2005年6月30日、日本AMDは記者発表会を開き、この日の午後1時過ぎに東京高等裁判所ならびに東京地方裁判所に対し、インテル株式会社に対する損害賠償請求訴訟を提起したと発表した。 すでに米国本社は27日にデラウェア州ウィルミントン連邦裁判所に米国独占禁止法違反による損害賠償請求訴訟を提起しており、わが国での訴訟もその流れを汲んでのものと思われる。事実、上述した記者発表会において、わが国での訴訟が米国本社法務部主導によるものであることを認めている。 この記者発表会で日本AMDに対して発せられた要求の1つは、正式な訴状のコピーはもらえないのか、ということだったが、これはできない、ということだった。したがって、この記事も正式な訴状を前提にしたものではないことをお断りしておきたい。 訴状の代わりに配布されたのが、「訴状の要旨」と題されたA4用紙2枚弱の文書である。そこで気になったのは、AMDへの営業妨害行為の1つとて、「インテルは、PC雑誌の編集者に対して圧力をかけ、パソコン雑誌に掲載が予定されていたAMD製CPUに関する記事を削除させ、AMD製CPUの性能を評価する記事の内容等を修正させるなどした」、と書かれている部分だ(原文ママ)。 筆者は発表会の場において、この「PC雑誌」の具体的な媒体名について質問したが、回答を得ることはできなかった。また、訴状には具体的な媒体名があるのか、ということも質問したが、こちらも答えは得られなかった。これでは、弊誌を含む不特定の媒体がインテルからの圧力により記事の内容を変えているように受け取られてもしょうがない。 筆者は、この訴状の要旨にある「編集者」ではなく、一介のライターに過ぎない。しかし、長年に渡り、各社の各種の媒体に記事を書いてきたが、少なくともインテルからの圧力で自分の原稿がボツになったことはないと信じている。また、編集者から原稿の内容を変えるように依頼されたことはない。おそらく、他の多くのライター諸氏も同じだと思うし、編集者/編集部も同様だと思う。 もし、実際に訴状の要旨にあるような行為があったというのなら、AMDは、具体的に“いつ”、“どの”媒体でそのような行為があったのかを明らかにする必要がある。そうでないと、まじめに仕事をしている多くの編集者や編集部の名誉が損なわれてしまう。巨大な相手と戦うことの苦労は分かるが、だからといって他者の名誉を傷つけても良いハズはない。 余談だが、そもそも雑誌に掲載予定の記事を削除させることの前提には、事前にインテルに記事を見せていなければならない。が、正直に言って、そんなプロセスを挟めるような余裕のあるスケジュールで仕事をしたことなどほとんどない。いつも締め切りギリギリで入稿しており、ボツにしようものなら、穴埋め用の原稿を準備することなど至難の状態というのが、各誌の実情だ。 ●PC業界全体への信頼を守れ結局、記者会見の質疑応答の際には、誌名は明らかにされなかった。しかし、会見終了から数時間経過した、18時41分付けで、日本AMDからご連絡というメールが届いた。 このメールに於いても、いつ、どこで、という情報は明らかにされていない。ただし、メールでは、「訴状の要約」(配布された文書は「要旨」だったが、このように記載されている)で触れられているのは「すでに廃刊になっている雑誌」なのだという。最初から明記しておくべきではあろうし、結局、詳細については闇の中のままだ。PC雑誌への不信感がすべて払拭されたとは言えないだろう。 念のため言っておくが、日本AMDがインテルを訴えること自体に異議を唱えているわけではない。また、今回の裁判の結末がどうなるのかは、裁判の行方を見守るしかないと思う。 しかし、PC雑誌の名誉を毀損するような行為は、日本AMD自身も属しているPC業界全体への信頼を失わせることに直結していることを忘れないでほしい。 また、今回の訴訟も含め、最近の日本AMDの動きには、米国本社の意向が強く働いているのではないか、と感じられる。急激かつ大きな人事異動もその1つだ。果たしてそれが日本法人、ひいてはAMD製品のために良いことなのかどうか、今後を注視する必要があるだろう。
□「DOS/V POWER REPORT」編集部より (2005年7月1日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|