山田祥平のRe:config.sys

ダブルクリックにさよなら




 ウェブのユーザーインターフェイスは、シングルクリックの文化であるといってもいいだろう。ページ内に設定されたオブジェクトをクリックするだけで、リンク先が開くというのはとてもわかりやすく、誰が接してもとまどうことはない。

●苦手なダブルクリック

 マウス操作の中で、もっともハードルが高いのがダブルクリックだ。慣れないうちは、ダブルクリックしたつもりでも、ダブルクリックにならず、パソコンが期待通りにいうことをきいてくれない。

 ダブルクリック操作は、同じ位置で2度クリックするという行為が必要だが、最初のクリックと次のクリックの間にマウスを動かしてしまったり、マウスを動かさなくても、最初のクリックと次のクリックの間が開きすぎるといったことが原因で、ダブルクリックにならないことが多い。レジストリを変更すれば動かなかったことにできるドット数を指定できるし、コントロールパネルからは、ダブルクリックの速度も変更できる。でも、苦手な人がそこに行き着くのはきっと難しい。

 ダブルクリックが苦手なのは、年配の方が多いようだが、うまくいかないことにムカツク女子大生も、ずいぶん見てきた。もしかしたら、年齢はあまり関係ないのかもしれない。

 Windowsは、マウスに2つのボタンがあることを最大限に生かそうと、右クリックという操作を編み出した。オブジェクトを右クリックすると、そのオブジェクトに対してできることを列挙するコンテキストメニューが表示されるようにしたのだ。Windowsでは、このメニューをショートカットメニューと呼んでいる。

 このメニューの中では、ダブルクリック時の振る舞いが太字で表示されている。逆に、ダブルクリックでは何も起こらない場合は既定値がないので、単純にメニュー項目が列挙されるだけだ。Internet Explorerのページ内ではダブルクリックが想定されていないので、右クリックメニューの中に太字表示は見つからない。

 いずれにしても、ダブルクリックの苦手なユーザーは、右クリックを使うことで、その難儀から逃れることができるし、メニューには、そのとき、そのオブジェクトに対してできることだけが列挙されるので、操作を進めるためのナビゲーションにもなる。

●アイコンもどきのツールバーボタン

 ダブルクリックの文化に、ちょっとした波瀾を呼んだのはツールバーボタンの登場だった。ダブルクリックに慣れきったユーザーは、今も、つい、ツールボタンをダブルクリックしてしまう。ボタンなのだから押せばいいのだ。だから、シングルクリックで機能するように実装するのは自然だ。

 でも、はっきりいって、ツールバー上のツールボタンの見かけは、ボタンらしく見えない。ボタンではなくアイコンに見えるのだ。アイコンだからダブルクリックという発想は、それはそれで自然だ。このボタンのユーザーインターフェイスにシングルクリックとダブルクリックの違いを設定しなかったのは正解だ。あるいは、もっとボタンらしく見えるようにデザインを設定していれば、多少は流れが変わっていたのかもしれないが、

 Windows VistaのGUIやMicrosoft 2007 Office Systemが実装したリボンのUIを見ていると、マイクロソフトはどうやらツールバーというUIに、それほど愛着を持っていないように感じられる。大昔のボタンの方が、ずっとボタンらしくデザインされていたくらいで、世代の新しいアプリケーションのツールバーボタンは、どちらかといえば平面的だ。ボタンらしく見せようと3Dっぽいデザインでボタンを配置していたクラッシックなGUIに比べれば、Windows XPのボタンは平面的だ。ボタンは残っているのだが、冗長な説明ができるリンク項目に置き換えられているものも多いし、それらを含めたボタンの多くはサブメニューを持つようになってい。それに、大きさも統一されていない。しかも、ボタンをクリックしたときの挙動として、ダイアログボックスや新たなGUIであるギャラリーを表示するというものもかなりある。

●ポイントと選択の希薄な関係

 かつてのGUIは、プロセッサが非力だったこともあり、ポイントという概念がとても希薄だった。マウスポインタでオブジェクトを指し示しても何も起こらないのが普通だった。だからこそ、シングルクリックには、オブジェクトを選択するという意味合いを持たせざるを得なかったのだろう。だが、今は、ポイントするだけで、オブジェクトの色が変わったり、ポインタの形が変わったり、ヒントとしてToolTipsが吹き出し表示されるなど、バリエーションに富んだ挙動を示し、ユーザーが迷わないように工夫されている。アプリケーションによっては、ポイントするだけでオブジェクトが選択された状態になるものもある。

 マウスポインタを画面上で動かし、オブジェクトをポイントし、ダブルクリックするというクラッシックな一連の操作は、ポイントしたオブジェクトに対して、さらに積極的なアクションを投げかけるという行為だった。考えようによっては、ダブルクリックの1度目のクリックが選択であり、2度目のクリックが実行だ。

 ところが、ポイントという操作が選択を意味することができるようになったことで、シングルクリックだけですむようになったと考えればつじつまをあわせられる。このままファイルやアイコンというオブジェクトを開く操作にシングルクリックを主流にすることができれば、ダブルクリックという不自然な操作を撲滅させることができるかもしれない。

 もちろん、そんなことは誰だって考える。Windowsでは、Windows 98以降だったか、フォルダオプションで、クリック方法も設定できるようになっている。ポイントして選択し、シングルクリックで開くのか、シングルクリックで選択し、ダブルクリックで開くのかを指定できるようになっているのだ。シングルクリックで開く設定をデフォルトにして製品を出荷しているメーカーもあったが、主流にはならなかった。

 スタートメニューもコントロールパネルもシングルクリックだけで機能する。きっとWindows 95以降にパソコンを使い始めたユーザーは、シングルクリックでファイルが開くことに対する抵抗は低かったはずだ。でも、ダブルクリックを強いたのは、過去のGUIに慣れ親しんだロートルたちだった。

 ちなみに、Windows XPのフォルダウィンドウでは、ウィンドウの左側に、ファイルとフォルダのタスクとして、選択されたファイルオブジェクトに対してできることが項目として並んでいるが、その中に、ファイルを開くという項目はない。

 だが、Windows Vistaのフォルダウィンドウでは、ファイルを選択すると、そのファイルに応じた開くボタンが出現し、そのクリックでファイルを開くことができる。選択という行為にシングルクリックをとられてしまっているのが惜しいが、いたるところに、ダブルクリックを排除しようとしているムードが感じられる。

 マウスのボタンは押した指を離せば戻る。ボタンが戻らないように、ボタンを指で押し続けている間は、ある種のモードに入っているわけだ。そして、指の感覚がモードの中にいることを強く意識させてくれる。具体的にはドラッグ中などがモードに入っている状態だ。モーダルなボタンにダブルクリックは似合わない。絶滅は無理にしても、将来的にはパワーユーザーの裏技的な存在程度として残る程度として、そろそろ引退してもらってもいいんじゃないだろうか。

 この原稿を書いている最中に、何気なく、gooのRSSリーダーウェブ版を開いてみたら、予定されていたリニューアル作業が終わっていた。機能改善後の新しいUIでは、登録したフィードの一覧から、読みたい項目をシングルクリックすると、ウィンドウ下部にその概要文がオーバーラップウィンドウで表示され、ダブルクリックでそのリンク先が開くようになっていた。Web2.0の時代とは、シングルクリックで完結していたブラウザの世界に、ダブルクリックを持ち込むのかと思うと、ちょっとショックだった。

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【2005年9月15日】【本田】Windows VistaとOffice 12がもたらす新体験
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(2006年3月31日)

[Reported by 山田祥平]


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