、自作PCユーザーがデジタル放送の録画を楽しめるようにもなるだろう。 MicrosoftはProtected BDA対応のBSデジタル、地上デジタルチューナ(もちろんB-CASカード対応)が2007年には登場し、これら放送のライブ視聴と録画が行なえるようになり、データ放送のレンダリング(BML対応)、デジタル放送EPGもきちんとWindows Vista、そしてその上のMedia Centerで動作するようになると話した。 “PCの奔流はテレパソにあり”とは言わないが、PCでの録画にはHDD増設が容易というメリットもある。今後、Blu-ray DiscやHD DVDが登場、あるいはDTCP/IPを通じてのHD映像の配信といったことも可能になってくれば、PCでデジタルハイビジョンを録画するスタイルも増えていくことだろう。
MicrosoftはWindows Vistaで、アナログチューナとデジタルチューナを組み合わせたハイブリッドチューナをドライバのデバイスクラスに追加しており、現在、各国の事情に合わせたハイブリッドチューナの開発をパートナーと進めているという。 こうした努力が実れば、2007年にはPCで現在のハイビジョンレコーダと同程度、もしくはそれ以上に柔軟性のある録画環境を構築できていることだろう。 □関連記事 (2006年5月24日) [Text by 本田雅一]
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