元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows 95の夢はもう還らない




●CESの開幕にふさわしい人物

基調講演を行なうMicrosoftのビル・ゲイツ会長。CEO時代に比べ、にこやか、かつ穏やかな表情が増えたように思うのは、先入観のせいだろうか
 COMDEXが事実上なくなった今、1月のConsumer Electronoics Show(CES)は、3月のCeBITと並び、IT分野を包含した世界最大級の展示会イベントだ。その名の通り内容がコンシューマー向けに偏るとはいえ、世界最大の消費地にして、IT業界リーダーの本社所在地である米国で開かれるということが、CESを特別な「お祭り」にしているのかもしれない。

 この最大規模のお祭りをスタートさせるのに、Microsoftのビル・ゲイツ会長ほどふさわしい人物はいないだろう。氏は世界最大のソフトウェア会社を大学在学中に創業した事実上のオーナーであり世界一の金持ちという、アメリカンドリームの体現者であるからだ。特にCEOという肩書きを自らはずしてからは、そんな役回りを進んで引き受けているような印象も受ける。翌5日の正式オープニングを控えた4日の夕方、ゲイツ会長の基調講演で2006年のCESがスタートした。

 氏が基調講演のテーマとしたのは、デジタル革命の中心としてのソフトウェア、なかでも自社製品、それも今年の発売が予定されているWindows Vistaである。今回の基調講演でゲイツ会長は、「これは初めて見せるものだけど」といいながら、開発中のVistaのデモを紹介した(実際に大半のデモと解説を行なったのは、Microsoftの各プロダクトマネージャーだが)。

 すでに「β」をリリースしているVistaで、初めて見せる画面があっていいのかよ、という突っ込みは当然しておきたい気もするが、もはや同社にとって「β」は単なるプレリリース程度の意味しかないのかもしれない。かつてはβ版OSといえば、本番前に利用予定のハードウェアあるいはアプリケーションをテストし、問題が生じないかチェックするためのプラットフォームだったわけだが、そうしたリリース前の確認用という意義は、同社の「β」という言葉からはほとんど失われてしまったようだ。

●Vistaに何を求めるのか

 今回紹介されたVistaの個々の機能については、あえて筆者が繰り返すことはしない。が、筆者個人がワクワク、ドキドキするようなものだったかというと、ちょっと違う。お祭りイベントのデモという性格上、見栄え重視の派手なものにならざるを得ないことは理解しているが、たとえばタスク切り替えを3Dグラフィックスでわざわざ見せる必要があるのかどうか、筆者にはピンとこない。

 少なくとも、毎日使用する日常の道具にそれが求められているのか疑問には思う。それはWindows XPを「クラシック」ユーザーインターフェイスで使っている年寄りのたわごとなのかもしれない。だが、RPGの戦闘シーンだって、派手なアニメーションを毎回見せられると(そしてスキップできないと)いいかげんイライラしてこないか。VistaのGUIであるAeroGlassのデモを見ていると、どうもそれに近いものを感じてしまう。

Windows Vistaでのタスク切り替え タスクはこのように3Dグラフィックスとしても表現される

 もちろん、だからといって、Windows Vistaが見た目だけのこけおどしだと言っているわけではない。DRMなどの対応を含め、よりセキュアなOSになるであろうことはまず間違いないし、リリースされれば筆者も使うことだろう(ほかに選択の余地がない、という消極的な理由も含まれる)。VistaがプレインストールされたPCを避ける理由も全くないハズだ。最初からさまざまなメディアへの対応を想定したVistaであれば、エクスプローラーが簡単に落ちるようなこともあるまい(筆者にはこれだけでもありがたいが)。

 結局、Vistaに何を期待するのか、ということなのだろうか。筆者は2〜3年に一度の定期的なアップデートがWindowsにあればいいと思っているし、その時に多少のお色直しはあっても良いと考えている(ただ、素顔ともいえるクラッシクユーザーインターフェイスは残しておいて欲しいが)。Vistaも、Windows XPの正常進化形であれば、それでかまわない。

●もう変化は起こってしまった

 おそらくMicrosoftには、かつてのWindows 95に匹敵するような、画期的な製品を出して欲しいというプレッシャーが少なからずある。それは業界やユーザーからの期待であり、Microsoft自身による呪縛でもあるだろう。だが、おそらくそんな画期的な製品はもう現れないのだ。

 Windows 95は、結果的にコンピュータを変え、それは社会を変えた。もう変化は起こってしまったのであり、元には戻らない。そういう意味では、Windows 95はビートルズに似ているかもしれない。ビートルズは音楽シーンを変える存在であり、実際に変えてしまった。だからこそ、第2のビートルズは(少なくともその後40年間あまり)現れなかったのである。もし、Windows 95に匹敵するような画期的なコンピューター製品が現れるとしたら、それは全く別のところから登場するように思えてならない(それがGoogleなどのブラウザセントリックな技術であるのかについては、筆者はそれほど確信がない)。

 もちろん、だからといって、MicrosoftがWindowsの改善を放棄して良いという話ではない。ビートルズの後も音楽シーンが変化し、おそらくは進化したように、Microsoft、のみならずPC業界全体は、後に進化したと評価されるような変化を続けていかなければならない。ただ、そこにWindows 95に匹敵するようなインパクトや狂騒を求めてはならない、ということではないのだろうか。

□関連記事
【1月6日】【CES】ビル・ゲイツ氏基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0106/ces03.htm
【1月6日】ビル・ゲイツ基調講演レポート(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060106/ces08.htm
【1月5日】ビル・ゲイツ基調講演、2006年提供予定のWindows Vistaをデモ(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/event/12404.html

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(2006年1月7日)

[Reported by 元麻布春男]


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