山田祥平のRe:config.sys

デジタルホームのUXをリモコンにまかせてよいのか




 CESの基調講演でビル・ゲイツが使っていた三面マルチのディスプレイを見て、すごくうらやましく思った。デバイスの種類はよくわからないが、かなりの薄型だった。上部は向こう側が透けて見えるようなもので、解像度もかなり高く、それをタブレットPCと連動させて使っていた。いわば、2フィートインターフェイスの究極の形だ。

●広い画面も便利だが、それがたくさんあればもっと便利

 今、手元の環境では、20型のディスプレイを2台並べて作業している。正面のディスプレイはポートレートオリエンテーション、その右側にランドスケープオリエンテーションでの設置だ。ウェブやドキュメント類は縦位置で表示させ、写真や動画は横位置で見る。気に入らないのは、ディスプレイの機種が違うので、同じ色が同じ色で表示されない点だ。どうしても追い込むことができない。それでも、マルチディスプレイの便利さには代えられないので、ガマンして使っている。

 ビデオカードはDVI端子を2つ装備したものを選び、それぞれのデジタル出力をディスプレイに接続している。以前、AGPのカードを使っていたときには、さらにPCIのビデオカードをもう一枚追加して、3台目のディスプレイを接続していたこともあったのだが、今はデュアルディスプレイ環境に落ち着いている。3台目のディスプレイがあっても、さほど有効には使えないという判断だったのだが、今回のビル・ゲイツの3画面によるデモンストレーションを見て、ちょっとうらやましくなってしまった。

●リモコンが抑制するかもしれない新たなUXの登場

 大画面のディスプレイに、ある程度離れた位置から対峙し、リモコンを使って操作をする10フィートインターフェイスは、今後のデジタルホームで使われるデバイスには必須とされている。けれども、これは、ある意味で退化であるとも考えられるんじゃないだろうか。リモコンの便利なところは、手のひらに収まる小さなデバイスに、特定の機能をダイレクトに呼び出せるボタンが装備されている点だ。だからこそ、やりたいことに応じてボタンを押すだけで、その結果がディスプレイ上に展開される。

 だが、機能ごとにボタンを用意することができるほど、現代のデジタルアプライアンスは機能が少なくない。それぞれの機能ごとにボタンを用意してしまっては、ボタンの数が多くなりすぎるのだ。リモコンは手のひらにおさまる程度のサイズだからこそイージーっぽさを演出できているのに、それが大きくなりすぎてしまってはキーボードと同じだ。たとえ小さく作ることができても、50個を超えるようなボタンの数があっては本末転倒である。

 そして結局はメニューに頼ることになってしまう。階層構造を持つメニューは、CUIの時代に操作をわかりやすくするために使われることが多かった。特に日本語は漢字仮名交じり文を使えばグラフィカルなアイコンを使う必要なく、直感的にメニュー項目に相当する機能を想像することができる。そのメニューを方向ボタンを使って行ったり来たりさせ、決定ボタンで実行するといった具合だ。

 ただ、リモコンの方向ボタンはシーケンシャルにしかアクティブ項目を移動できないので、目的のオブジェクトがそこに見えていたとしても、何度もボタンを押して、そこに到達させなければならない。GUIのメリットは、そこに見えているオブジェクトに対してダイレクトに働きかけることができる点であり、マウスのようなポインティングデバイスは、そのために重要な役割を果たしてきた。ところが、リモコンはGUI操作用のデバイスであるかのように見えて、実際はそうではないというのが実情だ。

 携帯電話を使ってiモードなどのサービスを利用していてもそう思う。最近でこそ、フルブラウザが一般的になっているが、あの小さな画面でさえ、下部の項目をアクティブにするために、方向キーを何度も押さなければならないのはめんどうだ。もちろん、メニューなどは、番号キーでショートカットすることができる場合もあるが、パソコンの広い画面で自在にポインタを動かせる便利さには遠く及ばない。

●10フィートと2フィートを両立させるポインティングデバイスが欲しい

 '70年代に放送されていたフジテレビの番組に「ラブラブショー」というトーク番組があった。司会は芳村真理で、毎週2人のゲストカップルが招かれ、最後にその相性をコンピュータがはじき出すというものだった。確かアナウンサーだった小林大輔がもぐらのお兄さんとしてオペレータ役で登場し、ライトペンでモニタディスプレイを操作して結果を表示させていた。あれを見たとき、子供心にコンピュータってすげぇと感じたことを思い出す。

 その後、出会ったパーソナルコンピュータのUXは、テレビで見たコンピュータとは比較にならないくらいに拙いものだった。でも、今なら、タブレットPCが最も直感的なUXを提供している。なにしろ、画面のオブジェクトに対して、直接働きかけることができるのだ。マウスのようなポインティングデバイスでは、デバイスの移動方向が上下と前後でチグハグになることを考えれば実にダイレクトだ。ぼくにとっては、画面に直接タッチするというのは感覚的に相性がよいらしく、最初に購入したカーナビも、ケンウッドの製品だった。当時は、画面にタッチして操作ができるカーナビは同社製品だけだったと思う。今、数台目のカーナビを使っているが、常に、リモコン操作のもどかしさを感じている。次のカーナビは、ぜひ、タッチパネル方式のものにしたい。

 いずれにしても、10フィートの時代には、旧態依然としたリモコンに頼るのではなく、たとえば、レーザーポインタのようなデバイスを使い、光で画面上のオブジェクトをポイントして操作するなど、それなりに新たな工夫を織り込んだポインティングデバイスが必要なのではないだろうか。あるいは、大画面テレビのフルHD化などにより、30型を超えるようなディスプレイを、2フィートUXで使っても違和感を感じなくなる可能性もある。ビル・ゲイツのデモで登場したディスプレイはまさにそういう時代の到来を感じさせるものだった。

 今、リモコンでも何とかなると思われているのは、多くのコンテンツが、再生を開始してしまえば、あまり操作する必要がないように作られているからだろう。テレビはチャンネルの切り替え程度、録画済みのドラマが始まればCMのスキップくらいしか操作はしないだろうし、まして、CMのない映画DVDの再生では、トイレや電話などの割り込みにポーズをかけるくらいだろう。これは音楽再生でもいえることだし、オブジェクトの数の多い写真の表示にしたって、スライドショーを始めてしまえば、動画コンテンツと同じことになる。だったら、リモコンにあんなにたくさんのボタンは必要なくて、複雑な操作が必要な場合は、従来通りのポインティングデバイスとキーボードを使った2フィートUIでどうぞというのがリーズナブルだ。

 リモコンを使えばパソコンがテレビのように簡単に操作できるというのは幻想にすぎない。究極的には退化なのだから、実際には、従来よりも操作が難しくなってしまうか、できることが限定されてしまい機器のポテンシャルを最大限に生かせない。ちょうど、ウェブがパソコンのアプリケーションのUXを、いったん退化させてしまったのに似ている。高度な処理能力を持ったパソコンなのにテレビ+レコーダー程度のことしかできないのでは本末転倒だ。さて、2フィートと10フィートのUIの共存なのか、それともまったく新しいUXが登場するのか。インテルのViivによって、デジタルホームの姿が見え始めようとしている今、取り返しのつかないことになってしまわないうちに、考える必要があるのではないだろうか。

□2006 International CESレポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/ices.htm

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(2006年1月13日)

[Reported by 山田祥平]


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