第313回

MicrosoftとIntelは次世代光ディスク情勢を静観すべき



 前回のコラムで“PC業界は〜”と書いたが、これは適切なタイトルでは無かった。ここでは“MicrosoftとIntelは〜”と書くべきだったろう。

 光ディスクに関連した製品を持たない企業、それもテクノロジに対して中立性が求められる立場の企業が、今の段階で横やりを入れるべき事ではない、というのが趣旨だった。

 しかし、その後のビル・ゲイツ氏の発言、あるいはMicrosoftの水面下での動きを見ている限り、是が非でも自社技術で固めたHD DVDを擁立したいようだ。Hewlett-Packard (HP)は日本時間の20日朝、Blu-ray Discに2つの技術要素を採用すべきとのニュースリリースを発行したが、BDアソシエーション総会における現場の声を聞く限り、MicrosoftはBDA総会のタイミングをターゲットに、相当な揺さぶりを業界にかけてきたようだ。

 だが、それでもBDへの収斂という方向に変化は起きそうにない。今週中、あるいは来週初めにはワーナーブラザースのBDアソシエーション参加が発表されることになると見られる。前回のコラムを補足する形で、その背景について触れることにしたい。

●BDに対して強烈な揺さぶりをかけたMicrosoft

 前回のコラムでも触れたように、米ロサンゼルスでは先週から10日間かけてBDアソシエーションの総会が開催されている。ここでは技術的な検討会や各作業部会での成果発表、あるいはBD-ROMの最終仕様などに関して話し合われている。その結果の一部は、いずれ近いうちに正式な発表があるだろう。

 それと同時に16社からなる幹事会社(Board of Director)によるさまざまな評決も、この会期中に行なわれる。中でも最も大きな話題は、DVD販売で最大のシェアを誇るワーナーブラザースをBDアソシエーションのメンバーとして迎え入れる事だった。

 これも前回のコラムで述べた事だが、ワーナーのBDアソシエーション参加はこの1カ月あまり既定路線となっている。表向きはOSベンダーとして中立の立場を表明しつつ、HD DVDプレーヤーのソフトウェア開発面でインタラクティブ仕様の実装を東芝と共同で行なっていたMicrosoftが、Intelと共にHD DVDの支持を表明したのは、BD側に揺さぶりをかけて時間を引き延ばし、BDアソシエーション総会でのワーナー参加を阻止したかったからだ。

 こうした終戦間際での横やりに、HPとDellは、MicrosoftとIntelが発表したすべてを否定するという形で応じたのは記憶に新しい。ところが、今度はそのHPが、Microsoftが開発したインタラクティブ仕様のiHDと、MicrosoftとIntelがHD DVDを支持した主因とも言われるマネージドコピー機能の必須要件化を提案するニュースリリースを出した。

 この矛盾した動きについて、HPの関係者は「BDのアライアンスを担当している現場では、両要素とも必要とは考えていない」と話す。

 BD関係者によると、マネージドコピーは著作権保護運用の枠組みであるAACSの中で決められている機能であり、HD DVDもBDもハードウェア側では実装される。HD DVDのソフトウェアがすべてマネージドコピー可能になるのに対して、BDではコンテンツベンダー側がその可否を選択可能という違いがあるだけだ。

 またiHDに関してもWindows Vistaでサポートされるのは当然で(ただしデコーダやプレーヤーは購入する必要があると見られる)、iHDそのものが.NETフレームワークと、その将来形であるWinFXに非常に近い。言い換えればWindows CEや組込用Windowsとの親和性が高く、サーバーサイドの技術もMicrosoftの技術を利用しやすい。つまりiHDが採用されれば、Microsoftは次世代光ディスクのプレーヤーやレコーダのソフトウェアプラットフォームを提供するというビジネスで優位な位置に立てる。

 おそらくMicrosoftの最も大きな狙いは、次世代光ディスクのソフトウェア基盤として、iHDを仕様の中に潜り込ませること。これにXbox 360対PS3の構図などが絡むなどの状況もあって、HD DVD側に与したと考えられる。また、HD DVD側がMicrosoftを戦略的な意味合いから迎えたという面もある。HD DVDを推進してきた東芝も、一昨年まではMicrosoftの参入を嫌っていたが、昨年からはより積極的な協力関係となり、今年はとうとう提携やクロスライセンスまで結ぶに至った。

 とはいえ、ここまでMicrosoftがこの問題に深く“干渉”するとは、誰も想像していなかったのではないだろうか。

●Microsoftの意図

 MicrosoftのHD DVDへの支援は、今年の東芝とMicrosoftの提携で決定的になっていたとは言うものの、なぜこれほど急峻に攻撃の度合いを強めたのだろう。

 筆者がワーナーが揺らいでいる事を知ったのは、9月前半にハリウッドを訪れた時の事だ。ワーナーブラザースの親会社であるタイムワーナーが、筆頭株主のカール・アイカーン氏からDVDの売り上げが落ち込んできている事に対し、今後の正しい戦略を示すよう求め、検討を重ねた結果、PS3で再生機器の普及が見込まれるBDでのコンテンツ発売しかないという結論に達したためである。

 北米でのDVD売り上げは2年ほど前から頭打ちが予想されていたが、当時のワーナー幹部は「まだ先のこと」とさほど急いでいなかった。ところがその1年後になると「もうすぐ頭打ちになり、そして下がってくる」と危機感を募らせるようになる。そして今年、劇場で大ヒットした映画のDVD売り上げが予想を大きく下回るようになってきて、自分たちの予測よりも遙かに早くDVD売り上げの縮小が始まっている事に気づいた。

 一言で“DVDの売り上げ”と言うが、その金額は米国市場だけで年間180億ドルにも達する。DVDの販売数は微増を続けているというが、DVDパッケージの単価下落を補うほどではない。過去の大作ライブラリが尽き、新作はリリースの数が限られる。新しい価値を創造するには高画質のパッケージへと徐々にでも移行する必要がある、というのは以前から解っていたことだが、その時期を見誤って焦ってきたのだ。

 9月も終わり頃には、BDアソシエーションの加入契約を行なう一歩手前にまでなっていた。

 だがMicrosoftは、ここで終戦されては、それまで投入してきた資源や資金が無駄になるばかりか、いよいよPlaystationに対して互角以上の戦いができると考えていたXbox 360にも影響が出る。

 Xbox 360にはHD DVDもBDも搭載されない。これはコストを抑え、ハードウェアでも利益を出せるようにと、初代Xboxでの反省も踏まえた上で決定された事だった。ライバルのPS3にはBDドライブが搭載されるが、Microsoftは家庭内LANを通じて映像配信ができればXbox 360本体のドライブはDVDで十分と考えた。実際、Xbox 360にはLANインターフェイスがあり、HD出力端子もあり、そしてHD映像をデコードするだけのパワーも持ち合わせている。

 MicrosoftがiHDに加え、マネージドコピーにこだわる理由はここにある。MicrosoftはWindows Vista向けのMedia Center技術、Windows Media、Xbox 360、WinFXなどの要素を組み合わせ、インターネットと家庭内LANを活用したデジタルリビングネットワークの構想を抱いている。マネージドコピーが“任意”ではなく“必須”でなければ、戦略は中途半端に終わってしまう。

 そこでMicrosoftは、同様のデジタルリビング構想を描くIntelを誘い、共同でHD DVD支持の表明をし、ようやく規格統一がなされようとする中で徹底抗戦の意志を示した。

●BD-ROM立ち上げ時期とワーナー参加の方向は変わらず

 だが、Microsoftの揺さぶりは、結局のところ失敗に終わる見込みだ。

 BDアソシエーションに参加するPCベンダーはHPとDellだが、Dellは今回の件に関して、一切揺らいでいないという。加えて冒頭でも述べたように、マネージドコピーとiHDの仕様盛り込みを提案するニュースリリースを発行したHPも、現場では「企業トップの判断だが、実際のBD-ROM立ち上げ時期には影響しないようにする」と話している。

 そもそも一部企業だけで仕様固めを行なっていたBDファウンダーズの頃ならばともかく、現在のBDアソシエーションは開かれた団体だ。仕様決定、仕様変更は、幹事企業の投票によってしか決まらない。一部の企業を口説いたからといって、流れが変わるものではないのだ。

 インタラクティブ仕様のiHDに関しては、以前、Java対iHDの比較検討において10対6の投票結果でJavaが採用された。つまり6つのiHD支持票もあったのだが、今回の発表に従ってHPが再提案を行なった場合には、Java側に投じるという企業がほとんどだ。

 すでにJavaでの実装が各社で進められており、今からiHDに変更するとスケジュールに大きな変更が加えざるを得なくなる。Microsoftの狙いは、まさにそこ(スケジュールの大幅遅延)を狙っているのだろうが、BD-ROM立ち上げ時期の死守はBDアソシエーションの中でも最も重要なテーマとなっており、今からの仕様変更に同意する企業はほとんどない。

 Microsoftは、タイムワーナーグループの中でも“お荷物”となってきたAOLの売却条件引き上げや政治など、あらゆる手段を講じてタイムワーナーグループに仕掛けたが、ワーナーはそれらの提案をすべて蹴った。筆頭株主から映像パッケージ事業戦略の再考を求められている以上、いくら揺さぶられても企業として利益追求と株価上昇戦略を実施しなければならないからだ。

□HD DVDプロモーショングループのホームページ
http://www.hddvdprg.com/jpn/
□BDAのホームページ(英文)
http://www.blu-raydisc.com/
□関連記事
【10月18日】【本田】今こそPC業界は次世代光ディスク情勢を静観すべき
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1018/mobile312.htm
【10月20日】HP、BDAにPCへのセキュアなコピーやiHDサポートを提案(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20051020/hp.htm

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(2005年10月21日)

[Text by 本田雅一]


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