ヨドバシカメラが秋葉原に出店してから約1週間が経過した。 4日間で100万人の来店を記録したという数値も発表されており、その人気ぶり、そして注目度は、当初の予想を上回るものだといっていい。すでに、業界関係者の間では、年間500億円という売り上げ目標の達成は確実だろうとの見方も出ているほどだ。 現段階では、秋葉原電気街への影響は、むしろプラスに働いている。電気街全体への集客が増加するという効果が出ているからだ。 一方で、直接対抗すると見られる有楽町のビックカメラだけでなく、隣接する御徒町にあるディスカウンターの多慶屋までもが対抗措置に出るなど、近辺への影響は少なくない。 いずれにしろ、年末商戦向けの新製品が店頭に出揃っていないにも関わらず、ヨドバシ効果によって、これだけの集客が図れるのは、販売店にとっては明るい材料。この勢いを、そのまま年末商戦につなげたいというのが販売店各社に共通した思惑だ。 むしろ、気になるのは、ヨドバシカメラの錦糸町店、上野店といったヨドバシ既存店舗への影響だ。店舗が秋葉原と同一路線上にあるだけでなく、常磐線やつくばエクスプレスが伸びる千葉県および一部茨城県にまでヨドバシAkibaの広告チラシが配布されているというから、その影響度合いは大きいだろう。 ヨドバシカメラの藤沢昭和社長は、「錦糸町店は、JRから「出ないでくれ」と、と言われており、簡単には閉められない」と話すが、これら店舗をどうするかは同社にとって、今後の検討課題のひとつであるのは間違いないだろう。 ●ヨドバシが挑むメーカー別展示
ヨドバシカメラは、秋葉原への出店に際して、2つの差異化を図った。 ひとつは、メーカー別展示の手法をとった点だ。 4階のAV機器フロアおよび5階の家電フロアは、メーカー別に切り分けられた展示となっており、いわば、メーカーショールームが集結したように見えなくもない。 AV機器フロアではソニーが、家電フロアではナショナルが、それぞれ最大規模の展示スペースを確保しており、例えば、家中のAV機器をソニー製品で揃えたいというユーザーにとっては願ってもない店舗だといえる。 だが、液晶テレビの各社製品の比較をしたい、というようなユーザーには、歓迎したくない展示方法だといえなくもないだろう。 では、なぜ、ヨドバシカメラは、これまで例がないメーカー別展示の手法を取り入れたのか。それにはいくつかの理由がありそうだ。 ヨドバシカメラの藤沢昭和社長は、「大阪・梅田の店舗での経験で、メーカーを指定して商品を探すユーザーが多く、これまでの展示方法ではなかなか自分が欲しい物に辿り着けないという問題もあった。その反省を踏まえた取り組み」だと語る。 確かにメーカー指定で探すユーザーには最適な展示だ。先に触れたように、ソニーで全部揃えたいユーザーは、ここにくればすべてが揃う。
一方、業界関係者の間では、「メーカーからの協賛金がとりやすいため」という見方も出ている。展示規模にあわせて協賛金を得るという仕掛けができるからだ。 だが、見方を変えるとメーカー側にもメリットがあるといえる。例えば、店頭のような明るいところで見栄えがよくなる液晶テレビと、家庭の照度と同じ明るさまで落として初めて見栄えが良くなるプラズマテレビとを、同じテレビ売り場に置いて展示するのは、メーカーによって有利不利が出る。極端に明るい日本の家電製品売り場では、明らかに液晶が有利となるからだ。 松下電器を一例にあげれば、家庭の照度と同じレベルにまで引き下げて、プラズマテレビを展示したい同社にとって、メーカー別の展示方法は、自らにメリットのある手法で展示ができるようになるといえる。このヨドバシの手法が成功し、他店舗にも展開できようになると、松下電器をはじめとするプラズマ陣営には大きなメリットが出ることになるだろう。 また、松下電器は、3Dバリューチェーンを掲げているが、これに則った薄型テレビ、DVDレコーダーおよび、SDメディアを搭載した各種機器と連動した複合提案を可能にしたり、ナショナルブランドで展開している統一デザインの製品を、一堂に展示できるというトータル提案も可能になる。 メーカーから売り場に派遣される販売補助員も、他社との製品比較という後ろ向きな営業ではなく、自社製品のメリットを前向きに提案すればよいので活動しやすく、ヨドバシとしても、販売戦力に組み込みやすい。 メーカー別展示にメリットを見いだすメーカーも、意外に少なくはないのだ。 ●ノーブランドを排除する店づくり?
だが、こんな見方もある。 それは、「メーカーブランドを中心とした市場形成に向けた、長期的視点に立った施策」という見方だ。 現在、欧米では、ノーブランドメーカーの躍進によって、ブランドメーカーが苦戦している。中国、台湾などで作られた低価格の液晶テレビなどがシェアを拡大し、価格競争の温床になっているのだ。 こうした欧米の市場動向を捉えて、日本では、ノーブランドの低価格製品よりも、品質のしっかりしたブランド製品をメーカー各社が訴えられる売り場づくりをすることで、欧米で注目を集めるノーブランド製品の参入余地を、極めて小さくするというわけだ。いわば、長期的視点で捉えたノーブランド対策ということもできる。これも、同様の展示方法が、ヨドバシカメラ以外へと広がれば、メーカーの得るメリットは大きいだろう。 メーカー各社がヨドバシカメラのメーカー別展示方法に積極的に協力したのも、こうした長期的な市場形成の狙いがあるからだといってもいいはずだ。 ●家族層にターゲットを当てる
もうひとつの差異化策は、家族連れの集客を狙ったという点。この1週間の動きを見ると、その成果は明らかに出ているようだ。 開店を前後して、大量のテレビCMを流したこともあって、お茶の間にヨドバシカメラの新店舗開店を強くアピール。9月の2度に渡る3連休中には、家族連れが数多く来店した。 では、なぜ、ヨドバシカメラは、家族連れに焦点を当てたのか。 藤沢社長は、「秋葉原に家族連れが少なくなったことは寂しい」とコメントし、「この店舗によって、秋葉原に家族連れを呼び戻したい」と語る。 もちろん、藤沢社長のコメントは本音だろう。 だが、見方を変えれば、秋葉原でヨドバシが成功するには、現在の秋葉原の主力ユーザーとなるアキバ系といわれるユーザー層や、組み立て系のPCパーツ関連ユーザーだけを対象にしていては、限界があると判断したことが大きいと言わざるを得ない。 むしろ、有楽町のビックカメラや、ヤマダ電機やコジマといった郊外店舗などに流出した家族連れを、秋葉原に呼び戻すことが、同社の収益拡大には不可欠だというわけだ。 ●ヨドバシの客をどう呼び込むか
ヨドバシカメラが得意とするのは、周知のように、AV機器や家電製品、そしてPCおよびPC関連製品だ。 だからこそ、ヨドバシが持つ威力を最大限に発揮するには、秋葉原に来なくなった家族連れを呼ぶことが必要だったし、それを見たビックカメラや多慶屋の方が、同じく家族連れをターゲットにしているという点から、電気街各店舗よりも慌てることになったという構図も納得できる。 「ヨドバシ開店直後のビックカメラや多慶屋の値引きは尋常ではなかった」、「ヨドバシよりもビックの方が安かった」という声は、多くの業界関係者やユーザーから聞くことができたが、そのことからも、ビックカメラ、多慶屋の焦り具合がわかる。 秋葉原に本拠を置く、石丸電気やヤマギワなどの家電量販店との競合は確かにある。だが、これらの店舗が獲得している得意先ユーザー層までが、ヨドバシカメラに流れるということはないだろう。 しかも、これらの既存店舗は、秋葉原に多くの土地を持っており、秋葉原への集客が増えれば、土地の価値があがり、これを利用したさまざまな手の打ち方ができるようになる。電気店にこだわらない新たな仕掛けで、ヨドバシが集客した家族連れを電気街の中心部に集客するようなことも考えられるだろう。 すでに、秋葉原クロスフィールドの動きや、つくばエクスプレスの開通に伴って、自ら所有する土地を活用して、ビジネスホテル事業に乗り出す電気店もある。 つまり、秋葉原電気街の今後の成長は、ヨドバシカメラが呼び込んだ家族連れをいかに生かすかにかかっているといえそうだ。 アキバは、家族連れが訪れる街に戻ることになるのか、そして、電気街はこの顧客層を取り込むことができるのか。この1週間は、アキバの新たな転換期が訪れたことをヒシヒシと感じる1週間だった。
□関連記事 (2005年9月26日) [Text by 大河原克行]
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