Serial ATA(SATA)が本格的なスタートを切ったのは、Intelがチップセット対応を行なった2003年4月のこと(865/875チップセット用のICH5)だと考えられる。以来2年が経過した。SATAの普及は非常にゆっくりとしたペースではあるが、着実に進んでいる。 SATAにはさまざまなメリットがあるが主要なものは次の5つだ。 1) 広いインターフェイス帯域 2) 将来に向けた帯域拡張のロードマップ 3) マスタースレーブの設定が不要
しかし、Point-To-Point接続のSATAなら、最初からマスタースレーブの設定は存在せず、ただケーブルを挿せば動作する。 パラレルATAでは、1つのチャネル(ケーブル)に2台のデバイスを接続することができるが、同一チャネル上のデバイスは同じFIFOバッファを共有している。たとえば1台のPCに2台のHDDを接続する場合、1つのチャネルに2台接続した場合と、2つのチャネルに1台づつ接続した場合で性能が違うのは、このバッファの問題だ。Point-To-Point接続のSATAはデバイスを接続するポートが分離しているため、バッファの共有による制約はない。 4) 小型のコネクタ 5) 細いケーブル さらに、上述のようにパラレルATAでは、2つのチャネルにどうデバイスを配分するかが性能にも影響を及ぼすが、46cmのケーブルでは性能を考慮するというより、ケースに合わせて届く範囲で接続するしかない、というのが実情だった。SATAならこういう問題は生じない。 ●SATAの普及が遅れた理由このように多くの長所を持つSATAの普及速度が、なぜゆったりしたものでしかないのだろう。端的に言えば、それはまだSATAの魅力的なフィーチャーは望ましいものであるのは間違いないが、「必須」というほどではないからだ。 SATAのメインターゲットであるクライアントPCにおいて、内蔵するHDDは通常は1台。現時点でHDD1台の内部データ転送速度(プラッタからの読み出し速度)は、100MB/sec弱というところで、そろそろパラレルATAの帯域がヤバイことになりつつあるが、SATAがデビューした2003年春の時点ではもう少し余裕があった。デビューと同時に普及する、というシナリオを描きにくかったことは間違いない。 マスタースレーブ設定の問題にしても、ケーブルセレクトが普及しなかったことでも分かる通り、市場はジャンパピンによる設定を認めてしまっている。バッファの共有にしても、1台しかHDDをつながないのであれば、大きな問題にはならない。ケーブルやコネクタの取り回しの良さも、望ましいことではあっても、必須とは呼びにくい性格のものだ。 逆にSATAを採用しにくい最大の理由は、既存のシステムがSATAをサポートしていないことであろう。上述したように、Intelのチップセットサポートは2003年春に発表された865/875の世代から。845以前の世代のチップセット(サードパーティ製を含む)のユーザーは別途SATAのホストアダプタを購入せねばならない。 また、発売当初はSATAのHDDはパラレルATAのHDDより割高であったことも、敬遠される理由の1つだった。ノートPCにおいては、SATAのインターフェイス、ドライブの両方が消費電力/発熱においてパラレルATAより若干不利であることも、影響したかもしれない。 ●パラレルATA/PCIバスの限界しかし、チップセットの導入から2年あまりを経過して、SATAのインストールベースもかなり拡大した。パラレルATAとの価格差も縮小し、今では500円程度にまでなっている。ノートPCはまだSATA対応2.5インチドライブの供給が限られていることもあって、まだこれからというところだが、デスクトップPCについてはそろそろ本格的にSATAが普及する環境が整いつつある。むしろ、SATAに移行せざるを得ない日が近づきつつあるというのが率直なところだ。 このところ若干スローダウンしたとはいえ、HDDの記録密度は向上し続けているし、それに伴い内部データ転送速度も向上している。現時点で最大容量となる500GBドライブでは、ついに内部データ転送速度が100MB/secを越え始めた。たとえば日立グローバルストレージテクノロジーズのDeskstar 7K500の場合、内部データ転送速度は最大817Mbit/secとされている。たとえシングルドライブ構成であっても、133MB/secが上限となっているパラレルATAがボトルネックになる日が、もうすぐそこまできている(IntelチップセットのパラレルATAサポートはUDMA/100までのサポートだから、もうそろそろ危ない)。 と同時に、これはATAインターフェイスを接続するバスとしてのPCI時代の終わりをも示している。PCIバスの帯域もUDMA/133と同じ、133MB/secに過ぎないからだ。1台で帯域が限界に達しつつあるということは、複数台の接続では、すでに帯域は不足しているということ。IntelがSATAをサポートしたICH5の世代から、SATAに限りRAIDのサポートを行なったことは、こうした問題を踏まえてのことだと思われる。 ●外付けドライブとしての利用を可能にするeSATA
現在SATAへの移行をドライブしている要因の1つが、こうした帯域の問題であることは間違いないが、その一方でSATAの魅力を高めるべく規格そのものの拡張も行なわれている。こうした規格拡張の動き(最初に策定されたSerial ATA 1.0a以降の拡張)を、その標準化組織の名称をとって、Serial ATA IIと呼んでいた。 したがってSerial ATA IIは、3Gbpsというデータレートといった特定の技術を指すものではなく、Serial ATA 1.0aの策定以後、2004年半ばあたりまでにまとまった技術的な拡張全般を指すものと思われるが、市場では一般にNative Command Queuing(Serial ATA 1.0以後の拡張技術の1つ。ドライブ側で命令を実行効率の良い順に並び替えて実行することで性能向上を図る)をサポートしたドライブをSerial ATA IIドライブと呼ぶ、といった混乱も生じている。そのせいもあってか、規格化団体の名称はSerial ATA IIからSATA-IO(Serila ATA Internatinal Organization)と改められた。 現在もSATA-IOではSATAに関するさまざまな拡張が検討されているが、クライアントPCに関係ありそうなもののうち、特に注目されるのがeSATAだ。eSATAはExternal Serial ATAの略で、名前の通りSATA技術を外付けストレージにも使おうという狙い。特にデスクトップPCやノートPC、さらにはコンシューマー機器が対象とされている。 元々SATAのケーブル長が1mに定められたのは、内蔵デバイスに用いられているパラレルATAを置き換えることにフォーカスしたためだったが、外付けにも使えるのではないか、という議論は最初からあった。 eSATAではケーブルをシールドタイプにし、最大長も倍の2mに伸ばす。と同時に、ホットプラグに耐えられるよう、インターフェイスにバッファを入れる。バッファの目的はケーブル長が延びたことに対応すると同時に、ホストコントローラーを電気的なショックから守るため。言い換えれば、きちんとバッファしていない通常のSATAでホットプラグをすることにはリスクがある、ということだ。 もちろんバッファが入ることで、電気的な特性は現在のSATAとは異なってしまう。誤挿入を防止するため、コネクタも異なるものに変更される。eSATAは3Gbpsのデータレートをサポートし、最大データ転送レートは300MB/sec。現在外付けストレージに最も広く使われているUSB 2.0の5倍の速度ということになる。すでにコネクタやケーブルについては規格化されており、間もなく製品が登場するのではないかと思われる。
□関連記事 (2005年7月12日) [Reported by 元麻布春男]
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