その初日、ビル・ゲイツ氏の基調講演ではWindows Vistaに関連して、β1から現在までに開発進んだアップデート部分のデモを披露。また2000年6月のForum 2000で初めて披露した.NETが5年を経て着実に前へと進んでいる事を強調。.NETネイティブ対応OSとも言えるWindows VistaおよびLonghorn Serverを用い、より“ユーザー体験(User Experience)”を重視したアプリケーション作りを行なっていこうと開発者たちに呼びかけた。 また、かねてより噂のあったMicrosoft Officeの後継「Office 12」も発表。Office 12は機能追加に重点を置くのではなく、久しく根本的なアップデートが行なわれてこなかったユーザーインターフェイスにメスが入った。従来のメニューとツールバーに頼ったユーザーインターフェイスが廃され、すでにあふれかえるほど実装されているOfficeの機能を“誰もが使いこなせる”よう工夫が施される。
またゲイツ氏はWindows VistaとOffice 12が、限りなく近いタイミングで市場に投入される事も明らかにしている。Windows Vistaに対応した模範的なアプリケーションとしてOffice 12をリリースし、新OSの立ち上げ時にWinodws Vistaの可能性を見せることで、両製品の間に起こるシナジー効果を期待しているようだ。 ●これまでと、ここからは明確に異なる
ここ数年のゲイツ氏は、基調講演の冒頭で過去を振り返る事が多い。それはおそらく、“これまでとこれから”が明確に異なる事を強調したいからだろう。頻繁に“decade”という単語を使うようになったのも、ここ数年の傾向だ。では、これまでとこれからはどのような違いがあるのか。 '75年、パソコンはまだその歴史が始まろうとしていた段階だった。コストも高く、一部の“好きモノ”だけの世界である。それが'85年になるとPCとDOSによるソフトウェア開発プラットフォームが確立し、ソフトウェア開発コストを大幅に低減。その後のPC市場を生み出していった。さらに'80年代終わりから始まったWindowsとMacintoshがGUIの文化を創り出し、この年に'95年に発売されたWindows 95によって、今日のコンピュータソフトウェアの開発の基盤が形成され、その後のビジネス的な開花へとつながっていく。 各年代の初頭に始まったムーブメントが、5年後にリーズナブルなプラットフォームに成長し、その後の10年を支えるというサイクルでキレイにまとまっているのは面白い。そしてゲイツ氏が5年前、2000年に「これからの10年を支える技術」として紹介したのがXMLおよび.NET、Webサービスといったコンセプトだった。 あれから5年、XMLはすっかり業界の標準技術として確立され、XMLを利用したさまざまなアプローチによってその適応範囲が広がっている。当初は一部に反発もあった.NETに関しても、現在は効率よくネットワーク対応のアプリケーションを開発するプラットフォームとして定着した。 現在は64bitコンピューティングへと時代の節目を迎え、PC市場は年12%の成長へと回復し、1台あたりのハードウェアコストも安価になった。ネットワークへの接続性は高まり、さらにWiFiによってネットワークへ接続可能なフィールドは大きく広がっている。今後はWiMAXがダイヤルアップユーザをブロードバンドの世界へと誘うだろう。コンシューマの世界では、音楽や映像などがデジタル化され、デジタルメディアを中心とした新しいライフスタイルが確立されようとしている。 こうした背景について話しつつ、ゲイツ氏は過去の5年間を通じて.NETを発表した時に講演した夢はその多くが実現したと話し、来場者に感謝の意を表した。 ●“ユーザー体験”のレベルアップを .NET、XML、Webサービスを巡る環境が整えられてきた一方、今後の取り組みとして「クライアント側の“ユーザー体験”のレベルアップを行なうことが重要だ」と来場者に呼びかけた。 .NETによってさまざまなサービス、アプリケーションを有機的にネットワークで結合させる事が可能になったが、その一方でWindowsのネイティブアプリケーションでしか実現できないような、リッチなユーザーインターフェイスを実装しようというのだ。 Microsoftが“プレゼンテーション層”と呼んでいる、ユーザーとのインターフェイスやアプリケーションの実行結果表示など、ユーザーが直接体験する部分を新しいレベルに引き上げるというコンセプトは、元々、ゲイツ氏が.NETの最初の講演をシアトルで行なった時に語っていたものだ。 ユーザー体験レベル引き上げのためにゲイツ氏が用意しているのが、コードネームではAvalonと呼ばれていた「Windows Presentation Foundation」と、それを標準で備える「Windows Vista」。それに「Office 12」および「Atlas」だと話す。 AtlasとはこのPDCで発表された開発フレームワークで、Dynamic HTMLをサポートする多くのブラウザに対応している。WPFでは高度なグラフィック機能を用いたWebアプリケーションを容易に開発できるが、通常のWebブラウザでは利用できない。そこでAtlasという解決策も用意することで、WPFが利用できないユーザーにもメディアリッチなアプリケーションを体験できるようにする。 もっとも、.NETの優位性をそのまま、有機的に接続されたネットワークアプリケーションのユーザー体験レベルを引き上げると言っても、どのようなアプローチがあるのか。基調講演ではアパレルメーカー「NORTHFACE」が開発したWPFベースのWebアプリケーションを元に説明したが、Windows Vistaに注目してきた人たちにとっては、3Dグラフィックスや動画などを活用した、いずれも既におなじみの手法が使われている。 ●VistaとOffice 12におけるユーザー体験向上の取り組み
とはいえ、エンドユーザーがもっとも気になっているのは“ユーザー体験レベル向上”のスローガンが、Windows VistaやOffice 12にどのような形で入り込んでいるかだろう。
Windows Vistaは先頃β1がリリースされたが、その後のアップデートでユーザーインターフェイスにいくつかの新機能が追加されている。デモに使われたバージョンは「ビルド5219」というβ2直前バージョン。β2の正式なリリースは年内を予定しているが、デモで使われたバージョンはCTP(Community Technology Preview)と名付けられているものだ。 デモではタスクバーにマウスカーソルを重ねると、ウィンドウのグラフィックが縮小表示でポップアップしたり(動画もきちんとサムネイルに反映される)、アプリケーション切り替え時にウィンドウの内容が判別できるようサムネイル表示されたり、あるいはウィンドウを3D表示で斜めに重ねて順番を変えてみたりと、かなり大幅な変更が追加が行なわれている。
このほか、ノートPC向けには外部サブディスプレイを用いたアプリケーションを動作させたり、仮想フォルダやリッチなプレビュー機能といった、今年のWinHECでも行なわれたおなじみの機能も多少、機能アップしている模様だ。Internet Explorer 7に関しても、フィッシング対策やページのプレビュー機能、Webページの自動縮小印刷機能、RSSリーダ機能などが用意される。
またMac OS Xのウィジェットにも似たガジェットと呼ばれる、.NETの技術を応用したミニアプレットがWindows Vistaでは利用可能となる。ガジェットはサイドバーに置いて利用する。 一方、Office 12は従来のメニューやツールバーが廃止され、ユーザーの“やりたい事”に合わせ、動的にユーザーに機能を使ってもらうようユーザーインターフェイスにさまざまな工夫が施されているようだ。 現在カーソルがある場所や選択しているオブジェクトに応じ、リボンと呼ばれる操作領域がポップアップ、リボンの中身も目的に応じて変化する。各機能は適用結果が即座に判別できるよう、マウスがロールオーバーするだけに結果が反映されたり、適用結果が容易に想像できる高解像のサムネイルなどでユーザーにインフォメーションを伝える工夫がされている。Office 12に関しては、Officeが32bit化して以来とも言える大きな変化があり、多くの技術セッションが設けられているため、詳細は別途お伝えすることにしたい。
□PDC2005のホームページ(英文) (2005年9月15日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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