第296回

ウォークマンの復権はSonic Stageがカギ



 これまで何度か、最近のポータブルオーディオに関しても書いて欲しい、とのリクエストを読者からいただいていたのだが、いくつかの理由で取り上げるタイミングをうかがっている状況だった。

 ひとつには個人的にはiPodユーザーで、PC向けソフトウェアとの連携なども含めると(ハードウェア単体の性能や音質はともかく)あえて他の製品を勧める理由が見つからなかったという理由がある。それに今さらiPodがシステムとしてよくできているという話をしてもあまり意味はないだろう。

 もうひとつはiPodの対抗勢力となるような、強力な戦略を持つベンダーがないことだ。ハードウェア単体で言えばiRiverやiAudioなど韓国系の躍進は著しいものがあるし、昨今は東芝も非常に力を入れたプロモーションと製品ラインの強化を行なっている。しかし、今ひとつ大きなうねりを作り出すには至っていないという印象だ。

 しかし、ここに来てフラッシュメモリ型のウォークマンスティックをきっかけに、やっとソニーも元気を取り戻してきているようだ。

●「昔・ウォークマン、今・iPod」

 昨年のことだったと思う。米国に出張の折り、機内にあった米国の雑誌を見ていると、さまざまな新旧のトレンドについて書いている記事があった。たとえば「昔・オリンピックゲーム、今・X-Games」「昔・Internet Explorer、今・Firefox」などなど。全部を思い出すことはできないが、その中には「昔・ウォークマン、今・iPod」という項目があった。

 今さらiPodについて詳しく書くことなど何もないが、アップルはiPodというハードウェアだけでなく、iTunesやiTunes Music Storeなど、さまざまな要素が組み合わさり、独自に心地よく音楽を楽しめる環境を創造することに成功した。

 北米におけるパーソナルオーディオ製品のシェア構成には諸説あるが、一説にはティーン向けに関しては特にiPodのシェアが高いとの話もあるようだ。ティーンエイジャーの頃というのは、まだブランド信仰が根付いていない。以前、ウォークマンをはじめソニー製品はティーンエイジャーが欲しいアイテムのトップランクに位置し「初めて買ってもらうエレクトロニクス製品」の代表格だった。

 もし“ファーストコンタクト”で出会う自分のための製品が、ソニーからアップルに変わってしまっているとしたら、これは単純にウォークマンのシェアが落ちているどころの話ではなくなる。

 そんな状況にもかかわらず、昨年まではCDからリッピングした音楽データに自動的にチェックアウト数制限がかかったり、ATRAC以外のフォーマットはトランスコードが必須だったり、やっと出てきたHDD内蔵ウォークマンはMDと同じような曲選択システムしか持たなかったりと、(まじめにパーソナルオーディオ製品を開発している技術者には申しわけないが)本当に危機感を持ってやっているのか疑わしいと感じたほどだ。

 あまり批判的なことばかりは書きたくないが、つい最近まで、ソニーのパーソナルオーディオ製品カタログの表紙はHi-MDだった。昨年、中島美嘉を使ってテレビコマーシャルを打ったのもHi-MDのみで、ネットワークウォークマンのプロモーションではほとんどメディアを使っていない。

 ハッキリとした市場の流れが出来ている中で、ソニー社内でも十分に市場のルールが変化していることを気付いているハズなのに、表面から読み取れるソニーの姿勢にはあまり変化が見られない。だから昨年、コネクトカンパニーが発足した時も、何かが急に変化するとは思えなかった。

●ベストセラーとなったウォークマンスティック。しかし……

「ウォークマン スティック」(左)と、ウォークマンスクエア
 それからというもの、ウォークマンに関しては新製品が出てもケアしていなかったのだが、昨年までオーディオ機器(AVアンプやSACD/DVDプレーヤ、ステレオアンプなど)の広報担当者がパーソナルオーディオ製品の担当に変わり「自信作なので、もう一度見てみませんか」との呼びかけがあった。

 本音を言えば、あくまでもお付き合いで、あまり気が進まなかったのだが(取材の結果、悪口を書くようならば、最初から取材したくない)、実際に使ってみると悪くない。

 HDDタイプの「ウォークマンスクエア」は、ボタン類などの操作やプレイリスト対応の面、それにバッテリ持続時間などで良くなっているものの、現時点ではさほど差別化が出来ているようには見えない。

 しかしフラッシュメモリタイプの「ウォークマンスティック」は、操作のしやすさ、わかりやすさなど、操作性とデザインの両面で良くできた製品だ。発売直後からしばらくの間、品不足が続いたというのもよくわかる。フラッシュメモリの分野でウォークマンのシェアが伸びているという話は、何度も何度も耳にはしていたのだが、以前のトラウマからあまり興味を持てなかったのだが、実際に触れてみると良い品であることはスグに理解できた。

Sonic Stage 3.1
 SonicStage 3.1の方はと言えば、確かに改善はされているが、CDからのリッピング速度が遅い(iTunesの少なくとも2〜3倍の時間がかかる)、曲数が多くなってきた時の管理がしにくい、オートプレイリストの使い勝手が今ひとつ、(正確にはSonicStageの問題ではないが)EMDサービスのMoraは曲検索や購入手順が煩雑などなど、まだまだPC上のプレーヤーとしても、ポータブルプレーヤーの曲管理ツールとしても一流にはなりきれていない。しかし、上限で1GBほどのメモリしかないフラッシュメモリ型プレーヤーの管理ソフトと限定するなら、さほど毛嫌いするものでもなくなったようだ。

 ただ、今のウォークマンスティックの強さは、今回のハードウェアが優れていたということであって、“ウォークマン王国の復活”に直結しているわけではない。「HDD搭載プレーヤーならiPod」という公式に対抗するブランドにウォークマンを置くには、その時点でのハードウェア単体が良くできているだけでは不足している。

 昨年までの流れを考えると、ウォークマンブランドが復活しつつあると判断するのはまだ早計だろうと考えていた。

●変化の途中にあるコネクトカンパニー

 しかしウォークマンを担当する部隊は、コネクトカンパニーへの組織変更などの効果も徐々に現れ、着実に組織としての改善は進んでいるようだ。以前は決して近くはなかったSonicStageとウォークマン本体の開発部隊も、今では互いの意見を日常的にやりとりする密な関係になってきているという。

 実際に現行製品の開発や企画に携わった人たちと直接、議論する機会があったのだが、彼ら自身、組織的な問題も抱え、釈然としない中でアイデアはあるが、それを製品として生かせない時期が続いていたという。

 しかし、今後はさまざまな面で改善が期待できるようだ。これまでの問題をきちんと把握した上で、それに対する処方箋を自分で作れる状態にはある。その成果が現れるのが年内になるのか、それとも来年になるのかはわからないが、SonicStageを含めたユーザー体験のレベルを大幅にアップする秘策を練っているという。

 あくまでも議論であって取材ではなかったため、これまでの問題点を洗い出した後に、僕の方からいくつかのテーマを挙げて話をしてみた。

 以前のSonicStageはアルバム単位でCDを丸ごとコピーして利用するMDの典型的な使われ方を前提にユーザーインターフェイスや機能が設計されていた。昨年発売された「WM-HD1」は、そのビヘイビアをそのままHDDにしただけ、という製品だ。

 しかしせいぜい100曲程度ならばともかく、数千の曲を管理するのに、アルバム単位が基本では使いにくい。ライブラリとして蓄積した(自分でも忘れてしまっていたような)曲を気分に応じて取り出して試したり、そのときの気分に合わせて取り出してこんな曲があるよと提示して欲しい。

 そのためには機器側の機能が太っていくのは理想ではないが、SonicStage側がインテリジェンスを持ち、機器側にオートプレイリストのような形で反映できれば面白い。ユーザーが機器でどのような曲を頻繁に聴いているのか、PC上でSonicStageを使って何を聞いているのか。その履歴や曲データの分析、データベースサービスの拡張などで実現できることは少なくなさそうだ。

 これは大量の曲を一度に持ち歩くHDD型だけではなく、ライブラリの中から一部分を抜き出して聴くことになるフラッシュメモリ型の製品にも応用できるだろう。

 もうひとつ。曲の音量の問題もある。大量の曲からランダム、あるいは任意でもいいが、異なるアルバムの曲を順不同に聴いていると、音量レベルが異なり、急に音が大きくなったり小さくなったり、といった問題がある。

 これに対しては、たとえば曲を聴いているときに、メイン音量そのものを変化させるのではなく、設定された音量に対して補正量を操作できればいいだろう。補正量はタグとして記録しておき、ライブラリに反映しておけばいい。当てにならないノーマライズ処理を行なうよりも確実だ。

 そんな話をしていると、あっという間に数時間が経過したが、ひとつ彼らが自信を持って話していたのは、ソニー自らが変化することに躊躇がなくなっているということ。そしてその変化の方向、具体的な製品への反映について自信を持っていることである。

 ソニーのコネクトカンパニーは、まだ具体的な製品として、本当に変わった姿を見せてはいない。しかし、確実に変化は起きている。その成果が将来のSonicStage(あるいは別の名前の新しいソフトウェアソリューションになるのかもしれない)として表われるのであれば、そのときこそは「ウォークマンブランドは完全復活した」と宣言できるのかも知れない。

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【4月6日】ソニー、7行表示液晶搭載のMP3対応新HDDウォークマン(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050406/sony.htm
【3月8日】50時間再生/MP3対応「ネットワークウォークマン」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050308/sony1.htm

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(2005年6月23日)

[Text by 本田雅一]


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