Intelなどが中心になり規格策定を進めているUSBの無線版となるワイヤレスUSBに対応した製品の開発を支援する開発者向け会議「ワイヤレスUSBデベロッパ・カンファレンス」が、東京都内のホテルで28日、29日の2日間にわたり開催されている。 初日となる本日は基調講演が行なわれたほか、報道陣向けの質疑応答、展示会などが行なわれた。USB-IFの議長でもあるIntelのジェフ・ラベンクラフト氏は「PC向けにはモジュールのような形でプラットフォームの一部として提供されることになるだろう」という見通しを明らかにし、IntelがCentrinoモバイル・テクノロジ向けに無線LANをmini PCIの形で提供しているような形態で実装を進めていく可能性を示唆した。 ●有線のUSBをワイヤレスにするためのワイヤレスUSB ワイヤレスUSBとは、Intelが中心になり仕様の策定を進めている規格で、現在はワイヤード(ケーブルあり)でしかサポートされていないUSBを、ワイヤレスにすることで、ユーザーの利便性を向上させよう、というものだ。 ワイヤレスUSBでは、伝送に利用する電波として、UWB(Ultra Wide Band)を利用している。UWBには、Intelなどが推進するWiMedia UWBと、モトローラなどが推進するDS-UWB(Direct Sequence-UWB)の2つの仕様が標準の座を競っているが、ワイヤレスUSBではもちろんWiMedia UWBが採用されている。 ワイヤレスUSBでは、基本的には有線のUSBの仕様を継承しており、それを無線に置き換えたという仕様になっている。PCや家電などに内蔵されるホストには、最大で127台までの機器が接続できる。ホストと機器間の通信速度は、距離が3mで480Mbps、10mで110Mbpsが“Certified Wireless USB”と呼ばれる互換性確認のロゴを取得する際の条件となっている。 ●来年初頭にはワイヤレスUSBに対応したエンドユーザー向け製品が登場
基調講演に登場した、USB-IFの議長であるIntelのラベンクラフト氏は最初に、さまざまなケーブルが接続された周辺機器を来場者に見せ、「ワイヤレスUSB以前にはこんな環境に悩まされている人も多いだろう。だがワイヤレスUSB後には、こうだ」と述べ、いきなりそれらのケーブルを乱暴にすべてむしりとって来場者を唖然とさせ、「ワイヤレスUSBにより、こうしたケーブルに悩まされるのは過去の話になる。今後はコンシューマはより簡単に周辺機器を使いこなすことが可能になる」とワイヤレスUSBのメリットについて語った。 ラベンクラフト氏は、「ワイヤレスUSBのターゲットは、PC、家電、そして携帯電話のいずれもになる。ワイヤレスUSBは、それらに周辺機器をワイヤレスに接続する場合の規格として、安価に低消費電力で提供できるメリットを持っている」とそのアドバンテージをアピールした。 また同氏は、ワイヤレスUSBの進捗状況として「WiMedia USBやワイヤレスUSBのシリコンに関しては2005年中に登場する予定だ。さらに来年初頭にはそれらを搭載した実際の製品が登場することになるだろう」と述べ、来年の初頭には実際のエンドユーザー向け製品が登場するという見通しを明らかにした。
●Windows Vista登場に合わせ対応機器の大量出荷が始まる 続いて基調講演に登場したMicrosoftのUWB&WUSBプログラムマネージャのフレッド・ベサニア氏はMicrosoftのワイヤレスUSBに関する取り組みを説明した。 すでに述べたように、ワイヤレスUSBの基本的な仕様は、USBのケーブル部分をWiMedia UWBに置き換えたものとなっている。このため、ほとんどのドライバはUSBと共通で利用可能で、デバイスのクラスドライバなどに関してはUSBのものがそのまま利用できるという。このため、機器ベンダにとっても変更は小さく、比較的簡単に実装できることなどが説明された。 さらに、開発コードネーム“Longhorn”で呼ばれてきた次世代WindowsとなるWindows Vistaでも、ワイヤレスUSBのサポートを行なっていくことを説明し、すでに開発者の手元に届けられているWindows Vistaのβ1ではワイヤレスUSBのサポートが実装されていると述べ、「Vistaが登場する2006年の後半にはワイヤレスUSB対応機器が大量出荷されることになる。その時までにぜひワイヤレスUSBへの対応を進めて欲しい」と、集まったPCベンダや周辺機器ベンダの関係者に対してアピールした。
●日本におけるUWBの帯域割り当ての議論終了は2006年4月の見通し 続いて壇上に登場した日本テキサス・インスツルメンツ ASP事業部Connectivity/WLAN製品部マーケティングマネージャの丸山敏郎氏は、ワイヤレスUSBの無線部分として利用されているWiMedia UWBについての現状に関する説明を行なった。 WiMediaの仕様の策定状況は、PHY(物理層)に関してはすでに終了し、現在MACの仕様、WiMedia上でIPを利用した通信を行なう仕様(WiNET)などの策定を進めており、いずれも第4四半期には完了する見通しであるという。 UWBでは従来の無線が利用していなかった出力の弱い電波を利用しているため、従来の無線と帯域がかぶっても利用できるが、それでも電波を管理している各国政府から承認を受ける必要がある。日本では総務省から電波の割り当てを受ける必要があるが、UWBに関しては現在議論が進められている状態であるという。 問題となっているのは、UWBで利用される帯域にはすでになんらかの割り当てがされており、該当帯域を利用する携帯電話キャリアや放送事業者などが、低出力であっても電波が出力され、干渉することを懸念している点であるという。そこで、日本ではDAA(Detect And Avoid)と呼ばれる干渉を回避する技術を入れる必要があるなど、若干米国とは仕様が異なっており、それらにより議論に時間がかかっているという。 これらの議論に関しては、2006年4月をめどに終了するとされており、その後電波の割り当てなどが行なわれることになるという。そうした意味で、今のところ明確な時期というのは出ておらず、依然として日本ではいつ頃UWBが利用できるようになるのかは不透明な状況だ。
●2006年終わりから2007年あたりからはプラットフォームの一部として提供される 気になるPCへの実装だが、記者会見での質疑応答で、Intelのラベンクラフト氏は「当初はUSB 2.0の最初の頃と同じようにアドオンカードやモジュール形態での実装になるだろう。現時点ではIntelとして具体的な製品計画は明らかにしていないが、おそらく2006年の終わりから2007年にかけてプラットフォームの一部として提供され、2007年から2008年にかけてはより統合がすすんだ形で提供されることになるのではないだろうか」と述べ、Intelの具体的な製品展開には言及しなかったものの、大まかな方向性を示唆した。 ラベンクラフト氏のいう「プラットフォームの一部として提供される」ということは、現在IntelはCentrinoモバイル・テクノロジの一部として提供している無線LANモジュールのような形でワイヤレスUSBのモジュールも提供されるということだろう。そして、その後数年して、チップセットなどに統合していく、おそらくそういうストーリーを描いているということだろう。 となると、PCへの本格的な普及は、チップセットとセットで提供されることになる2006年終わり頃からということになる。そのあたりには、デバイス側も出そろっている可能性があるほか、OSであるWindows Vistaも出荷されているはずで、急速にワイヤレスUSBの普及が進んでいく可能性が高いだろう。 □ワイヤレス USB デベロッパ・カンファレンス (2005年9月29日) [Reported by 笠原一輝]
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