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久夛良木健氏が語ったPS3遅延の理由




●自らスケジュールの遅延の理由を説明

久夛良木健氏
 PLAYSTATION 3(PS3)は11月上旬に、全世界同時発売。出荷は最初から100万台/月のハイペース。Blu-ray Disc(BD)ビデオのフルスペックに対応し、PS3向けゲームタイトルも全てBDディスクで提供する。また、PS3発売と同時にネットワークサービスも開始する。基本サービスは無料で、一元的なアカウント管理や柔軟な課金システムなど、Microsoftと同等クラスのサービスを提供する。また、ゲームコンテンツ配信(HDDから起動)も実現するという。開発ツールについては、3月末までにCPU「Cell」とGPU「RSX(Reality Synthesizer)」のファイナルを搭載したシステムをリリース、続けて最終版の開発ツールを5月中盤にリリースするという。

 3月15日に東京で開催された「PS Business Briefing 2006 March」で、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の久夛良木健氏(代表取締役社長兼グループCEO)は、こうしたPLAYSTATION 3(PS3)の発売計画の概要を発表した。SCEIは、昨春のE3時に2006年春にPS3を発売と発表。それ以降、スケジュールの変更を正式には発表していなかった。

 しかし、ゲーム開発現場などでは、開発ツールの状況から、実機の発売は、春からずれ込んだという見方が広まっていた。今回の発表でSCEIは、水面下ですでに公然の秘密となっていたPS3のスケジュールの遅れを、公式に確認したことになる。

 久夛良木氏は「去年(2005)の春に、今年(2006)の春と言ってしまい、そのままにしてしまって、非常に申し訳なかった」と、これまでの空白について発言。遅れた最大の原因は、BDやHDMI(High-Definition Multimedia Interface)などの規格の確定を待っていたためであると説明した。

 「将来可能になるだろう技術も取り入れたいと考えたが、規格化を含めて大分遅れてしまった」と久夛良木氏は語る。今は、規格化が終了してライセンスが開始されたり、規格策定のメドが立ったことで「非常にクリアに言えるようになった」(久夛良木氏)という。

 PS3のような、固定された仕様で長期間保たせなければならない機器の場合、途中で規格を拡張したり、新規格のデバイスを採用することが難しい。そのため、リリース時に、背伸びして、将来に対応機器が提供される規格まで対応しておいた方が製品のライフサイクルを長く伸ばせる。PS3は技術のちょうどHDTVへの転換の節目にあるため、新規格への対応は従来の世代より難しい。

 「(PS3をいったん出したら)途中で変えられない。だから、やるからには最初から完全なものを出したかった」とSCEIの茶谷公之氏(コーポレート・エグゼクティブ兼CTO)は語る。

PLAYSTATION 3 Blu-ray Disc Standardization HDMI Next Generation

●Blu-ray Disc(BD)とHDMIがPS3ハードの足をひっぱる

PLAYSTATION 3
 久夛良木氏によると、BDについての見込み違いとその後の経緯は次のようなものだったという。

 「その時点(2005年春)では、我々は、8月末にはBDの全ての規格化作業が終わり、9月にはフォーマットブックが発行されると信じていた。しかし、(規格化は)遅れに遅れた。われわれは、そこ(規格策定)に入っていないので、好き勝手なことは言えず、なかなか、じれったかった」

 「(BDでは)コピー管理はAACSで行なうが、商品を作るための仮キーがようやく発行された。それを受けて、CeBIT(ドイツで3月9日~15日に開催された展示会)では各社が次世代DVD製品を発表した。いよいよ我々も、PS3で新しい技術が使えると発表できるようになった」

 PS3とHDTVを接続するためのHDMIも同様だ。PS3はデジタルコンテンツ保護を考慮されたデジタルインターフェイスHDMIを当初から想定していたが、PS3のスペックに合わせるためにHDMI規格の拡張を求めていた。昨春のインタビューで久夛良木氏は次のように答えている。

 「PS3は1080p(1,920×1,080ドット、プログレッシブ)の出力を2つサポートしているが、HDMIインターフェイスは、今、(1080ドットでは)インターレスしかサポートしていない。だから、1080p対応など、どんどんPS3で引っ張ろうとしている」

 つまり、フルHD解像度である1080pをサポートできるように、インターフェイス側の規格HDMIの拡張を考えていたわけだ。また、久夛良木氏は色深度も問題だったという。

 「HDMIの規格を見てみると、フルカラーといっても実はフルカラーではなく、RGBの各色8bitずつしか分解能がない」

 「そこで、それ(HDMI規格)を次世代の水準にしてくださいと、PLAYSTATIONとして標準化団体に投げかけていた。また、それ(次世代HDMI)に対応したLSIが、PS3用に供給していただけるようにもお願いしてきた。これが(BD規格と)同じ時期に決まった。次世代HDMIでは、各色12bitずつになり、フルHD(1080p)に対応する。まもなく規格書が発行され、対応するLSIのサンプルも出始めた」

 つまり、PS3の次世代HDMIインターフェイスでは、色の階調表現が各色12bitと深く、また、HDTVのフル解像度の1080をプログレッシブ表示できるようになる。対応するディスプレイが登場すれば、より表現が向上する。ちなみに、PS3では、HDMIだけでなく、既存TVのアナログ系インターフェイスもサポートし、在来のTVにも接続ができるという。

●海外の年末商戦に合わせた発売日の設定

 新しく決まった11月上旬という発売日について、久夛良木氏は次のように説明する。

 「(11月上旬に設定した)目的は、海外のサンクスギビングデー(感謝祭:11月の第4木曜日)から始まる時期に、余裕を持って望むこと」

 「いろいろな案があった。9月で日本という話もあったし、7月にしちゃえ話というのもあった。しかし、ソフトメーカーの皆様が、きちんと作り込めるようにしようと(このスケジュールとなった)」

 これまでも9月といったウワサなどが流れていたが、社内でもさまざまな案が検討されたことがわかる。

 SCEIは、PS3の出荷をスリップさせる代わりに、発売をより充実したものにするという。世界同時発売と、100万台/月の供給だ。

 日本だけ発売を先行したこれまでのPlayStationの時とは異なり、PS3では全世界で同時に発売をスタートする。日本とアジア、米国とカナダ、ヨーロッパの3地区で、ほぼ同時期に発売を行なう。久夛良木氏は、これが大きなチャレンジであることを認める。

 「ぴたり同じ日にとは言わないが、だいたい11月の頭くらいにと考えている」、「同時発売は、われわれにとっても初めて」、「PSPと比べると大きく重いPS3を、陸路で離れた場所にもきちんと運ばなくてはいけない。生産出荷の段取りは至難を極めると思いますが、これもがんばろうと」

 先行するMicrosoftは、Xbox 360発売では時間差を詰めて、ほぼ同時期に立ち上げた。PS3も似たようなスタートを想定している。

 出荷ボリュームについては、久夛良木氏は次のように説明する。

 「PS3は新技術が山盛りなので、(生産は)非常に大変だ。でも、数が出ないとゲームベンダーのビジネスをサポートできない。だから、遅らさせていただいた分は、きちんとした生産体制をとりたい。我々が、チャレンジして結果を出したいと思っている生産キャパシティは月々100万台です。半年かけて100万台にするのではなく、(最初から)100万台に持って行く。素晴らしいソフトが出て、ユーザーの皆様に受け入れていただければ、来年(2007)の3月末で600万台のキャパシティになる」。

 久夛良木氏は、初代PlayStationやPS2の発売時の生産キャパシティと比較。PS3の生産計画が、PS2を上回る野心的なものであることを強調した。そして、この発表によって、PS3関連のデバイスメーカーや機器メーカーが、準備に動き始めるだろうという期待も述べた。ちなみに、先行するMicrosoftのXbox 360は、立ち上げ後は、供給不足状態に苦しんでいる。SCEIの発表は、それも意識しているのかもしれない。

Early November 2006 Worldwide Launch 1Millon units/month
PS3 Production Capacity HDD is required !

●PS3の11月発売の意味

 年末商戦時期(海外ではホリデーシーズン)というのは、ゲームコンソールにとっては最大のビジネスチャンス。これを逃すことはSCEIとしては何が何でも避けたい。つまり、SCEIにとっては、11月はデッドライン(絶対的な期限)だ。Xbox 360が海外ではそれなりに立ち上げに成功している(供給はうまく行なっていないが)ため、海外市場の商戦時期を逃すことはリスキーと考えたのかもしれない。

 世界同時発売の場合、SCEIは、最終工程のFab(工場)から遠隔地までの輸送のタイムラグも考慮しなければならない。そのため、実際には11月よりもかなり前にある程度の完成品を生産しなければならない。つまり、11月に同時発売するということは、量産ハードの完成時期は、もっと早いことを意味する。原理的には、日本だけ先行して発売することもできたはずだ。

 それをしなかったのは、久夛良木氏の発言にもあるように、タイトルを揃えるためだと推定される。SCEIは触れなかったが、実際にはPS3の開発環境の整備も遅れており、特に、ゲーム開発者の間では、ソフトウェアライブラリの成熟度が低いことが指摘されている。SCEIは、2005年秋に、ライブラリ関係の開発者を大募集しており、国内だけでなく海外からもプログラマを雇用している。まだ、ライブラリの整備を全力で進めている段階だと推定される。

 そのため、現状では発売を早めても、PS3らしいタイトルを揃えることは難しい。タイトルの開発には、デベロッパが開発ラインを立ち上げてから最短で9カ月前後は必要となる。11月という発売スケジュールは、タイトル開発でも、ぎりぎりのタイミングかもしれない。

Loand Dev Tool Delivery Schedule SDK Delivery Schedule Took & Middleware

□関連記事
【3月15日】SCEI、「PLAYSTATION 3」発売を11月上旬に延期(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060315/scei1.htm
【2005年6月24日】【海外】「PS3の次のステップは、Cellコンピューティング」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0624/kaigai194.htm

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(2006年3月16日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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