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電子マネーの本流はプリペイドでよいのか




 インテルが電子マネー「Edy」を展開しているビットワレットに投資した。IT社会のビルディングブロックを提供する企業としての同社が動いたことで、電子マネーの世界が、よりいっそう活気づきそうだ。

●まだ遠い電子マネー社会

 今年はできるだけ現金を使わないですまそうと決めた。お金を使わないようにするというのができればベストだが、いくらなんでもそういうわけにはいかない。財布の中の現金をできるだけ使わず、電子マネーやクレジットカードをより積極的に使おうという意味だ。1月からはおサイフケータイがSuicaに対応し、昨年より、着実に便利になっている。

 ただ、すでに4月も終わろうとしているが、現金の支出をゼロにするのは無理だと痛感している。どうしたって現金が必要になるシーンはなくならない。

 ぼくは、ここ十年くらい、サイフの中の現金が1万円を切ったところでATMに立ち寄り、10万円を補充するというスタイルで現金を扱ってきた。通常の買い物はクレジットカードで行ない、ヨドバシカメラなどの量販店で、クレジットカードで支払った場合と現金で支払った場合とでは、獲得できるポイントに差がある場合にはデビットカードで決済をするようにしている。そんなわけで、昔に比べれば現金を使う機会はずいぶん減ったと思う。

 とはいえ、多少高額な現金を充てなければならない対象として、東京周辺の私鉄、地下鉄で使うパスネットカードが残っている。こちらは、常に自動販売機で5,000円のカードを購入し、ポケットに裸で忍ばせて携行、残高が200円程度を切ったところで新たなカードを追加している。

 自動改札機の多くはカードの2枚投入ができるので、半端な金額が残ることなくうまく残高を使い切れる。ただ、自動販売機でのパスネットカードの購入にはどうしても現金が必要だ。これをクレジットカードで購入できればいいのだが、それができない。この金額で他の買い物をするとしたら、間違いなくクレジットカードを使う。まあ、これも来年の春にはPASMOになり、現金で購入することはなくなるだろう。

 そのほかに現金を支払いに使うのは、自宅周辺でとった昼食や、帰宅途中でつい立ち寄ってしまう飲み屋の支払いくらいのものだ。本当はこれらもなんとかクレジットカードなどですませたいところだ。

 結局のところ、おサイフケータイと、クレジットカード、パスネットカードがあれば、それだけで生活ができそうなものだが、現時点ではそうは問屋が卸さない。それが現実だ。

●プリペイドとツケの文化

 何らかの代価を支払う場合、ぼくらは事後に決済されることに慣れている。電気代、ガス代などの公共料金、電話代がそうだ。これらは基本料金が設定されているので、使っても使わなくても必要な金額はあるにせよ、残りは使った分だけを使ったあとに支払う。そして、決済のためには口座振替やクレジットカードが使われる。いってみれば、これらはツケの文化だ。iモードのコンテンツ代金なども、その枠組みの中で支払うことができ、その月の通話料といっしょに請求されている。

 あらかじめプリペイドカードを購入し、順次それを使っていくというスタイルは、ぼくの場合、地下鉄のメトロカードを使ったのが最初だった。今、都営地下鉄や私鉄のカードは合体し、パスネット磁気カードとしてポケットの中にある。そして、きっと、来年の春には、Suicaとも相互乗り入れし、少なくとも公共交通機関はカード1枚で乗れるようになるはずだし、それはおサイフケータイでこなせる。駅でのちょっとした買い物にもこれがあればよくなる。

 一方、電子マネーとしてEdyを使えるショップも増えてきている。残念ながら、ぼくの住んでいるエリアではマツモトキヨシとコンビニのサンクスくらいのものなので、あまり使う機会がない。自宅周辺のコンビニではサンクスは遠い方に入るので、距離的にもっとも近いファミリーマートの対応を待ちながら、深夜まで営業している西友で買い物をしている。こちらは、ノーサインでクレジットカードが使えるからだ。

 おサイフケータイにはケータイクレジット「iD」という機能があり、これにも加入しているが、やはり残念ながら、まだ、ぼくの行動範囲に、この機能を使える店舗が存在せず、iアプリは設定したものの、未体験のままだ。

●戻ってこないチャージ残高

 それにしても、世の中の支払い形態が、プリペイド主流の方向に流れているようで、ちょっと困惑している。プリペイドといっても、チャージをクレジットカードで決済すれば、結果的にはツケになる。また、関西で使われているPiTaPaはポストペイなので、技術的にプリペイドでなければならないという話ではなさそうだ。

 ぼくが困ったなと思うのは、プリペイドというスタイルではなく、プリペイドカードが紛失や盗難によって、チャージ済みの残高が失われてしまう点だ。

 そのときの被害を少しでも低く抑えるために、Suicaなら20,000円、Edyでは50,000円がチャージ金額の上限となっている。Suica定期券であれば届け出により再発行ができるが、届け出た時点で悪意で使われてしまっていた金額は戻らない。また、Edyの残高を戻すかどうかは、カード会社等に委ねられているようだ。ポストペイなら、少なくともチャージ残高という概念が存在しないので、支払い口座とのリンクを切ればそれですむ。

 これでは現金入りのサイフを紛失したのと同じじゃないか。上限が高く設定され高額な買い物に対応できるようになったとしても、ちょっと心配で残高を低く抑えてしまいたくなる。そもそもの目的が少額決済なので、これはしょうがないのだろうけれど、せっかくの電子マネーなのだから、現金以上に、便利で安心なものであってほしいと思う。

 クレジットカードで決済してプリペイドチャージというスタイルなら、クレジットカード業界も潤うだろうし、カード会社の領分を侵すことなく、その勢力を維持しつつ、もうひとつ別のマネー経済を築きあげることができる。それをどうこういうつもりはないが、紛失盗難時の扱いはどうにもならないものなのだろうか。

 おサイフケータイは、遠隔ロック機能を設定しておき、不在着信を5回繰り返せば、ICカード機能を含めて端末をロックすることができるので、ICカードを単体で持ち歩くよりは、ある程度安心できる。でも、それは、気休め程度のものであって、不安を完全に解消するものではないし、おサイフケータイが出てこなければ、残高も戻ってこないのだ。そういう仕様なら仕様で、バッテリが残っているうちに、インターネット経由で遠隔地からEdy to Edyで残高を移行させられるような機能くらいは用意してほしいものだ。

 もっとも個人情報のことを考えると、所持している個人のプロパティとは関係なく使われるプリペイドの電子マネーは、特定された個人の行動が第三者に把握されないことが保証されるということでもある。それでも、将来的には、「おにぎりを買った人は、お茶のペットボトルを買うことが多かったが、最近はそれが水のペットボトルに移行しつつある」(たとえばの例です)といった情報がマーケティングに利用されるようになるのだろう。売る側にとってはそのための電子マネーでもある。レジの店員が決済時になんらかの情報を付加価値として入力すれば、さらに有用な情報がまとまる。

 どうせそうなるのなら、いっそのこと、行動パターンを把握してもらってもかまわないから、より便利な買い物ができるようになってほしいと思ってしまう。もちろん、その代わりに、ぼくらは消費者として、より優れた利便性を要求するわけだ。残高保証も、その一連のサービスとして提供されるようになっているべきだ。

□関連記事
【4月18日】インテルがビットワレットに50億円投資、PCでの電子マネー普及見込む(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/04/18/11699.html
【2005年11月18日】ドコモ、おサイフケータイでクレジット決済サービス「iD」(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/26434.html

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(2006年4月21日)

[Reported by 山田祥平]


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