第316回

ウォークマンAへの失望とかすかな期待



 普段はiPod(第3世代)とiTunes Music Storeで、個人的なポータブルオーディオに対するニーズをほぼカバーできている筆者だが、実に久々にソニーのウォークマンを購入した。購入した当日にガックリと肩を落とした「NW-MS7」以来の事だから、実に5年半ぶりという事になる。

 実に個人的な話だが、初めてウォークマンを入手したのは「ウォークマンII」。その後、防水タイプの「スポーツウォークマン」、録音可能な「レコーディングウォークマン」なども使っていた。多少、値段が高くともソニーブランドの製品を購入していた理由は、古い話でハッキリと思い出すことはできない。しかし、おそらくは小型化、省電力化、メカトロニクスとしての完成度などに対して、ある程度以上の信頼感を持っていたからだと思う。

 しかし、ポータブルオーディオ機器の選択基準は変わってしまった。以前、ポータブルオーディオの話をコラムで書いたときは、アップルがiPodで生み出した新しいルール/価値観に対してソニーがどのような回答を用意できるのだろうか? を強く意識してテーマを決めたつもりだ。

 そのコラムを掲載するきっかけになった会議室でのミーティング後、新しい今世紀のウォークマンを担う人たちはこう話していた。

 「今はまだ詳細は言えないけれど、新しく開発しているソフトウェアがある。是非、それを使ってみて欲しい」

 なるほど、そこまで気合いを入れているのであれば、その出来具合が良くとも、悪くとも、次の製品は購入してみることにしよう。今回、「ウォークマンA」シリーズを購入したのは、とりもなおさず付属ソフトの「CONNECT Player」を完全にユーザーとしての立場から捉えたかったからである。

 なるほど、目指す方向は読み取れそうだが、しかし、残念ながら現時点では期待していたような製品には仕上がっていないように見える。


●ウォークマン復活のメッセージは本気なのか?

ソニー「ウォークマンA」
(WM-A1000)

 購入したのは6GB/1インチHDDを採用した「WM-A1000」のバイオレット。メモリタイプの2GBはやや少なすぎるし、ユーザーインターフェイスも「ウォークマンスティック」と同等。かといって20GB/1.8インチHDDのWM-A3000は現在所有しているiPodとキャラクタが被る。ということで、iPodのラインナップからは消えた1インチHDD採用機を選ぶことにした。

 既に多くのインプレッションレポートが上がっているので、あまり詳細なレビューは行なわないが、パッケージを開けて使い始めるまでの印象は、失礼ながら中途半端にiPodをマネているという印象を持った。

 ここ数年のアップル製品は、製品パッケージ1つとっても実に丁寧で、iPodだけでなくPowerBookなど、さまざまな製品において“箱を開けてから使い始めるまで”を上質に演出しようという努力が伝わってくる。それはパッケージ内の付属物の包み方や箱への収め方、ケーブルのまとめ方といったところまで行き届いている。

 ソニーも(これに倣ったのかは判らないが)ウォークマンAで、購入者への感謝の気持ちを示すような(むしろアップルよりも)立派な箱を採用しているのだが、針金でまとめられたケーブル類や各付属品のパックの仕方など、全体を上質に演出するというところまでは至っていない。そして、ケーブルを取り出してみると、実に無様なフェライトコアにぐるぐる巻きしたUSBケーブルが出てくる。

 ここまできちんと気遣いをして、箱などの外装にお金をかけていても、こうした細かなところで足を引っ張られるというのは実にもったいない。付属のイヤフォンは、ライバルのモノよりも若干良いものに見えるし、実際に音質もこの手の付属品としてはかなり良いものだと感じたが、そうしたプラス要因もこれでは吹き飛んでしまう。

ウォークマンAの化粧箱 パッケージ内装 フェライトコアに巻きつけられた専用USBケーブル

 確かにウォークマンAの仕上げは、金属外装ではないものの手慣れた仕上がりで、好みかどうかは別にして、きちんとした作り方がされているようだ。コネクタの端子にゴミがたまらないようになっているし、専用コネクタのUSBケーブルは充電完了まで赤いLEDが点灯するなど細かな配慮もある。従来のMDウォークマンを持っているユーザーなら、(1行表示版のみだが)液晶表示付きの既存リモコンを流用する事が可能だ。

 実際に使ってみると、音はやや低域がブーミーに感じるものの、力感がありS/N感も悪くない。キレイだが特徴がなく情報量がやや少なめのiPodよりも良く聞こえる。十字キーをうまく使い、左右でイニシャルごとジャンプしながら、上下キーでアイテムを選択する操作法やオプションボタンで、その場で行なえる機能メニューがポップアップするところなど、iPodにはない使い勝手だ。

ウォークマンAの端子部 専用コネクタのUSBケーブルは充電完了まで赤いLEDが点灯する 付属のイヤフォン

 ソニーにしてはやや大きく重めかなとか、バッテリはATRAC3plusの128kbpsで15〜16時間程度しかもたないとか(カタログでは20時間)、あるいは電源OFFからホールド状態にするには一度電源ONになるまで待つ必要がある(ソフトスイッチのため)とか、細かなところを言い始めれば首をかしげたくなる部分もあるにはあるが、元々カラー液晶に対してあまり欲求がないこともあって、ハードウェアに対する不満はあまりない。

 ただ、これでウォークマンが復活し、iPodの追撃態勢に入ると言われると、う〜ん。それはそれは難しい仕事になるだろう。現時点で個人的には「新ウォークマンブランドの誕生」と諸手を挙げて賛成はできない。

 製品担当者が営業トークとしてではなく、本気で「これで復活できる」と考えているなら(そう考えてはいないと思うのだが)、かなり認識が甘いのではないだろうか。

●変わろうとする意志は強く見えるが……低いシステムとしての完成度

 さまざまな異論はあるだろうが、“ウォークマンAが目指そうとした方向”は、決して間違いではないと個人的には感じている。

 以前のウォークマンはMD時代に蓄積されたアルバム単位でMDにCDをコピーする使い方を踏襲していた。NetMDの成功(個人的にはNetMDは成功ではなく、回り道だったと思うが)が、HDD型への動きを遅らせ、さらには使い勝手やデバイス自身の振るまいに足枷をはめてしまった。

 「Sonic Stage」で指摘されていた問題の中にはソフトウェアとして未成熟だった部分も多数あったが(その多くは現行のSonic Stage 3.3で解決されている)、しかし根本的なところではMD型の音楽データ管理手法が、無造作かつ大量に放り込まれるHDD内蔵プレーヤー(あるいはPC上での再生)に向かない構造だった事に問題があったように思う。

 実際、6月にお会いしたウォークマンの開発/企画スタッフ(そのうちの多くは今回のAシリーズ開発キーメンバー)も、MD時代からのしがらみを捨てる覚悟について話していた。HDDへと音楽を蓄積する時代に、PC用ソフトウェア、音楽配信サービス、そしてウォークマンがどのように連携し、ユーザーに対して音楽を楽しむためのシステムを提供するかが鍵だろうと話すと「もちろん、そのように取り組んでいる」というのが、当時の返答だったのである。

 CONNECT Playerの基本コンセプトを見ると、そうした方向への努力があった事が認められる。ATRAC3を使ったギャップレス再生など、CDの振る舞いを完全に踏襲するような機能が省かれた代わりに、曲の付加情報(メタデータ)を利用し、さらにPC側(つまりCONNECT Player側)でメタデータを分析することで大量の曲を快適に聴こうという意図がやや弱いながらも見える(アーティストリンク、インテリジェントシャッフルやよく聞くシャッフル、自動レーティングなど)。

 しかし、初期添付バージョンのCONNECT Playerは、あまりにも品質が低すぎた。筆者が購入した時点では、すでに1.00.01というバージョンがリリースされ、そのさらにバグフィックス版の1.00.02も登場している。パフォーマンスが悪かったり、Sonic Stageから落ちた機能などがあるだけならばいいのだが、実に不安定で振る舞いに怪しいところがある。

 さすがに最新版ではアプリケーションが正常終了できなくなったり、エラーで異常終了するといった現象はなくなっているように見えるが、☆レーティングをCONNECT Player上で変更しようとしても正常に操作できないなど、ソフト全体の振る舞いが不安定なのだ。

 こうした使い始めてスグに判る不具合が多いと、将来性がある程度見えるソフトだったとしても、やはり評価は辛口にならざるを得ない。せめて新しいコンセプトを前面に押し出し、押し切れるだけの最低限の品質を確保してからの登場であればと思うと残念だ。

付属ソフト「CONNECT Player」 アーティスト名からのサーチ
アーティストリンク機能 インテリジェントシャッフル機能

●まずはCONNECT Playerのブラッシュアップを

 6月時点で話をする中で、筆者の方からも提案した事を含め、取り組みたいとソニー側が話していたのは次のような点だった。

 1. プレーヤー側での再生履歴やメタデータ操作の情報などを記録しPC側ソフトにフィードバックする
 2. メタデータや再生履歴をPC側で分析し、ユーザーの手を煩わせずに大量の曲を簡単にハンドリングできるようにする
 3. 録音速度やマウスでの操作性などPC側ソフトのレスポンスを上げる
 4. PC側ソフトを単なる曲管理ソフトではなく、単体プレーヤーとして使いやすいものに
 5. アルバムごとボリューム補正値を設定させてほしい(自動ノーマライズは現実的ではないため)
 6. 音楽ダウンロードや試聴機能(つまりMoraとの連携)をHTMLベースではなく、プレーヤーの機能と統合し、購入プロセスもシンプルに

 このうち1と2に関しては、CONNECT Playerに既に盛り込まれている。インテリジェントシャッフルの種類が少ないとか、アーティストリンクの動作に疑問がある、あるいはインテリジェントと言えるほど成熟していない(機能そのものも少ない)など、まだ本来の目標を達成できていないようだが、方向としては間違っていないと思う。時間をかけて取り組んでいくほかない残りの話に関しても、品質向上に継続的に取り組んでいれば、いつかは直るのだろう。

 しかし、もたもたはしていられない。まずはソフトウェアとして、多少の機能面での不足はあったとしても、仕様通りに振る舞い、誰でも気付く明らかなバグをなくすこと。“CONNECT Playerを使うのはイヤだ”と思われてしまうと、ハードウェアの出来が良くても、そこでキモチが絶たれる。

 きちんとした品質と使い勝手を実現した上で、自信を持ってiTunesのように無償配布するべきだろう。それが本当に素晴らしいものならば、ユーザーは喜んでCONNECT Playerを使い、ウォークマンに対する見方も変化するのではないか。いや、喜んで使ってもらえるようなソフトウェアにならない限り、ウォークマンの復活もまたあり得ない。

□関連記事
【11月18日】【デバイスバイキング】ソニー 「NW-A1000」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20051125/dev137.htm
【9月8日】ソニー、有機EL/流線型ボディの20/6GB HDD「ウォークマンA」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050908/sony2.htm
【6月23日】【本田】ウォークマンの復権はSonic Stageがカギ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0623/mobile296.htm
【2000年2月29日】【本田】MSウォークマンを使わなくなったこれだけの理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000229/mobile41.htm

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(2005年11月28日)

[Text by 本田雅一]


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