NECが、2005年度上期のコンシューマ向けPC事業を、順調な形で折り返した。 量販店などの店頭市場におけるNECのシェアは、2005年度上期実績で27%。2位の富士通の約20%を大きく引き離してのトップシェアとなった。 2005年度上期を振り返ると、6カ月間を通じて、シェアが大幅に落ち込むといったことがなく、安定した売れ行きを見せていたことが、この高いシェアにつながっている。競合他社が新製品の投入ごとにシェアを上下させていたのに比べると、その差が歴然だ。 NECはなぜ、2005年度上期をトップシェアで折り返すことができたのか。 ●NECが好調な3つのポイント
NECパーソナルプロダクツの片山徹社長(兼NEC執行役員専務)は、好調な要因を自己評価として、3つのポイントで示す。 1つは、CS(カスタマ・サティスファクション)No.1への取り組みの成果だ。 顧客満足度の観点では、日経パソコン誌が毎年実施している調査で、2年連続No.1の評価を受けたほか、NECが第三者機関を通じて四半期ごとに独自に実施している調査においても、やはり過去2年間に渡り、No.1の評価を得ているという。 「CSへの対応は、最優先課題の1つとして取り組んできた。その成果が顧客からの高い信頼につながり、ひいてはトップシェアにつながっているのではないか」と片山社長は自己分析する。 NECの独自調査のなかでは、問題点を自由に書き込んでもらう調査も行なっており、「ここで指摘された問題点を、1つ1つ潰す努力を行なってきた」とも語る。 例えば、製品仕様や製品コンセプトといった要求のほか、電源を入れてから起動するまでに時間がかかるという問題、インストールしているソフトに関しては起動が遅い、操作性が悪い、という細かな指摘に対しても、1つ1つ改善を図ってきた。 「改善するとすぐに評価に反映される。それでも評価が上がらず、より改善が必要な場合には、さらに徹底した改善を施す」 こうした繰り返しが、品質の向上と、顧客満足度の向上という形で表れているのだ。 実は、NECの調査のなかで、この2年の間に、評価ポイントが大きく改善したものの1つに、「デザイン」がある。 水冷PCで実現した未来感のあるデザインや、ノートPCでは女性層を意識したデザインの採用など、要求を元にした改善が、デザインでの評価向上にもつながっているようだ。 ●新製品切り替え時の店頭在庫を最小に 片山社長が指摘する2番目のポイントは、サプライチェーンマネジメント(SCM)システムの進化だ。 同社では、計画、調達、生産、物流までを含めたSCMを稼働させているが、この進化も優先課題の1つとしている。 片山社長が兼務でトップに就任している、NECの「ものづくり革新ユニット」では、生産革新からデリバリー改革へと取り組みを進化させており、全国を網羅した定期便による物流ルートと、この定期便の動きに合わせた生産体制を確立させている。これが全社規模での生産効率の改善に大きく寄与している。
さらに、PCに関しては、生産を担当する山形県米沢の米沢事業場と、中国の生産拠点、そして、2004年9月から試験運用を開始し、2005年1月から本格的にスタートした東京・大井のコンシューマPC専用物流倉庫とを結んだSCMを稼働。 これにより、全国3割弱の地域に対する翌日納品を可能としたほか、店頭在庫を従来に比べて半分とすることに成功した。現在、大井の倉庫には、1.5日分から2日分の在庫を確保しており、これが翌日納品と店頭在庫の削減を可能としている。 また、製品の切り替え時には、既存製品の在庫を最低限に抑えることで、新製品とのスムーズな入れ替えが可能になる。これも、安定したシェアおよび収益確保の手段として見逃せないものといえる。 製品の店頭在庫は、一般的に2.5週間から3週間と言われるが、製品の切り替え時には、店頭在庫を5日間以内に絞り込んで、新製品へと切り替えるという。 競合メーカーからは、「中国の生産拠点までを含めた形で、SCMを完璧に稼働させることができるのはNECだけ」と言われるほど、その効率的な仕組みと運用形態には高い評価が集まっている。 「過去3年間でここまできた。今は、すべての在庫を一度大井に集めているが、2006年以降は、東北、北海道向けに関しては、米沢の生産拠点から直接、エリアごとのデリバリー拠点に配送できるようにしたい」という。 ●新しい技術をいち早く採用 3つめのポイントは、製品企画に対するこだわりを徹底した点だ。 片山社長は社内に向けて、「最新技術のいち早い搭載」の徹底とともに、なかでも動画については「他社に負けるな」という、至上命令を打ち出してきた。
他社に先駆けたダブルTVチューナ搭載、水冷PCの投入なども、そうした取り組みの結果だといえる。 そして、2005年の秋冬モデルでは、BIGLOBEの提供する「BIGLOBEストリーム」と連動。動画視聴アプリケーション「MediaGarage」(MG)を通じて、「BIGLOBEストリーム」にアクセス可能な「BIGLOBEストリーム(MG)」を搭載。新たな提案を行なって見せた。 「経済的にペイしないから、この技術は見送ると判断するのではなく、本当にユーザーの利便性が高いと思ったら、どんどん新しい技術を採用してほしい、と社内には言っている」と片山社長。こうした新技術搭載に対する積極的な姿勢と、そこから生まれてくる先進技術を投入した製品が、同社の安定したシェアへとつながっているといえそうだ。 ●BIGLOBEストリームの定着は長期戦で 下期にかけても、NECは、積極的な姿勢を崩さない。 秋冬モデルに関しては、ほぼ予想通りのスムーズな出足を見せているというが、今回の新製品で新たに提案した「BIGLOBEストリーム」との連携は、今後1~2年をかけて浸透させていくという、長期的視野での取り組みになるのは間違いない。 片山社長も、「BIGLOBEストリームとの連携、新製品の購入理由とする人はまだごくわずか。今後、その利便性や有用性などを浸透させていく努力が必要だ。まずは今回の新製品では、こうした機能が搭載されたという提案をはじめた。将来に渡って新たな機能を付加し、より操作性、利便性を高めるなど、長期戦で取り組んでいく」と話す。 また、今後は、朝起きたらPCを起動させて、そこから天気予報や交通情報などの必要な情報をチェックするというような使い方が、BIGLOBEストリームとNECのPCとの連携で定着することを狙いたいという。 「将来は、購入者の2割程度が、BIGLOBEストリームを購入理由として、NECのPCを購入してもらえるようにしたい」と、将来に向けて、他社製PCとの差異化策へと育てたい考えだ。 ●Let'snote対抗も視野に また、今後の製品ラインアップの強化にも余念がない。 片山社長は、現時点では詳細は語れないとするが、2006年の早い時期には、よりモバイル用途を意識したノートPCの製品化を予定しているという。 いわば、松下電器の「Let'snote」が先行する分野への対抗製品の投入だといっていいだろう。まずは企業向けモデルでの投入とし、引き続き個人向けモデルの投入も検討していくことになりそうだ。 同製品に関しては、マザーボードをNECの国内関連会社であるエヌワイデータ(山形県南陽市)で生産し、米沢事業場で生産する国内一貫生産モデルとなる公算が強く、品質面でもNECが誇る最高峰の品質レベルでの生産が行なわれることになりそうだ。
一方、注目されるHD DVDドライブ搭載モデルに関しては、来年春にもデスクトップPCとして投入する公算が強い。先頃行なわれたCEATECでは、ビジネス向けデスクトップPCの「MATE」シリーズにHD DVDドライブを搭載したPCを参考展示していたが、来年春には、個人向けデスクトップPCである「VALUESTAR」シリーズに、HD DVDドライブを搭載した形で製品を投入することになりそうだ。 ●国内生産へのシフトを鮮明に NECは、新ノートPCでの国内一貫生産を行なうように、国内生産体制を改めて強化する姿勢を打ち出している。 これまでは、中国における完成品の生産規模を、最終的にはコンシューマPCの7割程度にまで引き上げる計画を打ち出し、一時期はこれを3割強まで引き上げてきた。だが、現在では、それが15%程度に留まり、むしろ縮小傾向にある。 「最終的な品質保証の面や、当初計画と実需の差の吸収、また需要の変動に、柔軟に対応するためには、最終組み立ては、なるべく日本国内で行なった方がいいと判断している」という。 現在、中国で最終完成品として組み立てている15%に関しては、増やす計画はなく、「むしろ自然と減っていく方向になるだろう」という。ただし、共通部分、ベース部分と呼ばれるものの生産に関しては、中国の生産力と調達力を生かして、中国生産体制を維持する。中国で生産されたベース部分は、日本に持ち込まれ、米沢事業場で最終組み立てを行なう仕組みだ。BTOが主力となるビジネスPCに関しては、すでにほぼ全量がこの仕組みとなっている。 その一方で、次期ノートPCの一部製品や、Tablet PCなどの特殊な製品に関しては、マザーボードの生産を含めた日本での一貫生産体制とする予定で、全体的には、日本での生産を強化する方向にシフトする考えだ。 ●WEB直販での取扱量も増加 一方、徐々に事業を拡大しているのが「NEC Direct」によるWEB直販だ。 現在は、NEC製コンシューマPCの取り扱い高では、ヤマダ電機、ヨドバシカメラなどに次いで、流通ルート別で4番目の販売数量となっており、NEC Directを通じた販売構成比は6%以上に拡大している。 「WEB専用モデルのラインアップは、さらに強化していきたい」と、今後もWEB直販での取扱量拡大に意欲を見せている。 片山社長は、「日本における物づくり品質の高さを利用するとともに、製品企画においては最先端技術のいち早い投入を実現する。また、CS No.1維持に向けた努力も継続的に行なう。これによって、シェア35%という1つのゴールに向かって突き進みたい」と語る。 かつてトップシェアとしての自信を持っていたNECだが、一時期、この自信が失われつつあった。 だが、2005年度上期の動きを見ると、こうした迷いがなくなり、自信が復活しつつあるようにも感じる。 それは、NECの安定したシェアが証明しているといえるだろう。
□NECのホームページ (2005年11月7日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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