第321回

プロセッサパワーと次世代光ディスクソフトの気になる関係



 2006 International CESが終わり、すでに2週間近くが経過しようとしている。PC WatchでもIntel Core Duoの話題を中心にレポートが多数掲載された。LenovoのThinkPadシリーズ大幅モデルチェンジなどが製品レベルでの大きな話題だった。その翌週にはAppleがMacBook Proを発表、今後も引き続いてIntel Core Duoを搭載した新モデルの発表が相次ぐ予定となっている。

 もっともかつて隆盛を極めた当時のCOMDEX以上の規模へと成長したCESは、とても1人ですべての分野をカバーできるものではない。デジタル家電周辺の取材を担当していた筆者は、ことごとくIntel関係のインタビューやイベントに出席できなかった。

 その代わりに拾ってきたのが、次世代光ディスクのPCにおけるビデオ再生の可否に関する話だ。Intel Core Duo、あるいはその先に控えるプロセッサの能力が、次世代光ディスクパッケージの画質を、少なくともしばらくの間は抑え込む事になるかもしれない。

●HD DVD、BDのビデオはPCで再生可能?

 PC用のドライブが登場するのだから、当然、PCでも再生可能だろう。そう考えている読者が多いと思うが、話はそれほど単純ではない。

 まずPCで著作権の付与されたコンテンツを安全に再生できるか? という問題があった。しかし、この問題に関してはWindowsにセキュアなメディアストリームの経路を作る事で解決しているようで、両規格とも問題はない。

 その代わりに問題として浮かび上がってきているのが、プロセッサの処理能力。発表されたばかりのIntel Core Duoはもちろん、デスクトップ向けのPentium Dでも、高画質コンテンツの再生は厳しいという話題が、ハリウッドのオーサリングハウスから飛び出てきている。

 HD DVDとBD(Blu-ray Disc)は、ともにMPEG-2、H.264、VC-1という3種類のコーデックをサポートしているが、中でも計算量の面で厳しいのがH.264だ。H.264でのエンコードでは、12〜16Mbps、高画質な一部コンテンツで20Mbps程度のビットレートになると見られている(フォーマットは映画の場合で1080/24p、ビデオは1080/60i)。

 これがCBR(固定ビットレート)ならば、Intel Core Duoでも再生が可能だが、各ビデオ規格では高画質化のためVBR(可変ビットレート)が用いられ、瞬間的なピークビットレートは平均値よりもずっと大きくなるのだ。

 エンコード技術者によると、特にH.264の場合、MPEG-2よりもバッファ容量が大きく取られており、瞬間的なビットレートは物理的なメディア転送レートよりも大きくなる。HD DVDの場合は32Mbps、BDは54Mbpsがメディア転送レートとなり、そこからさらに音声用ストリーム(ドルビーデジタルの640Kbps〜リニアPCM7.1チャンネルの6Mbps)を引いた残りが映像で使える最大ビットレートだが、H.264の規格を最大限に活用するとHD DVDで60Mbps近く、BDでは70Mbpsを超えるピークビットレートを使える事になる。

 ところが、実際にここまでのピークビットレートが出てしまうと、現行のPC向けプロセッサ上ではコマ落ちが発生してしまう。そこで初期タイトルではピークビットレートを一定以下に抑えようという動きも、業界内ではあるようだ。

●各社まちまちの画質に対するスタンス

東芝のHD DVD-ROM搭載Qosmioのプロトタイプ(CESにて撮影)

 たとえば東芝の場合、同社のQosmioシリーズでHD DVDをサポートし、Windows XP上での再生が行なえるようにすると発表している。このためHD DVDの初期タイトルは、ピークビットレートがやや抑えられたものになるだろう。

 次世代光ディスクには映像サブストリームという考え方もあり、メインの映像にオーバーレイで別の動画を重ねる事ができる。このサブストリームにも(解像度は低いが)H.264が用いられる事が多く、両方を同時にデコードするとコマ落ちは避けられないかもしれない。

 PCでの再生を可能にする方向で東芝が全体をリードしているHD DVDの場合、それでもピークビットレートを抑えれば解決できる可能性はあるが、多くの企業が規格をリードしているBDの場合は、もう少し事情が複雑だ。

 PCをメイン商材に持つメーカーは、ピークビットレートを抑えたコンテンツを用意し、当面継続する方向で調整を付けているが、デコードパフォーマンスの問題は家電として販売される専用プレーヤやレコーダは規格いっぱいのストリームも再生できる。どの程度のニーズがあるのか読めないPC上での再生サポートを行なうために、ビットレートを抑えるという考えは、純粋に高画質コンテンツを制作する現場とは馴染まない。

 VBRでのピークビットレートの高さは、視覚的なノイズ感、歪み感を大幅に下げる効果がある。MPEG系の圧縮技術では、シーン転換の際に最も画質が低下しやすく、その部分に多くのビットを割り当てる事で画質が上がる。H.264は各圧縮要素のバリエーションや精度が向上し、特に動き予測モードが激増した事で圧縮率が向上しているが、シーンが大きく転換する部分のビットが多く必要という点はあまり変化していない。

 つまり12〜16Mbpsでも非常に高画質(良い圧縮では縦13.5フィートの大型スクリーンで検証しても歪み感がほとんど目立たないほど優れている)で、“見た目にはロスレス”とプロが唸るような高画質も、ピークビットレートの頭を押さえ込んでしまうと場面によっては歪みが出てきてしまうのだ。

 “そんなものはマニアじゃないと……”と思うかもしれないが、MPEGの圧縮ノイズは(どのような種類の変化が起こるのを知っていれば)比較的容易に見えてしまう。まして作品として売り物にするならば、きちんと高画質の方向に行って欲しいとは思うが、PCでの再生サポートと画質、それらとのスタンスの取り方次第で、BD内の足並みは揃わない可能性がある。言い換えれば、高画質エンコードのコンテンツが出てきやすい環境ではある一方で、PCでの再生がかなり厳しくなる。

●品質志向を失ってはいけない

 光ディスク、特にROMともなれば、ただのデータ配布メディアじゃないか。記録型を併せて考えても、データストレージの一種だろう。という意見もある。

 だが、光ディスクの主な用途は映像である。シークが遅く、転送速度も遅く、しかし複製が容易で保存性が高いという光ディスクの特性は、PC的な視点での一般向けストレージには向かない。PC向け用途はドライブの量産という点で欠かすことができない視点だが、主用途の映像向けをおざなりにしては先行きも明るくはならない。

 将来的にPCのパワーがアップすれば、そのうちにソフトウェアデコードでもコマ落ちは避けることが可能になるだろう。PCでの再生も可能になって欲しいとは思うが、それは今すぐでなくてもいいのではないだろうか。

 最初のうちは高解像度になっただけで良さを実感できるかも知れないが、そのうち人間はハイビジョン放送などより遙かに高画質な次世代光ディスクパッケージソフトの高画質にも慣れてしまうだろう。数年後、ふと「初めて買ったハイビジョンソフトを見てみよう」と思ったとき、なんか汚い圧縮だなぁと感じられてしまうと残念なものだ。

 今年、3月からはHD DVD、4月からはBDのパッケージソフトが発売される(いずれも北米)。初期タイトルがすでに発表済みだが、多いところでは1年間に150近いタイトルを発売し、少なくとも2社はDVD新作発売と同時に次世代光ディスクパッケージでの発売を予定しているという。

 “これで十分でしょう”という線引きを作り手側が行なうのではなく、その時点でベストなものを提供する志の高さを持たなければ、消費者には響かない。ソフトウェアデコードの事など気にせず、より良いタイトルが発売されることを期待したい。

HD DVDのタイトル BDのタイトル

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(2006年1月20日)

[Text by 本田雅一]


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