元麻布春男の週刊PCホットライン

エンタテインメント企業としての側面を強調するソニー




●ダヴィンチコードとソニー

ハワード・ストリンガー会長兼CEO
 CESの公式な初日となる1月5日は、ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOによる基調講演で幕を開けた。「Entertaing the Future」と題された氏の講演は、未来の娯楽に対するソニーのビジョンと、それを支える4つの柱、e-Entertainment、Digital Cinema、High-er Definition、PlayStationについて語るというものだった。

 ただ、筆者がソニーという企業名を聞いてまず連想する電子/電気機器メーカーという色彩より、映画や音楽などのコンテンツ分野の比重が高い内容だったのは、タイトルが示す通り。エレクトロニクス分野のCEOである中鉢社長との分権体制を考えれば、不思議でもなんでもないが、ソニー全体のCEOとしては、もう少し踏み込んで欲しい印象は否めないところだ。特に、紹介されたソニー製品が、必ずしもわれわれ日本人にとっての新製品とは限らない点が、この印象を強くする。

DSC-T7を持って登場したTom Hanks
 たとえばe-Entertainmentで紹介されたSony Readerは、すでに日本では発売されているリブリエ(LIBRIe)、あるいはそのマイナーチェンジ版のようだ。日本でも決して大成功しているとは言い難いLIBRIeが米国で成功できるのか、確信は持てない。それでも世界的ベストセラーとなったダヴィンチコードの作者、ダン・ブラウン氏まで招いての紹介だから(もちろんダヴィンチコードも、Sony Reader向けに電子ブックとして提供される)、力が入っているのは確かだ。

 このダヴィンチコードは、ソニー製のデジタルシネマ機材で高解像度の映画となり、さらにBlue-Rayでパッケージ化される模様だ。もちろんそれを見るのはBRAVIAとGrand WEGA(米国ではリアプロのGrand WEGAは人気が高い)というわけで、確かに今回の基調講演の縦糸になり得るものではある。実際、ゲストとして映画ダヴィンチコードのプロデューサー(Brain Grazer)、監督(Ron Howard)、俳優(Tom Hanks)が顔をそろえており、力が入っているのは間違いない。Tom Hanksはソニー製デジタルカメラDSC-T7を持って登場、広告役まで勤めた。

●コンテンツとエレクトロニクスを両手に

背景にあるtype X Living/X Video Station風の機器には全く言及されることがなかった。左の光ドライブスロットが縦にある装置はオートチェンジャー風だが、無線のアンテナらしきものがあり、ロケーションフリー的に使えるものではないかとも思う
 ストリンガー会長は、ソニーをコンテンツと技術(エレクトロニクス)の両方を持ったユニークな存在だとする。もちろんその点に疑う余地はないが、本当に両方を持っている方が幸せなのかは良く分からない。たとえば現在、ソニーの音楽コンテンツはiTMSで購入することができないが、それはエレクトロニクスをソニーが持つことからくる「縛り」ではないのか。それがコンテンツベンダとしてのソニーにとって良いことなのかどうか、即答することは難しい。ストリンガー会長の基調講演を聞いた後も、こうした疑問に対する明確な答えは得られなかった。

 逆に日本人としてとても気になったことがある。それは、冒頭で上映されたビデオだ。街に突然三角形(再生ボタンの象徴)が現れ、それを押すとさまざまなコンテンツが街にあふれ出し、それを世界各地のニュースが伝える、といった内容で、もちろん日本も登場する。そのシーンに登場する女性アナウンサーの名前が「鈴木少し花」なのである(わざわざ日本語のキャプションが入る)。

 まぁ、ハリウッド映画等には良くありがちな間違いではあるのだが、日本企業であるソニーのビデオとしてはいただけない。おそらく会場にいた日本人は、みなガッカリしたのではないだろうか。ソニーはもはや日本企業ではなく、世界企業だと逆説的に言っているのかもしれないが、ソニーが日本にルーツを持つ企業であることに変わりはない。誰かチェックする日本人スタッフはいなかったのだろうかと残念に思う。

●XCP/rootkitの問題に言及

 こうしたディテールも含めて、クラフツマンシップのようなものが最近のソニーには希薄になっている気がしてならない。あるいはQUALIAの反動、ということなのかもしれないが、物作りをするメーカー(少なくともソニーの半分は今でもそのハズである)として、失ってはならない側面もあると思う。このあたりは、中鉢社長に期待したいところだ。

 さて、ソニーということでどうしても言及しなければならないのは、昨年世間を騒がせたXCP/rootkitの問題だろう。CESといういわばお祭りの場だけに、全く触れないのではないかとも思っていたのだが、冒頭でサラリと言及された。

 内容的には、XCPが著作権を保護するというより、ユーザーに酷い仕打ち(使われた言葉はpunishment)をする結果となってしまったのは皮肉なことだったが、それだけコンテンツ保護について真剣に考えている証である、といったような話で、ユーザーに対する謝罪、というニュアンスは感じられなかった。CESというイベントが基本的に業界関係者向けで、ユーザーや消費者向けのイベントでないことを反映したものかもしれないが、この件についても、もっと踏み込んだ発言が欲しかったように思う。

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(2006年1月8日)

[Reported by 元麻布春男]


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